1 / 58
1章 それはきっと必然の出会いで
1. まだ愛を知らない
しおりを挟む
(私の人生、ここまでかあ……)
シャーロットは暮れゆく空をぼんやり見上げていた。
魔法大国ウィンザーホワイトの王都、ノイン。
その中の、誰も訪れないような裏路地にある焼却炉。
そこにシャーロットは打ち捨てられていた。
全身ゴミ塗れだが、そんなことよりも全身が痛むし、意識が朦朧としていて気にしている余裕はない。完全に日が落ちたとき、自動焼却装置が起動し、シャーロットの命は終わるだろう。
別にそれで良かった。生きてて良いことなど一つもなかった。聖女さまのオモチャとして生きるのはもう疲れた。
物心ついた時から孤児だったシャーロットは、ある時奴隷として捕まり、見目が良かったため競売に掛けられた。
結果引き取ったのが、聖女ラヴィニアだった。
ルミナリア神聖国、ルミネ教の象徴である聖女様。
いつの時代にも必ず一人存在する聖女様は代々、透き通るような銀色の髪で、絶大な聖力を有し、無垢なる祈りで人々の傷を癒やすのだという。
当代の聖女ラヴィニアもそれらを兼ね備えており、ルミナリア国内からの人気は高い。
やさしく民思いの聖女さま。それが民衆が信じているラヴィニア像。
しかし実際のところ、性格は悪辣そのものだった。
民衆の前に出る際にのみ被る聖女さまの仮面は、人目がなくなった瞬間に投げ捨てられる。
機嫌が悪いと周りに当り散らし、気に入らない人間はきまぐれに処刑した。
つい先日も聖人として名高かった神官が処刑されたばかりだ。
表向きは、神官が大罪を犯したためとされていた。
ラヴィニアの悪行は教会の上層部内で完全に隠蔽される。
象徴となる聖女の求心力が下がれば、教会としても打撃を受けるからだ。
ラヴィニアの侍女だったシャーロットも苛烈な虐待を受けたが、殺されることはなかった。不幸にも。
「殺しちゃったら勿体ないわ、あなたはわたしのお気に入りだもの」
死にかける度にそう言ってシャーロットの傷を癒やした。
ありがとうございます、聖女さま。シャーロットはそう答える。
そう言わないと、ますますひどい責め苦を受けることになるから。
実際、今回シャーロットを処分しようとしているのはラヴィニアではなく、護衛として帯同してきた神聖騎士たちだった。
はるばるやってきた聖女さまの歓迎会が開かれている間、束の間の安息を得ていたシャーロットを、神聖騎士たちは無理やり連れ去ろうとしたのである。
必死になって抵抗したシャーロットは、魔法で一人の神聖騎士に重症を負わせてしまった。
教会内では、魔力は聖力と対極の位置にある悪しきものだと考えられていた。その為、魔力持ちであったシャーロットは迫害の対象になっていたし、手の甲に刻まれた奴隷紋によって魔力が抑えられていた。
よって、シャーロットは魔法を使うことができないはずだった。
火事場の馬鹿力とでもいうのだろうか。
理由は不明だが、とにかく、シャーロットは己の魔法により身を守ることができた。
一度だけ。
その後、結局激高した騎士たちに酷い折檻を受けた。
結果がこれだ。
そして今際の際に思い出したことがある。
(これ、前世でプレイした乙女ゲームの世界だ……)
死ぬ間際に異世界転生だったことを思い出すなんて。
しかもどうやら自分はヒロインだったらしい。
(シャーロットは……聖女で……魔王を封印する筈なんだけどな……)
なんでこんなことになっているのだろう。
まあいいか。来世はもっと平和に暮らせますように。
意識ももう限界だ。
「これは……」
誰もいないはずの焼却炉で声がした。
ふわっと抱き上げられる。
力を振り絞って薄目を開けると、私を覗き込む赤い瞳が見えた。
「ま、これも何かの縁か」
まだ終われないのか。
「とりあえず今は、おやすみ」
優しい声。
意識を手放しながら、涙が頬を伝うのを感じた。
これが始まりだった。
シャーロットは暮れゆく空をぼんやり見上げていた。
魔法大国ウィンザーホワイトの王都、ノイン。
その中の、誰も訪れないような裏路地にある焼却炉。
そこにシャーロットは打ち捨てられていた。
全身ゴミ塗れだが、そんなことよりも全身が痛むし、意識が朦朧としていて気にしている余裕はない。完全に日が落ちたとき、自動焼却装置が起動し、シャーロットの命は終わるだろう。
別にそれで良かった。生きてて良いことなど一つもなかった。聖女さまのオモチャとして生きるのはもう疲れた。
