剣と魔法の世界で俺だけロボット

神無月 紅

文字の大きさ
361 / 422
獣人を率いる者

360話

しおりを挟む
「では、またいらして下さいね」

 そのクラリスの声を聞きながら、アランたちはデルリアを旅立つ。
 デルリアに入ったときは、他の宿に泊まったり、それも出来ない場合は街の外で野営をしていた者たちも全員が集合した結果として、かなりの人数になっている。

「いいの? もっとしっかりと声をかけてあげなくて」

 一緒の馬車に乗っているレオノーラが、アランにそう声をかける。
 だが、アランはそんなレオノーラの言葉に対し、首を横に振るだけだ。
 今この状況で自分が何かを言えば、せっかく笑顔で送り出してくれたクラリスの顔が泣き顔になると、そう理解しているからだろう。

「そう。まぁ、アランがそう言うのなら、構わないけど。……それはそうと、問題はどうやってイルゼンたちと合流するかよね」

 現在イルゼンたち……正確には、イルゼンやアランの両親のニコラス、リアといった面々はアランたちと別行動をとっている。
 元々アランがクラリスたちに協力することにしたのは、ガリンダミア帝国の目をイルゼンたちに向かわせないというためでもあったのだが……そういう意味では、イルゼンの策が成功したのは間違いない。
 とはいえ、それはそれ。
 現在イルゼンたちと別行動をしているアランたちにしてみれば、一体どうやって合流すればいいのかがまるで分からない。

「合流するまではガリンダミア帝国の目をこっちに引き付けておく必要があるから……そういう意味では、現状はそう悪いものではないと思うんだけどな」
「そうね。でも……あら、そんな心配をしなくてもよくなったみたいよ?」
「は?」

 不意にレオノーラの口から出たそんな言葉に、アランは疑問の声を上げる。
 現在の状況で、何故そのようなことを言うのか理解出来なかったからだ。
 だが、馬車の窓から外を見ているレオノーラの視線を追うと……

「なるほど」

 噂をすれば何とやら。
 馬車の窓からは、馬に乗ってアランたちの方に近付いてきているイルゼンたちの姿があった

「もしかして、あれって実は昨日からデルリアにいて、俺たちの戦いを見ていたとか、そんなことはないよな?」
「……ないと言い切れないのが辛いところね」

 レオノーラも、イルゼンとの付き合いはそれほど長くはない。
 だが、それでも共に死地を潜り抜けてきただけに、イルゼンの性格……いや、胡散臭さは理解していた。
 それでいながら、非常に優秀な人物なだけに、手に負えない。

「とにかく、俺たちに合流してきたということは、あの件について何らかの情報を得ることが出来たのは間違いないだろ」

 アランの言葉には、期待の色がある。
 元々、イルゼンたちが別行動をしていたのは、とあるマジックアイテムについて調べるためだった。
 そのマジックアイテムの名は、死の瞳。
 周辺で心核を使えなくするという……この世界においては、極めて強力で、同時に使用する際には使用者の命を消費するという、厄介な性能を持つマジックアイテム。
 しかし、本来なら死の瞳というのは古代魔法文明の時代であっても危険視された代物で、遺跡の中からでも発掘されることはまずないはずの代物。
 だというのに、何故かガリンダミア帝国はそれを所有しており、さらには使いもした。
 その辺りについて探るため、そして死の瞳についても大雑把な情報ではなく、詳細な情報を得るために、イルゼンたちは別行動をしていたのだ。
 そんなイルゼンたちが、こうして合流してきたのだ。
 当然の話だが、何らかの情報を得て合流したのは間違いない。

「一度止まって……いえ、そうすれば何かあったと誰かに見つかるかもしれないわね」
「そう言っても、こうしてイルゼンさんたちが合流してきた以上、誰かが俺たちを見張っているのなら、その辺は理解しているんじゃないか?」

