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62話
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『おおおおおおおお!』
早乙女や鎌谷、それ以外の面々の口からも、驚愕の声が上がる。
そんな声を聞きながら、白夜の闇から姿を現した軍隊蟻は特に動く様子もなく、その場に佇んだままだ。
これは白夜が軍隊蟻に命令をしていないからだったが、そのおかげで周囲にいる者たちは、闇で出来た軍隊蟻をしっかりと観察することが出来た。
……とはいえ、軍隊蟻の甲殻は元々黒い。
いや、全ての軍隊蟻がそうだとは限らないのだが、少なくても現在こうして白夜の前にいる軍隊蟻の甲殻は黒だった。
そして白夜が生み出したモンスターの身体も、闇で出来ている以上は当然のように黒い。
じっくりと見れば甲殻の艶や黒の濃さといったように生前の軍隊蟻と違う場所も幾つかあるのだが、それはあくまでもこうして動かない軍隊蟻を間近で観察出来ればの話だ。
もしこの軍隊蟻を遠目から見れば、それは普通の軍隊蟻と区別するのはかなり難しいだろう。
白夜は、自分がそれを見分けられるといった自信がなかった。……それが、例え白夜の闇から生み出された軍隊蟻であっても。
「いや、凄いな。凄いけど……どうする? 軍隊蟻と俺たちが戦ったとき、もし白夜の軍隊蟻がいても戦いの中だと見分けがつかないぞ? それこそ、場合によっては間違って攻撃するかもしれない」
トワイライトの一人がそう呟き、他の者も言われてみれば……と納得したような表情を浮かべる。
軍隊蟻と全面的な戦いにある可能性がある以上、それでは色々と不味いのだ。
だが、そんな疑問の声に白夜は問題ないと告げる。
「その辺は心配しなくても大丈夫です。別にこの軍隊蟻が死んでも、それで俺に何かダメージが来る訳でもないですし」
いや、もちろん何の問題もない訳ではない。
こうして闇から生み出された存在は、白夜の能力がそのように発現したにすぎない。
つまり、その闇から生まれたモンスターが死ぬようなことになれば、白夜の能力もまた消費されるのだ。
倒されたモンスターは、闇と化して白夜の能力に戻ってくるのだが、それで消費した精神力、魔力、MPといったように表現されるものが回復する訳でもない。
だが……元々白夜はその手の能力は多い方だし、消耗すると言ってもそこまで大量に消費する訳ではない。
コストパフォーマンスという点で考えれば、破格の能力と言ってもいい。
とはいえ、ゲートの一件の時のように激しく消耗すれば、それこそ数時間、場合によっては数日もの睡眠を強制させられるのだが。
「そうか、なら白夜の能力の消耗については、そこまで気にしなくてもいいようだな」
早乙女が安堵したように呟き、他の者達もまた同意するように頷く。
鎌谷だけは、唯一そんなやり取りを不安そうに見ていたが。
「あー……取りあえず軍隊蟻は他にいないようだし、これからどうする?」
そんな鎌谷の側にいた男が、そう告げる。
白夜は今の言葉に若干の違和感を抱いたが、それでもすぐにどうこうといった様子はない。
それで気のせいだろうと思い、話が進む前に、取りあえず邪魔だろうと軍隊蟻を闇に戻す。
「ここが道を作る上で一番の難所だって話でしたけど……」
「そうだな。鎌谷さん、青の街に行っても構いませんか? 緑の街の様子は自分の目で確認出来ましたが、そこと道を通す青の街はまだ見てませんので」
「青の街ですか? ええ、それは構いませんけど……今からだと、向こうに泊まることになりますよ?」
構わないと、そう言っている鎌谷だったが、その表情はあまり賛成しているようには見えない。
もっとも、それは青の街に行かれると困るのではなく、向こうに泊まるのがあまり面白くない……といったところのように、白夜には思えた。
そんな鎌谷の思い見透かしたかのように、早乙女は口を開く。
「向こうの様子を見るのは、道を作る上で必須の情報です。緑の街の情報だけで動くと、いざというときに問題になるかもしれませんので」
「必須条件、ですか? そう言うのでしたら、こちらもこれ以上は何も言いませんけど……ただ、青の街に行ってもっても無駄に時間を潰すだけだと思うんですけどね」
