剣と魔法の世界で俺だけロボット

神無月 紅

文字の大きさ
313 / 422
メルリアナへ

312話

しおりを挟む
 ギジュの屋敷で初めて迎える夜は、豪華な夕食となった。
 ギジュがクラリスのために……そしてクラリスの護衛をしてきたゴドフリーやロルフたちのために、奮発してくれたのだろう。
 アランとジャスパーも、当然その夕食に招かれている。

「うん、美味いな。ギジュさん、これって凄い美味いですね」

 肉の塊を食べていたロルフは、満足そうにそう告げる。
 実際、その料理はただ肉の塊を焼いただけではなく、様々な香辛料が使われており、火の入れ具合もしっかりと計算されていた。
 肉の中心部分がピンク色になっているのを見たアランは、ローストビーフ? といった印象を持つ。
 とはいえ、アランの知っているローストビーフというのは、あくまでもスーパーで売ってるようなローストビーフでしかなく、本当の料理人が作ったローストビーフを食べたことはない。
 そういう意味で、本当に美味いローストビーフがどういうのかは分からない。
 ……いや、実際にはアランにとってはスーパーで売ってるローストビーフも十分に美味いと思えたのだが。
 ともあれ、そんな前世の記憶を持つアランにしても、その肉料理は十分美味いと思えた。
 こっそりと隣のジャスパーに視線を向けると、貴族として生まれ育ち、多くの美食を味わってきたジャスパーもまた、そんなローストービーフ――牛肉ではないし、正確には違う料理名なのだろうが――を食べて、少し驚きの表情を露わにしているのを見れば、やはりこの料理は一級品なのだろうと、そう思える。
 一応アランも雲海が貴族のパーティに呼ばれたときは、一緒に行って料理を食べたりといったこともしていたのだが、そんなアランでも夕食として出された料理はどれも美味いと思えた。

「皆さん、喜んで貰えたようで何よりです。……ただ、食事の最中ですが、少し残念な話をしなければなりません」

 ギジュのその言葉に、食事をしていた面々は顔を上げる。
 すでにギジュから話は聞いているのか、その隣ではクラリスが真剣な表情を浮かべていた。
 そんなクラリスの表情を見れば、ギジュの言っている残念な話というのが決して嘘でないというのが理解出来た。
 アランたちの視線を向けられたギジュは、憂鬱そうな様子で口を開く。

「ゴールスですが、獣牙衆を大々的に動かすようにしたようです。ただ、幸いなことに獣牙衆の中には、ゴールスには従えないと判断してこちらに手を貸してくれる者も何人かいます。……もちろん、ゴールスに協力している者たちに比べれば少数ですが」

 その言葉は、アランたちを喜ばせるには十分だった。
 実際、獣牙衆が全面的に敵に回るよりは、明らかに有利な点となる。
 もっとも、だからといって今まで以上に獣牙衆がゴールスに協力するとなれば、それはそれで色々と不味いことになるのだが。

「何人かでも獣牙衆が味方になってくれるのは嬉しいですね。……ですがその、私が言うのも何ですが、その相手は本当に信じてもいいのですか? もしかしたら、こちら側に潜入するためにそのような形を取っているといった可能性も……」

 ゴドフリーの言葉に、話を聞いていた者たちはなるほどと頷く。
 実際、今まで何人かの獣牙衆がクラリスを狙って襲ってきた。
 その中には、サスカッチのように自分に勝った相手に従うといたようなことをする者もいたが、そのような者は少数だろう。
 実際、サスカッチもそのように言っていたのだから、確実だ。
 そうアランが思っていると、アランの横でギジュの話を聞いていたジャスパーが、不意に視線を食堂の入り口に向ける。
 隣にいるアランだからこそ、そんなジャスパーの様子に気が付き、その視線を追うと……

「へぇ、この距離で俺に気が付ける奴がいたのか。さすがだな」

 と、食堂の入り口にいた人物がそんなことを言いながら中に入ってくる。
 その人物が食堂に入り口にいたことに気が付いたのは、ジャスパーだけだった。
 だが、その人物にしてみればそれで十分驚きだったのだろう。