 デルリアでガリンダミア帝国の心核使いと戦ったのだ。
 そうである以上、こうしている今も何らかの心核使い……例えば情報の扱いを得意とするような心核使いや、もしくは離れた場所を見ることが出来るような能力を持つモンスターに変身した心核使いに現在の自分たちが見張られていても、おかしくはない。
 そんな状況で多少の小細工をしたところで、意味はないのではないか。
 そうアランが思うのも、当然のことだろう。

「そうね。意味がないかもしれない。けど、あるかもしれない。そもそも、ガリンダミア帝国の心核使いに見張られているかもしれないというのも、あくまでも現状の予想でしかないわ。なら……何かあったときのために、注意しておくのは悪い話じゃないでしょう?」

 そう言われると、アランも反対は出来ない。
 何しろ、相手はガリンダミア帝国なのだ。
 何をするにしても、対処出来るようにしておいた方がいいのは間違いない。
 念には念を入れて、それでもまた足りない相手……それがガリンダミア帝国であり、アランにとってはビッシュという相手なのだから。

(多分、あの心核使いたちもビッシュの手の者だったんだろうな)

 何らかの確証がある訳ではないが、それでもアランは何となくそうだろうと確信出来た。
 そう考えている間に、イルゼンたちの乗った馬がアランとレオノーラの乗っている馬車の横につく。

「昨日は大変でしたね」
「イルゼンさん、ここでそんな言葉が出て来るということは……やっぱり、昨日いたんですね?」
「ええ。もっとも、最後の方だけですが」
「なら、もっと早くに合流してもよかったんじゃ?」
「それが出来れば、そうしたんですけどね。デルリアで合流するには、少し問題があったんですよ」
「問題? 一体何が……いえ、聞くまでもないですね。ガリンダミア帝国の手の者がまだいましたか」

 アランにしてみれば、心核使い以外にもデルリアにガリンダミア帝国の手の者が潜んでいるというのは、予想出来た。
 いや、予想ではなく半ば確信を持ってすらいたのだ。
 そもそもの話、狙われているアランがデルリアを出ても、それがガリンダミア帝国に伝わらなければ意味がないのだから。
 そうでなければ、ガリンダミア帝国から派遣された者たちがまたデルリアにやって来かねない。
 アランたちはそうならないために、デルリアから出ることにしたのだから。

「そうなります。……それにしても、アラン君も随分と成長しましたね」

 それは、公開試合や心核使いたちとの戦いを見ての言葉だろう。
 イルゼンから褒められたアランは、嬉しく思う。
 とはいえ、今はそれよりも前に聞いておくことがあった。

「それで、死の瞳にかんしては何か分かりましたか?」

 元々、イルゼンたちが別行動を……それも、アランたちに陽動を頼んでまで行動をしたのだ。
 何か重要な相手に会いに行くのだから、当然だろう。

「ええ、ある程度の情報を入手しました」
「それで? 一体、どういうことが分かったんです?」

 自分がこうして目立った成果があったと知り、安堵する。
 そして、具体的に一体どうやって死の瞳を入手したのかを聞くべく、イルゼンに視線を向ける。

「そうですね。簡単に言えば……ガリンダミア帝国には、秘密があるそうです。特にアラン君も会ったという、ビッシュという人物。その人物が何らかの秘密を握っているようですね」

 ビッシュという名前を聞いても、アランはやっぱりかといったようにしか思えない。
 実際にアランがガリンダミア帝国で会ったビッシュは、明らかに普通とは思えない相手だった。

「ビッシュ、ですか。……そう言われると、寧ろ納得出来ますね」

 ビッシュという人物の異様さを考えれば、イルゼンの言葉は間違いなく納得出来るものがあった。

「それで、どうするの? そのビッシュという人物が死の瞳と関係するのは間違いないのでしょう? であれば、このまま逃げてるだけではどうしようもないけど。……それとも、ガリンダミア帝国から脱出する?」