「それは、一体どういう意味です? 鎌谷さんの言葉を聞く限りでは、まるで青の街に問題があるように思えますが」
もしかして、緑の街と青の街の関係は悪く、それを隠した上で今回のような依頼をしてきたのではないか。
早乙女がそのように疑ってしまうのは、今の鎌谷の発言を聞けば当然のことだろう。
鎌谷も、今の自分の発言で早乙女が自分を疑った……そこまでいかなくても怪しんだというのは理解したのか、慌てたように首を横に振りながら否定する。
「いえ、そういう訳ではないんですけどね。……ただ、ちょっと青の街には面倒な相手がいて」
言わば、個人的な理由で青の街に行きたくないと、そう告げる鎌谷の言葉に……早乙女を始めとした面々が若干とはいえ呆れの表情を滲ませたのは当然だろう。
鎌谷の役目は、あくまでも早乙女たちの案内役……兼監視役といったところだ。
そんな人物が、自分の都合で青の街に……緑の街と今後協力していく予定の街に行きたくないと言ったのだ。
本当にこのような人物が一緒で大丈夫か? と、白夜ですらそう思ってしまう。
「鎌谷さん。こちらは、あくまでも仕事で来てるのであって、貴方の個人的な事情はどうでもいいんですよ。鎌谷さんも案内役として一緒に行動するのであれば、しっかりとその辺を認識してくれないと困ります」
早乙女の口から出たのは、静かな言葉。
だが、そこに込められた迫力は、聞いている者が思わず背筋を伸ばしたくなるような代物だ。
鎌谷も早乙女の言葉に慌てたように頷き、口を開く。
「も、もちろんです。青の街に行くというのであれば、急ぎましょう。こちらとしても、皆さんの手を煩わせるつもりはありませんから」
態度を一変させたその様子に、再び周囲にいた者たちは呆れの表情を見せる。
だが、結局鎌谷の案内があってこそ青の街に行ける以上、ここで鎌谷を放り出す訳にもいかない。
……実際には、獣道よりはもう少し上等な道があるので、その道を進めば青の街に行けるのだが……それでも、途中で分岐があった場合は困ることになるだろう。
「分かりました。じゃあ、行くとしましょう」
緑の街に帰ったら、この一件については報告しておいた方がいいだろう。
そう思いつつも、それを表に出すようなことはせずに早乙女が告げ、白夜たちは車に乗り込む。
鎌谷は先程の自分のミスを取り戻そうとするかのように、話し始める。
「それにしても、先程の闇で出来たゴブリンや軍隊蟻は凄かったですね。昨日見てはいましたが……実際に戦っている光景を目にすると、その差は歴然としていました」
戦いのときの様子を思い出しているのだろう。
そう告げる鎌谷の言葉は、お世辞だけではなく純粋に白夜の能力を尊敬しているようですらあった。
もっとも、腕が四本あって普通より強力なゴブリンであるとはいえ、二匹だけで軍隊蟻を倒してしまったのだから、一般人の鎌谷にしてみればそのように思って当然だろう。
特に大きかったのは、何と言っても軍隊蟻までをも自分の部下にしたといったことか。
正確には闇に吸収して、その魂か何か――白夜も詳しいことは分かっていないが――を使って、モンスターを闇で形成して生み出すことが出来るようになったのだ。
細かい理屈の類はともかく、敵を倒せばそれを自分の手駒として使うことが出来るというのは、一般人の鎌谷から見れば桁違いの能力だという風にしか思えない。
実際に、客観的に見て白夜の能力は闇というかなり珍しい属性であるのを入れても、非常に希少で強力な能力だ。
そのような能力を持った者が道を通すという依頼を引き受けてくれたのだから、自分たちは運が良い。
そんな風に思いつつ、鎌谷は色々と喋り続ける。
緑の街のこと、周囲に出てくるモンスターや動物のこと、軍隊蟻に襲われて被害を受けたこと。……そして、青の街のこと。
そのように会話をしてる鎌谷だったが、誰もそれを遮るようなことはない。
鎌谷の喋り方が上手かったというのもあるが、こうして鎌谷が急いで喋っているのであれば、何らかの大事な……それこそ、本来なら早乙女たちに喋ってはいけないような情報を口にするかもしれないと、そう思ったからだ。
