剣と魔法の世界で俺だけロボット

神無月 紅

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ガリンダミア帝国との決着

400話

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 ガリンダミア帝国軍とレジスタンス連合の戦いが始まる前、最初に行われたのはお互いに対する降伏勧告だった。
 ガリンダミア帝国軍にしてみれば、寄せ集めの軍……それも戦力の大半がレジスタンスという戦力的に決して突出した存在ではない以上、戦えば自分たちが有利なのは理解している。
 レジスタンス連合にしてみれば、雲海や黄金の薔薇のように精鋭が揃っているし、レジスタンスも全体的に見れば弱いが、中には突出した存在もいる。
 何より、こうしてガリンダミア帝国軍が自分達と戦っている間にも周辺諸国が協力して結成された連合軍がガリンダミア帝国を侵略しているのだ。
 ここで戦いが長引けば長引くだけ、ガリンダミア帝国軍は不利になる。
 それぞれが自分たちの勝利の可能性を信じて相手に降伏勧告をし……当然のようにお互いが降伏勧告を受け入れることはなかった。
 もっとも、双方共に相手に降伏勧告をしてはいたものの、実際にそれが受け入れられるとは思っていなかった。
 ……いや、むしろ降伏勧告が受け入れられれば、それはそれで困ったことになったのは間違いないだろう。
 そんな訳で、お互いの最後の交渉が終わったところでガリンダミア帝国軍で指揮を執っているマリピエロと、レジスタンス連合を率いているイルゼンは言葉を交わす。

「お互いに相手に降伏出来ない以上、これからは戦いとなります」
「そうだな。こちらとしては色々と忙しいので、出来れば降伏して欲しかったが……」
「それはこちらも同じですよ。ガリンダミア帝国軍に余裕がないのは分かっていますから」

 マリピエロの言葉に、イルゼンはいつものような胡散臭い笑みを浮かべてそう告げる。
 そんなイルゼンの姿に、マリピエロは鼻を鳴らす。

「ふんっ、こちらにそうせざるをえないようにしておいて、よくもまぁ……」

 その意味ありげな言葉は、マリピエロが現在のガリンダミア帝国の状況……連合軍を結成した周辺諸国についての原因がイルゼンにあると、そう見抜いていたからこそのものだろう。
 とはいえ、それは別にそこまで不思議な話ではない。
 マリピエロにしてみれば、自分と敵対している相手……特にそれを率いている人物ともなれば、当然のように調べる。
 そうして調べて分かったことは、イルゼンという人物はその胡散臭い笑みとは裏腹に、決して侮っていいような相手ではないということだった。
 調べられる時間はそう多くはなかったので、詳細なところまで全てを知っている訳ではない。
 だが、調べて明らかになった内容だけでも、イルゼンという人物は決して侮っていいような相手ではない。
 ましてや、イルゼンの浮かべている胡散臭い笑みは侮る理由となる訳にはならない。

「おや、そうですか? こちらとしては出来ることを出来る限り頑張っていることなのですがね。では、この辺で失礼しますね。……どちらが正しいのかは、戦場で決めることになるでしょう」

 そう言い、イルゼンはその場から立ち去る。
 護衛としてついてきていたリアもまた、そんなイルゼンと共に立ち去る。……ただし、その前にマリピエロに対して鋭い……それこそ殺気が宿っている視線で一瞥していくのを忘れなかったが。
 リアにしてみれば、マリピエロはガリンダミア帝国を率いている人物……つまり、息子のアランを狙っている張本人だ。
 アランの母親として、そのような相手に友好的に接しろというのが不可能だった。
 とはいえ、マリピエロにしてみればリアとアランの関係についてまでは分からないからか、何故自分が今のように殺気の込めた視線を向けられる理由が分からなかったが。
 ただし、視線を向けるだけで、実際に武器を振るうといったような真似はしなかったが。
 イルゼンにリアが護衛としてついてきたように、マリピエロにも護衛として何人かの騎士がいる。
 そうである以上、もしリアがここで何かをしようとも対処出来ると思っているのだろう。
 とはいえ、リアとしてもし護衛の騎士がいなくても何も行動をするつもりはなかったが。
 このような場所で敵の指揮官を殺すといった真似をした場合、それは大きな恥となる。
 雲海や黄金の薔薇、レジススタンス……その全てが多くの者に責められることになるだろう。
 あるいは、リアだけが不名誉を被るのなら、息子のためにということで行動に移していた可能性もあったが。
 ともあれ、こうしてお互いに降伏勧告は受け入れず……最後の会談は終わったのだった。





「ようやくか。……結局、あの未知の攻撃をしてくる敵を発見出来なかったのは痛いけどな」

 ゼオンのコックピットの中で、アランは陣地に戻ってくるイルゼンやリアの姿を見ながらそう呟く。
 昨夜の夜襲の一件もそうだが、アランが口にしたように未知の攻撃を行ってくる敵の存在は、未だに対処出来ていなかった。
 正直なところ、これは非常に大きなミスと言ってもいい。
 アランとしては、こうしてガリンダミア帝国軍と最後の戦いが起きるよりも前に、対処しておきたかったのだ。
 しかし、結局それは出来なかった。

