上 下
6 / 11

5:二人きり

しおりを挟む
 中々返事がないのでお付きの方から目を外し、エルム王子をチラと見遣ってみれば――

「え……、えぇ~……」
「…………何故真っ赤に……」

 何故だか、頬だけでなく耳まで赤く染まっておりました。しかも、たいそう困っているではありませんか。

「それ……聞いちゃう?」

 年頃のご令嬢のように、顔前に手をやり顔を隠します。
 何でしょう、この反応は。

「……それは、どういった意図としてのお言葉でしょうか?」

 ふぅと息を吐いて問いかけます。あくまで冷静に。冷静にです。

「それは……さ、いや……」

 エルム王子は横目でお付きの方を気にしていらっしゃいます。

「ちょっと僕の口からはな~……」

 副音声で『キャー』みたいな、恥ずかしがる黄色い声が聞こえる気がします。
 モジモジモジモジと……、何をそんなに恥ずがしがって……。

「では、どなたの口であれば伺えますでしょうか?」

 はっ! 思わずムッとして語気が強くなってしまいました。
 いけません、冷静に。冷静に……と、遅かったようです。お付きの方が『我慢の限界だ!』といった面持ちで歩みを進めて参ります。
 これは……、怒られますね。

「殿下、失礼致します! 僭越ながら先ほどからのお話を耳させて――」

 しかし、丁度良いタイミングで来訪がありました。
 コンコンっと扉を叩く音がするのです。
 お付きの方は、さも物言いげに扉へ向かい問い掛けます。けれどどうやら返事がないようです。
 そんなことを数度繰り返した後、お付きの方が戻って参りました。
 折檻再開……?
 では、ありませんでした。

「殿下、失礼致します。不審な訪問にて、私、外におります者に確認して参ります」

 そうです、思えばこの部屋の外にも見張りの方はいらっしゃるのです。いわば二重の城壁。

「うん」

 エルム王子は軽ーい調子で返します。
 この方は、いつもこのような感じなのでしょうか。


 お付きの方が出で行きますと、自ずと部屋は二人きりになります。ならば気になるのは、話の続き。

「あの、先ほどは失礼致しました。それで……その、二人きりとなりましたが……」

 何というか、雰囲気的に声を潜めてみます。特に意味はありません。ちなみに言うなら、距離なども詰めておりません。

「え……、あぁ、うん。……そうだね」

 またモジモジしだしたエルム王子が気にはなりますが、今は流しておきましょう。

 
しおりを挟む

処理中です...