剣と魔法の世界で俺だけロボット

神無月 紅

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メルリアナへ

304話

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 結局熊の獣人の男……サスカッチは、捕虜という扱いでアランたちと行動を共にすることになった。
 ただし、本人は自分が捕虜だという思いがないのか、ロッコーモと一緒に行動しているが。
 何しろ、縛ったりもしていないのだから、本人が逃げようと思えば逃げられるのは間違いない。
 何故そのようなことになったのか……それは、サスカッチがクラリスに協力すると宣言したためだ。
 もちろん、最初は誰もその言葉を信じなかった。
 当然だろう。そもそも、サスカッチはクラリスを奪うために襲ってきたのだから。
 だというのに、そのクラリスに味方をすると言い出すのは不自然極まりない。
 だが……サスカッチはそんな周囲の様子を全く気にせず、ロッコーモに積極的に話しかけていた。
 ロッコーモも、自分に負けたとはいえ、それなりに強いサスカッチは気に入ったのか、やがて二人は友好的な関係となる。
 その頃には、サスカッチに対して向けられる疑惑の視線も大分減っていた。
 十日かそこらで気を許しすぎではないか? と思う者もいたのだが、何かあったらロッコーモが対処するだろうと思えば、そこまで警戒する必要もないと判断したのだろう。

「アランさん、探索者ってやっぱり凄いんですね」

 野営をしているとき、夕食も終わって自由時間の中で、クラリスはアランにそう言ってくる。
 アランにしてみれば、探索者だから凄いのではなく、雲海や黄金の薔薇に所属している探索者だから凄いと思っているのだが。
 探索者と一口に言っても、それこそクランに入ることが出来ないような探索者も多い。
 そのような探索者と、雲海や黄金の薔薇の探索者を一緒にするのは、色々な意味で不味いだろう。

「人にもよるな。雲海と黄金の薔薇は、能力的に一流と呼ぶべき人たちがほとんどだし」

 俺以外……というのは、アランも口にしない。
 クラリスはアランにとって妹的な存在だ。
 そんなクラリスに対して、多少なりとも見栄を張りたいという思いがあったのは事実だし、それを抜きにしてもアランは生身の実力ならともかく、心核使いとしては雲海に所属してもおかしくないだけの実力を持っていると、そのように思ったからだ。

「そうなんですね。では……」

 クラリスはアランの言葉に頷き、何かを言おうと口を開きかけ……

「うおおおおおおおっ!」

 と、不意に離れた場所からそんな雄叫びが周囲に響く。

「何でしょう?」
「一応、念の為だ。クラリスは馬車に戻ってろ」

 クラリスの使っている馬車は、一見普通の馬車に見えるが実際には非常に頑丈に出来ている。
 それこそ、一時的に立て籠もるだけなら問題ないくらいには。
 そもそもの話、敵に狙われる可能性の高いクラリスが乗るために準備された馬車なのだから、相応の物であるのは当然だろう。

「分かりました。……気をつけて下さいね」

 クラリスもアランの言葉で、今の雄叫びが何なのかというのが分かったのだろう。

(襲撃とかじゃなくて、実は誰かがふざけて大声で雄叫びを上げたとか、そういうことならいいんだけど……難しいだろうな)

 そんな風に思いながら、アランはクラリスの乗っている馬車の側に立つ。
 当然だが、クラリスの護衛はアランだけではない。
 いや、むしろゴドフリーやロルフといった面々の方が、アランよりも前からクラリスを守っていたのだ。
 それを考えれば、アランが何か言うよりも前にこうして準備を整えるのは当然だろう。

「アラン、敵はどんな連中だと思う?」

 そんな中、ロルフがアランにそう尋ねる。
 だが、アランとしてはその質問はむしろ自分がロルフにしたかったものだ。

「さっきの雄叫びからすると、やっぱり獣人のものじゃないのか? だとすれば、獣牙衆の可能性が高いと思う。ロルフはどう思う? 同じ獣人として、何か思いつくようなことはないのか?」

 最初はもしかたらサスカッチ辺りがロッコーモと模擬戦をやって、興奮して雄叫びでも放ったのかといったように思えたのだが、それはすぐに却下する。
 野営の最中に模擬戦をやる訳がない……のではなく、単純に先程の雄叫びはサスカッチの声ではなかったからだ。
 サスカッチは、自分の負けた相手ということで何度もロッコーモに模擬戦を挑んでいる。
 その最中に興奮して雄叫びを上げることも珍しくはないので、もしかしたら、ロッコーモの一撃を喉かどこかに食らって、多少声が変化しているといった可能性も、否定は出来ないのだが。

「そうだな。鳴き声の感じからすると……多分、狼の獣人だと思う。それが獣牙衆かどうかというのは、ちょっと分からないが」

 ロルフがそう断言したのは、自分もまた狼の獣人だからだろう。
 もっとも、狼の獣人に似ている獣人として、犬の獣人だったり、ハイエナの獣人だったりといった者たちもいるのだが。

「狼の獣人か。この状況で襲ってくるのなら、やっぱり獣牙衆じゃないか? ……問題なのは、その狼の獣人がどれだけの力を持っているかだが」
「人によって能力は違うから、その辺りは分からないな。獣牙衆なら、弱いといったことはないだろうけど。それにこうして夜襲をしてきたんだ。自分の実力に……」
「アラン、ロイ。もっと集中しなさい。夜襲をしてきたのに、ここまで強く自己主張をするのよ? だとすれば……そこ!」

