剣と魔法の世界で俺だけロボット

神無月 紅

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ガリンダミア帝国との決着

416話

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 魔眼。
 それはこの世界においては珍しい能力ではあるが、だからといって極めて強力という訳ではない。
 この世界には心核があり、心核使いなら一人で戦局を引っ繰り返すことが出来るといったような力を持っているのに対し、魔眼はあくまでも対個人の能力でしかない。
 伝説の中には一睨みで数十人を石化させるといったような存在もいるが、そのような存在は本当に希少だからこそ伝説となる。
 ……実際、雲海や黄金の薔薇の中にも魔眼の持ち主は数人いる。
 だが、その魔眼もそこまで強力ではない。
 もちろん、あるとないのとでは、ある方が圧倒的に便利ではあるし、少数の戦いの場合は使い方によって戦いの主導権を掴むことが出来るのも間違いない。
 とはいえ……それはあくまでもアランたちのような一般人――転生者を一般人と呼んでもいいのかは微妙だが――の話だ。
 古代魔法文明、ルーダー。その時代から生き抜いていたビッシュ。
 そんなビッシュが呼び寄せた、終焉を意味する名前を持つ巨大な漆黒のドラゴン、アポカリプス。
 そのような規格外の存在がもし邪眼を使えばどうなるか。
 その結果が、ゼオンの映像モニタに映し出されている。

「これは……」

 今まで、アランも色々と心核使いと戦ってきた。
 戦ってきたが、だからといって一睨みで多数の人を殺すといったような邪眼を持つ存在というのは、当然のように初めて遭遇する相手だった。

『ふふふ。僕の眷属を攻撃したんだ。罰は必要だろう? ……もっとも、アランのいらない言葉のせいで、助かった者も多そうだけど』

 得意げな様子で念話を送ってくるビッシュ。
 そんなビッシュは、再度アポカリプスの首の一つを地上に向け……

「っ!? させるか!」

 ビッシュが何をさせようとしているのかを理解したアランは、相手がアポカリプスであるというのを考えるよりも前に、ゼオンのスラスターとウィングバインダーを全開にして突っ込む。
 そんなゼオンの反射的な行動は、ビッシュにとっても予想外だったのだろう。
 一瞬何が起きているのか理解出来ず……ゼオンの全力の体当たりが、地上に向かって再度魔眼の一撃を放とうとしていたアポカリプスの首に命中する。
 拳で殴るでもなく、足で蹴るでもなく、ビームライフルやビームサーベルで攻撃をするでもなく……体当たりの一撃。
 相手の意表を突いた一撃であっただけに、アポカリプスにダメージを与えたのは間違いない。
 また、ゼオンの全高はアポカリプスの半分にも及ばないものの、逆に言えば半分近くはある。
 その重量でアポカリプスに体当たりしても、もし身体に体当たりをしたのであれば、効果はほとんど望めなかっただろう。
 だが……幸いにも、アランが体当たりをしたのはアポカリプスの頭、巨体の先端部分と言ってもいい。
 それも巨体から伸びている三本の頭の一つで、細長い場所であったのが幸いし、地上に向かって魔眼の一撃を放とうとしたアポカリプスの行動は、完全に見当違いの方に向かって放たれた。
 結果として、最初の一撃と違って魔眼の効果によって殺された者は現在動ける者の中にはいなかった。
 ……それはつまり、アポカリプスの威圧によって動けなくなっていたレジスタンスたちには被害が出たということを意味しているのだが。
 今の状況を思えば、まだ雲海や黄金の薔薇の面々が殺されるよりよかったのは、間違いない。
 アランにも色々と思うところがあるのは間違いなかったが、とにかく今はアポカリプスを倒すのを最優先にする必要があった。

「ついでだ、これでも食らえ!」

 頭部に体当たりが行われ、完全に意表を突かれたアポカリプス。
 そうして意表を突かれて身体の動きが止まったアポカリプスに対し、アランはその一瞬の同様に付け込み、フェルスを放つ。
 ビームソードを展開した状態のまま放たれたビームソードは、真っ直ぐアポカリプスの頭部の一つの眼球に向かい……

「ちぃっ!」

 他の二つの頭部のうち片方が、狙われた頭部を吹き飛ばすことによって、フェルスの一撃を回避する。
 頭部を狙ったフェルスに向かって攻撃したのではなく、フェルスに狙われた頭部を攻撃し、その衝撃で攻撃を回避するのは、アランにとっても完全に予想外だった。
 今の状況を思えば、当然ながら頭部に命中すると思っていただけに尚更にそのように思えてしまったのだ。

『アラン! 回避して!』

 不意に頭の中に響くレオノーラの念話を聞き、アランはスラスターを全開にしてゼオンを移動させる。
 そうしたところ、ゼオンのいた場所を巨大な何かが通りすぎていく。
 最初はそれが何なのか分からなかったアランだったが、離れればアポカリプスの右腕による一撃だったと判明する。

「アポカリプスの攻撃だと!?」

 それは、アランにとっても完全に予想外だった。
 何しろ、今までアポカリプスからは一切攻撃をしてこなかったのだから。
 眷属として竜人を呼んだことはあったが。

(いや、魔眼を使った攻撃もされたか。もっとも、魔眼を使ったのは地上にいる連中に向かってであり、俺に向かって直接攻撃をするといったような真似はなかったけど)

