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3:そして浄化

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 力なく横たわるエルム王子へ向け、手をかざします。心臓から血を巡り、両手へと力を貯めていきます。

 貯めた力を対象へ送り込むというのが、簡単な浄化の説明ではありますが。細かくいえば、送り込んだ聖力にて魔力を滅するということをしているのです。

 ただし、滅することができるのは、この魔力が聖力を下回っていた時です。ちなみにこれは量の問題ではありません。陣地取りなどの話ではないのです。

 このときのの勝敗というのはで決まります。噛み砕くなら、強弱・高低・濃淡あたりが近いのではないでしょうか。
 つまり、その力の質が優っている方が劣っている方を捉え、消し去っていくのです。
 そして、力の差が歴然の場合には、いとも容易く消し去られます。相手は痛くも痒くもないでしょう。
 強風に小さな灯火が容易く吹き消されるように、大いなる者には打撃のひとつも与えられはしないのです。

 現に、わたしとて薄っすら漂う瘴気程度では、体調に何ら変わりはありません。
 わたしは、エルム王子の――その中に巣食う魔物の顔を歪めねばなりません。
 僅かにでも反応をと願い、そして。
 
「願わくば、この場にある苦しみの全てが晴れんことを――」
 
 わたしはゆっくりと、丁寧に込めた力をエルム王子へと送り始めま……。
 
 ――つかまえた

「…………は?」

 失態です。思わず情けない声を出してしまいました。
 しかし、この状態で一体どれくらいの方が毅然とした態度を貫き続けられるでしょうか。
 この光景を目の当たりにして、どこまで冷静を保っていられるでしょうか。

 たった今、わたしの目の前で、エルム王子は嬉々と目を輝かせわたしに視線を送っているのです。
 それは正に、祝い事前夜の幼子のように。
 先ほどまでの生気無きお姿がまるで嘘であったかのように、頬は紅色に、口元には綺麗な弧を描いてわたしを見つめているのです。

 ちなみに「わたしを見つめている」って、自惚れではありませんよ。基本的に、力を使う際には、できるだけ近くに人を寄せないようにしているのです。今回も例外ではありません。皆さま、広いお部屋の壁際端っこにご移動していただいているのです。

 あの……。

 声を掛けて良いものか戸惑ってしまいます。
 というより、この状況に既に最大の戸惑いを感じています。

 だって――
 だってわたしはまだ――

 まだ、のですから。

 
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