剣と魔法の世界で俺だけロボット

神無月 紅

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逃避行

261話

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「うおりゃぁっ!」

 ロッコーモの変身したオーガの振るう棍棒が、亀の人形の頭部を破壊し……その動きが止まる。
 亀の人形の残骸を見ながら、アランは面倒そうに……そして同時に納得したように呟く。

「やっぱり亀の人形だったか」

 人形の待機部屋から繋がっていた、未知の遺跡。
 その遺跡を通って進んだのだが……一時間ほども進んだところで出た遺跡では、当然のように亀の人形が待っていた。
 そして戦いになり、ロッコーモが心核でオーガに変身して倒したのだ。
 アランにしてみれば、あの製造設備のある場所から繋がっていたのだから、亀の人形がいるというのは十分に納得出来た。
 納得出来たのだが……それでも繰り返し戦うということに、思うところがない訳でもなかった。
 何よりも、亀の人形は非常に防御力が高い。
 それでいて攻撃力はそこまで高くなく、移動速度も遅い。
 そういう意味では、ただひたすらに厄介な相手だったのだ。
 であれば、アランとしてはそんな面倒な敵とは出来るだけ戦いたくないと思うのは当然だろう。
 それでも遺跡のボスとして存在している以上、遭遇すれば倒すしかなかったのだが。

「ふぅ。……何だか亀の人形を倒す専門家になりそうだな」

 オーガの姿のまま、棍棒を手にロッコーモが呟く。
 実際、この亀の人形と一番多く戦っているのはロッコーモだけに、その言葉は決して間違っていない。
 本人も、口では嫌そうなことを言ってはいるが、亀の人形との戦いをそこまで嫌っている訳ではなかった。
 オーガに変身した自分の攻撃を防ぐことが出来るのだから、好きなだけ殴れる。
 それでいて防御力に特化しているので、一方的に攻撃を受けるだけだ。
 そういう意味では、ある意味サンドバッグに近い存在なのかもしれない。

「ロッコーモさん、取りあえずこのまま上に向かうので、変身を解除して下さい」
「おう。……で、この人形はどうする?」
「戻ってきたときにまだあったら、使えそうな場所を持っていきましょう」

 すでに何度も倒しているだけあって、人形の素材はそこまで欲しい物ではなくなっていた。
 それどころか、製造設備の方を調べれば部品の状態で見つけることが出来るだろうから、この亀の人形から部品を持っていく必要は特にない。
 この遺跡を攻略したあとで戻ってきたときに、まだ亀の人形の残骸が残っていれば、それを確保すればいいだけの話だった。

(まぁ、遺跡の攻略って表現が合ってるのかどうかは分からないけど)

 アランにしてみれば、遺跡の最下層から地上に向かうという形になるのだ。
 であれば、当然の話だがそれを遺跡の攻略と表現してもいいのかどうかは微妙なところだろう。
 ある意味、攻略したと言えば今このときに最下層にいた亀の人形を倒したのだから、それが攻略と言ってもいい。

「アラン、そろそろ出発しましょ。この遺跡がどれくらい深いのかは分からないけど、出来れば早いところ地上まで行きたいわ。……進んだ距離から考えても、野営地になった場所からはそう離れていない筈だとは思うけど」
「つまり、ここもまた未発見の遺跡……ってところか。だよな?」
「ええ。あの周辺には他に遺跡がなかったもの。その判断で間違っていないはずよ」
「分かった。なら行こうか。……皆、言うまでもないですが、くれぐれも油断しないようにお願いします」

 アランの指示に、他の探索者たちも当然だといった様子で頷く。
 この遺跡が先程の人形の製造設備のあった場所と繋がっている以上、そこまで規模が大きくないというのは、容易に予想出来る。
 そうである以上、この遺跡でもそこまで手こずるといったような可能性は低かったが、だからといってここで油断した場合、それは大きなしっぺ返しとなって襲ってくるという可能性を否定出来ないからだ。
 腕利きの探索者である以上、その辺りについて用心するのは当然だろう。
 少なくても、今この状況で油断するといったようなことは、この場にいる者にしてみれば有り得ない行動だった。
 そうして、アランは他の面々と共に遺跡を下から上に進むという、普通とは少し違う形で移動を始める。
 とはいえ、遺跡の大半が地下に向かうという形で存在しているが、建物型……もしくは塔のような形になっている遺跡がない訳でもない。
 そのような遺跡は数こそ少ないが、基本的に非常に難易度の高い遺跡として知られている。
 雲海も以前何度か挑んだことがあるが、アランは技量不足として待機させられた。
 そんな場所なのだ。

(それを考えれば、この遺跡は……)

 そう思った瞬間、不意に違和感を覚える。

「警戒!」

 その違和感があった瞬間、アラン……ではなく、アランの側にいた別の男が鋭く叫ぶ。
 その言葉で、先程の違和感が自分だけのものでなかったことを理解する。

「何があったか分かりますか!?」
「多分、転移だ!」
「はぁ!?」

 即座に疑問の答えが返ってきたことは、アランにとっても嬉しいことだ。
 だが……その答えが転移となれば、話は変わってくる。

「転移って……罠ですか?」
「どうだろうな。罠らしきものはなかった。それこそ、むしろ普通に歩いているところで自然と転移したかのような……そんな感じだ」
「ああ。俺もそう思った」

