剣と魔法の世界で俺だけロボット

神無月 紅

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逃避行

252話

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 宴会を行った翌日……アランたちは、再び遺跡の最下層……正確には、現在はまだ最下層と言われている場所までやって来ていた。
 幸いなことに、昨日の今日だということもあってか、人形を含めてモンスターの数は少なく、戦闘の回数はかなり減った。
 それでも何度かの戦闘があったのを考えると、やはり人形がどこかから補充されているのは間違いないと、そうアランは考える。

「それでも巨大な亀の人形が補充されていなかったのは、助かったけど」

 最下層を眺めつつ、アランは呟く。

「そうだな。俺もあの頑丈な亀の人形とは、あまり戦いたくないし」

 アランの隣で、ロッコーモが同意するようにそう言う。
 戦うのが決して嫌いではないロッコーモだが、そんなロッコーモであっても防御力に特化した亀の人形は、戦いたくない相手だったのだろう。
 もっとも、その亀の人形の甲羅はかなり強力な盾として使えることが判明しているし、それ以外の素材も決して悪いものではなかったので、クランとして考えた場合は、また戦って欲しいというのが正直なところなのだろうが。
 ……実際、アランは今日遺跡に潜る前に、イルゼンからその辺りを仄めかされている。
 アランもロッコーモと同様に、また亀の人形と戦うのは出来れば避けたかったのだが。

「取りあえず、俺たちがここを調べている間に、新しい敵が出て来ないことを祈りましょう」

 そんなアランの言葉にロッコーモは頷き、そして他の面々と一緒に隠し通路や隠し階段といった場所がないかどうかの探索に入る。
 今日は昨日の反省を活かして、探索が得意な者たちの数を増やしている。
 そのため、昨日と違って多少の時間はかかっても、きっと何かを見つけることが出来るはず……と、そう考えていたアランだったが……

「おい、ちょっとこっちに来てくれ! それらしいのを見つけたぞ!」

 そんなアランであっても、まさかここまで素早く何かを見つけるというのは予想外だった。
 とはいえ、それはいい意味での予想外だ。
 ここで無意味に時間がかかるよりは、こうして何かが見つかった方がいいのは間違いないのだから。
 アランを含め、この階層で何かおかしな場所がないかと調べていた者たちは全員が何を見つけたと知らせてきた探索者のいる場所に向かう。
 向かうのだが……

「えっと、どこにあるんですか?」

 その探索者が、若干自信に満ちた様子でいるのを見たアランが、そう尋ねる。
 実際、アランが見た限りでは特に壁に何か怪しいような場所があるようには思えない。
 それはアランだけではなく他の者も同様なのか、不思議そうに探索者の男と壁を見比べていた。
 そして何かを見つけた探索者の男は、他の者に見つけられないものを自分が見つけたといいうことに自信を持ち……そして、口を開く。

「ここだ。ここを見てみろ。周囲の様子と少し違うところがあるのが分からないか?」
「……違うところ?」

 アランはその示された場所と周囲の様子を確認するが、生憎と特に何かおかしな場所は見つからない。
 他の壁と何の違いもないように思えた。
 他の面々も多くの者たちが首を傾げていたのだが……

「あ、言われてみれば少し違うか?」
「だよな。何だか壁の質感? そういうのが周囲と少し違う気がする」

 何人かの者たちは、明らかに周囲と違うと言う。
 今回、この探索に駆り出された者は、アランも含めてこの手の調査が決して得意ではないという者も多い。
 それは、イルゼンやレオノーラがこの機会にその手の作業が苦手な者たちを多少なりとも鍛えようという思いがあったためだ。
 この壁を見つけた者もそうだが、探索が得意な者も入っているので、そのような者たちは壁の差異をすぐに理解して納得した様子を見せていたが。

「分かるか?」

 アランの側で壁を見ていたロッコーモが、そう尋ねる。
 ロッコーモもまた、探索を苦手としている。
 ……実際には、ロッコーモの場合は戦闘に特化しているのだが。
 それを許容されている以上、ロッコーモは隠し扉を見つけるといったことが出来なくても、そこまで責められることはない。
 だが、そんなロッコーモと違い、アランは戦闘に特化している訳ではない。
 いや、正確には心核使いとして特化しているのだが。
 それでも探索者として考えれば、やはりある程度のことは出来たいと、そう思ってしまう。

「うーん、俺には他の場所と一緒のように思えるんですけど。……触ってみれば分かるとか、そういう感じですか?」

 ロッコーモの言葉に首を傾げたアランがそう尋ねるが、おかしな場所を見つけた探索者は首を横に振る。

「いや、違う。……まぁ、触っても分からないことはないと思うが、実際にはよく見れば分かるはずだ」

 そう断言され、アランは改めて探索者の示した場所じっと見て、じっと見て、じっと見て、じっと見て……そうして、ようやく何らかの違和感らしきものに気が付く。

「あら? ちょっと質感が違う?」
「正解だ。やれば分かるじゃねえか」

 アランの言葉を聞いた探索者の男は、嬉しそうな笑みを浮かべて頷く。
 アランに続いて他の何人かも、質感が違うということに気が付く。
 ……アランの言葉を聞いて、それでようやくそのように理解出来たという面もあるのだが。
 ともあれ、アランの口から正解が出たとことで、おかしな場所を見つけた探索者は、そっと壁に触れ……やがて、その場所が拳一つ分くらい奥に押される。
 傍から見ると、まるで拳が壁を貫いたように見えてもおかしくはない。
 そうして壁が押し込まれ……やがて、押し込まれた場所のすぐ横の壁が上へと向かって移動する。

