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逃避行
275話
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ゼオンの攻撃の影響もないままに、ガリンダミア帝国軍は野営地に向かって近付いていく。
もしこれが戦争なら、戦闘が始まる前に相手に降伏勧告をしたりといった真似をしてもおかしくはない。
だが、それはあくまでも正式な戦争であればの話だ。
現在ここで起こっているのは、表向きには反乱勢力の鎮圧行動だ。
……実際、アランを助けるためとはいえ、帝城に攻撃をして乗り込み、好き放題に暴れるといった真似をしたのだから、雲海や黄金の薔薇が反乱勢力だというのは決して間違ってはいない。
そしてダーズラとしても、ガリンダミア帝国軍に被害を与えた雲海や黄金の薔薇は、倒すべき敵としか認識していない。
唯一、主のビッシュから命令されたアランだけは、何としても生け捕りにする必要があったが。
そのような理由から、降伏勧告も何もなく……ダーズラ率いるガリンダミア帝国は、野営地に向かって攻撃を始めた。
草原の中に存在する野営地だけに、見渡しは非常にいい。
そういう意味では、防衛側にとって有利ではあったのだが……同時に、数の差という圧倒的な不利もある。
「畜生! 連中、右から回り込んでくるつもりだぞ! 手の空いてる奴は、そっちに向かってくれ!」
平原だからこそ、ガリンダミア帝国軍が部隊を動かすのを見逃すといったようなことはない。
だが、その代わりに人数の差がある以上、それが分かっていても防ぐために動ける人数は決して多くはなかった。
「くそっ、俺が行く! 他にも何人か手の空いてる奴は来い!」
雲海の男がそう叫び、野営地の右側に向かう。
それを何人かの兵士が追った。
普通なら、攻撃側と防御側では防御側の方が有利と言われている。
それこそ、攻撃側が三倍以上の戦力を用意して、ようやく互角といったように。
だが……それはあくまでも防御側の設備がしっかりしている場合の話だ。
城や城塞といった場所があればこそ、防御側の方が有利と言える。
しかし、この防衛戦で雲海や黄金の薔薇が立て籠もっているのは、簡単な柵だけが存在する野営地だ。
一応柵が防御設備と言えるのかもしれないが、攻撃側にしてみれば壊そうと思えば楽に壊すことが出来る代物でしかない。
そして防御側にとってもっと不利だった理由の一つは、未だにレオノーラが気絶したままだということだろう。
死の瞳の効果によって、黄金のドラゴンから強制的に変身を解除させられたレオノーラ。
アランも同じような状況ではあったのだが、幸いにして意識はある。……身体に力が入れられないので、とてもではないが起き上がることが出来ないが。
アランは能力値が心核使いに特化しているので、生身での戦闘力は弱い。
もちろん、探索者としては何とか合格ラインといったくらいなので、その辺の兵士を相手にした場合はそれなりに戦えるのだが。
しかし……そんなアランとは違い。レオノーラは心核使いとしてもアランに近い技量を持ちながら、生身での戦闘はアランよりも圧倒的に上だ。
その上、鞭という中距離の武器を使いこなし、魔法も得意だ。
今のように少人数で戦っている場合、レオノーラという存在は非常に大きな戦力となるのだが……そのレオノーラは、現在戦力として使えない。
(くそっ、イルゼンさんはまだなのか? このままだと、野営地を突破されかねないぞ?)