物心ついた時から孤児だったシャーロットは、ある時奴隷として捕まり、見目が良かったため競売に掛けられた。
結果引き取ったのが、聖女ラヴィニアだった。
ルミナリア神聖国、ルミネ教の象徴である聖女様。
いつの時代にも必ず一人存在する聖女様は代々、透き通るような銀色の髪で、絶大な聖力を有し、無垢なる祈りで人々の傷を癒やすのだという。
当代の聖女ラヴィニアもそれらを兼ね備えており、ルミナリア国内からの人気は高い。
やさしく民思いの聖女さま。それが民衆が信じているラヴィニア像。
しかし実際のところ、性格は悪辣そのものだった。
民衆の前に出る際にのみ被る聖女さまの仮面は、人目がなくなった瞬間に投げ捨てられる。
機嫌が悪いと周りに当り散らし、気に入らない人間はきまぐれに処刑した。
つい先日も聖人として名高かった神官が処刑されたばかりだ。
表向きは、神官が大罪を犯したためとされていた。
ラヴィニアの悪行は教会の上層部内で完全に隠蔽される。
象徴となる聖女の求心力が下がれば、教会としても打撃を受けるからだ。
ラヴィニアの侍女だったシャーロットも苛烈な虐待を受けたが、殺されることはなかった。不幸にも。
「殺しちゃったら勿体ないわ、あなたはわたしのお気に入りだもの」
死にかける度にそう言ってシャーロットの傷を癒やした。
ありがとうございます、聖女さま。シャーロットはそう答える。
そう言わないと、ますますひどい責め苦を受けることになるから。
実際、今回シャーロットを処分しようとしているのはラヴィニアではなく、護衛として帯同してきた神聖騎士たちだった。
はるばるやってきた聖女さまの歓迎会が開かれている間、束の間の安息を得ていたシャーロットを、神聖騎士たちは無理やり連れ去ろうとしたのである。
必死になって抵抗したシャーロットは、魔法で一人の神聖騎士に重症を負わせてしまった。
教会内では、魔力は聖力と対極の位置にある悪しきものだと考えられていた。その為、魔力持ちであったシャーロットは迫害の対象になっていたし、手の甲に刻まれた奴隷紋によって魔力が抑えられていた。
よって、シャーロットは魔法を使うことができないはずだった。
火事場の馬鹿力とでもいうのだろうか。
理由は不明だが、とにかく、シャーロットは己の魔法により身を守ることができた。
一度だけ。
その後、結局激高した騎士たちに酷い折檻を受けた。
結果がこれだ。
そして今際の際に思い出したことがある。
(これ、前世でプレイした乙女ゲームの世界だ……)
死ぬ間際に異世界転生だったことを思い出すなんて。
しかもどうやら自分はヒロインだったらしい。
(シャーロットは……聖女で……魔王を封印する筈なんだけどな……)
なんでこんなことになっているのだろう。
まあいいか。来世はもっと平和に暮らせますように。
意識ももう限界だ。
「これは……」
誰もいないはずの焼却炉で声がした。
ふわっと抱き上げられる。
力を振り絞って薄目を開けると、私を覗き込む赤い瞳が見えた。
「ま、これも何かの縁か」
まだ終われないのか。
「とりあえず今は、おやすみ」
優しい声。
意識を手放しながら、涙が頬を伝うのを感じた。
これが始まりだった。
0
あなたにおすすめの小説
乙女ゲーの世界に聖女様として召喚されたけど興味がないので妹に譲ります
ゆずぽんず
恋愛
ある日、ユウとチカの姉妹が乙女ゲームの世界に聖女様として召喚された。
好きなゲームの世界に入れたと喜ぶ妹のチカ。
本来、聖女様として召喚されるのだったの一人。どちらかが死に、召喚された。
妹のことが大切な姉のユウは、妹がこの世界にいたいのならば私が偽物となってこの世界から消えようと決意する。
*乙女ゲーマーによる小説です。乙女ゲーになろう設定混ぜ込んでみました。
*乙女ゲーによくある設定(共通ルートやバッドエンドなどのよくある設定)の説明があります。分かりにくかったらすみません。
十六歳の妹の誕生日、私はこの世を去る。
あいみ
恋愛
碌に手入れもされていない赤毛の伯爵令嬢、スカーレット。
宝石のように澄んだ青い髪をした伯爵令嬢、ルビア。
対極のような二人は姉妹。母親の違う。
お世辞にも美しいと言えない前妻の子供であるスカーレットは誰からも愛されない。
そばかすだらけで、笑顔が苦手な醜い姉。
天使のように愛らしく、誰からも好かれる可愛い妹。
