剣と魔法の世界で俺だけロボット

神無月 紅

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囚われの姫君?

224話

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 その日、いつものように部屋に入ってきたメローネだったが、その様子を見ていたアランは疑問を抱く。
 いつものように笑みを浮かべてはいるものの、どこかいつもと違う様子があったのだ。
 態度そのものには、いつもと違う様子は全くない。
 それでもアランがメローネの態度に疑問を持ったのは、何だかんだとこの部屋にいるアランにとって、メローネが一番接することが多い相手だったからだろう。

「何かあったんですか?」

 テーブルの上に、昼食を並べていくメローネにそう声をかける。
 メローネはそんなアランの言葉に少しだけ驚く。
 何かあったのは事実だ。
 メイドたちの間に妙な噂が広がっており、その噂の内容が微妙にアランと重なっていることが気にかかっていた。
 だが、メローネもプロのメイドだ。
 それこそ、生まれたときからずっとメイドになるために修行をし、その辺の騎士を相手にしても負けないくらいの実力を持っている。
 それだけに、自分の動揺……と呼ぶほどに激しい感情ではなかったが、それが表情に出るとは思ってもいなかった。

「そうですね。実は新しく入ったメイドが色々と問題を起こしまして」

 何でもないと言っても、アランが自分の言葉を信じるとは思えない。
 だからこそ、半分真実を混ぜた嘘を告げる。
 相手に嘘を見抜かれないためには、その嘘の中に半分ほど真実を混ぜること。
 メイドの心得の一つ――あくまでもメローネの家のに伝わるメイドの心得であって、一般的なものではないが――を忠実に実行し、そう告げる。

「問題?」
「ええ。これ以上は帝城で働いているメイドの恥になるので、何も言いませんが……」

 そう予防線を張ることにより、これ以上のアランの追求を避ける。
 今回の一件が、アランの居場所を探してのことだという可能性が、排除しきれないためだ。
 メイドの間で流された噂と、アランの現状。
 その二つは類似点が多いように、メローネには思えた。

「そうですか? なら、これ以上は聞きませんですけど」

 アランはメローネの様子に疑問を感じながらも、これ以上の追求は止める。
 何故なら、今回の一件はアランの方でも何か違和感があると思えたためだ。
 メローネは隠そうとしているようだったが、それでも完全に隠せるはずもない。
 いや、メローネについて詳しくない者なら、もしかしたらそれに騙されていた可能性もあったが……メローネとの付き合いが短いが、それでも長時間一緒にいるアランにとっては、メローネが何かを隠しているというのは理解出来た。

(問題なのは、その隠しているのが何かということだな。……もしかして、雲海や黄金の薔薇が助けに来た? にしては、特に騒動が聞こえてきたりといったようなことはないけど)

 もし本当に仲間たちが助けに来たのなら、それこそもっと騒動になっていてもいいはずだ。
 あるいは、帝城にいる者達が予想以上に強い場合は、仲間たちがここに到着する前に鎮圧されるという可能性もあったが……正直なところ、仲間の実力を信じているアランとしては、そのようなことになるのは、全く思っていなかった。

(つまり、雲海や黄金の薔薇の面々が攻めて来たとか、そういう訳じゃない、と。……だとすれば、もっと他の理由。攻めて来たんじゃなくて、その手の者が帝城に侵入したとか? いや、それでも侵入した相手がいると分かれば、そいつを捕らえるだろ。それにしては、騒がしくない)

 まさか、メイドとして侵入している者がるというのは、アランにとっても予想外だったのだろう。
 メライナの存在について、今この場では考えつくようなことはなかった。

「ふーん。……まぁ、メイドも色々と大変そうなんですね」
「いえ、そんなことはありませんよ。私はメイドとしての仕事を十分に楽しんでますし」
「あはは。そうなると、俺みたいなのの相手をさせるのは、ちょっと悪い気がしますね」

 そう告げるアランの言葉は、冗談半分のものだ。……それはつまり、半分は本気であるということを意味してもいるのだが。

「アラン様のような方のお世話が出来るのは、メイドとしては誇りですよ」

 満面の笑みを浮かべながら告げるメローネの様子は、とてもではないが作り笑いとは思えない。
 思えないが……アランは、その笑みに目を奪われそうになるのを、何とか我慢する。
 メローネはメイドの……言ってみればプロだ。
 その笑みが本当の意味で自分に向けられた笑みではないと理解しても、思わず目を奪われてしまうくらいには、魅力的だった。
 もちろん、それはメローネが包容力のある美人だというのも影響しているのだろう。
 また、豊かに張り出した胸も非常に魅力的なのは間違いない。

(あれ?)