 レオノーラのその言葉は、候補としては十分に有り得るものだ。
 ガリンダミア帝国は、その勢力圏では強い影響力を持っている。
 だが、その勢力圏内から抜け出せば、ガリンダミア帝国であっても好きには出来ない。
 とはいえ、それはあくまでも程度の問題ではあるのだが。
 ガリンダミア帝国がそれでアランを諦めるはずがない以上、今までのように大々的ではなくても、心核使いが派遣されてもおかしくはない。
 そして何より、ガリンダミア帝国は今もまだ隣接している周辺諸国に軍を出しては戦い、占領し、あるいは従属国にしている。
 そのような存在である以上、もしここでガリンダミア帝国から脱出しても、やがてアランたちがいる場所まで勢力を広げるということは十分にあった。
 そして街中で心核使いが暴れればどうなるのかは、アランも自分が心核使いなだけに十分理解出来る。
 あるいは、山の中や森の中といった人がいない場所で暮らしていれば、ガリンダミア帝国の手の者に見つからないだろうし、見つかっても周囲に被害を出すといったようなことはないかもしれない。
 しかし、それは逃げだ。
 アランにしてみれば、ここで逃げるといったような真似をした場合、これからの人生も全て逃げ続けなければならなくなる。
 だからこそ、アランはここで逃げるといったような真似はしたくない。

「いや、逃げない。ここで逃げても、ガリンダミア帝国の手の者は延々とこっちを狙ってくるはずだ」

 これで、アランがゼオンを召喚するといったような特殊な心核使いではなく、普通の心核使いであれば、ガリンダミア帝国から逃げ出せばそれ以上は追ってこないかもしれないが、今の状況を考えると、間違いなくいつまでも追ってくる。
 であれば、アランのやるべきことは一つだけ。

「俺を狙ってくるのなら、相手がガリンダミア帝国のような大国であっても倒す。倒してみせる」

 そんなアランの言葉を聞き、リアとニコラスは自分の息子の成長を喜べばいいのか、危ないことはするなと言えばいいいのか、迷う。
 両親としては、それこそ今のアランの言葉は痛し痒しといったところだろう。
 しかし、そんな二人の様子を気にすることはなく……イルゼンが口を開く。

「分かりました。では、ガリンダミア帝国を倒しましょう」

 そう、告げるのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

英雄召喚〜帝国貴族の異世界統一戦記〜

駄作ハル
ファンタジー
異世界の大貴族レオ=ウィルフリードとして転生した平凡サラリーマン。 しかし、待っていたのは平和な日常などではなかった。急速な領土拡大を目論む帝国の貴族としての日々は、戦いの連続であった─── そんなレオに与えられたスキル『英雄召喚』。それは現世で英雄と呼ばれる人々を呼び出す能力。『鬼の副長』土方歳三、『臥龍』所轄孔明、『空の魔王』ハンス=ウルリッヒ・ルーデル、『革命の申し子』ナポレオン・ボナパルト、『万能人』レオナルド・ダ・ヴィンチ。 前世からの知識と英雄たちの逸話にまつわる能力を使い、大切な人を守るべく争いにまみれた異世界に平和をもたらす為の戦いが幕を開ける! 完結まで毎日投稿!

残念ながら主人公はゲスでした。~異世界転移したら空気を操る魔法を得て世界最強に。好き放題に無双する俺を誰も止められない!~

日和崎よしな
ファンタジー
―あらすじ― 異世界に転移したゲス・エストは精霊と契約して空気操作の魔法を獲得する。 強力な魔法を得たが、彼の真の強さは的確な洞察力や魔法の応用力といった優れた頭脳にあった。 ゲス・エストは最強の存在を目指し、しがらみのない異世界で容赦なく暴れまくる! ―作品について― 完結しました。 全302話(プロローグ、エピローグ含む),約100万字。

