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1章 それはきっと必然の出会いで
10. 聖(偽)と魔
しおりを挟む「先触れも寄越さず聖女サマ自らやってくるなんて、めちゃくちゃ焦ってるんですかね。あ、それとも計算の内? 聖女サマがわざわざやってくると無碍に扱えないですしね。下手に遣いの者なんか寄越されても理由付けて追い返しちゃいますから。教会の人間とあんまり関わりたくないし。あ、シャルちゃんは別ですよ! 可愛いし。ノア様の婚約者じゃなければ口説いてましたね」
本当にとにかくよく喋る。
シャーロットが適当に相槌を打ってるだけで話がどんどん進んでいくのは楽ではあるが、展開が目まぐるしくてちょっと辛い。
暴走機関車に乗せられている気分だ。
シャーロットの部屋まで戻ってきた時には、何故か軽い疲労感を覚えていた。
「まあノア様が上手くやるんであんまり心配しなくても大丈夫ですよ。て言われても心配ですよね。今頃星の間に通されてると思うんで、ちょっと覗き見しちゃいましょうか」
そういってカイは軽く手を振った。同時に、窓が一瞬光り、ここではない光景を映し出す。
遠見魔法だろうか。
こういった魔法は、多くの情報を伝達しようとすればする程、必要な魔力が多くなると同時に、それを制御するための高い技術が必要となる。
また、発信より受信の方が難しく、一方的に声を届けることができる魔導士は多くいるが、狙った場所の音を拾うことができる魔導士は少ない。
(こんなに鮮明に音と映像を投影できるなんて、この人、かなり凄い魔導士だわ)
ただのお喋り男ではないらしい。「ノア様の頼れる補佐官」と自称していたが、あながち嘘でもないのだろう。
窓には魔導塔にしては豪奢な室内が映し出されていた。
おそらくはカイの言っていた「星の間」だろう。
騎士たちを後ろに引き連れたラヴィニアが、酷く悲しげな面持ちで椅子に腰かけている。
後ろの騎士たちはというと、不快感を隠そうともしていなかった。
神聖騎士になるほどの信仰心を持った者たちだ。魔導塔など、ラヴィニアの付き添いでなければ足を踏み入れるのは嫌なのだろう。
聖女たちの対面にはノアが座っていた。心底面倒そうだ。足まで組んでいる。
仮にも教会の象徴である聖女を目の前にしてその態度で良いのだろうか。
ラヴィニアが口を開いた。
「あの子がここにいることはわかっております。お告げがありましたもの……。あの子に乱暴を働いた者たちは処分しました。お願いですので、シャーロットを返していただけないでしょうか」
シャーロットは背筋の冷える思いがした。
「お告げ」なんて絶対嘘だ。ラヴィニアにそんな力はない。
凡そ奴隷紋に追跡魔法でもかかっていたのだろう。
「あの子、奴隷紋ついてたけど。奴隷なんだよね? なんでそこまで執着するの? 新しいの買ってくればいいんじゃない」
「シャーロットは私の幼い頃から側にいてくれました。奴隷ではありますが、妹のように思ってるんです」
「じゃあなんであんなに傷だらけだったの? 虐められてたようにしか見えないけどね」
「まあ、誤解ですわ。ここだけの話、シャーロットには虚言癖があるんです……。哀れぶって、気を引きたいんですわ。ちょっと問題のある子なんですの」
そう言うと、ラヴィニアは慈愛に満ち溢れた笑みを浮かべた。
「それでも、私にとっては大事な子。ご迷惑をおかけする前に、引き取らせていただけると助かるのですけど」
完璧な聖女の仮面だった。ルミナリア国内だと騙されないものはいないだろう。
しかしここはウィンザーホワイトの魔導塔で、相手をしているのは魔王ノアだった。
ノアはラヴィニアに微笑み返した。
「ま、別にあの子の境遇は今大した問題じゃない。ただ、一目惚れしちゃったんだよね」
衝撃発言だ。ラヴィニアが思わず「えっ」と声を漏らす。
同時にシャーロットも声が出ていた。ほぼ悲鳴だったが。
「一目惚れ……ですか?」
「そう。ゴミまみれで寝ているところに運命を感じたんだ」
最悪すぎる。もっと言い方はないのか。
横でカイが爆笑していた。
「だからもう婚約した。彼女も合意の上だ」
実際にはシャーロットからの申し込みだったが、そういうことにするらしい。
ラヴィニアは、それでも言い募る。
「そうですの……。それでも、あの子は奴隷。私の所有物ですわ。婚約も結婚も、私の許可無しには出来ない筈です」
それを聞き、何故かノアの笑みが深くなった。
「ウィンザーホワイトでは、焼却炉への投棄は所有権の廃棄と見做される。そして僕が拾った。あの子は今、僕の所有物だ」
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