剣と魔法の世界で俺だけロボット

神無月 紅

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逃避行

251話

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「じゃあ、遺跡を攻略したことに……乾杯!」
『乾杯!』

 イルゼンの言葉に、皆がコップを掲げて乾杯と叫び、その中身を飲む。
 とはいえ、飲む酒の量はコップ一杯と決められていたが。
 現在のアランたちは、あくまでもガリンダミア帝国軍からの逃亡者という立ち位置だ。
 そうである以上、まさか全員が本気で酔っ払うなどといった真似は当然出来ない。
 それ以上に大きいのは、逃亡中である以上食料の類は決して豊富ではないということだ。
 レジスタンスの兵士との取引によって、ある程度の食料を用意することは出来る。
 だが、それはあくまでもある程度であって、雲海と黄金の薔薇の全員を満足させるだけの量ではない。
 それこそ、純粋に食料という点ではこの遺跡に来る前にいた森の方が動物や鳥、魚、木の実……といったような諸々があるだけに、豊富だったのは間違いない。
 ……あるいは、遺跡の中に食用に出来るモンスターでもいれば話は別なのだが、生憎とアランが潜った遺跡にそのようなモンスターはいなかった
 いや、正確にはムカデのモンスターはいたのだから、アランとしてはとてもではないがムカデを食べたいとは思わない。
 ともあれ、そのような理由で食料は決して豊富ではない。
 そして食料以上に酒は貴重なものだった。
 それでもこうしてイルゼンが全員に一杯だけとはいえ飲酒を許可したのは、アランが遺跡を攻略したから……というのは建前で、逃亡生活のストレスを多少なりとも解消してやりたいと、そう思ったためだ。
 自分たちの実力に自信があり、その辺のガリンダミア帝国軍が襲ってきても撃退するだけの自信があっても、やはり一国の軍隊に追われるというのは相応のストレスになる。
 本人はストレスを感じていないつもりでも、知らず知らずのうちに溜め込んでいってしまうのだ。
 そういう意味でも、せっかくアランが遺跡を攻略したのだから、それを理由として酒を飲み、ストレスを発散させようと考えるのはイルゼンにとって当然だった。
 ……もっとも、酒は一杯だけである以上、どこまでストレスが解消されるのかは微妙だったが。

「あの亀の人形は、こんな場所にいる人形としては、ちょっと信じられないくらいに強かったな」

 しみじみとロッコーモが呟き、一緒に戦った者たちがそれに同意するように頷く。
 頷いている冒険者たちは、雲海の冒険者もいれば黄金の薔薇の冒険者もいる。
 実際にあの亀の人形と戦っただけに、ロッコーモの言葉には同意することしか出来なかったのだろう。

「強いっていうか、やたら頑丈って感じだったけどな。倒しにくいとか、そんな感じで」
「そうそう。ただ、逆に言えば防御力に特化した存在だったからこそ、こんな遺跡にいたんだろうな。あの防御力があって、実は攻撃力も高いとなれば……恐らく、この遺跡にいる探索者たちだと手に負えなかったろうし」

 黄金の薔薇の男が言ったその言葉には、皆が納得するしかない。
 非常に高い防御力を誇った亀の人形だったが、それでもそこまで緊張感がないまま倒すことが出来たのは、やはり亀の人形の攻撃力が高くなく……それだけ安心して攻撃することが出来たからだろう。
 もし亀の人形の攻撃力が高かった場合、その攻撃を回避したり防御したりといったことにもっと神経質になる必要があり、恐らくはあそこまで楽に倒すことは出来なかっただろう。……楽にとはいえ、それなりに緊張感があったのは間違いのない事実だが。

「アランも、指揮官として一端になってきたってことかぁ?」
「止めて下さいよ。俺だってそこまで自惚れたりなんか出来ないですよ。実際、あの亀の人形を倒すことが出来たのは、ロッコーモさんたちの力があってこそでしょうし」

 それは謙遜ではなく、全くの事実だ。
 本来なら、指揮官が上手く指揮を執ることが出来れば単体で戦う以上の成果を発揮出来る。
 本来の実力以上の実力で敵と戦うといったことが出来るのだが、アランの場合はせいぜいが指揮されている者の本来の実力を発揮させることが出来ている……といったところか。
 場合によっては、本来の実力の七割から八割くらいの実力しか発揮出来ていない者もいるだろう。
 それが分かるからこそ、アランとしては自分の指揮のおかげで亀の人形を倒したとは決して思えないのだろう。

「まぁ、その件は別にいいだろ。今は無理でも、アランが成長すれば……成長すれば……倒せるといいな」

 成長すれば倒せると言い切れないのは、雲海や黄金の薔薇の探索者たちにとってアランが生身での戦闘の才能は低いと、そう理解しているためだろう。
 生身の戦闘力が低い分、心核を使った戦闘に特化していると言ってもいいのだが。

「ゼオンがあれば、あんな亀の人形も楽勝だっただろ?」

 ロッコーモが会話に割り込んでくる。

「ピ!」

 そして、ロッコーモの言葉に同意するように、アランの心核たるカロは鳴き声を上げた。
 カロにも、自分がアランの心核だという自負があるのだろう。
 それを感じたアランは、そんなカロをそっと撫でる。