実際、いくつかの情報は早乙女や白夜、それ以外の者にしても初めて聞くようなものがあり、表情には出さないが、皆が内心で笑みを堪えている。
「あ、早乙女さん。分かれ道ですけど……どっちに行きます?」
運転手をしていた者の言葉に、早乙女が口を開くよりも前に鎌谷が喋る。
「そっちは右に行って下さい。そうすれば、あとは一本道ですから」
鎌谷の指示に従い、車は右に向かう。
これからしっかりとした道を通せば話は別なのだろうが、生憎とここにある道は道と呼ぶのが恥ずかしくなるような道だ。
それこそ、場所によっては道の真ん中に切り株の類が存在し、車で移動する際にはそちらを避けながら移動する必要がある。
「これ、道を通すのってかなり大変そうですよ? まぁ、東京みたいなコンクリートで固めた道じゃないだけ、まだいいですけど」
「だろうな。……まずやるのは、盛り上がってる部分や穴が開いてる部分を均して……それと、ああいう切り株とかも抜く必要がある」
その手間を考えただけで、うんざりしたように早乙女が呟く。
青の街の周辺に比べれば、まだ緑の街の周辺は車を走らせるのに若干の苦労はあったが、ここよりは走りやすかった。
ましてや、切り株の類は非常に厄介なのは間違いなく、それを引き抜く手間を考えただけで面倒臭くなる。
(ゴブリンを使えば……いや、出来るのか? 数を増やせばいけるか? もしくは、いっそもっと軍隊蟻を殺してそっちの数を増やすか……難しいな)
どうすれば出来るだけ楽に、そして確実に道を均すことが出来るのか。
それを考えている間にも車は進む。
だが、切り株の類は一つや二つではなく、青の街に近づくにつれて数が増えていく。
「……なぁ、鎌谷さん。なんだってここにはこんなに切り株が残ってるんだ?」
「いや、そう言われても……この道の担当は緑の街ではなく、当然青の街ですし」
「青の街って、この辺りでは栄えている街の一つなんだよな? だからこそ、緑の街と青の街と道で繋ごうと考えたんだし。なのに、これなのか? というか、よくこんな状況で青の街は栄えたな」
トワイライトの一人が、しみじみと呟く。
このように切り株が様々な場所にあるのでは、それこそ移動するのに大変だろうと。
車がこの辺りでは珍しいのを思えば、切り株がそこまで致命的な邪魔にはならないのは、誰にでも分かった。
だが、普通に歩くのでも、切り株が邪魔なのは間違いのない事実なのだ。
なのに、何故そのままにしておくのかと、そう言いたくなってもおかしくはなかったが……そんなトワイライトのメンバーの言葉に、鎌谷は慌てたように首を横に振る。
「い、いえ。前に来たときはこんな風に切り株はありませんでしたよ!?」
「……何?」
鎌谷の慌てたような言葉に、早乙女は低く呟く。
「鎌谷さん、それはどういうことですか? じゃあ、この切り株はいつどこから生えてきたってんです?」
「それを聞かれても……ただ、十日くらい前に緑の街から今回の道を通す件で青の街に行きましたけど、そのときは特に何も言ってませんでした。もしここまで切り株が増えているのなら、当然話題に上がったはずです」
そう告げる鎌谷は、とてもではないが嘘を言っているようには見えない。
つまり、それは真実であると、そういうことなのだろう。
しかし、当然の話だが切り株というのは自然に出来るものではない。
いや、自然に生えてきた木を切れば切り株が出来るのだが、現在白夜たちに見えているような大きさの切り株となるには、それこそ一年二年程度では無理だ。
「そうなると……誰かがわざわざ植えた、とか?」
「んな訳ねえだろ」
白夜が呟いた言葉に、それを聞いていたトワイライトの一人がそう告げる。
実際、白夜もそれは言ってみただけで、本気で言った訳ではなかった以上、その言葉に異論はない。
「理由はともあれ、こうして切り株が増えるとなると、道を通すにもちょっと……難しいっすね」
「そうだな」
仲間の言葉に、早乙女も同意するように頷く。
もしどうにかしてここに道を通しても、それこそこのような切り株が自然と生える……などということになれば、それはとてもではないが道として使えないだろう。
この切り株が生えている場所までなら楽に移動できるのだから、本当に何の意味もないという訳ではないのだろうが。
