私を愛するスパダリ王子はヤンデレでストーカーでど変態だった

うしまる

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レアの不在

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 翌日、レア・クレアという女生徒が大怪我をしてそれをユーリ王子が助けたという話は学園内での大きな話題となっていた。
「流石ユーリ様よねぇ」
「でも、その子、フォンテーヌ城で面倒を見てもらっているんでしょう?」
「そうそう、しかもユーリ様の治癒付き! 羨ましい~~」
「しかも、ここだけの話、その子って少し前からユーリ様に目を掛けられていたみたいよ?」
「えぇ? 私は普通の子って聞いたけど。校舎だって、講義棟の……」
「そうなんだけど、なんか植物園で何度か会っているのを見た人がいるらしいの」
「なにそれ! あっ、でも入学してすぐにユーリ様に校舎まで送って貰っている子がいたのってまさか……」
 女子達の噂話に嫌気がさして教室を後にする。ため息をつきながら、廊下をほっつき歩けば声を掛けられた。
「レオン」
 振り返れば今は最も会いたくない人物だった。けれど無視をするわけにもいかない。渋々向き直って挨拶をした。
「おはようございます、カリーナ様」
 カリーナ・ジェラルド――父親がレアとの縁談を先延ばしにしている元凶だ。
「ノブレス館におわす貴女が何故こちらに?」
 身分差を考えれば普通ではあり得ない態度だ。けれど、嫌われでもして興味を失って貰いたかった。大した接点もない癖に、何故ここまで自分にこだわるのか理解できない。
 カリーナとの付き合いは確かに長い。初めて会ったのは八つの時だろうか。とはいえ、レアのように頻繁に会うわけでもなく、年に二回も顔を合わせれば良い方だった。
 しかし、レオンが入学してからは日に一度は近付いてきた。それとなく逃げることもあれば、気が付かないフリをすることもある。
 とはいえ、明らかに避けていることは分かるはずだった。
「あら、冷たいのね。私が足繁く貴方に会いに来ていることなんか分かっている癖に」
 ウェーブがかったブロンドヘアを靡かせる。流石に侯爵家の令嬢ともなれば、その所作だけで見ているものを魅了した。
 長いまつ毛に吊り気味の大きな目。ぷっくりと膨らむ唇は艶めいて、カリーナは美人だと評判だった。けれどレオンには、丸い目をパチクリとするあどけないレアの方が俄然好みであった。
「レアさん、大変なことになってしまったわね」
「えぇ、ですが、フォンテーヌ城で診てもらっておりますので」
「そうね、あそこには最新の設備があるし、きっと心配いらないわ。それにユーリ殿下もついておられるし」
 カリーナの言葉にレオンは唇を噛んだ。
 レアの為に動けるユーリと比べ、何もできない自分が悔しかった。
 そんなレオンの腕にカリーナは手を添えた。
「大丈夫、貴方には貴方ができることをやれば良いのよ。私はレオンの事をずっと見てきたから、レアさんが貴方にとって大切な女性だというのは分かってるわ。なら信じて、レアさんが戻ってきた時のことを考えましょう」
 カリーナは穏やかな声でレオンへ言葉を落とす。レオンは不貞腐れたような顔で俯いた。
 カリーナは困ったように笑う。
「ほら、例えば戻ってきた時、レアさんは勉強に困るんじゃない? あとは実技なんかも。長期で休んだ子には補習もあるけど、あまり充実していないのよ。ほら、私も一年生の時、病気で数ヶ月休むことになったから……」
 カリーナが休んでいたというのは前々から聞いていた。詳しい病名は聞いていないが、酷い貧血状態だったらしい。
「私の場合は兄がいたからなんとかなったけど、レアさんの場合はそうもいかないでしょう? ならレオンがしっかり学んで先生役をこなせるようにしないと」
 言いながらカリーナはレオンの腕をポンポンと叩いて手を離した。
「流石に治癒空間に入れてあげるのは無理だけど、レアさんの様子なら叔父様に聞けば詳しいことが分かるはずよ。できるだけ報告するようにするわ」
 カリーナの父――ジェラルド侯爵の弟は宮廷で首席治癒官を務めていた。
「ね、だから、前向きに考えましょう。叔父様から話を聞いたらまた来るわ」
 たおやかな笑みを浮かべ、カリーナは背を向けて去っていった。
 暫くして、窓外からノブレス館に向かうカリーナの姿が窺えた。やはり自分に会うためだけに講義棟へ足を運んだのだとレオンは思った。
 レオンも踵を返して教室へと戻った。
 
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