 別の探索者が、その言葉に頷く。
 すると他の者たちも自分もそうだと、同意してくる。
 つまり、今の転移は罠でも何でもなく、純粋に移動する方法として用意されていたと。
 そうアランが理解すると、それでようやく焦りが落ち着く。

「にしても、転移を移動手段にですか。……かなり大規模な仕掛けですよね? てっきり、あの人形の製造設備から繋がっている場所は、どこも小さい遺跡だとばかり思ってたんですけど」

 アランがそのように予想していた理由は、アランたちが野営地として使っている遺跡の周辺にはそれらしい遺跡がなかったからだ。
 だからこそ、まだ見つかっていない遺跡は小さく、容易に見つからないような場所だとばかり思っていたのだが……その予想は完全に外れてしまった形だ。

「取りあえず、ちょっと戻ってみませんか? 今の転移が、もし一方通行だったりしたら……かなり面倒なことになりそうですし。……そもそも、転移したのに向こう側がしっかりと見えるってのが意味不明ですけど」

 一方通行の転移であった場合、転移してきた現在のアランたちは自力で野営地のある遺跡まで戻る必要がある。
 だが、アランたちは転移したのだ。
 それが具体的にどれくらいの距離を転移したのか分からないのは大きい。
 それこそ、最悪別の国……いや、別の大陸の転移している可能性もある。
 そのような場合、当然だがそう簡単に野営地に戻るような真似は出来ない。
 ……普通であればまず不可能に近い中、そう簡単といった程度なのは、やはりアランのゼオンとレオノーラの黄金のドラゴンという存在がいるからだろう。
 どちらも空を飛ぶという能力を持っているので、かなりの長距離を移動出来る。
 雲海や黄金の薔薇の全員は無理でも、ここにいるくらいの少人数なら皆纏めて運ぶことが出来るのは間違いなかった。

「取り合えず……ちょっと試してみましょう」

 そう告げ、アランはその辺に転がっていた石を拾い、軽く投げる。
 コロン……コロコロコロ……
 そんな音を立てながら、アランの投げた石は移動する。
 そう、アランたちが移動して転移した場所よりもさらに奥の方へと移動する。

「ふぅ」

 そんな石の様子を見て、安堵するアラン。
 今の様子を見る限りでは、少なくても向こう側に行けないということはないらしいと。

(人形のように無機物だけが移動出来るとか、そういうことはないよな? ……試してみるしかないか。そもそも、さっきも思ったけど何で転移で移動しているのに、向こう側が見えるんだ?)

 石の転がっていった方向には、間違いなく遺跡が存在している。
 転移がどのように働いているのかが疑問だったが、とにかく今は現在の状況をしっかりと把握する必要があった。
 そんな訳で、アランは一度向こうの遺跡……自分たちが転移してきた遺跡に戻ろうと考えたのだが、この場合問題なのは誰が行くかだ。
 この実験は、あくまでも転移を試すといったもので、本人の実力があればどうこうといった訳ではない。
 それこそどんなに強くても、転移という現象の前ではその強さは意味を持たないのだから。

「じゃあ、俺が行くからちょっと待ってろ」
「え? ちょっ、ロッコーモさん!?」

 ロッコーモのいきなりの言葉に、アランは驚いて声を掛ける。
 だが、ロッコーモはそんなアランに自分を信じろと口にして転移の罠……いや、罠ではなく通路のある場所に向かう。
 そして……あっさりとその姿が消えた。

「消えた……え? ちょっ!」

 先程アランが投げた石は、普通に向こう側に転がっていった。
 にも関わらず、何故ロッコーモが消えたのか。
 そんな混乱をするアランだったが……次の瞬間にはすぐにまたロッコーモが転移してきたのを見て、安堵する。

「ふぅ……驚かせないで下さいよ!」
「ん? ああ、悪いな。それより、普通に転移は出来たぞ。問題なく向こうには戻れる」

 アランの心配は全く気にしていなかったのか、ロッコーモはあっさりとそう告げる。
 そんな様子に、アランは何か言おうとして……だが、結局誰かが試さなくてはならなかった以上、これは当然の結果だろうと思い込む。

「じゃあ、取り合えずこの件をイルゼンさんに知らせる為に戻りますか?」
「いや、先に進むぞ」

 ロッコーモの口から出た言葉は、アランの予想を完全に超えていた。

「本気ですか? この状況で?」
「この状況って、別に誰かが被害を受けた訳じゃねえだろ? それに、転移を使って戻れるのも確認した。なら、この遺跡がどこにあるのかを調べておいた方がいい」

 そんなロッコーモの意見に、意外と賛成する者は多かった。
 そうである以上、アランもその言葉を受け入れ、遺跡を上に向かうのだった。
 そして、二時間ほどかけて遺跡の最上階……地上に続く道を見つけ、そこから姿を現すと……

「アラン!?」

 不意にそんな声が周囲に響くのだった。
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