「そいつは、トレントだよ」
そう告げたのは、青の街から出てきた一人の男だった。
早乙女や鎌谷、それ以外の面々の口からも、驚愕の声が上がる。
そんな声を聞きながら、白夜の闇から姿を現した軍隊蟻は特に動く様子もなく、その場に佇んだままだ。
これは白夜が軍隊蟻に命令をしていないからだったが、そのおかげで周囲にいる者たちは、闇で出来た軍隊蟻をしっかりと観察することが出来た。
……とはいえ、軍隊蟻の甲殻は元々黒い。
いや、全ての軍隊蟻がそうだとは限らないのだが、少なくても現在こうして白夜の前にいる軍隊蟻の甲殻は黒だった。
そして白夜が生み出したモンスターの身体も、闇で出来ている以上は当然のように黒い。
じっくりと見れば甲殻の艶や黒の濃さといったように生前の軍隊蟻と違う場所も幾つかあるのだが、それはあくまでもこうして動かない軍隊蟻を間近で観察出来ればの話だ。
もしこの軍隊蟻を遠目から見れば、それは普通の軍隊蟻と区別するのはかなり難しいだろう。
白夜は、自分がそれを見分けられるといった自信がなかった。……それが、例え白夜の闇から生み出された軍隊蟻であっても。
「いや、凄いな。凄いけど……どうする? 軍隊蟻と俺たちが戦ったとき、もし白夜の軍隊蟻がいても戦いの中だと見分けがつかないぞ? それこそ、場合によっては間違って攻撃するかもしれない」
トワイライトの一人がそう呟き、他の者も言われてみれば……と納得したような表情を浮かべる。
軍隊蟻と全面的な戦いにある可能性がある以上、それでは色々と不味いのだ。
だが、そんな疑問の声に白夜は問題ないと告げる。
「その辺は心配しなくても大丈夫です。別にこの軍隊蟻が死んでも、それで俺に何かダメージが来る訳でもないですし」
いや、もちろん何の問題もない訳ではない。
こうして闇から生み出された存在は、白夜の能力がそのように発現したにすぎない。
つまり、その闇から生まれたモンスターが死ぬようなことになれば、白夜の能力もまた消費されるのだ。
倒されたモンスターは、闇と化して白夜の能力に戻ってくるのだが、それで消費した精神力、魔力、MPといったように表現されるものが回復する訳でもない。
だが……元々白夜はその手の能力は多い方だし、消耗すると言ってもそこまで大量に消費する訳ではない。
コストパフォーマンスという点で考えれば、破格の能力と言ってもいい。
とはいえ、ゲートの一件の時のように激しく消耗すれば、それこそ数時間、場合によっては数日もの睡眠を強制させられるのだが。
「そうか、なら白夜の能力の消耗については、そこまで気にしなくてもいいようだな」
早乙女が安堵したように呟き、他の者達もまた同意するように頷く。
鎌谷だけは、唯一そんなやり取りを不安そうに見ていたが。
「あー……取りあえず軍隊蟻は他にいないようだし、これからどうする?」
そんな鎌谷の側にいた男が、そう告げる。
白夜は今の言葉に若干の違和感を抱いたが、それでもすぐにどうこうといった様子はない。
それで気のせいだろうと思い、話が進む前に、取りあえず邪魔だろうと軍隊蟻を闇に戻す。
「ここが道を作る上で一番の難所だって話でしたけど……」
「そうだな。鎌谷さん、青の街に行っても構いませんか? 緑の街の様子は自分の目で確認出来ましたが、そこと道を通す青の街はまだ見てませんので」
「青の街ですか? ええ、それは構いませんけど……今からだと、向こうに泊まることになりますよ?」
構わないと、そう言っている鎌谷だったが、その表情はあまり賛成しているようには見えない。
もっとも、それは青の街に行かれると困るのではなく、向こうに泊まるのがあまり面白くない……といったところのように、白夜には思えた。
そんな鎌谷の思い見透かしたかのように、早乙女は口を開く。
「向こうの様子を見るのは、道を作る上で必須の情報です。緑の街の情報だけで動くと、いざというときに問題になるかもしれませんので」
「必須条件、ですか? そう言うのでしたら、こちらもこれ以上は何も言いませんけど……ただ、青の街に行ってもっても無駄に時間を潰すだけだと思うんですけどね」
「それは、一体どういう意味です? 鎌谷さんの言葉を聞く限りでは、まるで青の街に問題があるように思えますが」
