居場所を奪われた転生聖女、魔王の婚約者になる

玉菜きゃべつ

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3章 遠足ではありません

32. 傾国

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 次の日、シャーロットは珍しく夜明け前に目が覚めた。
 今日はこの街の騎士団に挨拶し、今後の指示を仰ぐ予定だ。
 昨日の時点で、魔導塔からの応援が街に到着したことは連絡してある。
 昼前に<月の光亭>まで騎士団の団員が迎えにくるそうなので、それまでに準備しておけば良いだろう。

 横を見ると、カラスが毛玉のように丸くなって眠っている。
 意外とふわふわしていて結構可愛い。試しにつついてみると指が少し沈んだ。
 シャーロットは楽しくなって少し微笑んだ。

(普段のノア、ちょっと美形すぎるのよね……。いつもこの姿だったら可愛いのに)

 本人が聞いたら拗ねそうなことを思いながら、水でも飲もうかと起き上がる。

「あれ、もう起きたの~? おはよう~!」

 メロディの声だ。もう起きてたのか、随分早いな。
 そう思いながらそちらに視線を向け、シャーロットはギョッとした。

 真っ白な顔をした謎の人物が鏡台の前に座りこちらを見ていた。
 手には棒のような物を持ち、自らの髪を巻き付けている。
 ストロベリーブロンドの特徴的な髪色からしてもメロディ……の筈だ。
 恐る恐るシャーロットは問いかけた。

「メ、メロディさん?」
「どしたの? ああ、これ~? お肌の調子を良くするために顔に貼り付けてるんだよ~!」

 言いながらメロディは顔を剥がした。よく見ると白い布を貼っていただけらしい。
 ペリペリと剥がれた布の下からはいつものメロディの顔が――現れなかった。

(え、誰?)

 妖精のように可憐な少女ではなく、道ですれ違っても次の瞬間には忘れてそうな地味な女性がそこにいた。
 シャーロットよりもいくつか年上に見える。
 いつもの愛らしく大きな瞳は影も形もなく、どちらかと言えば細く切長な印象を受ける。
 辛うじて瞳の色に面影はあるが、それだけだ。

 困惑の表情で見つめるシャーロットに、メロディは軽く手を振ってなんでもないことのように言う。

「あ、今顔作ってるから待って~」

 そういうと様々な道具を駆使し顔に粉やら液やらを塗りたくっていった。
 シャーロットが唖然として見つめている間に、メロディはいつもの顔を形成した。

 下手な魔法よりすごい技術だ。あんなに色々手を加えているのに数分しかかかっていない。
 ていうかそもそもこの部屋に鏡台など無かった気がする。
 どこからどう取り出したんだろう?
 シャーロットの疑問をよそに、メロディはシャーロットにニッコリと笑いかけた。

「シャルちゃんにもやったげる! ささ、こっちきて?」



 ◆◆◆

  

 目を覚ましたノアは、隣に寝ていた筈のシャーロットが既にいないことに驚いた。

 あの、ほっといたら一日中寝ているシャーロットが自分より早く起きてるなんて。
 かなり失礼な驚き方をした後、ノアは顔を起こしてあくびをした。

 日の入り方からしてまだ朝だ。自分が寝坊した訳ではないらしい。

 この意識は本体のノアが魔力で擬似的に分割したものに過ぎない。
 カラスの体が寝ている間に本体と記憶の統合を行い、魔力を補充する。
 そのため普通の鳥よりは長く眠る必要があった。
 仮に有事の際に魔力切れを起こし、ただのカラスに戻ってしまえば目も当てられない。

 ノアの本体はここからそう遠くない魔族たちの住処、北の村にいる。
 アルストルと同じく魔物の大量発生の影響を受けているため、ノアが居着くことで魔除けの役割を果たしているのだ。
 転移魔法を使うにしてもそこまで負担になる距離ではないため、いざとなればシャーロットを救いにくることはできるだろうが、今現在ノアがあそこから動くのはリスクが多い。

 もう少しすれば、塔の魔導師総出で組み上げている結界が完成する。そうすればもうちょっと自由に動くことができるだろう。


「おはようございます、ノア、じゃなくてノワール」

 シャーロットの声だ。
 ノアは振り向き、そして嘴を大きく開いて固まった。

 この世のものとは思えない美貌がそこにあった。
 いつもはただ下ろしてるだけの髪はゆるく巻かれ、華やかにセットされている。
 垂れ気味の目元とけぶるような長いまつ毛はいつもより強調され、唇はほんのり赤く塗られている。
 儚さと色気が同居した危ない魅力を放っていた。
 百人中九十九人が振り返るだろう。振り返らない一人は盲目だ。
 普段からちょっと見ないレベルの美少女だが、これは流石に次元が違う。

 ノアは眩暈がした。
 これは、危ない。野に放ってはいけない。
 独占欲とかではなく、いや勿論それがあることは否定しないが、世界の平和のために、この危険物を封印する必要がある。

 ノアは漸く言った。


「……国を滅ぼす気が無いなら、せめて化粧は落とした方が良い」


 それを聞いたシャーロットは目に見えて機嫌を悪くした。
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