剣と魔法の世界で俺だけロボット

神無月 紅

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逃避行

266話

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「くそがっ! 一体どうなっている! 何でアランたちはどこにもいねえんだ!」

 遺跡の中で、グヴィスは苛立ちも露わに叫ぶ。
 遺跡の中に逃げたのだろうアランたちを追って、自分たちも遺跡の中に入った。
 幸い、兵士の中には元探索者という者もおり、そのような者たちの力を借りて遺跡を潜ってきたのだが……その遺跡は、どこにもアランたちの姿はなかった。
 もしかしたら、どこか隠し部屋があるのでは? と思ったが、残念ながら元探索者の中にはその手の技能を得意としている者はいない。
 いや、もちろんある程度の技量はあるのだが、その技量ではそれらしき場所を見つけることが出来なかったのだ。
 この遺跡そのものはそこまで広いものではない以上、絶対にアランたちの姿がどこかにあるはずだった。
 それがないという時点でおかしい。
 ……実際には、イルゼンが転移出来ないように解除したのだが、グヴィスたちにそれが分かるはずもない。
 今の状況で出来るのは、ただひたすらに周囲の様子を探索するだけだったが……

「グヴィス、ここにアランたちがいない以上、いつまでもここにいる訳にはいかない」
「分かってるよ。けど、この遺跡から脱出していない以上、この中にいるのは間違いないんだ。なら、今この状況でこの遺跡を放っておくような真似は出来ると思うか!?」

 そう言われれば、クロスもグヴィスの意見に反対は出来ない。
 そもそもの話、この追跡隊の目的はあくまでもアランたちを捕らえることだ。
 そのアランがここにいたというのに、それを放っておく……などといった真似は、とてもではないが出来るはずもない。
 それはクロスも分かっていた。分かっていたのだが……それでも、この遺跡をくまなく探してもどこにもアランたちの姿がないのだ。
 つまり、それは何らかの手段でアランたちがここからすでに消えてしまっているという可能性が高い。
 普通に考えれば有り得ないことなのだが、ここはどんなに小さくても古代魔法文明の遺跡だ。
 そうである以上、何らかの手段でここから逃げていたとしても、おかしな話ではない。
 そして……実際にアランたちが転移を使ってこの遺跡から人形の製造設備のある場所に逃げたのは事実である以上、クロスの予想は決して間違っていなかった。
 ……問題なのは、この遺跡からではアランたちが逃げた遺跡に繋がっている転移装置を起動することが出来ないということだろう。
 もしかしたら、遺跡のどこかにそのような装置がある可能性も否定は出来なかったが、クロスたち率いていた兵士たちの中に、それを見つけられるような腕利きはいなかった。

「考えられる可能性としては、ここに何人か見張りを残して俺たちは地上からアランたちを追うことだな」
「何人かって……クロス、お前本気か? もしまたこの遺跡からアランたちが出て来たら、見張りのために残した兵士たちなんかあっという間に倒されてしまうぞ?」

 それは間違いのない事実。
 今ここに兵士を残していっても、その戦力でアランたちをどうにか出来るはずもない。
 だからこそ、グヴィスはクロスに本気か? と尋ねたのだ。

「しょうがない。この遺跡の中にまだいるかもしれない以上、見張りは必要だ。その代わり、離れた場所……出て来たアランたちに即座にやられないような場所で待機していて、それでもし遺跡からアランたちが出て来たら、戦わずすぐその場を離れてこちらに事情を知らせる」
「なるほど。あくまでも見張りに徹底させるのか。それなら……」

 クロスの意見に許容出来たのか、グヴィスが周囲の様子を確認しながらそう呟く。
 グヴィスの周囲にいた者たちも、このまま遺跡にいなくてもいいと知ると安堵した様子を見せる。
 兵士の中には以前探索者だった者もいるが、それでもやはりそれは少数だ。
 それ以外の者にしてみれば、遺跡の中にいるという時点で精神的な消耗が強い。
 これは、遺跡のことを知らないからこそ、そのように思ってしまう……といった者も多いだろう。
 結果として、遺跡という存在が未知だからこそ、恐怖を覚えるといったところか。
 それもまたグヴィスがここから脱出すると決めた理由の一つなのだろう。
 ……これがグヴィスくらい強いのなら、そこまで遺跡だなんだと気にするような必要もなかったのだろうが。

「よし、撤退するぞ。このままこの遺跡にいても、またモンスターが出てくるだろうしな」

 そう宣言するグヴィスだったが、実際にこの遺跡の中でモンスターと遭遇したということはほとんどなかった。
 だが、それは予想通りでもある。
 グヴィスたちが入る少し前に、アランたちが遺跡の中に入っていったのだから。
 それを思えば、アランたちが出て来るモンスターを倒したということには納得出来る。
 そう思っていたのだが……

「グヴィス様、敵です!」

 地上に向かって進み始めて少し経った頃、兵士の一人が自分たちに向かって近付いてくる人形を見つけてると、そう叫ぶ。
 人形はグヴィスの腹部くらいの大きさで、持っている武器も槍ではあるが、見るからに貧相な槍だ。