もしかして、緑の街と青の街の関係は悪く、それを隠した上で今回のような依頼をしてきたのではないか。
早乙女がそのように疑ってしまうのは、今の鎌谷の発言を聞けば当然のことだろう。
鎌谷も、今の自分の発言で早乙女が自分を疑った……そこまでいかなくても怪しんだというのは理解したのか、慌てたように首を横に振りながら否定する。
「いえ、そういう訳ではないんですけどね。……ただ、ちょっと青の街には面倒な相手がいて」
言わば、個人的な理由で青の街に行きたくないと、そう告げる鎌谷の言葉に……早乙女を始めとした面々が若干とはいえ呆れの表情を滲ませたのは当然だろう。
鎌谷の役目は、あくまでも早乙女たちの案内役……兼監視役といったところだ。
そんな人物が、自分の都合で青の街に……緑の街と今後協力していく予定の街に行きたくないと言ったのだ。
本当にこのような人物が一緒で大丈夫か? と、白夜ですらそう思ってしまう。
「鎌谷さん。こちらは、あくまでも仕事で来てるのであって、貴方の個人的な事情はどうでもいいんですよ。鎌谷さんも案内役として一緒に行動するのであれば、しっかりとその辺を認識してくれないと困ります」
早乙女の口から出たのは、静かな言葉。
だが、そこに込められた迫力は、聞いている者が思わず背筋を伸ばしたくなるような代物だ。
鎌谷も早乙女の言葉に慌てたように頷き、口を開く。
「も、もちろんです。青の街に行くというのであれば、急ぎましょう。こちらとしても、皆さんの手を煩わせるつもりはありませんから」
態度を一変させたその様子に、再び周囲にいた者たちは呆れの表情を見せる。
だが、結局鎌谷の案内があってこそ青の街に行ける以上、ここで鎌谷を放り出す訳にもいかない。
……実際には、獣道よりはもう少し上等な道があるので、その道を進めば青の街に行けるのだが……それでも、途中で分岐があった場合は困ることになるだろう。
「分かりました。じゃあ、行くとしましょう」
緑の街に帰ったら、この一件については報告しておいた方がいいだろう。
そう思いつつも、それを表に出すようなことはせずに早乙女が告げ、白夜たちは車に乗り込む。
鎌谷は先程の自分のミスを取り戻そうとするかのように、話し始める。
「それにしても、先程の闇で出来たゴブリンや軍隊蟻は凄かったですね。昨日見てはいましたが……実際に戦っている光景を目にすると、その差は歴然としていました」
戦いのときの様子を思い出しているのだろう。
そう告げる鎌谷の言葉は、お世辞だけではなく純粋に白夜の能力を尊敬しているようですらあった。
もっとも、腕が四本あって普通より強力なゴブリンであるとはいえ、二匹だけで軍隊蟻を倒してしまったのだから、一般人の鎌谷にしてみればそのように思って当然だろう。
特に大きかったのは、何と言っても軍隊蟻までをも自分の部下にしたといったことか。
正確には闇に吸収して、その魂か何か――白夜も詳しいことは分かっていないが――を使って、モンスターを闇で形成して生み出すことが出来るようになったのだ。
細かい理屈の類はともかく、敵を倒せばそれを自分の手駒として使うことが出来るというのは、一般人の鎌谷から見れば桁違いの能力だという風にしか思えない。
実際に、客観的に見て白夜の能力は闇というかなり珍しい属性であるのを入れても、非常に希少で強力な能力だ。
そのような能力を持った者が道を通すという依頼を引き受けてくれたのだから、自分たちは運が良い。
そんな風に思いつつ、鎌谷は色々と喋り続ける。
緑の街のこと、周囲に出てくるモンスターや動物のこと、軍隊蟻に襲われて被害を受けたこと。……そして、青の街のこと。
そのように会話をしてる鎌谷だったが、誰もそれを遮るようなことはない。
鎌谷の喋り方が上手かったというのもあるが、こうして鎌谷が急いで喋っているのであれば、何らかの大事な……それこそ、本来なら早乙女たちに喋ってはいけないような情報を口にするかもしれないと、そう思ったからだ。
実際、いくつかの情報は早乙女や白夜、それ以外の者にしても初めて聞くようなものがあり、表情には出さないが、皆が内心で笑みを堪えている。
「あ、早乙女さん。分かれ道ですけど……どっちに行きます?」