 だが、メローネの豊かな双丘……それこそ、メイド服の上からでもしっかりと見て分かるだけのその魅惑的な曲線に視線を向けたアランは、一瞬だったが脳裏にレオノーラの姿が思い浮かび、目を逸らす。

「アラン様? どうかなされましたか?」

 不意に視線を逸らしたアランの様子に疑問を抱いたのか、尋ねるメローネ。
 アランはそれに何でもないと首を横に振り、誤魔化すように口を開く。

「そう言えば、メローネさんって俺の世話をしているとき以外は、どんな仕事をしてるんですか? いつもこの部屋にいる訳じゃないですよね?」

 それは誤魔化す意味での質問ではあったが、同時に純粋に知りたいと思った疑問でもあった。
 この世界に転生してから今まで生きてきた中で、貴族の屋敷や……ときには城に招待されたこともある。
 もちろんそれはアラン個人をという訳ではなく、雲海というクランに対してなのだが。
 そのときにメイドと接する機会はあったが、それでもそこまで仲良く話をするといったような真似は出来なかった。
 そういう意味では、こうしてゆっくりと――腹を割ってという訳にはいかないが――話が出来るというのは、アランにとって少しだけ嬉しい。
 帝城で目を覚ましてから、それなりの日数が経っている。
 その間に、アランはメローネと接する機会が多く、そういう意味ではやはりメローネが一番親しい相手なのだ。

「どんな仕事と言われても、やっぱりメイドらしい仕事が多いですね。掃除や料理を運んだり、洗濯をしたりといったような」
「ガリンダミア帝国のメイドなんですから、もっと特殊な仕事とかをやってると思ったんですけどね」
「ふふっ、メイドはメイドですから、そこまでおかしな仕事はありませんよ。……あら?」

 アランと話していたメローネは、扉がノックされる音に気が付き、そちらに視線を向けて疑問を表情を浮かべる。
 グヴィスとの戦闘訓練を行うような時間ではないし、誰かが来るという話を聞いてもいない。
 そうなると、そのような者たちではない別の誰かがやって来たということになるのだが……大抵の相手であれば、それこそ部屋の前で見張りをしているグヴィスたちが追い返してもおかしくはなかった。
 つまり、今のノックは追い返せない誰かがやって来たということを意味しており……それが、メローネに一瞬だが緊張の表情を作らせる。
 アランはそんなメローネの様子から、何か面倒な状況になっているというのを理解し……これが自分にとって利益になるのかどうか、具体的にはこの部屋から逃げられる状況に持っていけるのかどうかを考え……だが、すぐに首を横に振ってそれを否定した。
 思いもよらない相手が尋ねてきたのは、間違いないだろう。
 だが、それでもグヴィスがこうしてノックをしてくるということを考えれば、そこまで切羽詰まった状況ではないということを意味していた。

「失礼しますね。どうやら、誰か来たようですので」

 そう言い、メローネはアランに頭を下げると、扉の方に向かう。
 一瞬……本当に一瞬だったが、ここでメローネが扉を開けた瞬間に自分がそこに突っ込んでいき、それで外に出たらいいのでは? といった考えが思い浮かぶが、すぐにそれを却下する。
 メローネの不意を突くことが出来て部屋から出ても、そこにはグヴィスたちがいるのだ。
 未だに訓練場で行われる模擬戦では勝つことが出来ない相手だけに、そのような者がいる場所に突っ込んでいってどうにか出来るとは思えない。
 ……実際にはグヴィスと戦う必要はないのだから、それこそ逃げるといった選択肢を使えない訳でもない。
 とはいえ、今の状況から逃げ出したとして、それで一体どうするかという問題もある。
 そもそもの話、アランはこの帝城の構造をほとんど知らない。
 この部屋から出ることがあっても、それで向かうのは基本的には訓練場だけなのだから。
 唯一の例外は、以前ビッシュという怪物染みた子供と会談したときだけだ。

「あの……アラン様、アラン様と面会したいという御方がいらしているのですが……」
「俺と、ですか? 改めて聞くということは、レーベラじゃないんですよね?」
「はい」

 あっさりとアランの言葉に頷くメローネに、もしかしたらビッシュが面会を求めて来たのでは? と緊張の表情を浮かべる。
 だが、アランが知ってる限りでは、ビッシュはかなりの地位にいる人物で、それこそアランと面会をするにしても、最初のときのようにアランを呼び出すという形を取るはずだ。
 少なくても、自分から直接会いに来る……といったような真似をするとは、アランには到底思えなかった。
 そんなアランの様子を見て、メローネは安心させるように……それでいて、何故か同情するような表情で口を開く。

「安心して下さい。アラン様が想像している御方ではありませんよ」

 その言葉に、アランは安堵する。
 安堵すると同時に……ならば、一体何故メローネが自分に同情するような視線を向けてきたのかということが気になる。
 ビッシュが来たのなら、苦手としている意味でそのような視線を向けられてもおかしくはない。
 だが、そこで違う以上、一体何故、と。

「その……聞くのがちょっと怖いんですけど、そうなると一体誰が?」
「……第三皇女、ルーベリナ殿下です」

 まさかの皇女……その言葉に、アランは聞かなかったことにして、ベッドに倒れ込みたいと思いつつ……何とか意識の片隅で、何故皇女が直接この部屋に訪ねてきたのだろうと考えるのだった。
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