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3章 遠足ではありません

28. メロちゃんの工作教室

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「あ~、出力強すぎるよ! もうちょっと優しく、ふんわりと。わたあめみたいにね」
「わたあめみたいに、ですね……。頑張ります」

 シャーロットは木の枝を片手に持ち、魔力を纏わせ始めた。
 しかし、先程と同じように魔力が多過ぎたのか、耐えきれず木の枝は粉々になってしまう。
 シャーロットとメロディは同時にため息をついた。
 ヴィクターは我関せずといった様子で一人魔導書を読んでいる。
 カラスの姿のノアは、面白そうにシャーロットの肩の上で様子を見守っていた。

 それは移動二日目の馬車の中のことだった。暇を持て余したシャーロットはメロディに魔道具の作り方を教えてほしいとお願いしたのだった。
 意外と面倒見の良いらしいメロディは機嫌良く快諾した。
 とりあえず木の枝をノアに何本か集めてきてもらって(めちゃくちゃ文句を言っていた)、教えてもらいながら試すも上手くいかない。

 とうとう全ての木の枝を粉砕してしまったシャーロットは、申し訳なさそうにメロディの顔色を伺った。
 メロディは少し考え込んだ後に口を開く。

「あのね、メロが思うにぃ、シャルちゃんはちょっと魔力が強すぎるよぉ」
「これでもかなり抑えてるんですけど……」

 シャーロットの常識外れの魔力量は、腕輪でその殆どを制限したところで、並の魔導師よりやや強いレベルを維持していた。
 ここからさらに絞るというのは不器用なシャーロットには到底無理な話である。

「んとね、そもそも魔道具の作成って言うのは、魔力が少ないか、とんでもなく魔力制御が上手な人のどっちかがやるものなのね。シャルちゃんはそのどっちでもないって言うかぁ、うーん……。はっきり言うとセンスない! へたっぴ!」
 
 メロディは笑顔で宣言した。
 さらっと辛辣にトドメを刺され、シャーロットは涙目になる。

「薄々気付いてましたけど、そこまで言うことないじゃないですかぁ……」
「だって本当のことだもん。てかさぁ、なんで魔道具の作成にこだわるの? 魔力量あるなら普通に攻撃魔法とか覚えればいいんじゃない?」
「そうなんですけど……。でも、得意な筈なんです……」
「え~、意味わかんないよぉ」

 何故なら魔道具作成を原作の「シャーロット」が得意としていたからだ、とは言えない。
 自分はもうどう頑張っても「彼女」にはなれないのかもしれない。
 そう思うと気持ちが沈んだ。

 シャーロットが落ち込んだのを察したのか、メロディが慌てて慰める。

「大丈夫だよぉ! 魔道具なんか作れなくても、向いてる魔法いっぱいあるよぉ! ていうか、ここまで魔力の操作ができないのは一種の才能だよぉ、こんなへたっぴなのみたいことないし、レアだよレア。なんかきっと活かせるよぉ! メロには思いつかないけどぉ」

 本当に慰めているつもりはあるのか。喧嘩を売ってるだけではないのか。
 腹が立ったシャーロットは、ふとこの余りの空気の読めなさに既視感を覚え、思わずメロディに質問をした。

「……お兄さんとかいます?」
「え~、急になに? いないよぉ~」

 あのお喋り補佐官の妹とかではないようだ。
 やり取りを聞いていたノアが頭上で面白そうにカア、と鳴いた。

 その直後だった。

「う、うわあぁ!」

 男の悲鳴がした。おそらく御者だろう。
 そしてそれを合図にしたかのように、突然馬車が激しく揺れ、止まった。

「どうしたんでしょう?」

 読んでいた魔道書を閉じ、ヴィクターが扉を開け外に身を乗り出す。

「ひっ」

 何かを目撃したらしいヴィクターが小さく悲鳴を上げて固まった。

「えっ何何?」

 メロディが固まったヴィクターを押し退けて外に出た。
 続いてシャーロットも飛び出したが、異変は何もないように見える。
 一見、穏やかな草原が広がっているだけだ。

「シャル、上だよ」

 ノアに声をかけられ空を見上げ、シャーロットは驚きで目を見開いた。

 小型のドラゴンのような魔物が、人間――おそらく御者だろう――を足で掴んで飛び去ろうとしている。

「あれはワイバーンだね。こんな拓けたところに出るなんて珍しい」

 どこか呑気なノアの声が、ひどく場違いに聞こえた。
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