お金目的で王子様に近づいたら、いつの間にか外堀埋められて逃げられなくなっていた……

うしまる

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王子の思い出8

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「君は……」
 薄く唇を開けるイルヴィスにミラは胸をざわつかせる。
 こいつ、なにを偉そうにって思ってる⁉︎
 そんなことを考えて――
  なにか言葉をと、慌てて開いた口からは、
「だだだだから、その! イルヴィス様だって、意中の方とかいらっしゃるんだから。そんな償いなんかで、命を投げるようなことをしないでくださ――⁉︎」
 その時、イルヴィスはミラに抱き付いた。
 初めてミラに恋に落ちた時、溢れ出た好意の全て縛り付けるように。
 強く強く、抱きしめた。
「ささっ、早速フリ……ですか?」
 こっそりミラは問う。
 けれど、イルヴィスははっきりかぶりを振った。
 質のいい毛髪がミラの頬を撫でて回した。
「君だよ」
 イルヴィスは言う。
「……え?」
「ずっと好きで愛おしくて、恋焦がれていたのは君なんだ」
 告げられた言葉にミラは硬直する。
 のち――
「はえぇぇぇぇ⁉︎」
 慌てて、イルヴィスから身体を離そうと身を捩る。
 関係性を確認する必要があった。
 けれど、その重たい腕は決して離れることはなく――
「……っふふ、離さないよ」
「えっ!」
 まずい、まずい、これは非常にまずいのでは⁉︎ 呟きながら慌てふためく。
 しかし、そんなミラをも慈しむようにイルヴィスは微笑んで。
「今ね、君との未来が見えたんだ。ずっと見えなかったのに……。僕と君が楽しそうに笑ってて、二人仲良く手を繋いでるんだ」
「そそ……、そんな未来は私には見えませんが⁉︎」
「大丈夫、すぐに君も見えるようになるから。ずっとね、君は僕に気が付いていないんだって思ってた。でも、ずっと気がついてくれてたんだね……」
「ず、ずっと⁉︎」
 いえ、思い出したのはついさっきです。
 もっといえば、手紙を読んで、書かれた年代を思い起こして、尚ぐるぐると日暮まで頭を回してやっと絞り出した記憶です。
 とは、流石のミラも反動が恐ろしすぎて言えなかった。
「ごめんね、ずっと待たせちゃって。寂しかったよね、辛かったよね。もう、絶対に君から離れないたりしないからね。不安にさせたぶん、ちゃんと責任を取るから安心して」
「せ、責任⁉︎」
「うん、僕がどれだけ君のことを愛しているのか伝えるよ」
「べ、別に……、そそそんな気を遣わなくても……」
 イルヴィスの異様な気配にミラは、首を振る。けれど、イルヴィスにその思いは伝わらなかった。
「ははっ、昨晩も思ったけど君は恥ずかしがり屋だね。大丈夫、そんな直ぐに取って食おうなんてしないから。まず君には、僕の誠意を見てもらわないと」
「……せ、誠意って」
 ミラは顔を引き攣らせる。
「ずっと縛って、ずっと守る。もう君との大切な思い出もたりはしないよ」
 盗らせる……? 違和感を覚えたミラは一瞬引っ掛かりを覚える。しかし、それよりも――
「縛る⁉︎ しかも、って!」
 恐れ慄くミラ。イルヴィスは、あははと笑いながら、
「大丈夫だよ。この前みたいに可愛いのにするから。もう、最初みたいな冷たくて痛いのはしないよ」と。
「そ、そういう意味ではなくて!」
「えぇ……。じゃあ、なんだろう」
 言いながらイルヴィスは、にまにまと笑って腕から僅かに力を抜いていく。
 それを罠だと気付かぬミラは、その隙を目敏く察知して。当然の如く狙って、イルヴィスの肩を押し返した。
 同時に、思い切り足を後退させる。
 けれど、運悪くもつれてしまい倒れそうになる。
「っわわ!」
「大丈夫? そんなに慌てると危ないよ」
 しかし、その間にイルヴィスの手が伸びてきたものだから、焦ったミラは湖に飛び込んで――
 真っ暗な水面の、そこに写る満天の星空の中に沈み込む。
 ミラには考えなんてものはなかった。
 ただ、身の危険を感じて逃げたというだけだ。
 けれど、それはあまりに正しい判断で。
 水に沈みながらも、一生懸命もがき進もうとするミラの身体はすぐに強い力で引き上げられた。
 それは、後ろから抱き留められるようにして伸びたイルヴィスの両腕で、ミラはあっという間にイルヴィスの手中に落ちてしまったのだ。
「逃げようとしたの?」
 ミラの耳元でイルヴィスは問う。
 濡れた身体に熱い吐息が降り掛かった。
「無理だよ、そんなこと」
 その声は、まるで優しいものだった。
 イルヴィスは腕に力を込めると共に、口元を緩めていき、
「諦めてね」
 ミラの首元へと口付けを落としていったのだった。
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