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1章 それはきっと必然の出会いで

11. 規模的にはほぼ戦争

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 結局、それ以上何も主張できずにラヴィニア達は魔導塔を去った。
 
 大人しく引きさがったように見えたが、ラヴィニアはまだシャーロットを諦めてはいないだろう。
 ノアに背を向けた瞬間、憤怒の表情を浮かべたのをシャーロットは見ていた。
 
 ラヴィニアに捕まらないように、魔導塔から追い出されないように振る舞わなければならない。
 ノアには申し訳ないが、ノアの求めることを満たさず、かつ捨てられないようにする必要がある。
 
(そもそもなんで彼は私と婚約したのかしら)
 
 今までは安全な環境を堪能することが第一だったが、シャーロットはようやくノアが婚約を承諾した動機を深く考える気になった。
 
「シャルちゃんは、今はとりあえず強くなることだけ考えてればいいですよ」

 そう言いながらカイが再び手を振り、窓がいつものように外の景色を映し出す。
 心を読んだようなタイミングだ。もしかして本当に読んだのかもしれない。
 自分の都合の良いことしか考えていないのがバレたのではないか。
 シャーロットは一瞬不安になったが、
 
(まあ、お互い様よね。彼らも私も利用したいんでしょうし)
 
 すぐ開き直った。
 シャーロットは、本人が自覚している以上に神経が太かった。
 
「何はともあれ、とりあえずは魔法の練習からですねえ。大分回復してきてるみたいですし。シャルちゃんの魔力量でまた魔力暴走を起こされたら、塔がいくつか吹き飛んでもおかしくないですよ。あ、ちなみにこれは褒めてます。ノア様には報告しとくんで、明日から俺と特訓しましょうね。正直めちゃくちゃ楽しみです」

 カイの吐き出す言葉量とその内容に、シャーロットはげんなりした。
 

 
 ◆◆◆
 
 
 
「ねえ、僕、君に感謝される覚えはあっても恨まれるようなことした覚えはないんだけど!」
「本当に申し訳ないとは思ってるんです! やめてください! 反射しないで! 家庭内暴力反対!」
「全く同じ言葉を返すよ! ていうか君には防御魔法張ってあげてるんだから甘んじて受け止めてよね!」

 ぎゃあぎゃあと騒ぎながら膨大な魔力をぶつけあっているノアとシャーロットを、カイは半笑いで眺めていた。
 ぶつけあっているというか、正確にはシャーロットから発される魔力の塊をノアが反射している。
 辞めればいいものを、何故かシャーロットの方もノアに攻撃するのを辞めない。
 事の発端は、カイがシャーロットを魔法の練習に連れ出したことだった。
 
「じゃあまずは放出する魔法量を調整する練習からですね。こういうのは一旦全力を出した後、徐々に下げていくのがいいんです。とりあえず俺に全力で魔力をぶつけてもらえますか?」

 防御魔法を張りながらカイが指示を出す。
 わかりました、とシャーロットが頷いた次の瞬間、カイは空を見上げていた。

(え?)

 魔力を受け止めきれずに吹き飛ばされ、天を仰いでいるのだ、と気づいたのはその一瞬後。
 己の実力に自信のあったカイは、受け止めきれなかったという事実に暫し瞠目する。

「ちょっと俺の認識が甘かったみたいです。今倒れたのは忘れてください。全力の感覚は掴めたと思うんで、そこからちょっとだけ抑えてくれますか?」

 出来る男は立ち直りが早かった。
 カイは再び防御魔法を貼る。今度は先程より大分強度を高めた。
 これなら受け止めきれるだろう。と、思ったのだが。
 
(はい?)

 カイは再び天を見上げていた。あれだけ強度を高めて受け止めきれなかったのか。
 しかも感覚的に、シャーロットから放出された魔力量は先程と全く変わっていない。
 この聖女様、どうやらかなり不器用だ。

「あれ? すみません。抑えたつもりなんですけど。難しいですね」

 シャーロットがやや困り顔で言う。
 
「わかりました。ちょっとノア様呼んできますね! 待っててください!」

 カイはノアの執務室に向かって走り出した。
 出来る男は引き際を見定めるのも上手かった。
 
 
 
 ◆◆◆
 
 
 
 結果がこれである。
 ノアが防衛本能からか咄嗟に反射魔法を使ってから、完全に泥仕合の様相を呈していた。
 一歩離れて見る分には、正直なところかなり面白い。
 ムキになっているノアなんてレア過ぎるし、普段大人しい聖女様が騒いでいるのも見ていて愉快だ。
 
(本当に結婚したら、意外と良い夫婦になるかもなあ)

 疲れたのか静かになった二人を宥めつつ、暢気にそんなことを思った。
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