その乾いた青春は

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飛び降りた天使

飛び降りた天使part6

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 「ねぇ、起きてよ!起きてよ!幸一!!」

 目を覚ますと、泣きじゃくるりりがすぐに目にはいった。

 「やだよ!幸一!幸一!!」

 「・・・・大丈夫。頭はうって・・ないから・・・・すぐには死な・・ない」

 「そうじゃないよ!今、救急車呼んだからね!私より先に死のうだなんて許さないんだから!!」

 キキィという音が聞こえ、黒の長い車が近くに止まる。

 「ちょっと!りり!なにしてるの!?」

 「お、お母様」

 「携帯のGPSが作動してると思ったら変な場所にいるし!・・・なにその人、それになんで二人とも裸足なの?もしかして、飛び降りたの!?」

 おそらく、救急車を呼ぶ時にりりは携帯の電源をいれた。そして、GPSが起動してしまったんだ。携帯のGPSは切っておくのが家出の基本だというのに。

 「お母様、あの」

 「ふざけないでよ!」

 りりの母親は平手打ちを彼女に叩き込む。

 「誰のおかげで生活できてると思ってるの!?あなたは私の跡継ぎにならなきゃいけないの!こんなつまんないことしてる場合じゃやいのよ!・・どうせこのつまんない男にそそのかされただけでしょうけどね、こんな気持ち悪そうな男と会うのはやめなさい!」

 りりの母親はまくし立てるように言葉をつむいだ。

 「お母様」

 「なに!」

 「幸一を馬鹿にするのはやめて」

 「はぁ?あなた誰にむかって」

 「やめて!」

 りりは今までに見たことのないようなすごい形相をしていた。

 「く、わたしに楯突くき!」

 母親はもう一度手を振り上げた。
 僕は朦朧とする頭を、なんとか持ち上げる。

 「りりのお母さん」

 「!?・・・なによ」

 「りりはもう飛べるんです。自分で自分の未来ぐらい決めれるんです。だから彼女の話を聞いてあげてください。それがいい母親というものではないんですか?」

 「・・なにを言って」 

 「いい!母親というものではないですか?」

 「・・・・く」

 「お母さん。私、跡継ぎなんてやりたくなかったの!でも、お母さんのことが嫌いってわけじゃないんだよ!ただ・・・」

 「・・・あぁ、もう、わかったわよ。また変な気起こされても困るしね」

 「お母様!!」

 母親が納得すれば、跡継ぎをしなくてもいい。そして、父親が失望したなんて言わなくなるだろう。

 やっと、やっと終わったんだね。りりの死ぬ理由が。

 そして、これでやっと・・・。

 僕の意識はそこで途切れた。
    
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