声には出さないものの、アランは現状の不味さをしっかりと理解していた。
とはいえ、今の状況において自分の出来ることはほとんどない以上、下手に言葉を発して戦いに集中している者たちの心を乱さないようにしていたのだが。
それは今のところ成功していた。
今の状況では、雲海や黄金の薔薇がかなりガリンダミア帝国軍との戦いに集中している。
「おい、防御魔法用意だ! 連中、攻撃魔法の準備をしているぞ!」
誰かがそう叫ぶと、素早く魔法が得意な者は防御魔法の準備をし……やがて、ガリンダミア帝国軍から飛んできた火球、氷の矢、風の刃、岩の槍といった攻撃が放たれるが、防御魔法によって生み出された光の膜よりってそれらを防ぎ……
「違う! 魔法だけじゃねえ! 連中、弓用意しているぞ! 対処を忘れるな!」
魔法はあくまでも、ブラフ。
アランたちに魔法を使わせ、弓矢による攻撃を隠すというものだった。
魔法の盾というのは、それぞれによって強度が違う。
強烈な一撃を防げるだけの防御力を誇るが、展開している時間が短いもの。
弱い攻撃しか防げない程度の防御力だが、展開している時間が長いもの。
もしくは、その中間。
そのように様々な性質を持つのだが、今の状況においてそれは大きな弱点となる。
魔法を防ぐという目的で魔法の盾を使っている以上、そのあとにやってくる矢……それも十本、二十本ではなく、百本単位で降り注ぐ大量の矢を防ぐというのは難しい。
「くそっ、展開時間が長い奴の周囲に集まれ! 戦ってる奴は、自分に命中しないことを祈れ!」
一人が指示を出す。
祈れというのは、普通ならとてもではないが指示とは言えない。
だが、今のこの状況においては、敵と直接戦っている者が安心なのも、間違いのない事実だった。
敵も、普通は味方に当たるような攻撃はしない。
そうである以上、矢が降り注ぐ場所は味方のいない場所……つまり、敵だけが集まっている場所となる。
(って、俺は!?)
動けない状況のアランは、当然だが魔法を使うことも出来ない。
慌てて何とかしようとするアランだったが、その行動に移すよりも前に黄金の薔薇の探索者たちがアランの側に……正確にはアランの隣で気絶したままのレオノーラを守るためにやって来る。
(助かった)
もちろん、黄金の薔薇の探索者たちはアランよりもレオノーラを重視しているが、それでもアランを見捨てるといった真似はしない。
……中には、自分たちを率いる主君とも言うべきレオノーラと何故か親密なアランに思うところがある者もいたが、だからといってここで見捨てるような真似はするはずもない。
アランに向かって不満そうな視線を向けてくる何人かに、居心地が悪くなりながら……それでもアランは、自分を守ってくれるのならと、その視線にも耐える。
そして魔法が降り注ぎ、少し遅れて大量の矢が降り注いだ。
魔法の盾を使い、それを防ぐ雲海や黄金の薔薇の者たち。
そのような時間が数十秒続く。
身動きが出来ないまま、一方的に攻撃され続けるアランとしては、数十秒どころか数十分にも感じられた時間だったが、それでも攻撃が収まれば安堵することが出来た。
「よし、反撃だ! 強力な一撃を叩き込んでやれ!」
その命令に、魔法を使える者は強力な魔法を、弓を持つ者は矢を射る。
ガリンダミア帝国軍の兵士とこの場にいる探索者では、当然の話だが探索者の方が精鋭だ。
それだに、探索者側がやったように攻撃を防ごうとした兵士たちだったが、放たれた複数の魔法はガリンダミア帝国軍側で展開された魔法の盾を貫き、もしくは射られた矢は魔法の盾の隙間を縫うように移動して相手に突き刺さる。
双方の練度の差が、如実に表れた形だった。
『うおおおおおおおおおおおおおおおおっ!』
自分たちが有利だと、そう相手に示すように叫ぶ探索者たち。
それが具体的にどのくらいの効果があるのかは、それこそ雄叫びを上げた本人たちんも分からない。
分からないが、それでも今の状況を思えば少しでも相手よりも自分たちの士気を上げる必要があった。
もちろん、ガリンダミア帝国軍側もそんな相手の行動を黙って見ていた訳ではない。
「敵の数は少ない、こちらの方が圧倒的に多いぞ! 行け行け行け行け! 敵はガリンダミア帝国軍に弓引く存在、帝城を攻撃した者たちだ! 決して逃がす訳にはいかんぞ!」
ガリンダミア帝国軍の指揮官の一人が叫ぶ声。
その声に従うように、兵士たちもまた探索者にまけじと雄叫びを上げながら攻撃を行う。
「ちっ、厄介な。これだから精鋭って奴は」
探索者の一人が、敵の反応の素早さに苛立ちを覚えつつ、攻撃を再開する。
向こうが何らかの手を打てば、自分たちもそれに素早く対抗する。
だが、自分たちが何らかの手を打てば、向こうもそれに即座に対向するのだ。
アランは一進一退……と表現したいところだったが、死の瞳の力によって心核使いたちの能力が使えない以上、圧倒的に不利なのはやはり探索者側だ。
