剣と魔法の世界で俺だけロボット

神無月 紅

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ザッカラン防衛戦

177話

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「おい、本当に大丈夫なんだろうな?」

 そんな声が漏れるが、もしその声を聞いた者がいたとしても、疑問の表情を浮かべたことだろう。
 何しろ、その声の発された場所には誰もいなかったのだから。
 だからこそ、その話を聞いた者にしてみれば、一体何が起きたのかといったようなことを考えるのは当然だった。
 だが、現在そんなことを不思議に思っている者はいない。
 何しろ、本来ならザッカランの出入りを管理している警備兵たちの多くが向こうに……街中で行われているデモをどうにかするために駆り出されており、残っている少数の警備兵たちも、街中で起きてる何かに気を取られているのだから。
 あるいは、この機会に無理矢理ザッカランの中に入ろうとしている者がいれば、それを見て取ってどうにかする……と、そういう警備兵がいてもおかしくはない。
 しかし、現在ザッカランの中に入ろうとする少数の物好きたちと、ガリンダミア帝国軍がザッカランを取り戻そうとする戦いに巻き込まれたくないと逃げ出そうとする者たちも、街中で行われているデモに興味があり、そちらに意識を集中している。
 特にザッカランから出ようとしている者たちは、もしザッカランに残る結論をしていたら、自分たちも現在行われているデモに巻き込まれていた可能性が高いと、強く安堵していた。
 ……それでもすぐにザッカランを出る手続きを進めないのは、自分たちが巻き込まれはしなかったが……いや、だからこそ、街中で行われているデモに強い興味を抱いていた、というのが大きいのだろう。
 物見遊山という思いや、自分の判断は間違っていなかったという安堵、それ以外にも様々な思いを抱く者たちが、興味深そうにデモの声が聞こえてくる方に視線を向けている。
 デモ隊がここまでやって来れば、このような態度を取ることも出来ないのだろうが……幸いなことに、現在デモ隊がここまでやって来るような様子はない。
 もっともここにいる者たちは分からなかっただろうが、それは偶然でも何でもなく、最初からデモの主催者がそのようにするつもりだったから、というのが正しい。
 何しろ……この騒動は最初から計画されていたものだったのだから。

「馬鹿だよな、この連中。ソランタの能力があるとはいえ、俺たちに気が付かないんだから」
「それだよな。姿が見えないとはいえ、気配を消すような真似は出来ないんだから、ある程度腕の立つ奴がいれば、俺たちの存在にも気が付くのに」
「馬鹿、静かにしろ。誰かに声を聞かれたらどうするつもりだ?」

 何もない場所で、そんな風に短い声が聞こえてくる。
 もし警備兵の中に腕の立つ者がいれば、そんな異常な状況に気が付いたかもしれないが、不幸なことに……いや、ある意味当然ではあるのだが、そこまで腕の立つ者が警備兵としてザッカランの出入りの管理を任されるといったことは基本的にはない。
 ましてや、今はデモが行われているのだから、腕の立つ者がいてもそちらに回されてしまうだろう。
 そのため、警備兵や周囲にいる者たちに気が付かれるようなことはなく、その集団はザッカランの中に入る。
 当然の話だが、ザッカランの中に入ったからといって、すぐに透明になっている状況を解除する訳にはいかない。
 そのまま建物の陰に入り、そこでようやく透明化を解除する。

「ふぅ……透明になるってのは何度やっても慣れないな。ソランタはよくこんな能力を使い続けられるな」

 一見すると一般人にしか見えないような服装をした男が、自分たちの中心にいる十代半ばの男に向かって尋ねる。
 ソランタの透明になる能力は、一定範囲内にいるソランタが望んだ相手を透明にするという効果だ。
 自分の身体が透明になったということは、たとえば自分の手を目の前に持ってきても、それが透明で自分の目で確認出来ないということになる。
 自分の手があるのに、見ることが出来ない。
 これは、慣れない者にとっては結構なストレスとなる。
 もちろん、ソランタと一緒に行動している者たちも、初めてソランタのスキルを体験した訳ではない。
 ザッカランに潜入し、アランを捕獲するという……それこそ大役と呼ぶに相応し仕事を任されているのだ。
 当然のように、実際に行動を起こす前に何度となくスキルを使った訓練は行っている。
 行ってはいるのだが、それでもやはり自分の手が……足が、身体があるのに、自分の目で確認出来ないというのは、慣れないのだろう。

「その辺は仕方がないですよ。僕の仲間もそれで体調を崩した人もいましたし」

 スラム街の出身とは思えない、丁寧な言葉遣い。
 基本的にスラム街の住人というのは、大抵が乱暴な言葉遣いをする者がほとんどだ。
 それは他の者たちに侮られないためというのもあるし、それ以外にも物心ついたときから、周囲にいる者たちがそのような言葉遣いをしているからということでもある。
 そんな中でソランタの言葉遣いがある程度丁寧なのは……それはつまり、ソランタが言葉を覚えるくらいのとき、スラム街にいなかったということを意味している。
 実際にはスラム街の住人にはそれ以外の理由……自分の本性を隠すためだったり、疑われないために丁寧な言葉遣いをする者もいるが、ソランタはそのスキルを両親に気味悪がられて、スラム街に捨てられたのだ。
 だからこそ、ソランタの口調は他のスラム街の住人よりは丁寧なものだった。

