才能は流星魔法

神無月 紅

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異世界へ

0011話

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 ソフィアの厚意により、イオが倒したゴブリンの素材の剥ぎ取りやまだ使える武器を集めるといった仕事はスムーズに行われた。
 そんな中、イオはギュンターと一緒に戦場――という表現が正しいのかどうかは微妙だが――を見て回り、ゴブリンの死体を見つけてはそこから魔石を剥ぎ取ったり、ゴブリンの解体をする。

「ギュンターさん、ゴブリンの素材って売れるんですか?」
「売れるぞ。とはいえ、普通のゴブリンの素材はほとんど金にならないが。売り物になるのは……」

 そこで一旦言葉を止めたギュンターが見たのは、イオの前にあり、ギュンターが解体していたゴブリンの死体。
 普通のゴブリンと比べると二倍くらいの大きさを持つ上位種だ。

「こういう上位種だけだ」
「なるほど。ちなみにギュンターさんは解体がかなり上手いと思いますけど、傭兵でもモンスターの解体はするんですか?」
「は?」

 イオの言葉に、ギュンターは一体何を言ってるのかといったような不思議な表情を浮かべる。

(あ、これはミスったか?)

 ギュンターの様子を見る限り、モンスターの解体は傭兵も普通に行うことなのだろう。
 だというのに、イオは傭兵で解体をするのが珍しいといったように話したのだ。
 ギュンターにしてみれば、イオの言葉に疑問を抱くのも当然だろう。

「あー……その、俺はこの場所に来たばかりなので。俺が以前いた場所だと、傭兵の他にも冒険者というのがいたんですよ」
「ああ、冒険者か。こっちにもいるよ。とはいえ、傭兵と区別はほとんどないが」
「え?」

 ギュンターの口から出た言葉は、イオにとって完全に予想外だった。
 せっかく異世界に……それも剣と魔法のファンタジー世界に来たのだから、黎明の覇者に街まで送って貰ったあとは冒険者になるのかもいいかもしれないと興味を抱いていたのだ。
 だというのに、傭兵と冒険者が同じような意味だと言われてしまったのだから、それで絶句するなという方が無理だろう。

「ダンジョンに挑んだり、採取をしたり、モンスターを討伐したりといったような依頼を受ける者たちが冒険者と呼ばれていて、俺たちのように戦争に参加する者たちが傭兵と呼ばれているのだが……俺たちだってダンジョンに挑んだりモンスターを倒したりするし、冒険者も戦争に参加したりするんだ」
「そうなんですか!?」

 傭兵団ということから、黎明の覇者が行うのはあくまでも戦争への参加ばかりだろうと考えていたイオにしてみれば、完全に予想外の言葉。

「そうだ。そもそも戦争……あるいはそこまで大規模ではなくても戦いはそれなりに頻繁に起きているが、だからといってそれだけで全員が食べていけるほどじゃない。そういうときはモンスターの討伐であったり、ダンジョンがあればそこに潜ったりする」

 言われてみれば、その説明はイオにも納得出来た。
 黎明の覇者はランクA傭兵団だけあって、装備品も皆一流の品だと、イオであっても分かる。
 それ以外にも馬やモンスターが多数いるのだから、その世話でもさらに金がかかるだろう。
 ましてや、ここにやって来た者以外にも多数黎明の覇者の傭兵はいると聞いており、その者たちが生活するだけの金額はどうしても必要となる。

「それに、ダンジョンにはマジックアイテムがあったり、場合によっては古代魔法文明の遺産……アーティファクトがあったりする。傭兵団も戦力を拡充する意味で考えると、十分期待出来る場所なのは間違いないんだ」
「マジックアイテムに、アーティファクトですか」

 イオは好奇心を刺激するような単語に興味深そうにする。
 そんなイオの様子に気が付いたのだろう。ギュンターは笑みを浮かべて説明を続ける。

「俺たち黎明の覇者がここまで強力な傭兵団となったのは、人材やソフィア様の実力もあるが、ダンジョンから複数のマジックアイテムやアーティファクトを入手したのも理由だ。たとえば、ソフィア様の持っている槍も古代魔法文明のアーティファクトの一つだ」
「……あれが……」

 イオもソフィアの持っている槍を見ている。
 槍は非常に印象強かったので、あれがアーティファクトだと言われれば素直に納得出来た。

「さて、話はこのくらいにして、まずはゴブリンの解体を行おうか。その辺もやったことがないんだな?」
「はい。そういうのは全く」

 申し訳なさそうにイオが言うと、ギュンターはそんなイオの様子を特に気にした様子もなく、ゴブリンの解体を行っていく。
 上位種ではあるが、それでもゴブリンの一種である以上、他のゴブリンの解体の参考になる。
 そんなイオに対し、ギュンターは丁寧にゴブリンの解体方法を教えていく。

「モンスターは基本的に魔石を持つ。それは知ってるか?」
「はい。ただ、ゴーレムやアンデッドの一種であったり、中には普通のモンスターでも魔石を持っていない個体もいるという話を聞いたことがあります」
「正解だ。とはいえ、普通のモンスターならまず魔石を持っていると思ってもいい」