戦えば勝てるが、そもそも人数の多いガリンダミア帝国軍側は、戦わずに野営の中に入ろうと動いている。
だからこそ、探索者側は対処するのに必死で、そんな中で離れた場所から魔法や矢が飛んでくるのだから、そちらにも対処する必要があった。
そのような状況で、二時間近くが経過する。
普通なら、全力で二時間動くというのは非常に難しい。
しかし、ここにいるのは探索者……それも腕利きのという言葉が頭に付く探索者たちだ。
その程度のことは容易に出来る。
出来るのだが……それでも疲れるのは当然だった。
「くそっ、まだか! イルゼンさんはまだなのかよ!」
ガリンダミア帝国軍の兵士の死体を蹴りながら、叫ぶ男。
二時間も戦いが続いている関係上、当然だが兵士の死体は邪魔となる。
これが遺跡の探索であれば、探索をしているという関係上、戦いの場所は常に移動するので死体の処理に困ったりといったことはない。
しかし、ここでは非常に狭い範囲で防衛戦を行っているのだ。
当然、殺した死体はその場に残って戦闘の邪魔となる。
そんな場所での戦いだけに、探索者たちも苦労するのは当然だった。
それでも、現状ではまだ探索者たちの方が有利なのは間違いない。
何故なら、探索者たちは様々な遺跡を攻略してきている。
その中には、現在と全く同じ……とは言わずとも、似たような状況で戦った経験は少なからずあった為だ。
とはいえ、それでも戦いにくい場所で人数も圧倒的に自分たちの方が少ない状況では、不利なのは明白だ。
このままでは本当に危険だ。
何人もがそう思った瞬間……不意に、遺跡の中から数匹の人形が姿を現す。
それは……雲海や黄金の薔薇の誰もが待っていた光景。
そんな人形の姿に気が付いた一人は、思わず叫ぶ。
「援軍だ! 援軍が来たぞぉっ!」
その声は、野営地全体に響き渡るのだった。
もしこれが戦争なら、戦闘が始まる前に相手に降伏勧告をしたりといった真似をしてもおかしくはない。
だが、それはあくまでも正式な戦争であればの話だ。
現在ここで起こっているのは、表向きには反乱勢力の鎮圧行動だ。
……実際、アランを助けるためとはいえ、帝城に攻撃をして乗り込み、好き放題に暴れるといった真似をしたのだから、雲海や黄金の薔薇が反乱勢力だというのは決して間違ってはいない。
そしてダーズラとしても、ガリンダミア帝国軍に被害を与えた雲海や黄金の薔薇は、倒すべき敵としか認識していない。
唯一、主のビッシュから命令されたアランだけは、何としても生け捕りにする必要があったが。
そのような理由から、降伏勧告も何もなく……ダーズラ率いるガリンダミア帝国は、野営地に向かって攻撃を始めた。
草原の中に存在する野営地だけに、見渡しは非常にいい。
そういう意味では、防衛側にとって有利ではあったのだが……同時に、数の差という圧倒的な不利もある。
「畜生! 連中、右から回り込んでくるつもりだぞ! 手の空いてる奴は、そっちに向かってくれ!」
平原だからこそ、ガリンダミア帝国軍が部隊を動かすのを見逃すといったようなことはない。
だが、その代わりに人数の差がある以上、それが分かっていても防ぐために動ける人数は決して多くはなかった。
「くそっ、俺が行く! 他にも何人か手の空いてる奴は来い!」
雲海の男がそう叫び、野営地の右側に向かう。
それを何人かの兵士が追った。
普通なら、攻撃側と防御側では防御側の方が有利と言われている。
それこそ、攻撃側が三倍以上の戦力を用意して、ようやく互角といったように。
だが……それはあくまでも防御側の設備がしっかりしている場合の話だ。
城や城塞といった場所があればこそ、防御側の方が有利と言える。
しかし、この防衛戦で雲海や黄金の薔薇が立て籠もっているのは、簡単な柵だけが存在する野営地だ。
一応柵が防御設備と言えるのかもしれないが、攻撃側にしてみれば壊そうと思えば楽に壊すことが出来る代物でしかない。
そして防御側にとってもっと不利だった理由の一つは、未だにレオノーラが気絶したままだということだろう。
死の瞳の効果によって、黄金のドラゴンから強制的に変身を解除させられたレオノーラ。
アランも同じような状況ではあったのだが、幸いにして意識はある。……身体に力が入れられないので、とてもではないが起き上がることが出来ないが。
アランは能力値が心核使いに特化しているので、生身での戦闘力は弱い。
もちろん、探索者としては何とか合格ラインといったくらいなので、その辺の兵士を相手にした場合はそれなりに戦えるのだが。
しかし……そんなアランとは違い。レオノーラは心核使いとしてもアランに近い技量を持ちながら、生身での戦闘はアランよりも圧倒的に上だ。
その上、鞭という中距離の武器を使いこなし、魔法も得意だ。
今のように少人数で戦っている場合、レオノーラという存在は非常に大きな戦力となるのだが……そのレオノーラは、現在戦力として使えない。
(くそっ、イルゼンさんはまだなのか? このままだと、野営地を突破されかねないぞ?)