「ともあれ、ザッカランにいる仲間と合流する必要があるな。……約束の場所って一体どこだったか。この騒動が静まるよりも前に、さっさと行こうぜ。今の状況で見つかったら、面白くないし」「そうだな。今のところは大丈夫だけど……」

 男は少し離れている場所にいる相手に視線を向けながら、男の一人がそう呟く。
 他の者もその意見に対しては特に異論がないのか、その集団は目的の場所に向かって進む。
 合流する場所は、当然のように前もって知っている。
 このザッカランは少し前までガリンダミア帝国の城塞都市だったのだから、どこにどのような場所があるのかは、当然のように熟知していた。
 ……むしろ、詳細な場所や隠し通路といった場所については、ガリンダミア帝国の方が詳しく知りたいだろう。
 そうして目的の場所に向かう一行。
 その様子は、多くの者が見ても特に危ない集団のようには見えない。
 やがてザッカランの中を進むと……目的の場所に近付いたところで二人の男が近付いてくるのを見て、ソランタを守るようにしていた他の男たちは警戒の視線を向ける。

「何者だ?」

 ソランタの側にいた男の一人がそう尋ねる。
 言葉そのものは短いが、その言葉に含まれているのは強い警戒だ。
 向こうが何か妙な行動をしたら、すぐにでも対処するというような。
 そのような視線を向けられた男は、自分が疑われていると理解したのか、慌てたように口を開く。

「そちらの味方です。お話は通っていると思っていましたが、こちらの拠点に案内しようと思って迎えに来たのですが」

 その言葉に、ソランタの周囲にいる者達の視線が少しだけ柔らかくなる。
 それだけで本当に心の底から味方であると思っている訳ではないのだが、それでも今この状況で自分に話しかけてきただと思ったのだろう。

「そうか。……一応確認しておく。星の瞬き」
「え? あ、えっと……朝日の草原に漂う風」

 聞いてる方にしてみれば、全く意味の通じない言葉。
 だが、それは当然だろう。今のやり取りはあくまでも合い言葉でしかないのだから。
 ともあれ、ソランタの近くにいた者たちにとって、目の前にいる人物は味方だと判断したのだろう。

「そうか。迎えに来てくれて助かった。では、案内をしてくれ。一応場所は知っているが、そこまで詳しい場所は分からないからな」
「はい。すぐに」

 男はそう言い、歩き出す。
 一応といった様子で目の前の男を警戒した様子を見せながらも、ソランタたちは大人しくついていく。
 何があっても、自分たちなら対処することが出来るし、ソランタを守ることも出来ると、そう思っての行為だ。
 ……案内役としてやって来た男が、その辺を理解しているかどうかは傍目からは判断出来ない。
 だが、もしそれを察知していたとしても、特に何か怪しい動きをするような真似をせず、そのまま拠点となる場所に連れていけば、特に何も起きないのは間違いない。

「それにしても……思ったよりは結構人が残ってるな。てっきりもう少し減ってると思ってたんだが」

 仲間にだけ聞こえるようにして、ソランタの近くにいた男が呟く。
 その言葉に、他の者たちも気取られないように周囲の様子を見る。
 雲海と黄金の薔薇に出て行けと、そう騒いでいる者たちがいるからこそ、ここまで大きな騒動になっている……という一面もあるのは間違いないだろう。

「今回の騒動で、様子見に来てる奴も多いんだろ? ……だよな?」
「え?」

 突然話しけかけられた案内役の男が、一体何のことかと疑問の視線を向ける。
 ソランタたちの会話が聞こえていなかったのか、それとも単純に面倒に巻き込まれないために聞こえない振りをしていたのか。
 その辺はソランタたちにも分からなかったが、ともあれ今はしっかりと事情が理解出来るように口を開く。

「ザッカランでこんなに街中に人が出てるのは、この騒動を気にしてのことだろう?」
「ああ、はい。そうですね。ザッカランには雲海や黄金の薔薇を英雄視している愚か者が多いですから。……嘆かわしいことに」

 案内をしている男にとって、雲海も黄金の薔薇も、ドットリオン王国という格下の存在に所属する相手だ。
 そのような相手を英雄視する者たちを疎ましく思うのは当然だろう。
 自分たちはガリンダミア帝国という、名誉ある国の一員なのだ。
 だというのに、何故ドットリオン王国という格下の国の者をそこまで英雄視するのかと。

「あー……そうだな」

 声をかけた男は、そう言って誤魔化す。
 男にしてみれば、自分の国に対して誇りはあるものの、そこまで他国を見下すという思いはなかったためだ。
 ソランタを含め、他の者たちも男の意見に賛成だったのか、皆が曖昧な笑みを浮かべるのだった。
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