剣と魔法の世界で俺だけロボット

神無月 紅

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逃避行

265話

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 グヴィスたちが遺跡に突入しようとした頃、アランたちはすでに転移の罠が仕掛けられている場所までやってきていた。
 本来ならここまで早く戻ってくることは出来ない。
 小さいとはいえ、ここはあくまでも遺跡……それも今までは未発見だったか、知っている者がいても少数といったような遺跡だったのだ。
 それを考えれば、この短時間で転移の罠がある場所まで戻ってくることは不可能に近い。
 だが……この場合、一度通った道であり、それもつい先程というのが大きく影響していた。
 つい先程ここを通り、そのときにモンスターや人形と戦ったのだから、戦闘回数は当然減る。
 ……逆に言えば、先程戦ったばかりなのに新たなモンスターや人形がいるというのは、この遺跡にはそれなりに敵の数が多いということを意味してもいたのだが。

「このまま転移すると、グヴィスたちも俺たちを追ってくると思うんですけど……どうします? 出来れば、この転移は一時的に使えないようにしておきたいんですけど」

 そうアランが言うが、それを聞いた者たちは難しい表情を浮かべるだけだ。
 現在の自分たちの状況を思えば、自由に……そして確実に転移出来る場所というのは非常にありがたい。
 だが、そのおかげで現在ピンチになっている以上、それにどう対処するのかというのは難しく思えるのも当然だった。

「完全に使えなくするだけなら、その辺を壊してしまえばどうにかなりそうなんだけどな。……そもそも、ここから出たあの場所ってどこなんだ? 俺たちの野営地からどれくらい離れてる場所だ?」

 ロッコーモがそう尋ねるが、アランがそれに答えることは出来ない。
 いや、アランでなくても誰であってもそれに答えることは出来ないだろう。
 何しろ、遺跡から外に出た瞬間にはもうすぐ近くにグヴィスがいたのだ。
 周囲の様子を調べるといたようなことが出来るはずもなく、それを考えればこの遺跡がどこに繋がっているのかは分からない。

「しょうがない。イルゼンさんに頼りましょう」

 そう告げるアランの口調には、苦々しいものがある。
 それはイルゼンに対して思うところがあるといった訳ではなく、単純に自分が指揮を任されたのにそれを達成出来ず、イルゼンに頼るしかなかったことからくる苦々しさだ。
 とはいえ……周囲で様子を見ていた者たちも、今回の件に限っては仕方ないと、そう思う。
 まさか遺跡を出たところに何故かガリンダミア帝国軍がいるとは、普通は思わないだろう。
 それこそ、アランではなく自分たちであっても対処は難しかったはずだ。
 予想外であった以上、そこまで気にすることはないというのが正直なところだ。
 問題なのは、本人はそれで満足していないといったところか。

「取りあえず、戻りましょう。向こうで人形の製造設備を調査しているイルゼンなら、何か分かるかもしれないわよ」
「いや、人形の製造設備とここの転移は全く違うと思うんだけど」

 レオノーラの言葉に、アランは半ば反射的にそう突っ込む。
 とはいえ、レオノーラにそう言われたことで多少は落ち着いたのか、頷く。

「けど、そうだな。今の状況を考えれば向こうに行く必要があるか。……じゃあ、行きましょう。イルゼンさんなら、何か知ってるかもしれませんし」

 そう言いながら、アランは転移するのだった。





「ああ、ありますよ」
「……え?」

 人形の製造設備まで戻ってきたアランは、イルゼンに事情を説明した。
 そして、転移を一時的に使えないようにして、あとでそれを復旧出来るかといったことを、半ば駄目元で尋ねてみたのだが……それに帰ってきたのは、そんなあっさりとした言葉だった。
 そんなイルゼンの言葉には、アランだけではなく他の者たちにも驚きをもたらす。

「どうしました? その辺りのことを聞きたかったんでしょう? なら、問題ないと思いますが」
「いや、助かったのは事実ですけど……何でそんなことが分かるんです?」
「ああ、それは簡単な話ですよ。この製造設備にそれらしい装置があったので」

 迷う様子もなく告げるイルゼンに、アランは疑問を抱く。

(ここにある設備は、あくまでも人形を作る設備だ。なのに、転移を一時的に止めるといったことが出来るのか?)

 そんな疑問を抱くが、イルゼンだからということで取りあえず納得しておく。
 それに、そのお陰でグヴィスたちの追撃を受けなくてすむのだから、助かったのは事実なのだ。

「じゃあ、早速お願いします。転移した先でグヴィスたちと遭遇してしまったので」
「ふむ、なるほど。そうなると、こっちに来られるのは少し厄介ですね」

 この場合の厄介というのは、戦力的に厄介という訳ではない。
 当然だろう。そもそも、アランたちだけでグヴィスたちは倒しているのだ。
 そしてここには、アランたち以外にも多くの探索者がいる。
 もしここにグヴィスたちが来ても、それこそ先程よりもあっさりと……一方的に倒されるだけなのは間違いない。
 だが、それでも戦えば周辺に被害は出る。
 特に人形の製造設備は、今となっては非常に貴重な代物だ。
 出来れば、それを破壊したくないとイルゼンが考えるのは当然だろう。