「ガーウェイさん!?」

 そんな人物の姿を見て、驚きの……そして喜びの声を上げたのは、ロルフ。
 ガーウェイと名前を呼んだことから、知り合いだったのは間違いないだろう。

(同じ狼系の獣人だし、顔見知りでもおかしくないのか? それに、今の状況を考えると……)

 ギジュが言っていた、獣牙衆がこちらに協力してくれる人物が誰なのかというタイミングで姿を現したのだから、その人物こそがそのような人物なのだと予想するのは難しい話ではない。
 ましてや、ロルフが敬語を使って名前を呼んでいるのだ。
 その人物は間違いなくロルフよりも強いのだろう。

「おう、ロルフか。お前もまだまだな。俺の存在にもう少し早く気が付いて欲しかったんだがな」

 年齢は三十代半ば程か。
 ロルフに向かって声をかける様子は、親しみに満ちていた。
 そんな様子を見れば、二人の関係を予想するのは難しくはない。

(多分、ロルフの師匠……師匠? 師匠とまではいかないか? 兄貴分とか、そんな感じか? ともあれ、親しいのは見たところ間違いない)

 アランはロルフの様子から見て、そう予想する。
 そんなアランの横では、ジャスパーもまたガーウェイと呼ばれた狼の獣人を見て、少しだけ驚いた様子を見せている。
 ジャスパーから見ても、ガーウェイは十分な強さを持っているということの証なのだろう。

「俺と他にも何人か、こっち側につくことにした。……獣牙衆全体から見れば少ないけど、ちょとした戦力なのは間違いないぜ?」
「ガーウェイさんがいるだけで、安心出来ますよ!」

 そう言うロルフの様子は、普段とは全く違う。
 それこそ、普段のロルフはここまで露骨に感情を表に出すようなことはしない。
 いや、不満そうな様子を見せたりといったようなことはあるので、全く何の表情も出さないといった訳ではないだのだが。

「ガーウェイさん、よく来て下さいましたな。……他の方は?」

 ギジュは笑みを浮かべ、食堂に姿を現したガーウェイに尋ねる。
 そんなギジュに対し、ガーウェイは頭を掻きながら口を開く。

「他の連中は少し遅れるらしい。とはいえ、それでも今夜中には屋敷にやって来るって話だったからな。まぁ、あの連中ならそこまで心配する必要もないだろうさ」
「そうですか。では、他の方々に会えるのを楽しみにしておきましょう。……クラリス様、彼が獣牙衆の一人、ガーウェイ殿です」

 ギジュは隣に座っているクラリスにそう説明する。
 ロルフとのやり取りで、当然クラリスも相手がどのような人物なのかは理解出来ていたのだろう。
 クラリスは笑みを浮かべ、口を開く。

「ガーウェイさん、私を守るために協力してくれるのは非常に嬉しいです。ですが……いいのですか? 私に味方をするということは……」
「ゴールスと敵対するということですね?」

 ロルフに対してのものとは違う、丁寧な言葉遣い。
 クラリスがどのような存在なのか、理解しての言葉遣いなのだろう。

「ええ。彼の影響力は、私よりもむしろ獣牙衆の一員であるガーウェイさんの方が理解しているのでは?」

 その言葉は、クラリスにとって真剣なものだ。
 実際にゴールスが獣牙衆を動かし、クラリスたちを襲わせたのは間違いのない事実なのだから。
 そのような状況にもかかわらず、ガーウェイを含めた数人が自分に協力してくれるというのだから、嬉しいのは間違いない。
 嬉しいのは間違いないが、厳しい言い方をすればどれだけの強さを持っていても、いざというときに頼りにならない護衛というのは、下手な敵よりも厄介な相手なのだ。
 だからこそ、本当に信じることが出来るかどうか。
 それをしっかりと確認する必要があった。
 ガーウェイも、そんなクラリスの様子から何を求められているのか理解しているのだろう。
 真剣な表情で頷き、口を開く。

