20 / 58
2章 嫉妬の炎が燃え盛る
20. 姫様の横暴
しおりを挟む
翌朝、まだ日が高くなる前。
シャーロットはぼんやりとこの日一日なにをしようか考えていた。
特に仕事を何か任されているという訳ではないのでシャーロットは結構暇である。
いつもは工房に足を運んだり、ふらふらと周囲を散策したりするのだが、今日はあまり気が進まなかった。
(あのお姫様ともあんまり顔を合わせたくないし……)
部屋に引きこもっている方が遭遇確率も下がる。
図書館から本を借りてきて一日読書に費やすのも良いかもしれない。
神殿で働いていた関係で、孤児出身にも関わらずシャーロットは字が問題なく読めた。
一般的に使われている常用文字に加え、儀式等で用いられるためゆっくりとではあるが古代文字も読むことができる。
研究施設としての面も持ち合わせている魔導塔の図書館には面白そうな本がいっぱいあるに違いない。
良い思い付きだ。さっそく行こう。
そう思いシャーロットが腰を上げた瞬間のことだった。
「シャーロット! 買い物に行くわよ!」
勢いよくシャーロットの部屋に突入し、叫んだエスメを見てシャーロットは思わず声が漏れた。
「正気?」
昨日まであんなに疎んでいた相手を何故外出に誘うのか。
昨日の今日で改心したとは到底思えないし、というか敵意が隠しきれていない。
エスメの眼は爛々と輝いていた。完全に獲物を狩る捕食者の眼をしている。
シャーロットは己の心に素直に返事をした。
「嫌ですけど……」
「そんなみすぼらしい恰好してるからって遠慮してるのね! いいのよ気にしなくて。どうせ私の隣にいるとすべて霞んでしまうもの」
魔導塔に滞在し始めてから、シャーロットは魔導士たちが着ているようなローブを譲り受けた。
ルミナリアの巫女服のままだと目立つというのもあるが、着やすくて楽に動けるのでシャーロットは結構気に入っていた。
濃紺のそれは確かに華美ではないが、みすぼらしいと言われるようなものでもないだろう。
シャーロットはぐいと腕を捕まれた。そのまま強引に部屋から出される。
「いやあぁ……」
抵抗むなしく引き摺られていく。
気が付けば後ろからエスメの侍女たちが付いてきている。逃亡防止だろう。
ノアかカイと会ったらきっと助けてもらえる。遭遇することを願おう。
一縷の望みをかけたシャーロットだったが、結局エスメが所有する馬車まで誰にも見つからずに連行されてしまったのだった。
◆◆◆
「まあ別に高貴な人間が馬の骨を囲うこともよくあることだと思うのよ。私の叔父様も顔だけの女を愛人にしてたし」
「そうですか」
(ウィンザーホワイトの町並みをちゃんと眺めるのって初めてだわ)
ノインはウィンザーホワイトの首都だけあって、活気のある良い街らしい。
その中でも例外的に、魔導塔の周りはほぼ人気がない。
ノインの外れに位置しているというのもあるが、人々が魔導師たちを恐れて近寄らないというのが一番の原因だろう。
ルミナリアの様な迫害はないが、魔力を持つものは持たないものに恐れられるのが普通だ。
そんなことを考えながら、がたごと揺れる馬車の中で、シャーロットはエスメの話を完全に聞き流していた。
幸い、一方的な会話はカイで慣れている。シャーロットは自分が生返事のプロだという自負があった。
「魔力が少ないのも、まあ仕方ないわ。そもそも金の眼の一族でもない限り、強い魔力や聖力なんてないのが当たり前だものね」
「そうでしょうか」
大分ノインの中心部に近づいているようで、窓から外を眺めているだけでも活気が感じられた。
ここは恐らく平民達の住む下町のエリアだろう。もう少し王城側に近づいていくと街の雰囲気が変わり、貴族たちが主に利用する高級店が立ち並ぶ。
「でもね、私は納得いかないの」
突然、馬車が方向を変え、王城とは違う方向に進み始める。
様々な雲行きが怪しくなってきた。
シャーロットは焦り始めた。
「ねえ、ノア様に貰った腕輪見せて頂戴」
嫌な予感がする。
