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王子の想い4
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些細なことだ。
幼い頃から婚約を交わしていた僕たちは、五歳差故に兄妹のように遊ぶことが多かった。
大体は、僕がメティシアに色んな事を教える役。メティシアは確かに僕を慕っていた。
ある時――確か五歳と十歳だった時、メティシアが可愛らしい大きなリボンを頭につけていた。
僕から見れば、幼いながらに一生懸命なお洒落をしていると微笑ましかった。
だからメティシアに聞かれた時も「とても可愛いよ」と伝えた。メティシアも喜んでいて、楽しい記憶となる筈だった。
けれど、後日メティシアはぷりぷりと怒っていた。理由を聞けば、茶会に出た時、とある男の子から「子供っぽい」「似合わない」と言われたらしい。それから、大人はこういうのを着けるんだよと、髪飾りを投げつけられたと言っていた。
それだけ聞けば、その男とやらがメティシアに好意を持っていたとすぐ分かる。それだけで、多少の苛立ちは覚えたが、取り敢えずはメティシアを宥めようとした。
けれど、それが裏目に出た。
メティシアは『大人っぽさ』に憧れているところがあったから、どうやら僕が世辞を言ったと思ったらしい。
怒りの矛先はとりなす僕に向いたのだ。
「ユリウス様も子供っぽいって思ってたんだ!」
「そんな事はない。メティによく似合って本当に可愛いかったよ」
「可愛いっていうのは子供にいう言葉だって言ってたもん。大人なら美しいって言うんだって」
「でも、メティはまだ大人じゃないだろう?」
「違うけど、早く大きくなりたいの! ユリウス様とおんなじになりたいの!」
「それは無理だよ。僕とメティは同じだけ歳をとるからね」
「じゃあ、ずっと美しいにはなれないの……?」
「それは分からない。でも、ずっと可愛いのは確かだよ」
僕はその時、メティシアを抱き締めた。
けれど、小さいながらに強い力で突き飛ばされた。
初めてのメティシアの拒絶だった。
「……大嫌い」
「えっ」聞き間違えかと思った。
けれど、メティシアは僕を睨みつけた。
「ユリウス様なんか大嫌い」
その機嫌はどう治ったかは覚えていない。確か、時間経過で自然に戻っていたと記憶している。
それが一時の勢いで放たれた言葉だということも、十分に理解していた。
けれど、問題はそこではなかった。
問題は、メティシアの拒絶にあった。
あんなに僕を慕っていたメティシアからの拒絶、それは僕に大きな衝撃を与えたのだ。
今はまだ幼く深い考えはないだろう。だからその言葉も想いも、すぐに消えてなくなる。けれどこれから成長していく中で、もっとはっきりとした意志を持って拒絶されてしまったら……?
そんな未来に恐怖した。
恐らく、その時にはもうメティシアのことが愛おしくて堪らなかったんだろう。
自分だけのものにしたいと、醜い独占欲があったのだろう。
すべきことは自ずと浮かび上がった。
一つに、メティシアを穢す存在を近付けないこと。
もう一つに、メティシアに嫌われない行動を徹底すること。
メティシアは僕の『みんなに優しいところ』が好きだと言っていた。
本当はメティシアの前だけでの良い顔だったのだが、そう言われては演じ切るより他はなかった。
無駄な相談をしてくる奴、婚約者がいるのに色目を使ってくる奴、色んな者が近付いてきた。年頃にもなればかなりの割合が女性になり、煩わしくも思った。けれど無碍にしているところをメティシアに見られては堪らない。必死で良い顔を演じきっていた。
どうせ頑張っているのならせめてメティシアに見てもらいたいとアピールもした。メティシアも『相変わらずお優しいですね』と褒めてくれていて、全てが順調に進んでいた。
仮面舞踏会――少し道を外れた時もあった。でも、どうにか僕がメティシアの道を正して救い上げた。
僕たちは、確かに良い感じだったのだ。
舞うメティシアはとても美しかった。
そんなことは、見せられなくたって十分に知っていた。
だから隠していたのに。
他に取られないよう、必死で守ってきたのに。
会場を見渡せば、メティシアに集まる視線がいつもとは別物だとすぐに気が付いた。
皆、見ている――呪いの元凶としてでも王子の婚約者としてでもなく、メティシア・カーラスという一人の美しい女性として。
心底嫌な気になった。