「そうだな。カロがいれば……そしてゼオンがいれば、俺が負けることはないか」
「ピ!」

 その通り! とアランの言葉に同意するカロ。
 とはいえ、亀の人形のいた遺跡の最下層――アランはまだ下の階層があると思っているが――は広いのだが、それでもゼオンを召喚出来るほどの広さではない。

「そう言えば、ロッコーモさん。明日もまた遺跡に潜りたいと思うんですけど、構いませんか?」
「明日か? いやまぁ、今は特に何かやることもないから、それは構わねえが」

 現在のアランたちは、ガリンダミア帝国軍が追撃を諦めるまで、身を隠しているところだ。
 そうである以上、陣地を作ってしまえば見張り以外に特にやるべきことはない。
 それこそ、戦闘訓練くらいだろう。
 あるいは、ただ何をするでもなく話をして時間を潰すか。
 雲海や黄金の薔薇のような腕利きのクランにとって、何気に時間を気にせずゆっくりすることが出来るというのは、滅多にあることではない。
 とはいえ、身を隠すためではあるのだが、この周辺には特に何もない。
 これで海や川、湖といったような場所があれば、突然出来た休暇を楽しむことも出来るのだろうが。

「じゃあ、お願いします。それと探索が得意な人たちを多めに連れて行きたいと思ってるので」
「何だ、まだ隠し階段や隠し通路を見つけるのを諦めてないのか?」
「当然ですよ。そういうのがないと、色々と不自然ですから。……多分、何かそういうのがあるのは間違いないと思ってます」

 それは、アランにとって確信に近いものがあった。
 遺跡の状況を見る限りでは、間違いなくどこかに人形を修理したり製造する場所があるはずなのだ。
 遺跡そのものが小さければ、その施設の類も小さいかもしれないが……その手の施設があるのは、間違いのない事実のはずだった。

「分かった。なら、そっちの方は俺が集めておくよ。人数は今日と同じくらいでいいんだろ?」
「お願いします」
「任せろ。アランも、今日の宴会は楽しめ。……酒はもうないけどな」

 そのことだけが、最大の不満だといった様子で告げるロッコーモ。
 そんなロッコーモに、アランは自分の持っていたコップを渡す。

「はい、これ。俺の飲みかけですけど、残りは飲んでもいいですよ。まだ半分以上残ってるので」
「いいのか!?」

 心の底から嬉しそうにロッコーモが叫ぶ。
 ロッコーモにしてみれば、酒を飲めるのならこれ以上嬉しいことはないのだろう。
 別にアルコール中毒という訳でもないのだが、たった一杯しか酒を飲めないというのは、ロッコーモにとってどうして不満だった。
 ……いや、それはロッコーモだけではなく、他の多くの者も同様だろう。
 事実、アランの酒を嬉しそうに飲むロッコーモに対し、周囲でその様子を見ていた者たちの何人かは非常に羨ましそうな視線を向けていたのだから。
 そんな中には、雲海だけではなく黄金の薔薇の者もいる。

(酒ってやっぱり凄いんだな)

 アランも酒は飲めるが、それでもロッコーモたちのようにもっと飲みたいと思えるほどに好きな訳ではない。
 飲めることは飲めるが、そこにあるのは付き合いという一面が大きい。

(酒とか、どこが美味いんだろうな)

 そう言うとお子様舌と言われるので、実際にそのようなことを口にすることは基本的にないのだが、それでもアランにしてみれば酒が美味いとは到底思えない。
 なので、酒をロッコーモに飲ませても特に勿体ないとは思わない。

「ぷはぁっ! ……やっぱり美味えな。もっと酒があればいいんだけどよ。……今の状況では、そんなことも言ってられねえのが残念なところだな」

 そう告げるロッコーモの言葉に、アランの酒を飲むのを羨ましそうに見ていた者たちも同意する。

(雲海はともかく、黄金の薔薇の連中は貴族出身だろうに。……まぁ、探索者として活動しているのを思えば、そこまでおかしなことじゃないのもしれないけど)

 そんな風に思いながら、アランは酒ではなく食事を楽しむ。
 こちらは、酒と違ってアランが食べても普通に美味いと思えるのだから、そちらの方に集中するのは当然だろう。
 ……もっとも、アルコールほどではないにしろ、食料の類も決して豊富な訳ではない以上、腹が痛くなるほどに食べるといったような真似は不可能だったが。

「アラン、ちょっとアラン! こっちに来なさい!」

 と、他の者たちと話していたアランは、不意に聞こえてきたそんな声に嫌な予感を抱く。



 何故なら、聞こえてきたのは母親のリアの声だったのだから。
 それも決して機嫌がいいような様子ではなく、むしろ機嫌が悪いようにしか思えない、そんな様子だ。

「生きろ」
「頑張れ」
「姐さんの相手は任せた」

 と、今までアランと話していた者たちは、リアの声が聞こえてきた瞬間にそう声をかけてその場から去っていく。
 リアの機嫌がよくないのを理解し、それに巻き込まれたくはないと、そう思っての判断だろう。
 そうして逃げていくのは、雲海と黄金の薔薇といったのは関係なく、双方共にだ。
 薄情者め。
 そう思いながらも、アランはその場から立ち上がってリアのいる方に向かうのだった。
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