「ゴールスが強い影響力を持っているのは間違いないです。ですが……だからといって、何をしてもいい訳ではない。獣牙衆は本来ならこのようなことに使われるような者たちではないというのを、示す必要があるかと。失礼を承知の上で言わせて貰えば、私はクラリス様を守るために味方をすると決めた訳ではありません」
「ガーウェイさんっ!?」

 ガーウェイの口から出たその言葉に、最初に驚きの声を上げたのはロルフだ。
 自分が尊敬する相手だっただけに、まさかそのようなことを言うとは思ってもいなかったのだろう。
 しかし、そんなロルフをクラリスは視線で抑える。
 まだ小さい……いや、幼いという表現が正しいクラリスだったが、ロルフを抑えたその視線は十分に獣人たちを率いるだけの威厳があった。
 そうして何かを言おうとしたロルフは何も言えなくなり、食堂の中には静寂だけが満ちる。
 数秒……あるいは数十秒くらいが経過し、やがてそんな中でクラリスが口を開く。

「貴方の目的は分かりました。ですが、今回の一件は下手をすればそのようなこととは全く関係のない出来事になってしまうかもしれません。それは分かっていますか?」
「……それは一体どのような意味です? クラリス様をゴールスから守る。そうすればゴールスの力は落ちると思いますが」

 ガーウェイにしてみれば、本人が口にしたようにクラリスを守るといったことよりも、ゴールスの影響力を下げる方が優先される。
 だからこそこうしてクラリスを守ろうとしているのだ。
 だというのに、それに意味がないかもしれないと言われれば、それが許容出来るはずもない。

「そうですね。少し言い方を間違えました。結果的にゴールスの影響力は落ちるかもしれません。ですが、今回の一件の本当の意味はそのようなところにあるのではなく、獣人族の中でも大きな一族である私たちの未来が懸かっていると、そう言った方がいいでしょう」

 普通なら、クラリスのような子供がそのようなことを口にしても、何を大袈裟なと笑われてもおかしくはない。
 だが、今のクラリスはそのようなことは関係なく、耳を傾けなければならないような、そんな何かが間違いなく存在している。
 それはアランたちだけではなく、ジャスパーであっても……そしてガーウェイやギジュのような者たちにとっても、真剣に受け止めざるを得なかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

英雄召喚〜帝国貴族の異世界統一戦記〜

駄作ハル
ファンタジー
異世界の大貴族レオ=ウィルフリードとして転生した平凡サラリーマン。 しかし、待っていたのは平和な日常などではなかった。急速な領土拡大を目論む帝国の貴族としての日々は、戦いの連続であった─── そんなレオに与えられたスキル『英雄召喚』。それは現世で英雄と呼ばれる人々を呼び出す能力。『鬼の副長』土方歳三、『臥龍』所轄孔明、『空の魔王』ハンス=ウルリッヒ・ルーデル、『革命の申し子』ナポレオン・ボナパルト、『万能人』レオナルド・ダ・ヴィンチ。 前世からの知識と英雄たちの逸話にまつわる能力を使い、大切な人を守るべく争いにまみれた異世界に平和をもたらす為の戦いが幕を開ける! 完結まで毎日投稿!

残念ながら主人公はゲスでした。~異世界転移したら空気を操る魔法を得て世界最強に。好き放題に無双する俺を誰も止められない!~

日和崎よしな
ファンタジー
―あらすじ― 異世界に転移したゲス・エストは精霊と契約して空気操作の魔法を獲得する。 強力な魔法を得たが、彼の真の強さは的確な洞察力や魔法の応用力といった優れた頭脳にあった。 ゲス・エストは最強の存在を目指し、しがらみのない異世界で容赦なく暴れまくる! ―作品について― 完結しました。 全302話(プロローグ、エピローグ含む),約100万字。