「これは……」

 新たに現れた隠し通路は、かなり巨大だ。
 巨大な亀の人形がいたことを考えると、これくらいの大きさの隠し通路があってもおかしくはないのだろう。
 だが……それよりもアランが驚いたのは、壁が上に移動して隠し通路が露わになったというのに、その前には隠し通路の存在には全く気が付くことが出来なかったためだ。

「うおっ! すげえな」

 ロッコーモもまた、そんな隠し通路に驚く。
 いや、ロッコーモだけではなく、他の者たちも皆が予想外の光景に驚いていた。

「これは、また……」

 そして何故か、この隠し通路を見つけた男もまた同様に驚く。
 隠し通路があるというのは、当然だが男も理解していた。
 それでも、まさかこれだけ巨大な隠し通路があるというのは予想外だったのだろう。
 隠し通路を見つけた男は、アランに視線を向ける。

「それでどうする? アランが言った通り隠し通路があった訳だが……このまま探索を続けるか?」

 その言葉を聞いた他の者たちも、アランに視線を向ける。
 周囲からの視線を向けられたアランは、少し考え……やがて口を開く。

「進みましょう。恐らく、この隠し通路は俺たちが初めて見つけたものです。だとすれば、まだこの先には何らかのお宝が眠っている可能性は十分にあるかと。……もしかしたら、心核があるという可能性も皆無ではないですし」

 そう言いながらも、アランはこの先に心核がある可能性は決して高くないと思っていた。
 心核というのは、本来非常に貴重なものなのだ。
 ……最近のアランは、大量に心核使いを見ることになっているが。
 それだけに、心核がそう簡単に見つかるとは思えない。
 あるいは、この先がもっと深く……それこそ、雲海や黄金の薔薇が本気で探索しなくてはいけない規模の遺跡であれば、心核が眠っている可能性は否定出来なかったが。
 そういう意味では、まだ可能性としては否定出来ないだけに希望をすてる必要はない。

(それでも、多分無理だろうとは思うけどな)

 何か理由がある訳ではなく、何となく……勘でそんなことを思うアラン。
 だが、古代魔法文明の遺跡で入手出来る物は心核だけではない。
 心核以外にも、それこそ様々な物を入手出来る。
 それらを研究することにより、この世界の文明は進む。……正確には文明を取り戻すといった表現の方が正しいのかもしれないが。

「分かった。なら、行くぞ。……あの亀の人形の甲羅は、あればあっただけいいってダスカルに言われてるしな」
「……ロッコーモさんの言いたいことは分かりますけど、あの甲羅が大量にあっても俺たちには使いこなせませんよ?」

 亀の甲羅は、オーガに変身したロッコーモが盾とするのにちょうどいい。
 つまり、それだけの大きさを持つのだ。
 雲海や黄金の薔薇の探索者たちにしてみれば、生身であのような盾を使うといったことは……絶対に無理という訳ではないだろうが、そのようなことをしてもそこまで意味はないだろう。

「別にアランたちに使えとは言ってねえよ。いやまぁ、いざって時に使えそうなのは何人がいるのは間違いないが。ただ、ダスカルが多いほどにいいって言ってたのは、あくまでも俺が使う際の予備って意味でだしな」
「ああ、なるほど」

 そう言われれば、アランも納得出来た。
 オーガに変身したロッコーモが使える武器や防具というのは、そう多くはない。
 明らかに人より巨大なので、人が使う槍の類はは爪楊枝か何かのようにしか思えない。
 そんな中で普段から使っている棍棒は、オーガに変身したときに最初から持っている代物だからか、例え壊れても変身したときになれば元に戻っている。
 似たような現象としては、黄金の薔薇の心核使いのジャスパーもそうだろう。
 リビングメイルに変身するジャスパーは変身時は槍を持っていて、その槍は穂先が欠けたりしても、再度変身すれば槍は直っている。
 そんな武器と違い……言わば後付けの装備は、当然ながら壊れてしまえばそれまでだ。
 ロッコーモがオーガに変身して甲羅を盾として使用して壊してしまっても、一度人間に戻ってから再びオーガに変身しても、当然のように甲羅が直るといったようなことはない。
 そう考えると、ロッコーモが盾として使える甲羅の類は、予備があればあっただけいいのは間違いない。

「取りあえず、甲羅があったら何とか確保しましょう。……地上まで持って帰るのは大変そうですけど」

 そう、アランは呟くのだった。
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