剣と魔法の世界で俺だけロボット

神無月 紅

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メルリアナへ

299話

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 結局イルゼンの提案はそのまま本決まりとなり、雲海と黄金の薔薇の面々にはその辺の事情が知らされた。
 二手に分かれるのはともかく、その片方がクラリスたちの護衛ということで、不満を抱く者もいたが、それでも最終的に大多数の賛成によって、その声を封じられる。
 反対した者たちも、別に獣人に対して偏見を持っている訳ではない。
 単純に、何故自分たちが昨日会ったばかりの獣人たちの護衛をしなければならないのか……それも報酬らしい報酬もないのに、というのが理由だ。
 実際には報酬としてクラリスが長となったら色々と便宜を図って貰うといったものがあったのだが、それを報酬として喜べるかどうかは微妙だろう。
 何しろ、クラリスが本当に長になれるかどうかといったことも、まだ分かっていないのだ。
 であれば、もしここで獣人たちの護衛をしても、クラリスが長になれなければ報酬は何もないということになる。
 それどころか、クラリスと敵対している獣人が長になるのだから、雲海や黄金の薔薇はそれを恨まれて敵対されるという可能性もあるのだ。
 その辺の事情を考えれば、やはり今回の一件は色々と難しいと思うのは当然だろう。
 それでもクラリスのような小さな子供を見捨てるのかといった意見の方が強く、結果として護衛を引き受けるといったことになったのだが。
 話が決まれば、次はどのように探索者を分けるかといったことになる。
 アランたちの方に八割、イルゼンの方に二割。
 当然だが、イルゼンの身の安全を考えれば二割の方には出来るだけ腕利きを配置したい。
 そんな訳で、雲海の中でも最高峰の強さを持つリアとニコラスの夫婦は、揃ってイルゼンと一緒のチームとなった。
 もっとも、本来ならリアは息子のアランが心配なので、獣人の方に回りたかったというのが正直なところなのだが。
 しかし、自分の我が儘の結果イルゼンが死ぬなどといったようなことは、当然だが許容出来ない。
 だからこそ、渋々……本当に渋々だが、イルゼンの護衛に回ることになった。
 アランとしては、両親がイルゼンと一緒で自分とは別行動ということに、色々と思うところはある。
 アランも何だかんだとそれなりの年齢だ。
 それだけに、いつも両親と一緒というのは息が詰まる。
 とはいえ、当然だがアランは両親を疎んでいたりといったようなことはない。
 本来なら反抗期といったよう時期ではあるのだが、アランの場合は転生者だ。
 前世の分の人生経験――二十年もないが――もあるので、反抗期といったものはほとんどない。
 正確には若干、本当に微かにだが、反抗期らしきものはあったのだが、それも今はもう終わっている。
 そのために、アランは両親に思うところがある訳ではないのだが、それでもずっと一緒にいるというのは、色々と窮屈に感じることがない訳でもなかった。
 クランとして集団行動しており、色々な場所に移動する関係上、その窮屈な思いも普通より少なかったのも事実なのだが。
 ただ、それとは逆に両親が別行動となると、戦力的な不安があるのも事実だ。
 リアもニコラスも、精鋭揃いの雲海の中でも最高峰の戦士であり、魔法使いなのだから。
 だからこそ、少人数で活動するイルゼンと一緒に行動することになったのだが。

(まぁ、戦力って点なら……)

 それぞれが準備をしている中で、アランはふと視線をとある方向に向ける。
 そこでは何故かレオノーラがクラリスと一緒に話をしている光景があった。
 姫として育てられはしたが、実際には王族という訳ではないクラリスと、正真正銘の姫でありながら国を出奔したレオノーラ。
 ある意味で姫でありながら姫でないそんな二人が揃っている光景は、アランから見てもどこか違和感があった。
 そんな二人は笑みを浮かべながら話をしているのだが、何故かクラリスの護衛として近くで待機しているロルフは、微妙に引き攣った表情を浮かべている。
 いや、それはロルフだけではなく他の面々も同様にだ。
 唯一、ゴドフリーだけが馬車の準備をするためか、その場から離れていたが……実際には女同士の戦いに巻き込まれたくないと長年の勘で判断し、一人だけその場から逃げ出したというのが正解だった。
 もっとも、遠くから見ているアランはレオノーラとクラリスを見ても、特に険悪な雰囲気は感じていないが。
 二人が友好的に話しているだけだなと、そんな風に思えてしまう。

(取りあえず女同士で楽しそうに話をしてるんだし、俺が間に入ったりはしない方がいいか)

 何となくそう考え、アランはレオノーラとクラリスの方から離れていく。
 ……そんな二人の近くにいた者たちからは『お前がここで逃げるのか!?』といったような視線を向けられていたのだが、アランはその視線に全く気が付いた様子はない。
 あるいは、本人は気が付かないうちであっても、半ば本能で現在レオノーラたちの側に行くのは危険だと、そう判断したのかもしれない。
 ともあれ、アランは二人のいる場所から離れると、出発の準備をしている者たちの様子を見て回る。
 幸い、アランの出発の準備はもう終わっているので、アランが何かをやるような必要はない。

