私を愛するスパダリ王子はヤンデレでストーカーでど変態だった

うしまる

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献身2

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 カリーナが連れていったのは、ノブレス館の三階にあるテラスだった。そこにはテーブルセットが用意され、六名ほどの給仕が控えていた。
「いつも同じ場所というのも芸がないと思ったのよ」
 楚々と笑んでカリーナはいう。二人が席に着くと、メイドの一人が茶の支度をし始めた。
 いつも二人が話をするのは待ち合わせをした中庭だった。大体会うのは昼休みが多いので、そこにあるベンチでサンドイッチなんかの軽食を交えつつ、レアについての報告をするのだった。
「いつも通り、気は遣わないでね」
 カリーナはスプーンを持ってスープを掬う。唇で熱さを確かめてから小さく飲み込んだ。
 目の前にはスープやらパンやらスクランブルエッグやら、鮮やかなメニューがきっちりと並んでいた。レオンの方にだけやたらと大きいステーキが置かれており、カリーナの方には小さな魚のムニエルが置かれていた。
 レオンはそれを見て少し不思議に思う。けれど、特段口には出さないまま「ありがとうございます」とパンを手に取った。
「それでレアさんの件だけど、やはり様子がおかしいわね。叔父様に宮廷系列の施設も全てあらって貰ったのだけど、やはり『レア・クレア』という患者の情報はなかったそうなの」
 カリーナはスプーンを置き、置かれたカップを手に取って口を付けた。
 最初にカリーナがレオンに伝えたのは、王城内の医療施設利用者にレアの名がないという情報だった。そこからカルテがあるかどうか、治癒空間の利用者履歴など、不思議なほどに見つからないレアの存在を探しては報告をしているのだ。
「ユーリ殿下がご登園なされたら伺うのが一番なのだけど……」
「休まれているんですね」
 カリーナは小さく頷いた。
「お姿はあまり見えないけれど、フォンテーヌにいらっしゃるとは聞いたわ」
「では、やはりレアの治療を……」
 レオンの言葉にカリーナはかぶりを振った。
「叔父様の話なら、殿下は確かに高位治癒を扱えるけれど、治癒術の専門でもなければ治癒師認定を受けているというわけではないのよ。だから、実際に患者を持つことはないはずだそうなの」
 カリーナは思案顔の顎に手を添えた。
「ならばユーリ殿下直々に治療にあたられているという話はあまり考えられないわ。フォンテーヌの治癒空間で治療中となっているレアさんの居場所についても……」
 一つため息を吐いてからカリーナは続けた。
「分かるのは隠されているということぐらいね」
「隠されている……」
 カリーナの重い言葉にレオンは呟いた。
「一番あり得るのは、今回は殿下の口利きだから、それこそ公にされてない特別な場所や待遇を与えられているのかもしれないわ。叔父様も治癒室長とはいえ、更に上席の長官、果ては王家なんかに口止めをされてしまったら、幾ら私が尋ねようと真実は口にできないはずよ」
 それに、とカリーナは続けた。
「治癒空間での治療だって、そう簡単に受けれるものではないもの。言いづらいことだけど病状よりも立場や身分を優先されてしまうから、何年も待っている、コネを探している、そんな話はよく聞くわ。……もっとも、その理由なら何故マギラにあそこまでの噂が広まってしまったのか。そこが引っ掛かるところなのだけど」
 レオンもその言葉に頷いた。
「……あの時間、もう殆ど人はいませんでした。レアが怪我をしたのは研究棟の裏ですし、口止めだってそう手間は掛からないはずです」
 研究棟にいるのは研究員として勤める職員ばかりだった。優秀な生徒が研究協力をするなど、特別な理由がなければ普通は立ち入ることはない。
「研究棟……?」
 案の定カリーナが怪訝に首を傾げた。レオンはすかさず口を開く。