運転手をしていた者の言葉に、早乙女が口を開くよりも前に鎌谷が喋る。
「そっちは右に行って下さい。そうすれば、あとは一本道ですから」
鎌谷の指示に従い、車は右に向かう。
これからしっかりとした道を通せば話は別なのだろうが、生憎とここにある道は道と呼ぶのが恥ずかしくなるような道だ。
それこそ、場所によっては道の真ん中に切り株の類が存在し、車で移動する際にはそちらを避けながら移動する必要がある。
「これ、道を通すのってかなり大変そうですよ? まぁ、東京みたいなコンクリートで固めた道じゃないだけ、まだいいですけど」
「だろうな。……まずやるのは、盛り上がってる部分や穴が開いてる部分を均して……それと、ああいう切り株とかも抜く必要がある」
その手間を考えただけで、うんざりしたように早乙女が呟く。
青の街の周辺に比べれば、まだ緑の街の周辺は車を走らせるのに若干の苦労はあったが、ここよりは走りやすかった。
ましてや、切り株の類は非常に厄介なのは間違いなく、それを引き抜く手間を考えただけで面倒臭くなる。
(ゴブリンを使えば……いや、出来るのか? 数を増やせばいけるか? もしくは、いっそもっと軍隊蟻を殺してそっちの数を増やすか……難しいな)
どうすれば出来るだけ楽に、そして確実に道を均すことが出来るのか。
それを考えている間にも車は進む。
だが、切り株の類は一つや二つではなく、青の街に近づくにつれて数が増えていく。
「……なぁ、鎌谷さん。なんだってここにはこんなに切り株が残ってるんだ?」
「いや、そう言われても……この道の担当は緑の街ではなく、当然青の街ですし」
「青の街って、この辺りでは栄えている街の一つなんだよな? だからこそ、緑の街と青の街と道で繋ごうと考えたんだし。なのに、これなのか? というか、よくこんな状況で青の街は栄えたな」
トワイライトの一人が、しみじみと呟く。
このように切り株が様々な場所にあるのでは、それこそ移動するのに大変だろうと。
車がこの辺りでは珍しいのを思えば、切り株がそこまで致命的な邪魔にはならないのは、誰にでも分かった。
だが、普通に歩くのでも、切り株が邪魔なのは間違いのない事実なのだ。
なのに、何故そのままにしておくのかと、そう言いたくなってもおかしくはなかったが……そんなトワイライトのメンバーの言葉に、鎌谷は慌てたように首を横に振る。
「い、いえ。前に来たときはこんな風に切り株はありませんでしたよ!?」
「……何?」
鎌谷の慌てたような言葉に、早乙女は低く呟く。
「鎌谷さん、それはどういうことですか? じゃあ、この切り株はいつどこから生えてきたってんです?」
「それを聞かれても……ただ、十日くらい前に緑の街から今回の道を通す件で青の街に行きましたけど、そのときは特に何も言ってませんでした。もしここまで切り株が増えているのなら、当然話題に上がったはずです」
そう告げる鎌谷は、とてもではないが嘘を言っているようには見えない。
つまり、それは真実であると、そういうことなのだろう。
しかし、当然の話だが切り株というのは自然に出来るものではない。
いや、自然に生えてきた木を切れば切り株が出来るのだが、現在白夜たちに見えているような大きさの切り株となるには、それこそ一年二年程度では無理だ。
「そうなると……誰かがわざわざ植えた、とか?」
「んな訳ねえだろ」
白夜が呟いた言葉に、それを聞いていたトワイライトの一人がそう告げる。
実際、白夜もそれは言ってみただけで、本気で言った訳ではなかった以上、その言葉に異論はない。
「理由はともあれ、こうして切り株が増えるとなると、道を通すにもちょっと……難しいっすね」
「そうだな」
仲間の言葉に、早乙女も同意するように頷く。
もしどうにかしてここに道を通しても、それこそこのような切り株が自然と生える……などということになれば、それはとてもではないが道として使えないだろう。
この切り株が生えている場所までなら楽に移動できるのだから、本当に何の意味もないという訳ではないのだろうが。
「そいつは、トレントだよ」
そう告げたのは、青の街から出てきた一人の男だった。
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