 ギュンターの説明に、イオは納得したように頷く。
 水晶から与えられた中途半端な知識から、イオも理解している。

「あとは討伐証明部位というのもある。これを持っていけば、ギルドで報酬を貰える」
「ゴブリンにもあるんですか?」
「ああ、ある。傭兵や冒険者になったばかりの者にしてみれば、ゴブリンの討伐証明部位は稼ぎの中心なることも珍しくない。イオも冒険者になる可能性があるのなら、その辺は覚えておいた方がいい。ただし、冒険者になったばかりの頃というのは一番厳しい時期となる」

 ギュンターとしては、出来ればイオには黎明の覇者に入って欲しいと思っている。
 しかし、まさかここで無理を言うといったような真似が出来るはずもない。
 ソフィアに禁じられているからというのもあるが、それ以前に黎明の覇者に入るのであれば自分の意思で入って欲しいという思いがあったためだ。

「なるほど。冒険者というのも予想していたよりも厳しい職業なんですね」
「その通り。高ランクになってくれば話は別だが、初心者というのは……こう言ってはなんだが、有象無象の集まりだ」
「でしょうね」

 そう言うイオだったが、それは恐らくそうだろうという予想であると同時に、日本にいるときに読んだ漫画の影響が強い。
 才能ある者も、才能がない者も……皆、等しく冒険者になったばかりの頃は新人冒険者なのだ。

「でも、それは傭兵も同じじゃないですか? 新人は有象無象が多いってのは」
「それは否定しない。だが……黎明の覇者に限っては、新人であっても相応の待遇だ。もっとも、黎明の覇者にいる新人は、才能ある者が多数だが」

 そう言われると、イオは自分がソフィアに勧誘されたのはかなり特別なことだったのだろうと納得する。
 流星魔法という才能はあれども、それ以外は全くの素人でしかないのだから。

「とにかく、討伐証明部位というのは新人にとっては大きな意味を持つとだけ覚えておけばいい。最も高値で買い取ってくれるのは魔石だが。……ああ、ちなみに魔石の類はギルドに売るといったことも出来るが、その場合は基本的に商人に売るよりも安値になる」
「そうなんですか? なら、ギルドで売る必要はないですね。……ちなみにそのギルドって一体何ギルドなんですか?」
「ギルドだな。他にも商人ギルドや鍛冶師ギルドといったものがあるが、傭兵や冒険者たちが使うギルドはただのギルドとなる。これは、俺たちが使うギルドが最初に作られたからだ。それに傭兵や冒険者がモンスターから剥ぎ取った魔石や素材は大きな意味を持つというのもある」

 詳しい話をギュンターから聞くと、傭兵や冒険者が使うギルドは他のギルドよりも格上という扱いで、だからこそただギルドと言った場合は傭兵や冒険者が使うギルドを示すらしい。

(というか、多分名前で揉めたってのもありそうだな)

 ギュンターの説明を聞きながら、イオはそんな風に思う。
 ギルドを利用するのが傭兵や冒険者である以上、傭兵ギルドなのか冒険者ギルドなのかで名前が違ってしまう。
 あるいはその二つをはっきりと区別すれば問題ないのかもしれないが、ギュンターからの説明を聞く限りだと、双方共に名前は違うがやっていることは重なっている部分が多い。
 だからこそ傭兵ギルドと冒険者ギルドの二つに分けたりといったような真似はせず、一つのギルドとして扱われているのだろう。

「ギルドって凄いんですね」
「そうだな。他の各種ギルドはどうしてもギルドには及ばない。国を跨いでいるから、その地を治めている貴族の影響が及ばないような組織は貴族にとって面白くない。だからこそギルドと同じようにはしたくないんだろう」
「え? その話を聞く限りだと、傭兵や冒険者が使ってるギルドは国を跨いで存在していますが、それ以外のギルドは違うんですか?」
「正確には違うところもあれば、違わないところもある。また、街によってもそれぞれ違うな。その辺はそれこそギルドによって大きく違う。……ふぅ」

 話していて暑くなってきたのか、ギュンターは兜を脱ぐ。
 露わになったギュンターの顔は、二十代半ばといったところか。
 イオと比べると大分年上といったところだ。
 だが、ギュンターは自分の顔を露わにしたことは特に気にした様子もなく、言葉を続ける。

「貴族以外にも、商人の中にもギルドに干渉してくる者はいる。先程も言ったが、傭兵や冒険者が手にいれた魔石の類を安く買い叩こうとしたりな」
「ああ、言ってましたね。つまり、商人の中にも当たり外れがある訳ですが」
「その言い方は少し違うな。安く買い叩こうとする商人であっても、しっかりと交渉すればギルドよりも高く買い取ってくれたりもする」

 まず最初に交渉ありきというのが、この世界の商売なのだろうとイオは納得する。
 日本にいたときは、基本的にスーパーやコンビニ、それ以外の店でもきちんと値段が決められていた。
 フリーマーケットのように値段交渉が出来るような店もあるが、基本的には最初から値段の決まっている店が日本では多かった。
 イオは自分がそんなやり取りに慣れることが出来るかと少し心配しながらも、まずはその商品を入手する必要があるとギュンターから教えてもらいながらゴブリンの死体を処理していくのだった。
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