「雑魚か。さっさと倒して先に……」
「待て」

 さっさと倒して先に進むぞ。
 そう言おうとしたグヴィスの言葉にクロスが待ったをかける。

「クロス、どうした?」
「……少し気になることがある。ちょっと俺にその人形と戦わせて欲しい」

 そう言われれば、グヴィスもそれに否とは言えない。
 あるいは、これがもっと強そうな相手であれば、グヴィスもクロスの心配をしたかもしれないが……人形は、見るからに弱そうだ。

「分かった。何を考えてるのかは分からないが、油断するなよ」

 グヴィスのその言葉に頷き、クロスは長剣を手に前に出る。
 二人の前にいた兵士たちが、慌てて場所を空ける。
 そうして一番前に出たクロスは、槍を手にした人形と向かい合い……人形が槍を突き出すとあっさりと回避し、槍を手元に戻す動きと共に前に出て、長剣を振り下ろす。
 頭部を左右二つに切断された人形は、次の瞬間には地面に倒れた。
 まさに一閃。
 人形如き、相手ではないと示すやり取り。
 とはいえ、別にこの程度の相手に苦戦するとはクロスも思っていなかった。
 それでも実際に自分で戦ってみたのは、一体どれだけの実力があるのかを確認してみたかったためだ。
 ……結果として、あっさりと倒すことが出来たが。

「なるほど」

 だが、そんな戦いであってもクロスは何か思うところがあったのか、小さく呟く。

「何がなるほどなんだ? ……まぁ、クロスがこの程度の敵に苦戦するとは思ってなかったから心配はしてなかったけど」

 その言葉通り、全く心配していない様子でグヴィスがクロスの横に来る。
 グヴィスには、何故クロスが自分でわざわざ人形と戦ったのか、全くその理由が分からなかった。
 これがクロスでなければ、アランに逃げられた八つ当たりの対象……といった風に思うこともあったのだろうが、クロスの性格を知っているグヴィスにはそれはないと思えた。
 そうなると、何か別の理由があるはずなのだが……それが分からず、グヴィスはクロスに尋ねたのだ。

「この人形は弱かった。それは分かるな?」
「ああ。ここに来るまでにも、何回か戦ったからな。……それは別に言うまでもないだろ?」
「これだけ弱い人形であれば、それこそすぐに倒されるはずだ。ここをアランたちが通ってきたのなら、なおさらに。特にアランたちは、この遺跡を最初に潜って、地上に出て来て、そこからさらに潜っている。そして俺たちも最下層と思しき場所まで潜って、そして今は地上に向かっている」

 そう説明するクロスの言葉に、話を聞いていた者たちは揃って頷く。
 実際にそれは間違いのない事実だったからだ。
 だが……グヴィスはクロスが何を言いたいのか理解したのだろう。
 疑問の表情を浮かべて口を開く。

「つまり、この程度の敵がまだ残ってるのはおかしいと?」
「そうだ」
「けど、遺跡はそれなりに広いんだ。どこかに隠れていたこの人形が、今回偶然出て来ただけとは考えられないか?」
「その可能性もない訳ではないがな。それでも……普通に考えれば、やはりおかしい」
「だとすると、どんな可能性を考えられる?」
「……そうだな。たとえば、どこかかで敵が作られて送り出されているというのはどうだ?」
「な……いや、敵は人形だ。それも、そこまで精巧な作りという訳ではない。だとすれば、可能性は……」

 グヴィスはクロスの言葉に一瞬反論しようとする。
 だが、クロスが倒した人形のことを思えば、その可能性は否定出来ないと判断してしまう。
 この程度の強さの人形が、一体どこからやって来るのかといった疑問を抱いてしまったのだ。

「つまり、どこかに隠し通路とか、そういうのがあるって事か?」
「可能性としては否定出来ない。もちろん、実際にはそのようなことがないという可能性もあるけどな。この弱い人形は本当に偶然によって今まで生き延びていたといった可能性が」

 そう告げるクロスだったが、一度隠し通路があるかもと思えばそれは否定出来ない。
 一応アランたちが隠れたのかどうかを確認するために調べたりはしたのだが、自分たちでは何も見つけることが出来なかったからこそ、どこかにまだ自分たちが見つけていない隠し通路の類がある可能性は高いと思ってしまう。

「どうすればいい?」
「それを決めるのはお前だろう。この追撃隊の指揮を執ってるのはグヴィスなんだから」

 奇しくも、アランと似たようなことを言われるグヴィス。
 相棒のクロスにそう言われたグヴィスは、どうするべきか少し迷い……やがて、口を開く。

「分かった。やっぱり当初の予定通り、ここに何人か監視の兵士を残して、俺たちは先を急ごう。今はこの遺跡を調べているような余裕はない。……本職の探索者を連れて来ることが出来れば、また話は違ったんだな」

 そんなグヴィスの言葉に、それはそれで今更の話だろうとクロスはグヴィスの肩を軽く叩く。
 そのようなやり取りをしつつ、グヴィスは遺跡から脱出するために歩き続けるのだった。
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