【完結】剣聖と聖女の娘はのんびりと(?)後宮暮らしを楽しむ

O.T.I
ファンタジー
かつて王国騎士団にその人ありと言われた剣聖ジスタルは、とある事件をきっかけに引退して辺境の地に引き籠もってしまった。 それから時が過ぎ……彼の娘エステルは、かつての剣聖ジスタルをも超える剣の腕を持つ美少女だと、辺境の村々で噂になっていた。 ある時、その噂を聞きつけた辺境伯領主に呼び出されたエステル。 彼女の実力を目の当たりにした領主は、彼女に王国の騎士にならないか?と誘いかける。 剣術一筋だった彼女は、まだ見ぬ強者との出会いを夢見てそれを了承するのだった。 そして彼女は王都に向かい、騎士となるための試験を受けるはずだったのだが……

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

商人でいこう!

八神
ファンタジー
「ようこそ。異世界『バルガルド』へ」

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界召喚は7回目…って、いい加減にしろよ‼︎

アノマロカリス
ファンタジー
『おぉ、勇者達よ! 良くぞ来てくれた‼︎』 見知らぬ城の中、床には魔法陣、王族の服装は中世の時代を感じさせる衣装… 俺こと不知火 朔夜(しらぬい さくや)は、クラスメートの4人と一緒に異世界に召喚された。 突然の事で戸惑うクラスメート達… だが俺はうんざりした顔で深い溜息を吐いた。 「またか…」 王族達の話では、定番中の定番の魔王が世界を支配しているから倒してくれという話だ。 そして儀式により…イケメンの正義は【勇者】を、ギャルっぽい美紅は【聖戦士】を、クラス委員長の真美は【聖女】を、秀才の悠斗は【賢者】になった。 そして俺はというと…? 『おぉ、伝承にある通り…異世界から召喚された者には、素晴らしい加護が与えられた!』 「それよりも不知火君は何を得たんだ?」 イケメンの正義は爽やかな笑顔で聞いてきた。 俺は儀式の札を見ると、【アンノウン】と書かれていた。 その場にいた者達は、俺の加護を見ると… 「正体不明で気味が悪い」とか、「得体が知れない」とか好き放題言っていた。 『ふむ…朔夜殿だけ分からずじまいか。だが、異世界から来た者達よ、期待しておるぞ!』 王族も前の4人が上位のジョブを引いた物だから、俺の事はどうでも良いらしい。 まぁ、その方が気楽で良い。 そして正義は、リーダーとして皆に言った。 「魔王を倒して元の世界に帰ろう!」 正義の言葉に3人は頷いたが、俺は正義に言った。 「魔王を倒すという志は立派だが、まずは魔物と戦って勝利をしてから言え!」 「僕達には素晴らしい加護の恩恵があるから…」 「肩書きがどんなに立派でも、魔物を前にしたら思う様には動けないんだ。現実を知れ!」 「何よ偉そうに…アンタだったら出来るというの?」 「良いか…殴り合いの喧嘩もしたことがない奴が、いきなり魔物に勝てる訳が無いんだ。お前達は、ゲーム感覚でいるみたいだが現実はそんなに甘く無いぞ!」 「ずいぶん知ったような口を聞くね。不知火は経験があるのか?」 「あるよ、異世界召喚は今回が初めてでは無いからな…」 俺は右手を上げると、頭上から光に照らされて黄金の甲冑と二振の聖剣を手にした。 「その…鎧と剣は?」 「これが証拠だ。この鎧と剣は、今迄の世界を救った報酬として貰った。」 「今迄って…今回が2回目では無いのか?」 「今回で7回目だ!マジでいい加減にして欲しいよ。」 俺はうんざりしながら答えた。 そう…今回の異世界召喚で7回目なのだ。 いずれの世界も救って来た。 そして今度の世界は…? 6月22日 HOTランキングで6位になりました! 6月23日 HOTランキングで4位になりました! 昼過ぎには3位になっていました.°(ಗдಗ。)°. 6月24日 HOTランキングで2位になりました! 皆様、応援有り難う御座いますm(_ _)m

転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~

ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。 コイツは何かがおかしい。 本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。 目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。

処理中です...