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2章 嫉妬の炎が燃え盛る

19. 碌なのがいない

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「ノア様は騙されているのよ! こんな女、顔だけじゃない! 聞いたわよ、その腕輪がないとまともに魔法も使えないそうね! あんたみたいな品もなければ魔力もないような女がなんでノア様に選ばれるのよ!」

 エスメが喚き立てている。
 その場にいたエスメ以外の全員がうんざりした顔をしていた。
 腕輪がないとまともに魔法も使えないのは事実だが、魔力がない訳ではない。むしろ有り余っている。
 一方で品がないことについては反論できない。
 先程の自分の行いを振り返りながらシャーロットは思った。

「騙されてなんかないさ。シャルがあまり性格が良くないのなんか知ってるからね」

 何故かちょっと得意げな表情でノアがエスメに言い返す。
 普通こういう場面では婚約者を庇ったりするものではないのか。
 同じことを思ったのか、エスメが虚をつかれたような顔で一瞬黙った。
 カイは思わずといった様子で吹き出している。

 エスメが再び口を開いた。

「じゃあ何、一目惚れだとでも言うの? 大体、私の方がこんな女より美しいわ! なんで私を選んでくれないのよ! お父様にノア様と婚約できるようお願いしていたところだったのに!」
「まず、シャルは誰よりも綺麗だし、それに」

 ノアがエスメの言葉を遮りながら言う。

「別に美しくなくても性格が良くなくてもいい。シャルがシャルであるから僕は彼女を傍に置いているんだ」

 やや照れたシャーロットは挙動不審になった。
 が、すぐに思い直す。

(まあ……聖女の力が一番重要だものね、きっと)

 エスメはノアの言葉を聞き、さらに悔しそうな顔をした。
 何かを言おうとしたが、結局何も言わずに口を閉じる
 そしてしばらく黙り込んだ。
 
 ようやく大人しくなったか、とエスメ以外の三人が安堵しかけたその時。
 エスメは大粒の涙を流し、静かに泣き始めた。
 
「……ずっと、ずっと好きだったのに……」

 泣きだされては流石に困る。
 カイが慌ててエスメを宥め始めた。

「勿論それはノア様もご存知ですよ。いつもジョセフを困らせてましたもんね。最終的には雷を落とされて。俺、やっぱりジョセフって怒るとめちゃくちゃ怖いなあって改めて思いました。で、なんだっけ。あ、そうそう。ノア様に振られても大丈夫ですよ。エスメ姫、顔も良いし地位もありますから、引く手あまたですよ。良い男なんかいくらでもいますよ。性格に多少問題があってもなんとかなるってシャルちゃんで証明されてるし」

 本当に宥めるつもりはあるのか。全方位に喧嘩を売っているだけではないのか。
 エスメも同じことを思ったらしく、子供のように号泣し始めた。
 そして泣き声の合間に悪態をつく。
 
「なんなのよお! ノア様が魔王だって知って、私にふさわしい特別な方なんだわ、運命なんだわ、って思ったのに! ひどいわ! 私を騙したのね!」

 別に誰も何も騙していない。
 
 それを聞いたノアとカイが、何故か焦ったような表情でシャーロットの方を振り向いた。
 なんだろう、と疑問に思ったのは一瞬で、シャーロットはすぐに二人の焦りの原因に思い当たった。

(そうか……私がノアが魔王だってこと、知らないと思ってるんだわ)

 確かに突然言われれば驚愕するだろう。
 しかしシャーロットには前世の記憶があり、ノアが魔王であることは初めから知っていた。
 なんなら知っていて婚約を迫った節もある。
 とりあえず、何かフォローを入れなければならない。
 シャーロットは口を開いた。

「あー……。まあ、別に魔王でも魔族でも気にしていないですよ。そもそもよく違いがわからないですし……」

 シャーロットそう言った後、改めて疑問を抱いた。

(あれ、本当に違いはなんなんだろう……見た目も変わらないし、人間にも魔力持ちはいるし……)

 そう考えている間にもエスメは大声で泣き続けている。
 シャーロットが深く考える間もなく、三人はその場の対処に追われた。
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