剣と魔法の世界で俺だけロボット

神無月 紅

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メルリアナへ

320話

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「これは……」

 目の前に広がっている光景に、ガーウェイの口から驚愕の声が漏れる。
 ワストナの中庭にいた者の中で、唯一アランの能力を……ゼオンの武器を召喚する力を知らなかったガーウェイだけに、目の前の光景には驚くことしか出来なかったのだろう。
 中庭は一直線に焼け焦げている。
 いや、正確にはそこに生えていた木々の類は完全に消滅し、残っているのは地面が焼けた痕跡だけだ。
 それが一直線に続いており、その先に存在する屋敷もビームサーベルの攻撃範囲内にあった場所は消滅していた。
 ガーウェイにしてみれば、アランはクラリスのお気に入りといった存在でしかなかった。
 強さという点ではそこまで期待するべき相手ではなかったのだ。
 だというのに、そのアランはこのような現象を引き起こしたのだ。
 それに驚くなという方が無理だった。

「さて、これで今回の一件の最大の障害も片付きましたね。……色々と情報を手に入れられなかったのは残念でしたけど」

 消滅した中庭を眺め、クラリスがそう告げる。
 ガーウェイはそんなクラリスの様子に何か思うところがあったようだったが、今の状況を思えば、何も言えなかった。

「では、戻りましょう。ワストナさんも、この戦いの結果がどうなっているのか知りたがっているでしょうし」

 自分を狙っていたギーグを倒したとはいえ、こうも落ち着いた様子を見せるのは、クラリスがそれだけアランのことを信じているからだろう。
 ロルフは、そんなクラリスの様子を見て、少しだけアランに嫉妬する。
 本来なら、クラリスをこのように安心させることが出来るのは護衛の自分たちでなければいけないはずなのだ。
 だが、今のクラリスが安堵しているのは、あくまでもアランの力のおかげだ。
 もちろん、その大きな理由の一つには、クラリスがアランを兄のように慕っているというのがある。
 それがあるからこそ、アランは特別だと思えてしまうのだろう。
 ロルフはそんな風に考えつつ、他の面々と共に屋敷の中に戻り……先程の、ワストナと面会をした部屋に向かう。
 ワストナにとって切り札だったはずのギーグが負けてしまった以上、もうここにはいないのでは? アランを含めた何人かはそのような疑問を抱いたものの、クラリスは自信満々といった様で屋敷の中を進み……やがて、部屋に戻ったところでそこにワストナが残っていたのを見て、驚く。

「き……貴様……何故戻ってきた!」

 恐怖に染まった視線でクラリスを睨み付けるワストナ。
 アランたちがこの部屋を出る前、クラリスの言霊の力によって言葉を封じられていたワストナだったが、時間が経ったためか、もしくは最初からクラリスが言葉を封じていた時間を制限していたのかは不明だったが、ともあれ今のワストナは再び喋ることが出来ていた。
 それでも、ワストナにしてみればクラリスの一言で自分の言葉が封じられたのは間違いない。
 そんな経験をしたためか、ワストナにとってクラリスは恐怖の象徴とも呼ぶべき存在になっていた。

「何故と言われましても、まだお話はすんでいないでしょう? 最初はもう少しゆっくりと話すつもりだったのですが……」

 そう言い、意味ありげにワストナを見るクラリス。
 そんなクラリスの視線に、ワストナは背筋が冷たくなる。
 本来なら、この場でふざけるな! と叫んでやりたいところなのだが……今の自分の状況を考えると、何を言っても意味はないと理解出来てしまう。
 いや、正確にはそんなことが出来るような余裕が今の自分にはないといったところか。

「ゴールスとの一件……私に協力してくれると、そう考えてもいいのでしょうか?」
「それは……」
「あら、おかしいですね。元々はその約束で私とこうして会っていたはずでは? お互いの間に少しだけ誤解があったようですが、それも解決した今となっては、当初の予定通りに協力することが出来るのではないですか?」

 クラリスは満面の笑みを浮かべ、そう告げる。
 クラリスはまだ十歳かそこらの、それこそ幼いという表現が相応しい外見だ。
 顔立ちが整っており、将来は間違いなく美人になるだろうという人物ではあったが、それでも今はまだ幼い少女でしかない。
 にもかかわらず、こうして笑みを浮かべてワストナに話しかけている今のクラリスはどこか異様な迫力があった。
 あるいは、その幼い美貌の持ち主だからこそよけいにそのように感じるのかもしれないが。

「ぐ……ぐぐ……」

 クラリスの言葉に、ワストナは何も言い返すことが出来ない。
 普段であれば、クラリスのような小娘にこのようなことを言われるというのは絶対に許さないワストナなのだが、それでも何も言えないのはクラリスの持つ言霊の力を自分の身体で十分に理解しているからだろう。
 そんなワストナに対し、クラリスは念を押すように口を開く。