「恐らく、この戦いの中でまた攻撃をしてくる……と、そう思っても決して間違いではない筈」

 未知の攻撃をしている相手が、具体的にどのような存在なのかは分からない。
 分からないが、それでもガリンダミア帝国の者に所属していることだけは明らかだった。
 アランにしてみれば、そんな厄介な相手は出来るだけ素早くどうにかしたいと、そう思うのは当然だろう。
「まぁ、今は……それよりも、あの連中についての対処を考える必要があるんだろうけど」

 ゼオンの映像モニタに表示されているのは、空を飛ぶ複数のモンスター。
 当然ながら、それは心核使いが変身した姿だ。
 空を飛ぶモンスターに変身する心核使いは、そこまで多くはない。
 しかし、こうして数を揃えてくるというのはさすがと言うほかないだろう。
 とはいえ、アランが見た感じではそこまで強力なモンスターがいるようには思えない。
 ……ガリンダミア帝国の勢力圏内に入ってから、何度か強力な空を飛ぶモンスターと戦った。
 それを思えば、この戦いで出撃してきた空を飛ぶモンスターがこの程度とは思わない。

「となると、これはあくまでも捨て駒というか、こっちがどういう行動をするのかの様子見的な意味か。ともあれ……」

 こっちに向かってくる以上、アランとしては敵を撃破しないという選択肢は存在しない。
 レジスタンス連合側で空を飛べる戦力は、アランのゼオンとレオノーラの黄金のドラゴンだけだ。
 そしてレオノーラは黄金の薔薇を率いる者として生身で戦場に出ている以上、空を飛ぶ敵に対処出来るのはアランだけだった。
 ……実際には、ロッコーモの変身したオーガが岩を投げたり、ケラーノが変身したトレントが木の実や花粉といった対空攻撃を行ったりといった真似を出来るのを考えれば、必ずしも空を飛ぶ敵に対処出来るのはゼオンだけではないのだが。
 それでも、ゼオンが一番効率的に敵を倒せるのは事実だった。

「まず一匹」

 呟き、ビーラムライフルのトリガーを引くアラン。
 放たれたビームは、巨大な蝙蝠のモンスターに命中し……そしてビームがなくなったとき、そこに蝙蝠の姿はどこにも存在していなかった。
 遠距離……それも普通のモンスターでは無理な、圧倒的な遠距離からの射撃。
 それは、ガリンダミア帝国軍の空を飛ぶモンスターにとって、脅威でしかない。
 もっとも、ゼオンに向かって度々攻撃をしてきた未知の存在による攻撃は、ゼオンのビームライフルよりも遙かに遠距離から行われる攻撃なのだが。
 それを考えれば、ゼオンのビームライフルによる攻撃もそこまで大したものではないと、そうアランは思う。
 向こうはゼオンよりも遠距離から攻撃しており、その上で本人の能力なのかマジックアイテムか何か、もしくは転移専門の仲間がいるのかは分からないが、とにかく転移能力もあるのだ。
 そんな未知の敵の攻撃でゼオンが勝っているのは、ビームライフルによる連射性能くらいだろう。

「っと、今はこっちに集中しないとな。けど……フェルス!」

 ビームライフルを連射しつつ、アランは叫ぶ。
 するとゼオンの後方の空間に波紋が浮かび、やがてその波紋からフェルスが多数姿を現す。
 そうして姿を表したフェルスは、敵に向かって突っ込んでいく。
 ただし、フェルスが向かったのは空を飛ぶモンスターの群れではなく、地上。
 ゼオンのビームライフルの射程の長さから、すでに空の戦闘は開始していたものの、地上ではまだ両軍共にぶつかってはいなかった。
 だからこそ、この機会を逃さないようにと、アランはフェルスを地上を進むガリンダミア帝国軍に向けたのだ。
 フェルスは長さ一メートルほどである以上、そのような存在が空から自分たちに向かって近付いているとは、ガリンダミア帝国軍の大多数が気が付いていなかった。
 中には気が付いた者もいたのだが、軍隊として移動している現状で、フェルスが降ってきているのを見つけたからといって、それに対処するのは難しい。
 咄嗟に叫び声を上げても、最前線の兵士たちは自分たちの視線の先に存在するレジスタンス連合に意識を集中しており、警告の声は届かない。
 結果として……

「うわあああああぁっ!」

 上空から放たれたフェルスのビームによって、隣にいた兵士の頭部が破砕したことに気が付いた兵士が叫ぶ。
 そんな声を始まりとし、ガリンダミア帝国の最前線ではフェルスが縦横無尽に暴れ回る。
 先端にビームソードを展開したまま突き進み、鎧だろうが何だろうが全く意味もなく、次々と兵士を殺していくフェルス。
 先端からビーム砲を放ち、そのビームによって兵士を殺していくフェルス。
 横にビームの刃を展開し、兵士たちの間を通り抜けるようにして移動するフェルス。
 当然ながらそのような真似をすれば、横に展開したビームの刃に触れた者は例外なく斬り裂かれる。
 運がよければ、鎧が斬り裂かれるだけですむが、運が悪ければ脇腹や首筋を斬り裂かれ、手足切断され……といったことになる。
 こうして、本格的に戦いが始まる前からガリンダミア帝国軍は大きな被害を受けるのだった。
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