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変化1
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「これ飲んで」
目覚め早々、王子はにこやかにジュースの入ったグラスを差し出した。色からして葡萄だろうか、濃い紫色だった。
「……えっと」
「寝起きだから喉乾いてるでしょ?」
笑顔の圧に負け、私は渋々受け取った。
「あの……、まずはお水を飲ませていただいても宜しいでしょうか?」
寝起き一番なので、甘いものよりさっぱりしたもので喉を潤わせたかった。けれど、王子は笑みを崩さず「だめ」と。
「折角作ったから早く君に飲んでもらいたいんだ」
「作った……」
「うん、君は甘いものが好きでしょ。だから色々調べて作ってみたんだ。ジュース作りなんて初めてだったけど、中々上手くできたと思うよ」
自慢げに告げる王子に、改めてグラスに目を落とした。
まぁ、これ飲んでからお水飲めばいっか……。そんなに多くないし。
首を潰されそうになってから、王子の機嫌を損ねるのはとにかく避けていた。
「分かりました。では、いただきます」
小さく呟いて、一気にグラスを傾けて飲み干した。
思ったよりも軽い喉越しで爽やかな後味だった。
「どう?」
「えっと……、美味しい? ですかね」
何というか不思議な味だった。味は濃いのに葡萄感が薄いというか、初めて得る風味だった。
「そっか、なら良かった」
満足そうに王子は頷いて、私からグラスを受け取った。
「じゃあ僕は今日、用事があるから」
「えっ」王子の不在報告に目を瞬いた。
ここに来て初めてのことだったので驚いただけなのだが、王子は嬉しそうに顔を綻ばせた。頭をすりすりと撫でてくる。
「ごめんね、どうしても片付けないといけないことがあるんだ。一応寂しくないように、本を数冊用意しておいたから」
「本……」
王子はテーブルの方へ顔を向けた。私も同じ方へと目を向ければ、食事の横に本が積み上げられていた。
「ほら、君がずっと読みたがってたやつ。騎士とお姫様の恋の話だよ。続編も含めて全巻あるからね」
「あ……、ありが……」
ぱあっと心が明るくなり、礼を言おうとしたところで引っ掛かった。
王子とそんな話をしたことはないはずだ。
ゾワっと腕が粟立った。
「……あの」
「どうしたの?」
「それも、日記で……?」
おずおずと尋ねれば、王子は「そうだよー」と何でもないみたいに返事をした。
その瞬間、一時の喜びはびっくりするほど冷めていった。
「僕も読んだけど、結構面白い話だったよ。読み終えたら一緒に話そうね」
ポンポンと私の頭を叩き、王子は「じゃ、そろそろいくね」と背を向けた。
内心ほっとしたのも束の間、すぐに立ち止まって私を振り返った。
「戻ったらいっぱい可愛がってあげるからね」
不穏な言葉を残し、鼻歌混じりに立ち去った。
目覚め早々、王子はにこやかにジュースの入ったグラスを差し出した。色からして葡萄だろうか、濃い紫色だった。
「……えっと」
「寝起きだから喉乾いてるでしょ?」
笑顔の圧に負け、私は渋々受け取った。
「あの……、まずはお水を飲ませていただいても宜しいでしょうか?」
寝起き一番なので、甘いものよりさっぱりしたもので喉を潤わせたかった。けれど、王子は笑みを崩さず「だめ」と。
「折角作ったから早く君に飲んでもらいたいんだ」
「作った……」
「うん、君は甘いものが好きでしょ。だから色々調べて作ってみたんだ。ジュース作りなんて初めてだったけど、中々上手くできたと思うよ」
自慢げに告げる王子に、改めてグラスに目を落とした。
まぁ、これ飲んでからお水飲めばいっか……。そんなに多くないし。
首を潰されそうになってから、王子の機嫌を損ねるのはとにかく避けていた。
「分かりました。では、いただきます」
小さく呟いて、一気にグラスを傾けて飲み干した。
思ったよりも軽い喉越しで爽やかな後味だった。
「どう?」
「えっと……、美味しい? ですかね」
何というか不思議な味だった。味は濃いのに葡萄感が薄いというか、初めて得る風味だった。
「そっか、なら良かった」
満足そうに王子は頷いて、私からグラスを受け取った。
「じゃあ僕は今日、用事があるから」
「えっ」王子の不在報告に目を瞬いた。
ここに来て初めてのことだったので驚いただけなのだが、王子は嬉しそうに顔を綻ばせた。頭をすりすりと撫でてくる。
「ごめんね、どうしても片付けないといけないことがあるんだ。一応寂しくないように、本を数冊用意しておいたから」
「本……」
王子はテーブルの方へ顔を向けた。私も同じ方へと目を向ければ、食事の横に本が積み上げられていた。
「ほら、君がずっと読みたがってたやつ。騎士とお姫様の恋の話だよ。続編も含めて全巻あるからね」
「あ……、ありが……」
ぱあっと心が明るくなり、礼を言おうとしたところで引っ掛かった。
王子とそんな話をしたことはないはずだ。
ゾワっと腕が粟立った。
「……あの」
「どうしたの?」
「それも、日記で……?」
おずおずと尋ねれば、王子は「そうだよー」と何でもないみたいに返事をした。
その瞬間、一時の喜びはびっくりするほど冷めていった。
「僕も読んだけど、結構面白い話だったよ。読み終えたら一緒に話そうね」
ポンポンと私の頭を叩き、王子は「じゃ、そろそろいくね」と背を向けた。
内心ほっとしたのも束の間、すぐに立ち止まって私を振り返った。
「戻ったらいっぱい可愛がってあげるからね」
不穏な言葉を残し、鼻歌混じりに立ち去った。
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