剣と魔法の世界で俺だけロボット

神無月 紅

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逃避行

246話

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 アランたちが遺跡の攻略を行っている頃、当然の話だが地上では雲海や黄金の薔薇の面々が拠点となる場所を準備していた。
 とはいえ、やる仕事はそこまで複雑ではない。
 雲海や黄金の薔薇の面々が寝泊まり出来る場所を用意し、その周辺に簡単な柵を作るといった程度だ。
 本来なら、柵だけではなく堀の類も作ればいいのだろうが……堀を掘るのは大変だし、ここから旅立つときに堀を埋めるのも面倒だった。
 また、そこまで防御性能を期待出来ないというのも大きいだろう。
 そのような作業は、雲海や黄金の薔薇の面々にしてみれば慣れたものだ。
 それこそ、探索者として暮らしていれば、この程度のことはいつものことなのだから。
 だが……探索者ではない、この遺跡の見張りをしていた兵士……正確にはレジスタンスなのだが、その兵士にしてみれば、十分に驚くべき手際だった。

「凄いな、これ……あっという間に、村……というのはちょっと大袈裟かもしれないが、そんな感じになったぞ?」
「そこまで驚くことではありませんよ」
「うおっ!」

 兵士は独り言を呟いたつもりだったのだが、それがいきなり後ろからそんな風に声をかけられ、驚きの声を出す。
 反射的に振り向くと、そこにいたのはイルゼンだ。
 雲海を率いる人物であり、兵士も上から――もちろんガリンダミア帝国軍ではなくレジスタンスの方だが――可能な限り協力するようにと言われている相手だ。
 それだけに、今の行為には若干の不満を抱いたものの、それを表に出さないようにして栗を開く。

「あまり驚かさないでくれよ」
「悪いね。ただ、ちょっと色々と話をしておきたくて」
「……話? 一体何を? 今の状況で話したい……いや、情報を聞きたいと思うのは俺の方じゃないか?」

 兵士にしてみれば、雲海や黄金の薔薇という存在は色々な意味で特殊であり……同時に、かなり興味深い存在なのは事実だ。
 だからこそ、今の状況で色々と話を聞きたいと思ってもおかしくはない。
 ましてや、もしここで何か有用な情報を得ることが出来れば、それは兵士の所属するレジスタンスにとっても、大きな利益となる可能性があるのだから。

「いえ、そこまで難しい話を聞きたい訳ではありませんよ。現在の帝都がどんな状況になっているのか、何か情報が入ってきてないかと思って」

 それは、イルゼンとしても是非必要な情報だった。
 正確には、他にも情報を入手する手段はいくつものあるので、無理にでも兵士から話を聞く必要はないのだが……それでも、多くの者から様々な情報を得るというのは、この場合大きな意味を持つ。
 また、多数の者から情報を得た場合、そこには他の者が知らない情報が入っている可能性も十分にあった。
 だからこそ、イルゼンは兵士から情報を聞こうとしたのだが……そんなイルゼンの言葉に対し、兵士は首を横に振る。

「俺はこの遺跡の監視があるんだぞ? 基本的には、この遺跡に来る奴は少ないから、その探索者たちの噂話か……それ以外だと、それこそお仲間が接触してきたときに世間話で聞くくらいしかない」

 この場合のお仲間というのは、ガリンダミア帝国軍ではなく、兵士が本当の意味で所属しているレジスタンスの方だ。

「それでも構いませんよ。僕たちが知らないような情報があるかもしれませんし」
「……まぁ、そう言うならいいけどよ」

 目の前にいる、名前の知られたクランを率いている者が知らない情報を自分が持っているかもしれない。
 そうイルゼンから暗に匂わされた兵士は、そのお世辞とも言えないお世辞に、気分がよくなる。
 元々この兵士はそこまで優秀という訳ではない。
 平均的な能力を持っているので、劣っているといった様子でもないのだが。
 だからこそ、褒められるといったことはあまりなく……イルゼンの言葉や態度は兵士にとって非常に心地いいものだったのは、間違いない。
 ……それを見たイルゼンが、表情には出さないようにしながらも扱いやすい相手だと認識したのも知らないまま。
 もちろん、イルゼンはこの兵士に対して何か思うところがある訳ではない。
 だが、今の状況を考えると、やはりいざというときのことを考えておいたおいた方がいいのは事実であり、そういう意味ではこの兵士は非常に有用な存在だった。

「それで、帝都の方では一体どうなってますかね?」

 イルゼンの言葉に、兵士は呆れたように口を開く。

「どうなってるかは、それこそあんたたちが一番分かってるんじゃないのか? 帝都の中にいきなり黄金のドラゴンが現れて、それが帝城の結界を破壊して突入。そして巨大なゴーレムと一緒に逃げ出した。それも、帝城じゃなくて帝都そのものに張られている結界を破壊してだ」

 それで騒ぎにならない方がおかしい。
 そう告げる兵士の言葉は、イルゼンを納得させるのに十分だった。

(とはいえ、ガリンダミア帝国の上層部も上手いですね。レオノーラさんやアラン君を逃がしたという情報は流しつつも、中庭で多くの心核使いが倒されたという情報は徹底的に隠してるのですから)