「あいつ、壊滅的な方向音痴なんです」
「えっ? ほうこうおんち?」真面目な話に突拍子もない理由。カリーナは気の抜けたような顔をした。
「はい、真っ直ぐ行くだけでも迷うような奴なんです」
 少し外へ出るだけですぐ迷子になったレアを思い出す。そのせいで、本人が気が付いていないのを含めて何度も誘拐されかけていた。
 よくレアは『さっきはこんな道なかったのに!』なんてことをいう。初めは不注意で、よく見ていないだけだろうと思っていた。
 けれどレアの『私を連れて行こうとしたのは皆んな同じ人の気がするんだよね』という言葉で、幻覚作用のある魔術を使われている可能性を考え始めた。
 カリーナは苦笑のような表情を浮かべる。「……そうなのね」と呟いた。
 少し間を置いてからカリーナは、渋い顔で頭を回すレオンに呼び掛けた。
「ねぇ、レオン」
「……はい」
 レオンは明らかにレアのことで頭がいっぱいだった。空返事のレオンに眉を寄せつつも、カリーナは少し声を大きくして続けていった。
「実はね、私今度、フォンテーヌ城の治癒空間に入るのよ」
「えっ」レオンは驚くように顔を上げた。
 驚いたのは『治癒空間に入れる』という事実だ。残念ながらカリーナについての心配ではなかった。王子の話ではそう簡単に入れそうにはなかったのに。
「定期的に通っているのだけど、身体に治癒力を取り入れるの。免疫の補助とでもいうのかしらね。治癒で身体を強化するイメージよ」
「そう、なんですか……」
「えぇ、それでね、今回の治療に貴方を付き添いという形で連れて行きたいと考えているのよ」
「えっ……」
 カリーナの言葉にレオンは言葉を詰まらせた。それから視線を逸らして顔を曇らせる。
 親類でも婚約者同士でもない男女が二人で城に上がれば、噂になるのは確実だった。それはレアとの関係に更なる亀裂を生みかねない。極力避けたいことだった。
 そんなレオンを見てカリーナは困ったように眉を下げる。
「貴方が考えていることは分かるわ。でもね、今もっとも有力な情報は『ユーリ殿下がフォンテーヌ城にいらっしゃる』ということでしょう? ならばどんな理由だって、城に上がれるというのは貴重なことのはずよ」
「それは……」レオンも十分に理解していることだった。
「それにね」カリーナは後押しをするよう続けていった。「貴方は、ユーリ殿下とレアさんが一緒にいるのではと気になっているのでしょう?」
「……っ」レオンは思わず目を伏せた。
 そんな姿にカリーナはそっと微笑む。
「なら、ユーリ殿下のお姿を見るだけでも安心できないかしら? レアさんとは全く違うところでお仕事をなされていたら、考えすぎだったと切り離すことができるのではないかしら?」
「それは……」
 雲の上の存在であるユーリが、マギラでは目立つ身分でないレアを気に掛けていたのが、やはり引っ掛かっていた。
 特に、研究発表の協力――レアの話を聞いても不可解なところは多い。ユーリならば、それこそツテは幾らでもあるはずなのに。
 政略的なものか――考えはしたがしっくりこない。けれど二人には、大した接点もないはずだった。
 ユーリが自分と同じ想いをレアに抱いている――そんなことは万が一にもありえない。
 ありえないはずなのに。
 レオンの頭には、そればかりが頭を巡っていた。
「ねぇ、レオン。私との噂は何もなければいつか消えるものでしょう? でも、レアさんが置かれている状況は確実に普通ではないわ。ならば、どちらを優先すべきかは明白じゃない?」
「……優先」
 苦悶の表情で呟くレオンにカリーナは静かに語りかけた。
「信じて、私は貴方の味方よ。貴方の力になりたいだけなの」
 その言葉にレオンはすぐに答えを出せなかった。
 カリーナは続ける。
「私は貴方が好きなの。好きだからこそ、何でもしたい。それだけなのよ」
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