「手を貸してくれる……のですよね?」
「………………………………うむ」

 クラリスの言葉に、たっぷり一分ほど沈黙したあとで、ワストナが頷く。
 ワストナの部下たちは、そんなワストナの態度に本当にいいのか? といった視線を向けるが、ワストナはそんな視線を向けられても何か言う様子はない。
 今この場で、もし反対の意見を口にした場合、一体自分がどうなるのかが分かってしまったからだろう。
 それこそ、先程の一時的に声を出せなくされたことよりもさらに信じられないことをされる可能性もあった。
 良くも悪くも自分に対する危険について鋭いワストナとしては、ここでクラリスの言葉に乗らないという選択肢は存在しない。
 もちろん、ここでクラリスに協力するようなことになった場合、ゴールスの怒りに触れるだろう。
 それは分かっていたが、ここで頷かなければその時点で終わりだというのはよく分かっていたのだ。

「では、そういうことで。今日はお互いに色々と忙しいでしょうから、詳しい話はまたあとでしましょう」
「……忙しい?」

 クラリスのその言葉、ワストナにとって予想外のものだった。
 てっきり、今この場でこれからどう協力していくのか――させられるのか――を決めるのだとばかり思っていたのだから。
 だというのに、一体何故?
 そう思ってしまうのは当然だろう。
 だが、そんなワストナに対し、クラリスは笑みを浮かべながら口を開く。

「ワストナさんは、これから戦いの後片付けをする必要がありますからね。時間が必要になるでしょう」
「……後片付け?」

 ワストナはクラリスの言葉の意味をしっかりとは理解出来なかった。
 だが、こうして話している中で何となく分かったのは……自分にとって間違いなく不利益な何かがあるのだろうと、そういう思いだった。
 そして、何が原因でそのようなことになったのかは、それこそ考えるまでもなく明らかだ。
 ギーグとの戦いにおいて、その何かが起きてしまったのだろう。
 とはいえ、ワストナにはクラリスを責めるような真似は出来ず、立ち去るのをただ見送るといったことしか出来なかった。





「ふぅ、疲れました……」

 ワストナの屋敷から出たクラリスは、馬車の中でアランに向かってそう告げる。
 本来なら、アランはクラリスの護衛として馬車の外にいなければならないのだが……クラリスが、馬車の中に引っ張り込んだのだ。
 もっとも、アランの生身での戦闘力を考えれば、いなくても構わない……とまでは言わないが、いなければいないでどうとでもなる程度のものでしかない。
 そういう意味で、アランは馬車の中にいたのだが……そんなアランがやってるのは、クラリスの話し相手だ。
 馬車の中にはアラン以外に、クラリスの世話役と護衛を兼任している女の獣人たちもいるのだが、その女の獣人たちはクラリスを褒めていた。

「凄かったですよ。迫力があって」
「そうそう、見ましたか? ワストナのあの顔を。姫様に危害を加えようとするから、あんな風になったんですよ。全く、正直なところ何を考えてあのような判断をしたのか分かりませんね」

 女の獣人たちの口調には、ワストナを哀れむような色は全くない。
 当然だろう。ワストナは自分たちが警戒するクラリスに危害を加えようとした相手なのだから。

(俺、ここにいる必要があるのか?)

 そう思うアランだったが、護衛対象のクラリスが馬車に乗って欲しいと言ってきたのだから、それを聞かないという選択肢はアランにはなかった。
 あるいは、アランの力……生身ではなく心核使いとしての力が必要な状況であれば、アランもこうして馬車の中にはいないのだろうが、今はそこまで切迫した状態ではない。
 何しろ、ワストナの奥の手のギーグは既に消滅したのだから。
 ギーグという存在について知っている者が、アランたちとの話を聞いた場合、それは本当なのか? といったように思ってもおかしくはない。
 ……実際、アランはこのときまだ知らなかったが、ギーグは実はどこかで生きているのでは? といったような噂が流れることになる。
 ビームサーベルのビームによって、死体の一欠片すら残さずに消滅してしまったのが、その理由だった。
 それを見ていた者たちは、ギーグがアランの攻撃によって消滅したのを自分の目で見ている。
 だが、腕の一本でもあればともかく、完全に消滅してしまっては、誰もギーグを倒したことは証明出来ない。
 これにより、実はまだギーグは生きているのでは? という話に繋がり……アランにとっては完全に予想外のことではあったが、数年後には悪い子にはギーグが襲いにくるぞといったような、そんな子供の躾けに使われるような存在となるのだった。

「ともあれ……お疲れさん。予定とは色々と違ったかもしれないが、ともあれこれでワストナはクラリスに協力するという道を選んだんだ。そう考えれば、今日の予定はしっかりとこなしたと思ってもいいだろ」
「ふふっ、ありがとうございます」

 アランに褒められたことが嬉しかったのか、クラリスの二本の尻尾は嬉しそうに揺れていた。
 クラリスの尻尾を見て笑みを浮かべると、アランは馬車の窓から外を見る。

(ともあれ、これでワストナは渋々とではあるけど、クラリスに協力することになった。ゴールスとかいう相手が次にどう動くのか。……それが全てか)

 そう、内心で呟くのだった。
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