 アランとロイの話に、近くまでやって来たレオノーラは二人に注意をしながら鞭を振るう。
 達人と呼ぶに相応しい実力を持つレオノーラの振るう鞭は、その先端は音速を超える。
 にも関わらず……振るわれた一撃を、その相手は回避した。

「シャアアアア……まさか、俺に気がつくとはな」

 その言葉が聞こえてきたのは、アランたちからそう離れていない場所。

「っ!? こんなに近くまで!?」

 アランの口から驚愕の声が発せられる。
 当然だろう。野営をする際には、当然のように見張りを用意している。
 そして見張りは、雲海や黄金の薔薇に所属する探索者たちだ。
 普通に考えて、ここまで接近されるというのはとてもではないが信じられない。
 アランが混乱している中、やがてその獣人の姿が雲の隙間から顔を出した月明かりによって明らかになり、アランの口からは先程とは違った意味での驚愕の声が漏れる。
 今までアランが見たことのある獣人というのは、獣人という名前ではあっても、基本的には人間に獣の耳が生えているといったような者たちだった。
 だが、アランの前にいる相手は違う。
 巨大な……体長三メートル近い蛇の身体があり、その頭部がある場所に人間に似た上半身がある。
 そう、あくまでもそれは人間に似たであって、実際には蛇の要素が強く出ている。
 普通の獣人が、人間の部分が大半だとすれば、この獣人は大半が蛇の部分となっていた。
 そんな獣人の姿に驚いたのは、アランだけではない。
 鞭を振るったレオノーラですら、異形とも呼ぶべき相手の姿に驚きを隠せずにいる。

「これは……」
「おや、驚いたのか? まぁ、俺の姿は獣人と言われて思い浮かべる者とは、大きく違うしな。それを考えれば、特におかしな話でもないか」

 笑みを含んだ声で告げる蛇の獣人は、余裕を見せるように笑みを浮かべる。

(獣人……獣人? 蛇って爬虫類なんだから、獣人って呼ぶのが相応しいのか?)

 そんな蛇の獣人を前に、アランはそんなことを考える。
 何か理由があってのことではなく、ただ自分が混乱しないようにという防衛本能からの行動だろう。
 実際、今の状況は普通なら叫んだりといったようなことをしてもおかしくはない。
 そのような真似をしなくてもすんだのは、そうして余計なことを考えてことだったからだろう。

「一応聞いておくけど、貴方も獣牙衆の一員なのかしら?」

 蛇の獣人を前に、最初に我に返って口を開いたのは、レオノーラ。
 鞭を手に、相手が妙な行動をしたらすぐにでも攻撃すると、そう態度で示しつつ尋ねる。
 そんなレオノーラの姿に、蛇の獣人は驚いた様子を見せる。

「へぇ、俺の姿を見てもそこまで驚いた様子を見せないってのは、凄いな。てっきり悲鳴を上げるのかと思っていたんだが」

 感心した様子を見せる蛇の獣人。
 アランはその声を聞きながら、何とか自分を落ち着かせる。
 今の状況では、少しでも敵に反応出来るようにする必要があるだろうと。

「俺を見ても特に愕いた様子がないのは珍しいから、教えてやろう。俺が獣牙衆だというのは、間違いない事実だ」
「そう。じゃあ、やっぱりさっきの雄叫びを上げたのは陽動だったのね。……それでも、こんな状況でここまでやって来るというのは少し驚きだったわ」
「俺は隠密行動が得意だからな。……もっとも、ここで見つかるとは思わなかったが。もう少しあんたが来るのが遅ければ、クラリスを殺すことが出来たんだけどな」
「……サスカッチは捕らえようとしていたみたいだけど?」
「あいつは、何だかんだと人がいいからな。獣牙衆のメンバーはそれぞれいるが。……さて、話はこれくらいにして。お前はどうするんだ? 俺の前に立ち塞がるのか? 俺は隠密行動を得意としているが、獣牙衆の一員だ。戦闘も苦手な訳ではないぞ?」

 自信満々に言う様子は、強がりといったものではなく本当に自分の戦闘力に自信があるといったように思える。

「あら、そうなの? でも、戦闘力という点なら私たちも負けてないわよ? 何しろ、サスカッチだってこっちの戦力で倒せたんだから」
「知ってるよ。報告は聞いた。……あのとき、油断してれば馬車を襲ったらしいけど、それは出来なかったらしいな」

 蛇の獣人のその言葉に、アランはレオノーラの対応を思い出す。
 あのとき、もしかしたらサスカッチの行動は陽動ではないかと考え、そしてアランたちにクラリスの乗っている馬車を守るようにと指示を出した。
 正直なところ半信半疑といった一面もあったのだが、それでも念のためということでしっかりと守りを固めたのだが……蛇の獣人の言葉を信じるのなら、レオノーラのその判断は正しかったということを意味している。

「あら、でもそうなると今回も前回と同じような行動だけど。二番煎じは面白くないわよ?」

 そう言いながら、レオノーラは蛇の獣人に艶然とした笑みを向けるのだった。
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