声には出さないものの、アランは現状の不味さをしっかりと理解していた。
とはいえ、今の状況において自分の出来ることはほとんどない以上、下手に言葉を発して戦いに集中している者たちの心を乱さないようにしていたのだが。
それは今のところ成功していた。
今の状況では、雲海や黄金の薔薇がかなりガリンダミア帝国軍との戦いに集中している。
「おい、防御魔法用意だ! 連中、攻撃魔法の準備をしているぞ!」
誰かがそう叫ぶと、素早く魔法が得意な者は防御魔法の準備をし……やがて、ガリンダミア帝国軍から飛んできた火球、氷の矢、風の刃、岩の槍といった攻撃が放たれるが、防御魔法によって生み出された光の膜よりってそれらを防ぎ……
「違う! 魔法だけじゃねえ! 連中、弓用意しているぞ! 対処を忘れるな!」
魔法はあくまでも、ブラフ。
アランたちに魔法を使わせ、弓矢による攻撃を隠すというものだった。
魔法の盾というのは、それぞれによって強度が違う。
強烈な一撃を防げるだけの防御力を誇るが、展開している時間が短いもの。
弱い攻撃しか防げない程度の防御力だが、展開している時間が長いもの。
もしくは、その中間。
そのように様々な性質を持つのだが、今の状況においてそれは大きな弱点となる。
魔法を防ぐという目的で魔法の盾を使っている以上、そのあとにやってくる矢……それも十本、二十本ではなく、百本単位で降り注ぐ大量の矢を防ぐというのは難しい。
「くそっ、展開時間が長い奴の周囲に集まれ! 戦ってる奴は、自分に命中しないことを祈れ!」
一人が指示を出す。
祈れというのは、普通ならとてもではないが指示とは言えない。
だが、今のこの状況においては、敵と直接戦っている者が安心なのも、間違いのない事実だった。
敵も、普通は味方に当たるような攻撃はしない。
そうである以上、矢が降り注ぐ場所は味方のいない場所……つまり、敵だけが集まっている場所となる。
(って、俺は!?)