「では、早速ですが少し設定を弄ってきますね。いやぁ、本当にこの設備がまだ生きていてよかった」

 心の底から安堵したように言い、イルゼンはアランに少し失礼と言って立ち去る。
 そして数分が経過して戻ってくると、何でもないかのように口を開く。

「取りあえず、遺跡の転移機能は止めておきました。これで、アラン君の友人がここに来ることはありませんよ」
「止めたって……この短い時間で?」
「はい。幸い、少し前にその辺に関しては判明していましたからね」
「……そうですか」

 イルゼンの言葉は、アランにとっては全く納得出来ない。納得出来ないのだが、それでもイルゼンがそのように言ったということは、間違いなく先程アランたちが通ってきた遺跡の転移機能は止まっているだろう。
 普通であれば無理な話だが、イルゼンがそう言ったのなら恐らくそうなのだろうと、納得出来るだけの信頼はアランもイルゼンに対して抱いていた。
 もっとも、あまりに都合がよすぎるという思いがあるのも事実だったのだが。
 とはいえ、今はそれについてこれ以上追求するようなときではない。

「それで遺跡の方はどのくらい判明しました?」
「そうですね。大まかには四割といったところですか。いや、その中に転移機能を停止させるとこころがあったのは幸運でしたね」

 少しわざとらしい様子で告げるイルゼンだったが、それも普段のイルゼンらしいと言えばらしいのだ。

「この短時間で四割ですか。そうなると、そこまで時間がかからないうちに解析が出来そうですね」
「いえ、そうでもありません。ここまでは分かりやすいところを進めたので、それでようやく四割です。そして現在の残っている場所は、かなり解析の難しい場所になる訳で……解析が終わるまでには、まだ相応の時間がかかりそうですよ」

 そういうものか? とイルゼンの言葉に疑問を抱いたアランだったが、イルゼンは今までいくつもの遺跡を攻略してきた実力の持ち主だ。
 そうである以上、イルゼンの言うことであれば信用するしかなかった。
 また、アランが疑問に思うことは当然他の探索者たちも疑問に思うはずであり、そのような者たちもイルゼンの意見に賛成しているのであれば、それを疑うような真似が出来るはずもない。

「そうですか。なら、今日からしばらくはここの調査とかですか?」
「うーん、そうしたいところなんですけど、あまり上に戦力を残さないという訳にもいかないんですよ。今日は初めてということで多人数で来ましたが……」

 野営地には雲海や黄金の薔薇の面々が持つ荷物や馬車、それを牽く馬といったように大切なものが多々ある。
 そうである以上、あまり上を空けるといったような真似はしたくないというイルゼンの気持ちは、アランにも分かった。
 とはいえ、このような場所を調べるとなると当然のように多くの人数が必要となるのも事実で、そうなるとどちらかを重視する必要はあった。

「どうします?」
「無難に考えれば、半々といったところでしょうね。人数的にもそこまでおかしくはないでしょうし」

 イルゼンのその言葉に、アランも頷く。
 実際のところ、この場所はあくまでもおまけ的なものだ。
 アランたちの本当の目的は、あくまでもガリンダミア帝国軍の追撃部隊をやりすごすこと。
 ……そういう意味では、もう停止したが転移する場所があったのは何気に危なかったのは間違いない。

「もしアラン君が僕の立場だったら、どうする?」
「え? 俺ですか? うーん、そうですね。イルゼンさんと同じく半々ってのが一番いいと思いますけど、それ以外だと……この転移設備の解析に大量に人数を投入して一気に解析を進めるか、もしくは上で防御を固めるのを優先して、この生産設備の解析はゆっくりか……迷います」

 迷っていると言うアランだったが、実際にもしアランがイルゼンの立場であれば、恐らく前者を取るだろう。
 何よりも、自分たちが降りてきた場所とは別の場所……グヴィスたちと遭遇した場所に続く遺跡があるというのが、その最大の理由となる。
 もし地上をガリンダミア帝国軍に襲われても、最悪そちらから逃げるといったことが出来るのだから。
 ……もちろん、そのような真似をした場合は地上に残してきた荷物の諸々は捨てることになってしまうのだが。

「そうかい。まぁ、こういのも色々と経験になるからね。しっかりと考えておいた方がいい」
「そう言っても……イルゼンさんがいれば、俺がそんなことを考える必要はないと思いますけど」

 普段は飄々とした態度で昼行灯を気取るイルゼンだったが、実際に今まで雲海というクランを率いてここまでやって来たのだ。
 そうである以上、当然アランもそんなイルゼンのことは信頼している。
 だからこそ、イルゼンが何故そのようなことを言ってるのか分からなかったのだが……

「それは嬉しいね。でも、将来のことを考えると、経験しておいて間違いはないよ」

 アランの言葉を聞いたイルゼンは、そう告げるのだった。
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