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4:取り敢えず?
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取り敢えずということで、わたしの荷は全てエルム王子のお部屋まで運ばれました。
取り敢えず……?
多くの方が今、頭の上に疑問符を浮かべていることでしょう。
ですがえぇ、問題はありません。
エルム王子は、ご婚約前とのことです。
「って! そういうことではなく!」
流石に異議を唱えましたよ。一応男性……というか、紛うことなき絶世の美丈夫であられますからね。けれど――
「ですが、レア様。エルム殿下は今や貴女のお力なしでは起き上がることすらままならないのです」
そういわれて、食い下がり続ける聖女などおりません。
はっきり言いますけれど、下心など一切ありません。部屋にはわたしたちに加え、一応見張りという方が一名いてくださいますし。
何より、エルム王子には違和感しかないのです。
何故、高官聖女でもないわたしの名をご存知だったのか。
何故、わたしを頼りにしてくださったのか。
何故、呪いが祓われたのか。
疑問は尽きません。そして、そのようなことに、今こそ考えを巡らせたいのですが、それも叶わないのです。
「君はチーズケーキって好き?」
「チーズケーキ、ですか? 好きですが……」
「じゃあ、パイは?」
「……好きですが」
「なら、パイにチーズケーキを挟んだことってある?」
「ないですが……」
「じゃあ今度一緒にやってみよう! とても美味しいんだよ!」
「え……、えぇ~……、そうなんですねぇ……」
このように、エルム王子がひっきりなしに話しかけてくださるのです。無邪気な笑みで。
寝台に半身を委ねているということを、ふと忘れてしまいそうになります。
エルム王子という御方は、こんなにも饒舌な方なのでしょうか。こんなにフランクな方なのでしょうか。それとも、わたしに申し訳ない気持ちで……?
「ところでさ、君はいつもその服なの? 別の服は着ないの?」
「え……っと、こちらは任務などのときに身につける常衣でして、正装が必要となる場合には別に……」
「へぇ! 見たことないな。どんなやつなの?」
「白の……黒い刺繍の入ったドレスで」
「もっと裾がふわってなっているの?」
「あっ、はい。こちらの常衣はあくまでワンピースですので……」
「見たいな」
「……あ、あの、申し訳ありません。生憎、荷には詰めておらず」
だって任務はしごの最中なんです。そんな、嵩張るものを持ち歩けません。
「ん~……、じゃあ折角だし買いにでも行こっか? ほらほら御礼も兼ねてさ」
なんですか、折角って。
「それは嬉しいお言葉ですが、エルム殿下のお身体に障りますので……」
「障らない、障らない」
軽く笑い飛ばされます。
どの口が言ってるんでしょうか……、くらいは思ってもバチは当たりませんよね?
「でもなー、折角こうして君と話せる場所にいるんだからさ、たまにはこうリクエストなんかもしてみたいんだよね。僕的にはそうだな……」
眉間に深く皺を寄せ、しかし何処か楽しげに苦悶するエルム王子をぼんやり眺めます。
いえ、ぼんやり眺めますでは、ありません。エルム王子の流れに乗っては、謎は一向に明かされないのです。
ここはひとつ強気に――
「あの!」
声を出せば、ふっと輝く金の長髪が揺れ動きます。その間から見える白磁のような肌のお顔には、切れ長で透き通った碧の瞳が煌めいておりました。その瞳を優しく細め、エルム王子は首を傾げます。
「ん?」
少なからずドキと胸を鳴らしたことは認めましょう。しかし、すぐに気を切り替えます。
「……あの、先ほどより殿下は、見たことがないや、たまにはなどとお口にされますが、わたしはどちらかで殿下にお会いしたことがありましたでしょうか……?」
無礼は承知の上です。きつい叱責を受けたとしても、文句は言えません。
けれど、知らぬのに知っているフリ――という方が、わたしにはもっと失礼はことだと思えてしまうのです。
あまりの失礼な言葉にお付きの方の焦りが伝わります。『無礼な!』なんて止めに来ないのも、あくまでわたしがエルム王子を救った聖女だという立場を、重んじてくださった結果なのでしょう。申し訳がありません。
取り敢えず……?
多くの方が今、頭の上に疑問符を浮かべていることでしょう。
ですがえぇ、問題はありません。
エルム王子は、ご婚約前とのことです。
「って! そういうことではなく!」
流石に異議を唱えましたよ。一応男性……というか、紛うことなき絶世の美丈夫であられますからね。けれど――
「ですが、レア様。エルム殿下は今や貴女のお力なしでは起き上がることすらままならないのです」
そういわれて、食い下がり続ける聖女などおりません。
はっきり言いますけれど、下心など一切ありません。部屋にはわたしたちに加え、一応見張りという方が一名いてくださいますし。
何より、エルム王子には違和感しかないのです。
何故、高官聖女でもないわたしの名をご存知だったのか。
何故、わたしを頼りにしてくださったのか。
何故、呪いが祓われたのか。
疑問は尽きません。そして、そのようなことに、今こそ考えを巡らせたいのですが、それも叶わないのです。
「君はチーズケーキって好き?」
「チーズケーキ、ですか? 好きですが……」
「じゃあ、パイは?」
「……好きですが」
「なら、パイにチーズケーキを挟んだことってある?」
「ないですが……」
「じゃあ今度一緒にやってみよう! とても美味しいんだよ!」
「え……、えぇ~……、そうなんですねぇ……」
このように、エルム王子がひっきりなしに話しかけてくださるのです。無邪気な笑みで。
寝台に半身を委ねているということを、ふと忘れてしまいそうになります。
エルム王子という御方は、こんなにも饒舌な方なのでしょうか。こんなにフランクな方なのでしょうか。それとも、わたしに申し訳ない気持ちで……?
「ところでさ、君はいつもその服なの? 別の服は着ないの?」
「え……っと、こちらは任務などのときに身につける常衣でして、正装が必要となる場合には別に……」
「へぇ! 見たことないな。どんなやつなの?」
「白の……黒い刺繍の入ったドレスで」
「もっと裾がふわってなっているの?」
「あっ、はい。こちらの常衣はあくまでワンピースですので……」
「見たいな」
「……あ、あの、申し訳ありません。生憎、荷には詰めておらず」
だって任務はしごの最中なんです。そんな、嵩張るものを持ち歩けません。
「ん~……、じゃあ折角だし買いにでも行こっか? ほらほら御礼も兼ねてさ」
なんですか、折角って。
「それは嬉しいお言葉ですが、エルム殿下のお身体に障りますので……」
「障らない、障らない」
軽く笑い飛ばされます。
どの口が言ってるんでしょうか……、くらいは思ってもバチは当たりませんよね?
「でもなー、折角こうして君と話せる場所にいるんだからさ、たまにはこうリクエストなんかもしてみたいんだよね。僕的にはそうだな……」
眉間に深く皺を寄せ、しかし何処か楽しげに苦悶するエルム王子をぼんやり眺めます。
いえ、ぼんやり眺めますでは、ありません。エルム王子の流れに乗っては、謎は一向に明かされないのです。
ここはひとつ強気に――
「あの!」
声を出せば、ふっと輝く金の長髪が揺れ動きます。その間から見える白磁のような肌のお顔には、切れ長で透き通った碧の瞳が煌めいておりました。その瞳を優しく細め、エルム王子は首を傾げます。
「ん?」
少なからずドキと胸を鳴らしたことは認めましょう。しかし、すぐに気を切り替えます。
「……あの、先ほどより殿下は、見たことがないや、たまにはなどとお口にされますが、わたしはどちらかで殿下にお会いしたことがありましたでしょうか……?」
無礼は承知の上です。きつい叱責を受けたとしても、文句は言えません。
けれど、知らぬのに知っているフリ――という方が、わたしにはもっと失礼はことだと思えてしまうのです。
あまりの失礼な言葉にお付きの方の焦りが伝わります。『無礼な!』なんて止めに来ないのも、あくまでわたしがエルム王子を救った聖女だという立場を、重んじてくださった結果なのでしょう。申し訳がありません。
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