動けない状況のアランは、当然だが魔法を使うことも出来ない。
慌てて何とかしようとするアランだったが、その行動に移すよりも前に黄金の薔薇の探索者たちがアランの側に……正確にはアランの隣で気絶したままのレオノーラを守るためにやって来る。
(助かった)
もちろん、黄金の薔薇の探索者たちはアランよりもレオノーラを重視しているが、それでもアランを見捨てるといった真似はしない。
……中には、自分たちを率いる主君とも言うべきレオノーラと何故か親密なアランに思うところがある者もいたが、だからといってここで見捨てるような真似はするはずもない。
アランに向かって不満そうな視線を向けてくる何人かに、居心地が悪くなりながら……それでもアランは、自分を守ってくれるのならと、その視線にも耐える。
そして魔法が降り注ぎ、少し遅れて大量の矢が降り注いだ。
魔法の盾を使い、それを防ぐ雲海や黄金の薔薇の者たち。
そのような時間が数十秒続く。
身動きが出来ないまま、一方的に攻撃され続けるアランとしては、数十秒どころか数十分にも感じられた時間だったが、それでも攻撃が収まれば安堵することが出来た。
「よし、反撃だ! 強力な一撃を叩き込んでやれ!」
その命令に、魔法を使える者は強力な魔法を、弓を持つ者は矢を射る。
ガリンダミア帝国軍の兵士とこの場にいる探索者では、当然の話だが探索者の方が精鋭だ。
それだに、探索者側がやったように攻撃を防ごうとした兵士たちだったが、放たれた複数の魔法はガリンダミア帝国軍側で展開された魔法の盾を貫き、もしくは射られた矢は魔法の盾の隙間を縫うように移動して相手に突き刺さる。
双方の練度の差が、如実に表れた形だった。
『うおおおおおおおおおおおおおおおおっ!』
自分たちが有利だと、そう相手に示すように叫ぶ探索者たち。
それが具体的にどのくらいの効果があるのかは、それこそ雄叫びを上げた本人たちんも分からない。
分からないが、それでも今の状況を思えば少しでも相手よりも自分たちの士気を上げる必要があった。
もちろん、ガリンダミア帝国軍側もそんな相手の行動を黙って見ていた訳ではない。
「敵の数は少ない、こちらの方が圧倒的に多いぞ! 行け行け行け行け! 敵はガリンダミア帝国軍に弓引く存在、帝城を攻撃した者たちだ! 決して逃がす訳にはいかんぞ!」
ガリンダミア帝国軍の指揮官の一人が叫ぶ声。
その声に従うように、兵士たちもまた探索者にまけじと雄叫びを上げながら攻撃を行う。
「ちっ、厄介な。これだから精鋭って奴は」
探索者の一人が、敵の反応の素早さに苛立ちを覚えつつ、攻撃を再開する。
向こうが何らかの手を打てば、自分たちもそれに素早く対抗する。
だが、自分たちが何らかの手を打てば、向こうもそれに即座に対向するのだ。
アランは一進一退……と表現したいところだったが、死の瞳の力によって心核使いたちの能力が使えない以上、圧倒的に不利なのはやはり探索者側だ。
戦えば勝てるが、そもそも人数の多いガリンダミア帝国軍側は、戦わずに野営の中に入ろうと動いている。
だからこそ、探索者側は対処するのに必死で、そんな中で離れた場所から魔法や矢が飛んでくるのだから、そちらにも対処する必要があった。
そのような状況で、二時間近くが経過する。
普通なら、全力で二時間動くというのは非常に難しい。
しかし、ここにいるのは探索者……それも腕利きのという言葉が頭に付く探索者たちだ。
その程度のことは容易に出来る。
出来るのだが……それでも疲れるのは当然だった。
「くそっ、まだか! イルゼンさんはまだなのかよ!」
ガリンダミア帝国軍の兵士の死体を蹴りながら、叫ぶ男。
二時間も戦いが続いている関係上、当然だが兵士の死体は邪魔となる。
これが遺跡の探索であれば、探索をしているという関係上、戦いの場所は常に移動するので死体の処理に困ったりといったことはない。
しかし、ここでは非常に狭い範囲で防衛戦を行っているのだ。
当然、殺した死体はその場に残って戦闘の邪魔となる。
そんな場所での戦いだけに、探索者たちも苦労するのは当然だった。
それでも、現状ではまだ探索者たちの方が有利なのは間違いない。
何故なら、探索者たちは様々な遺跡を攻略してきている。
その中には、現在と全く同じ……とは言わずとも、似たような状況で戦った経験は少なからずあった為だ。
とはいえ、それでも戦いにくい場所で人数も圧倒的に自分たちの方が少ない状況では、不利なのは明白だ。
このままでは本当に危険だ。
何人もがそう思った瞬間……不意に、遺跡の中から数匹の人形が姿を現す。
それは……雲海や黄金の薔薇の誰もが待っていた光景。
そんな人形の姿に気が付いた一人は、思わず叫ぶ。
「援軍だ! 援軍が来たぞぉっ!」
その声は、野営地全体に響き渡るのだった。
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