段々窓から見える町並みの治安が悪くなってきた。貧民街だろうか。
昼間だというのに娼婦が客引きをしており、ガラの悪い男が鼻の下を伸ばしている。
「嫌です……」
「いいから見せなさい!」
強引に奪われてしまった。
シャーロットは言いようのない不安感に襲われる。
「結構良いものじゃないこれ。デザインはシンプルだけど使っている素材は一級品。流石はノア様ね」
エスメがまじまじと腕輪を眺め、値踏みする。
いつもはくるくると表情豊かなエスメが、無表情でシャーロットに視線を向けた。
「だから、まあこれは八つ当たりなのよね」
スラムの途中で馬車が止まる。
豪華な馬車は貧民街ではかなり目立つらしく、人間たちが皆足を止めてこちらを見ている。
外から扉が開けられた。御者の男がシャーロットの腕を掴み、無理やり下ろす。
「えっ、あの」
「魔導塔からそこまで離れてないから、頑張って戻ってきなさい。ちょっとは怖い目にあえばいいのよ。あ、勿論戻ってこなくても構わないわよ」
そういってにっこり笑うと、エスメは扉を締めた。
御者が馬を走らせる。
「え、えー……」
走り去っていく馬車を、シャーロットは為す術もなく見つめることしかできなかった。
こうしてシャーロットはスラムのど真ん中に置き去りにされたのだった。
シャーロットはぼんやりとこの日一日なにをしようか考えていた。
特に仕事を何か任されているという訳ではないのでシャーロットは結構暇である。
いつもは工房に足を運んだり、ふらふらと周囲を散策したりするのだが、今日はあまり気が進まなかった。
(あのお姫様ともあんまり顔を合わせたくないし……)
部屋に引きこもっている方が遭遇確率も下がる。
図書館から本を借りてきて一日読書に費やすのも良いかもしれない。
神殿で働いていた関係で、孤児出身にも関わらずシャーロットは字が問題なく読めた。
一般的に使われている常用文字に加え、儀式等で用いられるためゆっくりとではあるが古代文字も読むことができる。
研究施設としての面も持ち合わせている魔導塔の図書館には面白そうな本がいっぱいあるに違いない。
良い思い付きだ。さっそく行こう。
そう思いシャーロットが腰を上げた瞬間のことだった。
「シャーロット! 買い物に行くわよ!」
勢いよくシャーロットの部屋に突入し、叫んだエスメを見てシャーロットは思わず声が漏れた。
「正気?」
昨日まであんなに疎んでいた相手を何故外出に誘うのか。
昨日の今日で改心したとは到底思えないし、というか敵意が隠しきれていない。
エスメの眼は爛々と輝いていた。完全に獲物を狩る捕食者の眼をしている。
シャーロットは己の心に素直に返事をした。
「嫌ですけど……」
「そんなみすぼらしい恰好してるからって遠慮してるのね! いいのよ気にしなくて。どうせ私の隣にいるとすべて霞んでしまうもの」
魔導塔に滞在し始めてから、シャーロットは魔導士たちが着ているようなローブを譲り受けた。
ルミナリアの巫女服のままだと目立つというのもあるが、着やすくて楽に動けるのでシャーロットは結構気に入っていた。
濃紺のそれは確かに華美ではないが、みすぼらしいと言われるようなものでもないだろう。
シャーロットはぐいと腕を捕まれた。そのまま強引に部屋から出される。
「いやあぁ……」
抵抗むなしく引き摺られていく。
気が付けば後ろからエスメの侍女たちが付いてきている。逃亡防止だろう。
ノアかカイと会ったらきっと助けてもらえる。遭遇することを願おう。
一縷の望みをかけたシャーロットだったが、結局エスメが所有する馬車まで誰にも見つからずに連行されてしまったのだった。
◆◆◆
「まあ別に高貴な人間が馬の骨を囲うこともよくあることだと思うのよ。私の叔父様も顔だけの女を愛人にしてたし」
「そうですか」
(ウィンザーホワイトの町並みをちゃんと眺めるのって初めてだわ)
ノインはウィンザーホワイトの首都だけあって、活気のある良い街らしい。
その中でも例外的に、魔導塔の周りはほぼ人気がない。
ノインの外れに位置しているというのもあるが、人々が魔導師たちを恐れて近寄らないというのが一番の原因だろう。
ルミナリアの様な迫害はないが、魔力を持つものは持たないものに恐れられるのが普通だ。
そんなことを考えながら、がたごと揺れる馬車の中で、シャーロットはエスメの話を完全に聞き流していた。
幸い、一方的な会話はカイで慣れている。シャーロットは自分が生返事のプロだという自負があった。
「魔力が少ないのも、まあ仕方ないわ。そもそも金の眼の一族でもない限り、強い魔力や聖力なんてないのが当たり前だものね」
「そうでしょうか」
大分ノインの中心部に近づいているようで、窓から外を眺めているだけでも活気が感じられた。
ここは恐らく平民達の住む下町のエリアだろう。もう少し王城側に近づいていくと街の雰囲気が変わり、貴族たちが主に利用する高級店が立ち並ぶ。
「でもね、私は納得いかないの」
突然、馬車が方向を変え、王城とは違う方向に進み始める。
様々な雲行きが怪しくなってきた。
シャーロットは焦り始めた。
「ねえ、ノア様に貰った腕輪見せて頂戴」
嫌な予感がする。
段々窓から見える町並みの治安が悪くなってきた。貧民街だろうか。
昼間だというのに娼婦が客引きをしており、ガラの悪い男が鼻の下を伸ばしている。
「嫌です……」
「いいから見せなさい!」
強引に奪われてしまった。
シャーロットは言いようのない不安感に襲われる。
「結構良いものじゃないこれ。デザインはシンプルだけど使っている素材は一級品。流石はノア様ね」
エスメがまじまじと腕輪を眺め、値踏みする。
いつもはくるくると表情豊かなエスメが、無表情でシャーロットに視線を向けた。
「だから、まあこれは八つ当たりなのよね」
スラムの途中で馬車が止まる。
豪華な馬車は貧民街ではかなり目立つらしく、人間たちが皆足を止めてこちらを見ている。
外から扉が開けられた。御者の男がシャーロットの腕を掴み、無理やり下ろす。
「えっ、あの」
「魔導塔からそこまで離れてないから、頑張って戻ってきなさい。ちょっとは怖い目にあえばいいのよ。あ、勿論戻ってこなくても構わないわよ」
そういってにっこり笑うと、エスメは扉を締めた。
御者が馬を走らせる。
「え、えー……」
走り去っていく馬車を、シャーロットは為す術もなく見つめることしかできなかった。
こうしてシャーロットはスラムのど真ん中に置き去りにされたのだった。
0
あなたにおすすめの小説
乙女ゲーの世界に聖女様として召喚されたけど興味がないので妹に譲ります
ゆずぽんず
恋愛
ある日、ユウとチカの姉妹が乙女ゲームの世界に聖女様として召喚された。
好きなゲームの世界に入れたと喜ぶ妹のチカ。
本来、聖女様として召喚されるのだったの一人。どちらかが死に、召喚された。
妹のことが大切な姉のユウは、妹がこの世界にいたいのならば私が偽物となってこの世界から消えようと決意する。
*乙女ゲーマーによる小説です。乙女ゲーになろう設定混ぜ込んでみました。
*乙女ゲーによくある設定(共通ルートやバッドエンドなどのよくある設定)の説明があります。分かりにくかったらすみません。
十六歳の妹の誕生日、私はこの世を去る。
あいみ
恋愛
碌に手入れもされていない赤毛の伯爵令嬢、スカーレット。
宝石のように澄んだ青い髪をした伯爵令嬢、ルビア。
対極のような二人は姉妹。母親の違う。
お世辞にも美しいと言えない前妻の子供であるスカーレットは誰からも愛されない。
そばかすだらけで、笑顔が苦手な醜い姉。
天使のように愛らしく、誰からも好かれる可愛い妹。
生まれつき体の弱いルビアは長くは生きられないと宣告されていた。
両親の必死に看病や、“婚約者の献身的なサポート”のおかげで、日常生活が送れるようになるまで回復した。
だが……。運命とは残酷である。
ルビアの元に死神から知らせが届く。
十六歳の誕生日、ルビアの魂は天に還る、と。
美しい愛しているルビア。
失いたくない。殺されてなるものか。
それぞれのルビアを大切に思う想いが、一つの選択をさせた。
生まれてくる価値のなかった、醜いスカーレットを代わりに殺そう、と。
これは彼女が死ぬ前と死んだ後の、少しの物語。
追放された偽物聖女は、辺境の村でひっそり暮らしている
潮海璃月
ファンタジー
辺境の村で人々のために薬を作って暮らすリサは“聖女”と呼ばれている。その噂を聞きつけた騎士団の数人が現れ、あらゆる疾病を治療する万能の力を持つ聖女を連れて行くべく強引な手段に出ようとする中、騎士団長が割って入る──どうせ聖女のようだと称えられているに過ぎないと。ぶっきらぼうながらも親切な騎士団長に惹かれていくリサは、しかし実は数年前に“偽物聖女”と帝都を追われたクラリッサであった。
婚約破棄された元聖女、魔王の息子に攫われて溺愛されています
百合川八千花
恋愛
魔王を討伐し、十年にわたる戦いを終えた聖女アルティア。
帰還した王国で待っていたのは、王太子からの婚約破棄と――その子供だった。
絶望の中、現れたのはかつて共に戦った魔王の息子、ヴェルグ。
「君はもう自由だ。だったら僕が攫うよ」
突然の求婚(という名の略奪)と共に、アルティアは隣国・アシュフォード帝国へ連れ去られる。
辺境伯となったヴェルグの領地で始まるのは、
「君のために用意してた」
と語られる豪華すぎる“同棲部屋”、
壁一面に飾られた聖女の肖像画コレクション、
そして、「僕のもの」発言が止まらない溺愛×執着ラブ生活!
しかしその頃、聖女を失った王国では、魔王の呪いによる異変が始まっていて――
これは、運命に選ばれ続けた聖女と、ただ彼女だけを愛した元魔王の息子の、
甘くて狂おしい、世界と愛の再構築ラブファンタジー。
追放された聖女は旅をする
織人文
ファンタジー
聖女によって国の豊かさが守られる西方世界。
その中の一国、エーリカの聖女が「役立たず」として追放された。
国を出た聖女は、出身地である東方世界の国イーリスに向けて旅を始める――。
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
【完結】次期聖女として育てられてきましたが、異父妹の出現で全てが終わりました。史上最高の聖女を追放した代償は高くつきます!
林 真帆
恋愛
マリアは聖女の血を受け継ぐ家系に生まれ、次期聖女として大切に育てられてきた。
マリア自身も、自分が聖女になり、全てを国と民に捧げるものと信じて疑わなかった。
そんなマリアの前に、異父妹のカタリナが突然現れる。
そして、カタリナが現れたことで、マリアの生活は一変する。
どうやら現聖女である母親のエリザベートが、マリアを追い出し、カタリナを次期聖女にしようと企んでいるようで……。
2022.6.22 第一章完結しました。
2022.7.5 第二章完結しました。
第一章は、主人公が理不尽な目に遭い、追放されるまでのお話です。
第二章は、主人公が国を追放された後の生活。まだまだ不幸は続きます。
第三章から徐々に主人公が報われる展開となる予定です。
新しい聖女が優秀なら、いらない聖女の私は消えて竜人と暮らします
天宮有
恋愛
ラクード国の聖女シンシアは、新しい聖女が優秀だからという理由でリアス王子から婚約破棄を言い渡されてしまう。
ラクード国はシンシアに利用価値があると言い、今後は地下室で暮らすよう命令する。
提案を拒むと捕らえようとしてきて、シンシアの前に竜人ヨハンが現れる。
王家の行動に激怒したヨハンは、シンシアと一緒に他国で暮らすと宣言した。
優秀な聖女はシンシアの方で、リアス王子が愛している人を新しい聖女にした。
シンシアは地下で働かせるつもりだった王家は、真実を知る竜人を止めることができない。
聖女と竜が消えてから数日が経ち、リアス王子は後悔していた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる