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誘拐
楽しいお出かけ
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案内とは、口を突いたものの特に何処へとは考えていなかった。
だから、正直に「気になられている所はありますか」と聞けば、「ルーメル修道院のマーガレット園」と返ってきたので希望に従うことにした。
ルーメル修道院は、王都から馬車でもさほど遠くはない。馬車でも、ほんの数時間揺られていれば十分に着く距離だった。
とはいえ、それは崖の上にある。道中の悪路を考えれば、些か気が引ける思いもあったものの、ミラであればそんな知識はないだろうと考えての承諾だった。
移動を始めて三十分ほどした頃だろうか。
外の景色が生い茂る緑と土ばかりが目につくようになった頃。
ここまで景色を眺めてばかりだったシャーレアが、おもむろにこちらを向いた。
「ミラ様、本日は突然ながらお時間をいただき、誠にありがとうございます。兼ねてからご一緒させていただきたいとは思っておりましたが、まさかこんなにも早く叶うなんて。思ってもみない光栄です」
そういって浮かべる笑みには強い喜色が乗っていた。
だから、こちらもニコリと笑んで、
「こちらこそ」
なんて当たり障りのない言葉を返しておいた。
シャーレアがまた外へと視線を向ける。
そこからまた会話がなくなった。
ただのつまらぬ風景を、なにが面白いのか、にこやかに眺めていた。
目を瞑る。暫くは、走る馬車の音に耳を傾けていた。
「ミラ様……?」
小さな声でシャーレアが呼び掛けた。
けれど、返事はない。
「あら……? 寝てしまわれたのかしら?」
シャーレアは軽く微笑み小首を傾げた。
暫く見つめてみる。しかし、馬車の壁にもたれるようにして目を瞑るミラに、動きは見られなかった。
ふふっと笑みを溢す。
「どうぞそのまま。ごゆっくり、おやすみくださいね」
言いながら、首にかけた華奢な十字架を、ドレスの胸元から表に出す。
至極幸せそうな笑みを浮かべながら、十字架を胸に抱いた。
「起動――ラーフルの十字架・発動――炎の中位魔法・罪深き咎人に断罪のほの――」
しかし、同時だった。
シャーレアの額に鋭い痛みが走る。
思わず詠唱を止め、その異変に目を見張った。
シャーレアの額からは光る刃が伸びていて、その柄をミラが握っていた。
そこには既に赤の一線が滴り落ちて。綺麗な顔を、真っ二つに割るように分けていた。
額を突くミラの刃がなぞるようにゆっくり降下する。
それは、シャーレアの眼前にまで突きつけられて。シャーレアは思わず唾を呑み込んだ。
「貴女……、起きていたの?」
ミラの顔は笑っていた。
けれどそれは、シャーレアの知る腑抜けた笑みなどではなく、どこか気高さと気品に満ちた、まるで最愛の人を彷彿させるような眼差しだった。
「こんにちは、シャーレア嬢。様相詠唱は、簡潔明瞭が基本だよ」
ドス黒い闇が凛と輝く。それはまるで黒百合のようだった。
だから、正直に「気になられている所はありますか」と聞けば、「ルーメル修道院のマーガレット園」と返ってきたので希望に従うことにした。
ルーメル修道院は、王都から馬車でもさほど遠くはない。馬車でも、ほんの数時間揺られていれば十分に着く距離だった。
とはいえ、それは崖の上にある。道中の悪路を考えれば、些か気が引ける思いもあったものの、ミラであればそんな知識はないだろうと考えての承諾だった。
移動を始めて三十分ほどした頃だろうか。
外の景色が生い茂る緑と土ばかりが目につくようになった頃。
ここまで景色を眺めてばかりだったシャーレアが、おもむろにこちらを向いた。
「ミラ様、本日は突然ながらお時間をいただき、誠にありがとうございます。兼ねてからご一緒させていただきたいとは思っておりましたが、まさかこんなにも早く叶うなんて。思ってもみない光栄です」
そういって浮かべる笑みには強い喜色が乗っていた。
だから、こちらもニコリと笑んで、
「こちらこそ」
なんて当たり障りのない言葉を返しておいた。
シャーレアがまた外へと視線を向ける。
そこからまた会話がなくなった。
ただのつまらぬ風景を、なにが面白いのか、にこやかに眺めていた。
目を瞑る。暫くは、走る馬車の音に耳を傾けていた。
「ミラ様……?」
小さな声でシャーレアが呼び掛けた。
けれど、返事はない。
「あら……? 寝てしまわれたのかしら?」
シャーレアは軽く微笑み小首を傾げた。
暫く見つめてみる。しかし、馬車の壁にもたれるようにして目を瞑るミラに、動きは見られなかった。
ふふっと笑みを溢す。
「どうぞそのまま。ごゆっくり、おやすみくださいね」
言いながら、首にかけた華奢な十字架を、ドレスの胸元から表に出す。
至極幸せそうな笑みを浮かべながら、十字架を胸に抱いた。
「起動――ラーフルの十字架・発動――炎の中位魔法・罪深き咎人に断罪のほの――」
しかし、同時だった。
シャーレアの額に鋭い痛みが走る。
思わず詠唱を止め、その異変に目を見張った。
シャーレアの額からは光る刃が伸びていて、その柄をミラが握っていた。
そこには既に赤の一線が滴り落ちて。綺麗な顔を、真っ二つに割るように分けていた。
額を突くミラの刃がなぞるようにゆっくり降下する。
それは、シャーレアの眼前にまで突きつけられて。シャーレアは思わず唾を呑み込んだ。
「貴女……、起きていたの?」
ミラの顔は笑っていた。
けれどそれは、シャーレアの知る腑抜けた笑みなどではなく、どこか気高さと気品に満ちた、まるで最愛の人を彷彿させるような眼差しだった。
「こんにちは、シャーレア嬢。様相詠唱は、簡潔明瞭が基本だよ」
ドス黒い闇が凛と輝く。それはまるで黒百合のようだった。
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