その乾いた青春は

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飛び降りた天使

飛び降りた天使part.FINAL

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 廃ビルの屋上。
 今では珍しいこんな場所でやることは一つである。

 自殺。

 「・・・・・」

 僕は裸足になった自分の足を見つめて、そして目をつむる。

 そして、まるで空に浮くように身を投げる。

 「・・・・・・・手を離してくれないかな」

 「いや」

 「手を」

 「いや!」

 僕の腕には、りりの手がしがみついていた。

 「君にはもう、死ぬ理由がない。もう離してくれ」

 「いやよ、いや!」

 「あのね」

 「私は!!」

 彼女は僕の顔をつかみ、自分の顔に引き寄せた。

 「生きる理由までも無くすつもりはないわ!」

 「そんな」

 僕はなんとか言い訳をしようとしたが、思いつかなかった。

 僕の生きる理由が、泣いてしまっていたから。

 「生きようよ」

 彼女は僕の腕を引く。

 「ねぇ、私と一緒に。・・・嫌?」
 
 「・・・・・・・・・それもいいかもね」

 「・・・幸一!」

 柵をまたぎ裸足をやめて、僕は錆びたドアノブを握り、少し振り返る。

 「幸一」

 彼女が僕を呼ぶ。

 そうして僕はためらいなく、ドアを開け屋上から出た。

 僕らはもう、飛べないだろう。
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