剣と魔法の世界で俺だけロボット

神無月 紅

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獣人を率いる者

344話

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 ゴールスの屋敷の中の階段を上がっていく。
 もしかしたら、途中で攻撃されるかも? といったような心配をしていたアランだったが、幸いなことに階段の途中で攻撃をされるようなことはなかった。
 なかったのだが……それが、アランに疑問を抱かせる。

(階段なら、こっちを攻撃するにも十分だっただろうに……何で攻撃してこなかったんだ?)

 普通に考えて、階段のような場所を進んでいるとき、攻撃する方にしてみれば絶対的に攻撃をしやすくなる。
 逆に、攻撃される方はその攻撃を回避するといったようなことをする必要があるために、対処するのは、難しい。
 そうなると、やはり今回の一件にかんしてアランが疑問を抱くのも当然だろう。
 ……もっとも、それはあくまでもアランたちに有利だというのもあるので、ありがたい誤算ではあったのだが。
 しかし、それだけに向こうが何を考えているのかを、アランとしては疑問に思う。

「何でこの状態で攻撃をしてこないと思う?」

 二階に到着し、さらに上……三階部分に行く前に、アランはそうレオノーラに尋ねる。
 ここでクラリスに尋ねなかったのは、やはりレオノーラの方がこのような場合の経験は豊富だからだろう。

「そうね。考えられる可能性はいくつかあるけど、その中でも一番可能性が高いとなると……やっぱり、戦力を逐次投入するのではなく、集中してこっちに当てたいから、かしらね」

 その言葉は、強い説得力があった。
 アランたちがこの屋敷に来たのは、あくまでもクラリスがゴールスと会って直接話したいからというのが、最大の理由だ。
 そうである以上、アランたちには自分たちから先に攻撃をするといったようなつもりはないのだが、それはあくまでもアランたち側の事情でしかない。
 ゴールスにしてみれば、自分が刺客を送ったりといったように後ろ暗いことをしているだけに、どうしてもアランたちが自分の屋敷に来たとなれば、そのことに思うところがあるのだろう。
 だからこそ、現在は必死に戦力を集めて対処しようとしており、その方法の一つが自分のいる場所に戦力を集めるということなのだろう。

「そうなると、奇襲をされるといった心配はしなくてもいいかもれしれないな。……もちろん、油断をするつもりはないけど」

 戦力を集めていると見せつつ、実は奇襲を狙っているといった可能性も、否定は出来ない。
 特に今の状況で考えると、出来れば少しでもアランたちの戦力を減らせれば、それに越したことはないのだから。

(その場合、狙われるのって多分俺だろうな)

 現在行動している三人の中で、クラリスは守るべき対象とアランたちに認識されている以上、迂闊に手を出しても防がれて、攻撃した側がどんな能力を持っているのかを知られるだけだ。
 レオノーラに関しては、それこそ攻撃をした瞬間に反撃されて攻撃した者がやられてしまうだろう。
 そうなると、やはり一番狙いやすい相手としては、護衛対象としては見られておらず、それでいてそこそこの強さしか持っていないアランになる。
 とはいえ、アランも当然のようにこの中では自分が狙われる可能性が高いというのは分かっている以上、警戒はしながら階段を進むのだが。
 そうして、結局敵に遭遇するようなこともなく、三階に到着する。

「どうやら、さすがに四階はないみたいだな」

 三階から上に向かう階段がないのを見て呟くアランだったが、そんなアランの言葉にレオノーラは笑みを浮かべながら口を開く。

「あら、そうかしら。もしかしたら、四階にはどこか別の場所から行くしかないかもしれないわよ? もしくは、隠し階段がどこかにあるかもいしれないし」
「その可能性もあるか。とはいえ、この屋敷の構造を考えると、多分ゴールスがいるとすればここじゃないのか?」
「でしょうね」

 大きな屋敷の造りは何となく理解出来るといったような能力を持つレオノーラの言葉だけに、アランの言葉に頷いたその様子には強い説得力があった。
 そんなレオノーラの様子を見て、何があっても対処出来るように注意しながら、アランは三階の様子を確認する。
 当然の話だが、三階は一階や二階に比べればその面積は狭くなる。
 そうである以上、ゴールスのいる場所を探すのは多少は楽になる。
 それでも、ゴールスのいる場所を探すとなると、かなり難しいとは間違いないだろう。

「それで、レオノーラ。ゴールスはどこにいると思う?」
「そうね。普通に考えれば、この通路を真っ直ぐ進んだ場所にある場所かしら。自分が偉いと思っている人は、当然だけどそういう場所にいてもおかしくはないわ。……とはいえ、もしゴールスが慎重だったり、こっちを怖がっていたりすれば、その場所にはいないと思うけどね」

 レオノーラの口から出たのは、挑発するような言葉。
 いつものレオノーラであれば、そこまで挑発的なことを口にしたりはしないのだが、それはレオノーラにとっても意図的なものだったのだろう。

(何らかの手段でこっちの会話を聞いているという可能性もあるのか?)