【完結】剣聖と聖女の娘はのんびりと(?)後宮暮らしを楽しむ

O.T.I
ファンタジー
かつて王国騎士団にその人ありと言われた剣聖ジスタルは、とある事件をきっかけに引退して辺境の地に引き籠もってしまった。 それから時が過ぎ……彼の娘エステルは、かつての剣聖ジスタルをも超える剣の腕を持つ美少女だと、辺境の村々で噂になっていた。 ある時、その噂を聞きつけた辺境伯領主に呼び出されたエステル。 彼女の実力を目の当たりにした領主は、彼女に王国の騎士にならないか?と誘いかける。 剣術一筋だった彼女は、まだ見ぬ強者との出会いを夢見てそれを了承するのだった。 そして彼女は王都に向かい、騎士となるための試験を受けるはずだったのだが……

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

商人でいこう!

八神
ファンタジー
「ようこそ。異世界『バルガルド』へ」

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界召喚は7回目…って、いい加減にしろよ‼︎

アノマロカリス
ファンタジー
『おぉ、勇者達よ! 良くぞ来てくれた‼︎』 見知らぬ城の中、床には魔法陣、王族の服装は中世の時代を感じさせる衣装… 俺こと不知火 朔夜(しらぬい さくや)は、クラスメートの4人と一緒に異世界に召喚された。 突然の事で戸惑うクラスメート達… だが俺はうんざりした顔で深い溜息を吐いた。 「またか…」 王族達の話では、定番中の定番の魔王が世界を支配しているから倒してくれという話だ。 そして儀式により…イケメンの正義は【勇者】を、ギャルっぽい美紅は【聖戦士】を、クラス委員長の真美は【聖女】を、秀才の悠斗は【賢者】になった。 そして俺はというと…? 『おぉ、伝承にある通り…異世界から召喚された者には、素晴らしい加護が与えられた!』 「それよりも不知火君は何を得たんだ?」 イケメンの正義は爽やかな笑顔で聞いてきた。 俺は儀式の札を見ると、【アンノウン】と書かれていた。 その場にいた者達は、俺の加護を見ると… 「正体不明で気味が悪い」とか、「得体が知れない」とか好き放題言っていた。 『ふむ…朔夜殿だけ分からずじまいか。だが、異世界から来た者達よ、期待しておるぞ!』 王族も前の4人が上位のジョブを引いた物だから、俺の事はどうでも良いらしい。 まぁ、その方が気楽で良い。 そして正義は、リーダーとして皆に言った。 「魔王を倒して元の世界に帰ろう!」 正義の言葉に3人は頷いたが、俺は正義に言った。 「魔王を倒すという志は立派だが、まずは魔物と戦って勝利をしてから言え!」 「僕達には素晴らしい加護の恩恵があるから…」 「肩書きがどんなに立派でも、魔物を前にしたら思う様には動けないんだ。現実を知れ!」 「何よ偉そうに…アンタだったら出来るというの?」 「良いか…殴り合いの喧嘩もしたことがない奴が、いきなり魔物に勝てる訳が無いんだ。お前達は、ゲーム感覚でいるみたいだが現実はそんなに甘く無いぞ!」 「ずいぶん知ったような口を聞くね。不知火は経験があるのか?」 「あるよ、異世界召喚は今回が初めてでは無いからな…」 俺は右手を上げると、頭上から光に照らされて黄金の甲冑と二振の聖剣を手にした。 「その…鎧と剣は?」 「これが証拠だ。この鎧と剣は、今迄の世界を救った報酬として貰った。」 「今迄って…今回が2回目では無いのか?」 「今回で7回目だ!マジでいい加減にして欲しいよ。」 俺はうんざりしながら答えた。 そう…今回の異世界召喚で7回目なのだ。 いずれの世界も救って来た。 そして今度の世界は…? 6月22日 HOTランキングで6位になりました! 6月23日 HOTランキングで4位になりました! 昼過ぎには3位になっていました.°(ಗдಗ。)°. 6月24日 HOTランキングで2位になりました! 皆様、応援有り難う御座いますm(_ _)m

転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~

ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。 コイツは何かがおかしい。 本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。 目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。

処理中です...