すぐにメティシアを閉じ込めてしまいたくなった。
そして、二度と僕以外の目には触れさせたくないと思った。
幼い頃から婚約を交わしていた僕たちは、五歳差故に兄妹のように遊ぶことが多かった。
大体は、僕がメティシアに色んな事を教える役。メティシアは確かに僕を慕っていた。
ある時――確か五歳と十歳だった時、メティシアが可愛らしい大きなリボンを頭につけていた。
僕から見れば、幼いながらに一生懸命なお洒落をしていると微笑ましかった。
だからメティシアに聞かれた時も「とても可愛いよ」と伝えた。メティシアも喜んでいて、楽しい記憶となる筈だった。
けれど、後日メティシアはぷりぷりと怒っていた。理由を聞けば、茶会に出た時、とある男の子から「子供っぽい」「似合わない」と言われたらしい。それから、大人はこういうのを着けるんだよと、髪飾りを投げつけられたと言っていた。
それだけ聞けば、その男とやらがメティシアに好意を持っていたとすぐ分かる。それだけで、多少の苛立ちは覚えたが、取り敢えずはメティシアを宥めようとした。
けれど、それが裏目に出た。
メティシアは『大人っぽさ』に憧れているところがあったから、どうやら僕が世辞を言ったと思ったらしい。
怒りの矛先はとりなす僕に向いたのだ。
「ユリウス様も子供っぽいって思ってたんだ!」
「そんな事はない。メティによく似合って本当に可愛いかったよ」
「可愛いっていうのは子供にいう言葉だって言ってたもん。大人なら美しいって言うんだって」
「でも、メティはまだ大人じゃないだろう?」
「違うけど、早く大きくなりたいの! ユリウス様とおんなじになりたいの!」
「それは無理だよ。僕とメティは同じだけ歳をとるからね」
「じゃあ、ずっと美しいにはなれないの……?」
「それは分からない。でも、ずっと可愛いのは確かだよ」
僕はその時、メティシアを抱き締めた。
けれど、小さいながらに強い力で突き飛ばされた。
初めてのメティシアの拒絶だった。
「……大嫌い」
「えっ」聞き間違えかと思った。
けれど、メティシアは僕を睨みつけた。
「ユリウス様なんか大嫌い」
その機嫌はどう治ったかは覚えていない。確か、時間経過で自然に戻っていたと記憶している。
それが一時の勢いで放たれた言葉だということも、十分に理解していた。
けれど、問題はそこではなかった。
問題は、メティシアの拒絶にあった。
あんなに僕を慕っていたメティシアからの拒絶、それは僕に大きな衝撃を与えたのだ。
今はまだ幼く深い考えはないだろう。だからその言葉も想いも、すぐに消えてなくなる。けれどこれから成長していく中で、もっとはっきりとした意志を持って拒絶されてしまったら……?
そんな未来に恐怖した。
恐らく、その時にはもうメティシアのことが愛おしくて堪らなかったんだろう。
自分だけのものにしたいと、醜い独占欲があったのだろう。
すべきことは自ずと浮かび上がった。
一つに、メティシアを穢す存在を近付けないこと。
もう一つに、メティシアに嫌われない行動を徹底すること。
メティシアは僕の『みんなに優しいところ』が好きだと言っていた。
本当はメティシアの前だけでの良い顔だったのだが、そう言われては演じ切るより他はなかった。
無駄な相談をしてくる奴、婚約者がいるのに色目を使ってくる奴、色んな者が近付いてきた。年頃にもなればかなりの割合が女性になり、煩わしくも思った。けれど無碍にしているところをメティシアに見られては堪らない。必死で良い顔を演じきっていた。
どうせ頑張っているのならせめてメティシアに見てもらいたいとアピールもした。メティシアも『相変わらずお優しいですね』と褒めてくれていて、全てが順調に進んでいた。
仮面舞踏会――少し道を外れた時もあった。でも、どうにか僕がメティシアの道を正して救い上げた。
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舞うメティシアはとても美しかった。
そんなことは、見せられなくたって十分に知っていた。
だから隠していたのに。
他に取られないよう、必死で守ってきたのに。
会場を見渡せば、メティシアに集まる視線がいつもとは別物だとすぐに気が付いた。
皆、見ている――呪いの元凶としてでも王子の婚約者としてでもなく、メティシア・カーラスという一人の美しい女性として。
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