 今のレオノーラの言葉から、そんなことを思うアラン。
 実際に獣人の中には何らかの能力に特化している者も多い。
 大抵は筋力、速度……変わったところでは跳躍力や牙の鋭さといった具合だが、中には聴覚が以上に発達している獣人がいてもおかしくはない。
 もしくは、獣人云々といった訳ではなくマジックアイテムの類を使っているといった可能性も否定は出来ない。

(どちらにしろ、こっちの情報が漏れているとすれば厄介だな)

 これからは、話す内容にも注意をした方がいいかもしれない。
 そんな風に考えるアランに対し、レオノーラはそれを全く気にしていない様子で口を開く。

「じゃあ、行きましょうか。今まで散々こっちに仕掛けてきた、ゴールスと初顔合わせといきましょう」

 そう告げ、レオノーラは廊下を歩き始める。
 アランとクラリスも、そんなレオノーラを追い……五分ほど経過したころ、三人の前には扉があった。
 この屋敷は一階よりも二階、二階よりも三階の方が面積は狭くなっているのだが、それでも三階で目的の場所に到着するのに五分ほどかかる辺り、この屋敷の広さを物語っていた。

「扉の前に誰もいないのは、さっさと中に入ってこいと、そう言ってるのかしら?」
「どうだろうな。ただ、こうして待ってる以上、向こうにしてみれば待ち伏せをしようと思えばいくらでも出来そうだけど」

 アランはそう言いながら、クラリスに視線を向ける。
 向こうが何を考えているのかは分からないが、今のこの状況でクラリスが言霊を使えば、それこそ一網打尽に出来る。
 それこそ、もし部屋の中にゴールスがいるのなら、現在行われている騒動をあっさりと解決することが出来るチャンスでもあった。
 しかし、アランに視線を向けられたクラリスは、首を横に振る。
 アランが何を言いたいのかは理解出来るが、もしそれをやれば自分は胸を張って一族を率いていくことが出来るなくなると、そう思っているからだ。
 これでクラリスが二十代くらいの年齢であれば、清濁併せ呑むという意味で自分が納得出来ないことであっても、結果が出るのならと、そのように思って行動してもおかしくはない。
 だが、今のクラリスは大人びているとはいえ、それでもまだ子供なのは間違いなく、そのように自分を騙すことが出来なかった。
 結果として、クラリスは勝てるかもしれないというこの状況で、その選択肢を選ぶことが出来ない。
 もっとも、それがクラリスらしいところで、そして他の者に好意を持たれる理由なのかもしれないが。

(それに、向こうもクラリスの言霊については知ってるんだ。だとすれば、ここにゴールスがいる場合、何らかの手段で対処をしてもおかしくはない。……どういう手段を使ってくるのかは、分からないけど)

 アランが思いつくとすれば、耳栓の類か。
 言霊というのは、あくまでもそれを聞いた相手に対して絶対的な命令権を得ることが出来る力だ。
 そうである以上、その言霊が聞こえなければ効果は発揮されない。
 ……とはいえ、その程度のことは当然ながらクラリスも知っているし、今まで色々と試してきた中で言霊に対処する方法というのも研究した。
 そんな中で、耳栓は一定の効果を発揮したのは間違いないが……それでも完全とはいかない。
 耳を塞いでいるとはいえ、完全に塞ぐといったようなことは難しい。
 耳栓の類を使っても、必ずしも完全に音を遮断出来る訳ではない。
 そうである以上、その隙間から声が聞こえれば言霊は十分に効果を発揮する。
 粘土のような物を使って耳栓をするといった方法もない訳ではないが、それでも何故か完全に遮断することは出来なかった。
 それから分かることは、言霊というのは必ずしも言葉だけで相手に声を届けているということではないということだ。
 だからこそ、今の状況を思えばそう簡単に言霊を封じることは出来ない。

(あるいは、鼓膜を破るとかまでして徹底的にやれば話は別かもしれないけど……ちょっと試したくはないよな)

 アランがそんな風に考えている間に、レオノーラは扉を開ける。
 特に蹴り砕くといったような真似をするでもなく、普通に手で。
 ただし、いざ何かあったときには即座に対応出来るように、片手は鞭に伸びており、いつでも一撃を放てるようになっている。
 だが……扉を開けても、特に攻撃されるような様子はない。

「どうした、さっさと入って来い」

 扉を開けても、中に入ってこないアランたちに向かってそんな声がかけられる。

 命令するという行為に慣れているものの声。
 そんな声だけに、誰がその声の主なのかというのは容易に想像出来た。

(どうする?)

 そうアランが視線を向けるが、レオノーラは黙ったままで頷きを返す。
 そして……アランたちはそんなレオノーラの指示に従い、部屋の中に入る。
 最初に部屋に入ったのは、レオノーラ……ではなく、アラン。
 この中では自分が一番この手の仕事に合っているだろうと、そう思っての行為だったが、幸いなことに部屋に中に入っても特に何もなく……アランは、部屋の一番奥に座っているサイの獣人に目を向けるのだった。
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