生まれつき体の弱いルビアは長くは生きられないと宣告されていた。
両親の必死に看病や、“婚約者の献身的なサポート”のおかげで、日常生活が送れるようになるまで回復した。
だが……。運命とは残酷である。
ルビアの元に死神から知らせが届く。
十六歳の誕生日、ルビアの魂は天に還る、と。
美しい愛しているルビア。
失いたくない。殺されてなるものか。
それぞれのルビアを大切に思う想いが、一つの選択をさせた。
生まれてくる価値のなかった、醜いスカーレットを代わりに殺そう、と。
これは彼女が死ぬ前と死んだ後の、少しの物語。
追放された偽物聖女は、辺境の村でひっそり暮らしている
潮海璃月
ファンタジー
辺境の村で人々のために薬を作って暮らすリサは“聖女”と呼ばれている。その噂を聞きつけた騎士団の数人が現れ、あらゆる疾病を治療する万能の力を持つ聖女を連れて行くべく強引な手段に出ようとする中、騎士団長が割って入る──どうせ聖女のようだと称えられているに過ぎないと。ぶっきらぼうながらも親切な騎士団長に惹かれていくリサは、しかし実は数年前に“偽物聖女”と帝都を追われたクラリッサであった。
婚約破棄された元聖女、魔王の息子に攫われて溺愛されています
百合川八千花
恋愛
魔王を討伐し、十年にわたる戦いを終えた聖女アルティア。
帰還した王国で待っていたのは、王太子からの婚約破棄と――その子供だった。
絶望の中、現れたのはかつて共に戦った魔王の息子、ヴェルグ。
「君はもう自由だ。だったら僕が攫うよ」
突然の求婚(という名の略奪)と共に、アルティアは隣国・アシュフォード帝国へ連れ去られる。
辺境伯となったヴェルグの領地で始まるのは、
「君のために用意してた」
と語られる豪華すぎる“同棲部屋”、
壁一面に飾られた聖女の肖像画コレクション、
そして、「僕のもの」発言が止まらない溺愛×執着ラブ生活!
しかしその頃、聖女を失った王国では、魔王の呪いによる異変が始まっていて――
これは、運命に選ばれ続けた聖女と、ただ彼女だけを愛した元魔王の息子の、
甘くて狂おしい、世界と愛の再構築ラブファンタジー。
追放された聖女は旅をする
織人文
ファンタジー
聖女によって国の豊かさが守られる西方世界。
その中の一国、エーリカの聖女が「役立たず」として追放された。
国を出た聖女は、出身地である東方世界の国イーリスに向けて旅を始める――。
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
【完結】次期聖女として育てられてきましたが、異父妹の出現で全てが終わりました。史上最高の聖女を追放した代償は高くつきます!
林 真帆
恋愛
マリアは聖女の血を受け継ぐ家系に生まれ、次期聖女として大切に育てられてきた。
マリア自身も、自分が聖女になり、全てを国と民に捧げるものと信じて疑わなかった。
そんなマリアの前に、異父妹のカタリナが突然現れる。
そして、カタリナが現れたことで、マリアの生活は一変する。
どうやら現聖女である母親のエリザベートが、マリアを追い出し、カタリナを次期聖女にしようと企んでいるようで……。
2022.6.22 第一章完結しました。
2022.7.5 第二章完結しました。
第一章は、主人公が理不尽な目に遭い、追放されるまでのお話です。
第二章は、主人公が国を追放された後の生活。まだまだ不幸は続きます。
第三章から徐々に主人公が報われる展開となる予定です。
新しい聖女が優秀なら、いらない聖女の私は消えて竜人と暮らします
天宮有
恋愛
ラクード国の聖女シンシアは、新しい聖女が優秀だからという理由でリアス王子から婚約破棄を言い渡されてしまう。
ラクード国はシンシアに利用価値があると言い、今後は地下室で暮らすよう命令する。
提案を拒むと捕らえようとしてきて、シンシアの前に竜人ヨハンが現れる。
王家の行動に激怒したヨハンは、シンシアと一緒に他国で暮らすと宣言した。
優秀な聖女はシンシアの方で、リアス王子が愛している人を新しい聖女にした。
シンシアは地下で働かせるつもりだった王家は、真実を知る竜人を止めることができない。
聖女と竜が消えてから数日が経ち、リアス王子は後悔していた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる