剣と魔法の世界で俺だけロボット

神無月 紅

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囚われの姫君?

215話

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 レオノーラとその部下たちは、地下にある酒蔵の中でレジスタンスたちとお互いに見つめ合う。
 ……もっとも、レオノーラと顔を合わせた者はその美貌に目を奪われてしまう者も多かったが。

「さて、私が黄金の薔薇の者だと理解したのはいいわね? それで、何故私がここにやって来たと思う?」

 半ば挑発するような言葉だったが、レオノーラの美貌に圧倒されているレジスタンスたちは、完全に会話の主導権を握られていた。
 それでも、その中の一人……レオノーラたちをこの場所まで連れて来た、酒場で店員をしていた女が、何とか口を開く。

「黄金の薔薇は、ガリンダミア帝国と敵対していると聞いてるわ。その状況で私たち鋼の蜘蛛に接触してきたのだから、力を借りたいということではないの?」

 その口調は店員であったときのものとは全く違う。
 元々が客商売である以上、これが本来の口調なのだろう。
 レオノーラはそんな女の様子に、笑みを浮かべながら頷く。

「そうね。そう言ってもいいわ。ただ……私たちが一方的に協力して貰うという訳ではなく、そちらにも利益はあるわよ? 私たちの力を知っているのなら、それくらいは予想出来るでしょう?」
「それは……」

 実際、黄金の薔薇の噂を知っている者であれば、レオノーラの言葉を信頼しないということは有り得ない。
 だが同時に、黄金の薔薇のように強力な……いや、強力すぎる戦力を持った者たちが、自分たちに一体何を協力して欲しいと言うのか、と。そう思うのも事実だった。

「わ、私たちを騙して何かに嵌めようとしているとか、そういう可能性もあるでしょ!」

 そう叫ぶ店員の女だったが、その言葉には説得力がない。
 レオノーラが本当に黄金の薔薇の者たちなら、わざわざそこまでする必要がないためだ。

「あら、そんな風に思われていたの? 少し残念ね。私は普通に貴方たちに協力を求めに来たのに」
「協力って、黄金の薔薇が私たちに一体何を?」
「ええ。鋼の蜘蛛は、城の中にも人を潜り込ませてるんでしょう?」

 そうレオノーラが口にした瞬間、その美貌に見惚れていたり、怯んでいた多くの者たちが我に返り、視線を鋭くする。
 城に仲間を潜り込ませているというのは、それこそ可能な限り人に知られてはいけないことだ。
 そもそもの話、その件を知っているのはあくまでも仲間たちだけのはずで、何故目の前にいるレオノーラやその仲間たちがそれを知ってるのかと、そう疑問に思ってもおかしくはない。
 店員の女は、再度視線を鋭くして口を開く。

「何故、それについて知ってるのか、教えて貰ってもいいかしら? その件は外に流されていないはずなんだけど」
「さて、どうしてかしらね」

 相手の剣幕に平然として返しつつも、レオノーラは感心する。

(イルゼンの予想は当たっていたようね。……一体、どういう情報や分析をすれば、ここまで予想出来るのかしら)

 そう、レオノーラがここに来たのは鋼の蜘蛛の協力を取り付けるためではあったが、同時に鋼の蜘蛛が城に人を潜り込ませているという確信はなかった。
 それでもこうしてやってきたのは、イルゼンが集めた情報を分析した結果、恐らくは間違いないと予想したためだ。……半ば、ブラフだったと言ってもいい。
 しかし、そのブラフは正解だった。
 ブラフとはいえ、イルゼンが集めた情報の結果なのだから、それが当たってもそこまで驚きはなかったが……だが、半ば呆れの感情がレオノーラの中にはあったのは、事実だ。

「どこからその情報を得たのか、その辺は是非聞かせてもらいたいわね。それこそ、どんな手段を使っても」

 店員の女が、真剣な表情でそう告げる。
 城に仲間を潜り込ませるのに払った代償を思えば、その情報が流れているというのは、決して放ってはおけないことだ。
 それこそ、実際に何人もの命が失われているのだ。
 だからこそ、どこから情報が流れたのかというのは、突き止めなければならない。
 店員の女も、そして他の鋼の蜘蛛の面々も、まさか誰からからこの情報を聞いたのではなく、イルゼンが得た情報から予想した内容だとは思いもしないだろう。
 いくら多数の情報があっても、推測に推測を重ねるというのは本来なら邪道だ。
 だが、イルゼンは今回それを承知の上で、敢えてそれを行った。
 城にいるアランを少しでも早く助け出すという目的のためには、その手段が邪道だろうとなんだろうと、選んでいられるような余裕はない。
 ザッカランでは情報戦で後手に回ったのも、そのような無茶をした理由の一つだろう。
 情報戦の技量というのは、一朝一夕では上がらない。
 そうである以上、それを補う何らかの手段を使う必要があった。

「残念ながら、こちらの情報源は話せないわね」
「……それで私たちに手を貸して欲しいというのは、少し図々しいんじゃない?」
「そうかもしれないわね」

 レオノーラも、その言葉には同意せざるを得ない。
 もしレオノーラが相手の立場であれば、それこそ同じような思いを抱くだろうと思えたからだ。
 とはいえ、レオノーラも現在の自分たちの状況を思えば、とてもではないが相手の気持ちを思いやるとった真似は出来ない。
 城に捕らわれたアランが、一体どのような目に遭ってるのか分からないのだから。
 ……実際には、アランは自由に動ける訳ではないにしろ、貴族が泊まる部屋に軟禁されており、メローネという専用のメイドもつけられ、食事も十分な量をもらっている。
 その上、訓練場を使わせて貰って自由に身体を動かすといったことも出来るのだ。
 その待遇は、とてもではないが捕虜にされるようなものではない。
 むしろ、客人に近い。……扉に施錠され、部屋の前には見張として二人の騎士がいるという点は、とてもではないが客人と呼べるべきものではなかったが。

「けど、残念ながら、こっちも手段を選んでいられるような余裕はないのよ。どうあっても、協力して貰うわよ。もちろん、無償で協力して貰おうとは思わない。こちらの行動に協力して貰えば、雲海と黄金の薔薇の戦力を貴方たちに貸すわ。……どう? 悪い話じゃないと思うけど」

 その言葉に、女は一瞬考え込む。
 実際、ガリンダミア帝国軍一度ならずとも退け……その上でザッカランという城塞都市を占領する際に大きな力となった雲海や黄金の薔薇が自分たちに協力してくれるとなれば、それは非常に大きな意味を持つ。
 だが、それでも……いや、だからこそと言うべきか、その言葉を素直に信じるような真似は出来なかった。

「話が上手すぎるわね。正直にそっちの目的を話してくれないと、こちらも対応出来ないわよ」

 雲海と黄金の薔薇の戦力を借りることが出来るというのは、鋼の蜘蛛にとっても非常に有益な取引なのは間違いない。
 だが、そのレオノーラが口にした条件は鋼の蜘蛛にとって有利すぎた。
 戦力を借りるということは、当然の話だがガリンダミア帝国軍との戦いで矢面に経つのは雲海や黄金の薔薇となる。
 もちろん、鋼の蜘蛛の者達が全く戦闘に関わらない訳ではないのだが。

「そう? そこまで上手い話だとは思えないけど。そもそも、これからずっと一緒に手を組んでやりましょうと言ってる訳じゃないわ。私が提案してるのは、あくまでも一時的なものよ。それに……現在、こちらからも手をつくして城の中に人を送り込む用意をしてるわ」
「そこまで準備が整ってるのなら、わざわざ私たちに協力を要請する必要はないと思うけど?」

 城の中に人を派遣出来るなら、それこそ自分たちが協力する必要は全くないのではないか。
 そう告げる女だったが、レオノーラは首を横に振ってそれを否定する。

「慎重には慎重を期したいのよ。それに、こちらから人を送るにしても、当然新人だけにすぐ城のどこにでも移動出来る訳ではないわ。例えば……普通の牢獄はともかく、特殊な牢獄の類とかね」

 アランが捕らえられている以上、恐らく牢獄にいる可能性が高い。
 そう予想しているレオノーラだったが、実際にはそのような場所にアランはいない。
 だが、まさかアランが客人のような待遇を受けているとは思いもしないのか、レオノーラの狙いは当然のように牢獄や地下牢といった場所に向けらていた。

「……なるほどね」

 レオノーラの言葉を完全に納得した訳ではないのだろう。
 だが、それでもある程度納得出来る理由ではあったのか、そう頷く。
 そしてある程度とはいえ納得出来れば、レオノーラからの提案は決して悪いものではない。
 名の知れたクランが……それも二つも自分たちに協力してくれるのなら、それは願ってもないことなのは間違いないのだから。

「それで、どう? 協力してくれる?」
「残念だけど、組織の末端の一人でしかない私にそれを決める権利はないわ。それを決めるのは、あくまでも上の仕事よ。……もちろん、上も自分たちの利益になると知れば手を貸すと思うけど……それは絶対とは言えないわね」

 そう告げる女の言葉に、レオノーラは残念そうな表情を浮かべる。
 とはいえ、自分を前にして堂々と交渉してきた目の前の女が、本当にただの組織の末端の一人という程度の相手だとは、レオノーラにも思えなかったが。

「それは本当に残念ね。……それで、じゃあ私たちは鋼の蜘蛛を率いている人物に会えるのかしら?」
「会わせるしかないでしょうね。ただ、ボスに話してもそれで断られたらそれで終わりよ。くれぐれも、馬鹿な真似は考えないでね」

 それは忠告であると同時に警告でもある。
 少なくても、女にとっては自分たちのボスとレオノーラが戦った場合、ボスが負けるとは思っていないのだろう。
 レオノーラという実力者の存在を知った上でそのようなことを言うのだから、ボスがどれだけ部下から信頼されているのかも分かる。

(そういう意味では、イルゼンの判断は正解だったんでしょうね)

 レオノーラたちが協力者として選ぶ相手の候補は、他にもいくつもあった。
 ガリンダミア帝国が周辺諸国を占領し、属国にしていくという行動を続けているのだから、当然のようにそれを不満に思う者は多いし、ガリンダミア帝国軍の帝都にはそのような不満を持つ者が集まってくるのは自然なことだろう。
 それでも、レオノーラたちが鋼の蜘蛛を協力者に選んだのは……城に人員を送り込めているというのもあるが、同時にトップが信頼されており、仲間割れの類も少ないというのが大きな理由だった。
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