「おう、アラン。どうしたんだ?」

 そんな風に周囲の様子を見て回っていると、不意に声をかけられる。
 声のした方にアランが視線を向けると、そこではロッコーモが大きな荷物を馬車に積み込んでいるいるところだった。
 心核を使ってオーガに変身しなくても、ロッコーモは生身の状態でも高い力を持つ。
 そんなロッコーモを、アランは羨ましそうに見る。
 生身の状態のアランは弱いだけに、ロッコーモが羨ましく思えるのだろう。
 もっとも、ロッコーモにしてみればアランを羨ましく思う気持ちがあるのだが。
 たしかにアランは生身では弱い。
 しかし、代わりに心核使いとしては非常に強力だ。
 長い間雲海の心核使いとして活躍してきたロッコーモだったが、心核使いとしての技量でアランに勝てるとは思わない。
 オーガに変身した自分がゼオンと戦いになれば、それこそすぐにでも殺されるだろうと、そう理解している。
 その気持ちをアランが説明するとすれば、ボクシングで一番軽い階級のミニマム級のボクサーと一番重いヘビー級のボクサーが試合をするような、と表現してもおかしくはない。
 とはいえ、アランは別に前世でボクシングをやっていた訳でも何でもなく、それこそボクシング漫画を読むくらいしかしていなかったが。
 友人と一緒に、主人公の必殺技のデンプシーロールの真似をしたりはしていたが、言ってみればその程度でしかない。

「ロッコーモさんは俺たちと一緒に来てくれるのですよね?」
「ああ、そうなったな。まぁ、イルゼンさんの方には姐さんもいるから、心配する必要はないだろうが」

 そう言いつとも、どこかロッコーモは心配そうな様子を見せる。
 外見から粗暴な性格に見えるロッコーモだし、実際それも間違ってはいないのだが、それでも仲間と見なした相手には面倒見がよくなる。
 それだけに、イルゼンのことも心配なのだろう。
 もっとも、リアたちがいるのを考えれば、実際にはその辺を心配する必要もないのだが。

「取りあえず、獣牙衆とかいうのはイルゼンさんたちじゃなくて俺たちを狙ってくると思うから、そっちを優先的に対処した方がよくないですか? 俺は出来るだけ心核を使いたくないですし」

 アランが心核で召喚するゼオンは、全高十八メートルもあるために、遠くからでも見つけやすい。
 ガリンダミア帝国軍が現在どこにいるのか……メルリアナに向かっているアランたちの存在を把握しているのかどうかは、分からない。
 しかし、それでも十八メートルのゴーレムと思しき存在が現れたと知れば、それは間違いなくアランのゼオンだと判断するだろう。
 もちろんアランも、他に手がなくなってどうしようもなくなれば、ゼオンを召喚するのに躊躇うつもりはない。
 しかし、出来れば避けたいと思うのも間違いない事実なのだ。

「分かってるよ。アランには出来るだけ心核を使わせないようにする。……あのゼオンだけじゃなくて、武器だけを召喚出来れば色々と助かるんだけどな」

 ロッコーモの言葉に、アランは完全に意表を突かれたのだろう。
 間の抜けた顔でロッコーモを見返す。
 武器だけの召喚。
 実際それが出来れば、極めて有効なのは間違いない。
 とはいえ、もしそれが可能だとしても、召喚出来る武器は限られる。
 武器だけを召喚するのだから、当然のようにゼオンの本体に内蔵されている武器……頭部バルカンと腹部拡散ビーム砲を召喚するような真似は出来ないだろう。
 だとすれば、召喚が可能なのはビームライフルとビームサーベル。

(フェルスは……どうだろうな?)

 ゼオン最大の武器たる、フェルス。
 だが、フェルスは通常はゼオンがどこかに装備しているのではなく、異空間とも呼ぶべき場所に保管されている。
 実際に使うときは、空間に波紋が浮かび……そこからフェルスが姿を現すのだ。
 とはいえ、フェルスの大きさはビームライフルやビームサーベルに比べると極端に小さい。
 生身で使っても、ビームライフルやビームサーベルのように目立つといったことはないだろう。
 そういう意味では、フェルスを召喚出来れば生身でも十分アランは戦力として数えられるのだが……

「カロ、そういう真似は出来そうか?」
「ピ? ……ピ!」

 心核のカロは、アランの言葉に少し考えたあとで鳴き声を上げる。
 聞いていたロッコーモには、カロが何を言ってるのか分からない。
 しかし、カロの主人――もしくは相棒――のアランは、カロが何を言いたいのか理解出来た。
 訓練次第で、もしかしたら出来るかもしれない、と。

「え? マジ?」

 カロに聞いてみたアランだったが、ある意味駄目元で聞いたのだ。
 無理! と、そう断言するだろうと思っていたところに、訓練すれば出来るようになるかもしれないといったような意思が返ってきたのだから、それに驚くなといった方が無理だった。
 とはいえ、カロの返事のニュアンスから考えると、頑張れば誰でも出来るようになるといった訳ではなく、アランが本気で頑張れば、もしかしたら……本当にもしかしたら出来るようになる可能性がない訳でもないといった感じだったが。
 それでも出来るのならと、アランは挑戦してみようと考えるのだった。
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