居場所を奪われた転生聖女、魔王の婚約者になる

玉菜きゃべつ

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3章 遠足ではありません

36. 聖女サマご乱心

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 ルミネ教の総本山、サントソーレ大神殿はその名の通りルミナリアの首都サントソーレに位置し、多くは単に「大神殿」と呼ばれる。
 聖女が生活するための部屋はそのほぼ最奥に存在していた。
 
 本来静かな筈のそこで、癇癪を起こした金切り声が響き渡る。
 今の聖女がラヴィニアになってからはよくある光景だったが、一人の奴隷が逃げ出してから、聖女が癇癪を起こす頻度は急激に高まっていた。
 
 現在のラヴィニアの癇癪の原因は、先程この部屋を訪れた若い神官にあった。
 青みがかった黒髪に、コバルトブルーの瞳を持つ丹精な顔立ちの青年だ。
 真面目さが顔に表れており少し近寄りがたい雰囲気を持つ神官は、高い位を示す法衣を身に纏っていた。
 
「ですから、聖女様。今一度お力を発揮していただきたくお願い申し上げているのです。魔物の被害は深刻化しつつあります。サントソーレ周辺は初代聖女様が張った結界に守られていますが、辺境では今この瞬間にも多くの民が傷ついております。聖女様が一度足を運んでいただくだけで多くの民を癒やすことができるのです」
「だから嫌って言ってるでしょ! 話のわからない男ね! いいから出ていって頂戴!」

 ラヴィニアは取り繕うことなく苛立ちを顔に浮かべ、手に持っていたティーカップを神官に向かって投げつけた。
 ティーカップは神官の真横の壁にあたり、派手な音を立てて割れる。
 これ以上何を言っても無駄だと思ったのか、神官は無表情で一礼して部屋を後にした。
 
 侍女たちが慌てて割れた欠片を片付けるのを横目に、ラヴィニアは爪を噛んだ。
 あの神官――ラウルはとことん気に入らない。
 せっせとラヴィニアの元に訪れては、聖女の役目を果たせだの民の救済を行えだの口うるさく言う。
 ラウルが教皇の子で次期教皇でなければ、とっくに始末している。
 
 最近のラヴィニアには腹立たしいことが多い。
 アルベルトは何故だか会ってくれなくなったし、部屋に引きこもってでてこないラヴィニアの評判は落ち始めていると聞く。
 加えてあの口うるさいラウルだ。
 
(私だって聖女の役目が果たせるなら果たしていたわよ! 本当に嫌味な男!)
 
 シャーロットが悪いのだ。あの子が自分の元から逃げ出したりなんかするから。
 奴隷紋を通じて聖力が自分に流れ込まなくなってから、以前のような絶大な力を発揮することはできなくなっていた。
 元々備わっていた聖力だと、聖力を完全に溜めた状態でもせいぜい人ひとりを死の淵から救うのが限界。
 それでも時代が時代なら聖女と名乗って差し支えない程の聖力だが、今までのラヴィニアは一度の祈りで村一つを救う稀代の聖女として崇められていた。
 今更並の聖女に戻るのは、ラヴィニアのプライドが許さない。
 
(それに、魔物の被害が増えているのだってシャーロットが悪いんじゃない。イベントの進行をサボってるからよ。私のせいじゃないわ)

 魔王の器が限界に近づくと、魔王が受け止め切れなくなった負のエネルギーは世界にそのまま留まることになる。
 そうして魔物が発生するのだ。魔物は負のエネルギーが形を持ったものだった。魔物が人を襲い、また負の感情が世界に溢れ、そうして魔王は破滅への道を歩む。
 
(いつまでもダラダラと日常パートが出来るわけじゃないのよ。当たり前じゃないの)

 とはいえ聖女は存在しているだけで周囲へ加護を発揮する。
 ルミナリアで魔物が発生しているのはシャーロットがウィンザーホワイトへ逃げてしまったからだろう。
 あんなに可愛がってあげたのに、逃げ出してしまうなんて無責任にもほどがある。
 神聖騎士にちょっと乱暴されたくらいで。それに、純潔までは奪われていないはずだ。
 そういうことになると絶望のあまり聖力が枯れてしまう。
 そんなルートも何回も見てきたから、もしそういう危機が訪れた場合には魔力を開放するように奴隷紋を調整しておいたのだから。
 
 シャーロットには側に居てもらわないと困る。
 何か策を講じないといけないが――。
 
 ラヴィニアは苛立ちの表情で爪を噛み続けていたが、やがてある事を閃くと笑みを浮かべた。
 それを見た侍女たちは震え上がった。ここ最近、ラヴィニアの笑顔は、誰かが折檻される合図だったからだ。
 しかし、その時のラヴィニアは侍女に新しい紅茶を持ってくるよう命じるに留まった。
 侍女を虐めるより、もっと楽しいことを思いついたからだ。
 
 怯える侍女をまるで意に介さずラヴィニアは呟く。
 
「イベントを起こしたら……あなたはそれを必ず解決しに来る筈だわ。だってヒロインなんだもの。ね、シャーロット?」
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