 レオノーラが変身した黄金のドラゴンに倒された心核使いたち。
 当然のことだが、帝城の守りを任されていた心核使いたちなのだから、全てが精鋭と呼ぶに相応しい者たちだ。
 そのような心核使いたちの多くが、一方的に倒されてしまったということはとてもではないが周囲に広めることは出来ないだろう。
 それこそ、その辺りの情報が広まれば、これ幸いとガリダミア帝国に向かって攻撃をするような国も出て来かねない。

(とはいえ、あれだけのことがあったのですから、その全てを隠し通すことなど不可能でしょうね。あの襲撃には、レジスタンスたちも参加してましたし。そこから情報が流れる可能性は十分に……いえ、ほぼ確実と言ってもいいでしょう)

 イルゼンが帝城襲撃の件にレジスタンスたちを巻き込もうと考えたのは、その辺りにも大きな理由がある。
 自分たちが逃げ出したあとで、ガリンダミア帝国は帝城に侵入してきたレジスタンスの対処もする必要がある。
 黄金のドラゴンの影響で城内が混乱していたこともあり、間違いなく多数のレジスタンスが逃げ出したはずだ。
 ……中には城の奥深くまで移動してしまったせいで、脱出することが出来なかった者や、お宝探しに夢中になっており、脱出する機会を逃した者……といったような者いただろうし、兵士や騎士に遭遇して捕らえられてしまった者も出ただろう。
 だが、それでも多くの者が脱出に成功したのは間違いない。
 もちろん、レジスタンスたちはそれぞれに自分のやるべきことがあったので、全員が中庭での戦いを見た訳ではない。
 いや、むしろ中庭での戦いをその目で見た者は決して多くはないだろう。
 それでも中庭での一件が広まっているとイルゼンが考えているのは、当時は中庭での戦いを知っている兵士や騎士が相応にいて、黄金のドラゴンを何とかするべく帝城の中で動き回っていたはずだからだ。
 レジスタンスの者たちは、自分たちで直接黄金のドラゴンの戦闘を見ることは出来なくても、兵士や騎士……もしくはそれ以外の帝城で働いていた者たちが動き回っているのを見て、その辺りの情報を知ることが出来てもおかしくはない。

「なるほど。……ちなみに、レジスタンスの人たちはどのくらい捕まりました?」
「それなりの人数は捕まったらしい」

 イルゼンのその言葉に若干苦々しげな色があるのは、捕らえられたレジスタンスの中に兵士の知り合いや友人が捕まったのかもしれない。
 イルゼンはそんな兵士の様子を見て納得する。
 だが、迂闊に兵士を慰めるといったような真似はしない。
 レジスタンスが捕らえられた場合、どのような扱いを受けるのかは想像するのが難しくなかった。
 少なくても、アランが受けたような待遇で……というのは絶対に無理だろう。
 よくて、地下牢に放り込まれるといったところで、悪ければ拷問されて情報を引き出される……もしくは、何らかの人体実験の検体として使われたり、帝城の者達の動揺を鎮めるために即座に処刑される……といったところか。
 だからこそ、ガリンダミア帝国に対して大きなダメージを与えたのは間違いないのだが、今回捕まった者には、それこそ最悪の結末しか待っていない。

「ともあれ、今は情報をもっと集める必要があるでしょうね。大きく混乱をしたのなら、ここに入ってくる情報も正確であるとは限らないのですから」
「それは……捕まった連中がまだ無事だという話か?」
「その辺は分かりません。ですが、僕たちの行動によって、帝城が……いえ、帝都が混乱しているのは事実なのでしょう? なら、そうなると正しい情報が入ってきていないといいう場合もあります」
「イルゼンさん、ちょっといいか!」

 兵士と話していたイルゼンは、不意にそんな風に声をかけられる。
 声のした方に視線を向けると、そこには黄金の薔薇の探索者の姿があり、イルゼンに向かって手を振っていた。
 恐らく、何らかの理由があって自分を呼んでいるのだろうと判断したイルゼンは、今まで話していた兵士に向かって、小さく頭を下げる。

「すいませんね。少し向こうで用事があるようです。……情報、助かりましたよ」

 そう告げると、兵士に小さく頭を下げてから呼んでいる探索者の下に向かう。
 兵士もそんなイルゼンに向かって特に何を言うでもなく、見送る。
 実際にはイルゼンともう少し話をしてみたいという思いがあったのか、今はイルゼンたちも忙しいのだろうから、無理強いは出来ないと思ったのだろう。
 それ以外にも、現在の自分の状況を考えると、イルゼンと気安く話すのはどうかという思いがあったのも事実だ。
 気安く話すことが出来たのは間違いないが、イルゼンは雲海を率いるだけの人物だ。
 レジスタンスとはいえ、この遺跡に配属されるような兵士にしてみれば、間違いなく化け物と呼ぶべき存在なのだ。
 ……話していると、とてもではないがそのような相手には思えなかったが。
 そんな風に思いつつ、兵士は取りあえず周囲の様子を確認して異常がないかどうかを調べるのだった。
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