 そういう意味では、正真正銘今の攻撃は本当の意味でアランを狙った一撃だったということになる。

「どうしたんだ? 俺の心を折る以前に、お前の方が我慢出来なくなったみたいだな!」

 その挑発が自分の行動として考えた場合は決して得策でないというのは、アランにも分かっている。
 それでもこうして叫んだのは、ビッシュに対しての恨みによるものが大きい。

『へぇ、僕を挑発してるのかい?』

 アランの言葉が聞こえたのか、ビッシュは落ち着いた様子でそう言ってくる。
 とはいえ、アランの頭の中に響いた念話は言葉ほどに平静な訳ではない。
 念話を聞いているアランであっても、その言葉に込められているビッシュの苛立ちは十分に覚えることが出来た。
 ビッシュ本人にその自覚があるのかどうかは、アランにも分からない。

(これは成功か?)

 そう思わないでもないが、てっきり今の自分の言葉で頭にきて再度攻撃をしてくるのかと思ってはいたアランの予想は外れる。
 アポカリプスの攻撃は、ゼオンに向かうようなことはない。
 その代わり……アポカリプスの三つの首は、ゼオンに向けられる。
 言葉は発していないものの、ビッシュが苛立ちを覚えているのは間違いなかった。

「どうした? 何も言ってこないけど。俺を諦めたのか? 諦めたのなら、とっとと消えてくれると、俺としては嬉しいんだが」
『やはり、上下関係をしっかりと刻み込む必要があるようだね』

 アランの言葉に対し、ビッシュはそう返す。
 お互いの強さの差を考えると、ビッシュの言葉に納得出来ない訳でもない。
 そんなビッシュの様子を理解しながらも、アランは口を開く。

「上下関係? 俺が上でお前が下か?」

 ヒクリ、と。
 実際にビッシュの顔を見ながら言った訳ではなかったが、それでもアランはビッシュの頬がひくついたのを見たような気がした。
 アランにしてみれば、今のこの状況はかなり厳しい。
 それが分かっているだけに、ビッシュを出来るだけ怒らせて冷静に戦うといったような真似をさせたくはなかった。

『面白いことを言うね。けど……今のこの状況において、僕とアランのどちらが上で下か、それが分からないはずはないと思うけどね。……最後の忠告だ。大人しく降伏して僕に従うんだ。そうすれば……そうだね。君たちのおかげでアポカリプスをこの世界に戻すことが出来たし、感謝の意味を込めて他の者たちも殺さないでおいてもいいけど』

 そう言われたアランだったが、当然のようにその言葉には否と言うしかない。
 現在の自分の状況……生き残るということだけを考えた場合、あるいはビッシュの提案も決して間違いではないのかもしれないだろう。
 しかし、アランは飼い犬として……いや、飼い犬どころか鳥籠に入れられたインコとして生き延びたいとは思えない。
 この世界に転生という手段で生まれ変わった以上、やはり探索者として思い通りに生きたいと思うのは当然の話だった。

「却下だ。俺は探索者として、思うように……自由に生きる!」
『そう、か。……仕方がないね。こうなった以上、こちらも相応の態度を取る必要がある。それくらいは分かっているよね?』

 最後に念を押してくるような、そんな言葉。
 アランはそんなビッシュの言葉に対し、構わないと叫ぶ。

「お前が俺を力で従えようとするのなら、俺は力でそれに逆らう!」
『アラン、君だけで僕をどうにか出来ると……本当にそう思ってるのかい?』
「俺一人では無理でも、俺には仲間がいる」

 そう言い、アランは自分の隣にいる黄金のドラゴンを……レオノーラが変身したその姿を見る。
 アランにとって、レオノーラは自分の秘密の全てを知っている仲間だ。
 そうである以上、レオノーラを信用しないという選択肢はアランにはない。
 だからこそ、今はこうしてレオノーラの名前を出して、とにかくどうにかするといった方法を考える必要があった。

『アラン……』

 そんなアランの考えを察したのか、それとも女の勘で理解したのか。
 その辺りはアランにも分からなかったが、レオノーラがアランの言葉に強く感じるものがあったのは間違いない。
 レオノーラにとっても、アランという存在は非常に大きい。
 それをこうして戦いの中で聞かされるというのは、非常に大きな意味を持つ。
 あるいは、それが影響したのか。
 隣り合っていたゼオンと黄金のドラゴンの双方が不意に光り輝く。
 そして光っているゼオンと黄金のドラゴンは、アランとレオノーラが特にそのつもりがないというのにお互いに近付いていき……やがて、二つの光は一つとなる。
 それは、一度だけしか成功していなかった、そんな行動。
 そして今の状況を思えば、アランやレオノーラにとっては最善の結果であろう。
 双子として生み出された二つの心核が融合し、そうして姿を現したそれは……この状況においては、ビッシュのアポカリプスとの戦いで唯一勝利出来るかもしれない存在。

「ゼオリューン」

 ゼオリューンのコックピットで、アランはそう呟くのだった。
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