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3章 遠足ではありません
37. 若き神官の苦悩
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ラウルは内心苛立っていたが、それを表に出さず大神殿の廊下を早足で歩いてた。
問題が多すぎるのだ。
全てはラヴィニアがウィンザーホワイトから帰ってきてからの事だった。
まず、魔物の被害がこれまでの比にならないくらい増えた。
ルミナリア神聖国は聖女に守られた国だ。魔物の発生など無い――ということになっている。
これまでも辺境に限り極僅かに魔物の目撃情報はあったが、微々たるものだ。
神聖国を名乗るのに問題があるほどのものではない。
しかし、ここ最近の魔物の発生率は異常だ。こんなことは記録にない。
なんとか隠蔽してはいるが、このままだと他国に状況が漏れるのも時間の問題だろう。
そうすればこの国の権威は地に落ちかねない。
ラヴィニアが聖女の役目を果たしてくれさえすればまだマシだったのだが。
最近の彼女は様子がおかしい。元々癇癪もちではあったが、ここまで酷くはなかった。
少なくとも、己の身の回りの人間以外に当たることはなく、外面は綺麗に保っていたのに、それすら出来なくなってきている。
今までは第一王子のアルベルトがそれとなく機嫌を取ってくれていたのだが、何故か最近彼も大神殿を訪れなくなっていた。
それがラヴィニアの癇癪に拍車をかけているのだろう。
教会の上層部でもラヴィニアの評判は下がりつつある。
彼女の存在が教会にとって不利益になると判断されれば、ラヴィニアは「病死」しかねないだろう。
とはいえまだそういった声は少数派だ。今までの彼女の功績は大きいし、何より民衆からの人気がある。
頭を悩ませていたラウルだが、ふと声をかけられ我に返った。
見習いの神官用の衣装に身を包んだ少年が緊張した面持ちで言う。
「ラウル様。お忙しいところ申し訳ございません。アンジェリカ妃殿下がお呼びです」
ラウルは溜息をついた。
「わかった。有難う」
そう答えると見習い神官は小走りでまたどこかへ駆けていく。
信心深いアンジェリカ妃はいつも王族専用の祈祷室で祈りを捧げている。
ラウルはそちらへと足を向けたが、かなり憂鬱な心持ちだった。
要件は分かっている。消えた第二王子のことだろう。
アンジェリカ妃は自身に似た顔立ちの長男のアルベルトよりも、夫であるルミナリア国王に似た第二王子の方を偏愛しているのは国の上層部では有名な話だった。
公の場には全く姿を現さない第二王子。
あまりに影が薄いので、多くの者はその名前すら朧げにしか覚えていないだろう。
表向きは病弱だからずっと療養していると言うことになっているが実態は違う。
アンジェリカがほぼ軟禁して育てていたのだ。過保護に、外気に触れないように。
ある時から、大神殿の祈祷室に籠もって一心に祈りを捧げるようになったアンジェリカを不審に思い、なにか心配ごとでもあるのか、と尋ねたラウルにアンジェリカは言った。
「あの子が消えた。あの子を探して欲しい」と。
第二王子が消えたことは、王と教皇、アンジェリカとラウルしか知らない。
広まれば間違いなく大騒ぎになるため、表立って捜索することも出来ない。
ラウルの頭を悩ます問題の一つだった。
「失礼いたします」
ラウルは告げ、返事を待ってから祈祷室の扉を開けた。
いつもどおりアンジェリカはそこで祈りを捧げている。
栗色の長い髪がその顔にかかり、表情を伺い知ることは出来ない。
王妃とは思えないような質素な衣装に身を包んだ、年齢を感じさせない可憐な女性だった。
アンジェリカはラウルの方を向き直り、微笑みかけた。
「港で、あの子によく似た男の子の目撃情報があったらしいの。もしかしたら国外に出ているのかもしれないわ。そう――例えば、ウィンザーホワイトとか。捜してきてくれるわよね?」
アルストルに魔物の被害が発生し出す、数日前のことだった。
問題が多すぎるのだ。
全てはラヴィニアがウィンザーホワイトから帰ってきてからの事だった。
まず、魔物の被害がこれまでの比にならないくらい増えた。
ルミナリア神聖国は聖女に守られた国だ。魔物の発生など無い――ということになっている。
これまでも辺境に限り極僅かに魔物の目撃情報はあったが、微々たるものだ。
神聖国を名乗るのに問題があるほどのものではない。
しかし、ここ最近の魔物の発生率は異常だ。こんなことは記録にない。
なんとか隠蔽してはいるが、このままだと他国に状況が漏れるのも時間の問題だろう。
そうすればこの国の権威は地に落ちかねない。
ラヴィニアが聖女の役目を果たしてくれさえすればまだマシだったのだが。
最近の彼女は様子がおかしい。元々癇癪もちではあったが、ここまで酷くはなかった。
少なくとも、己の身の回りの人間以外に当たることはなく、外面は綺麗に保っていたのに、それすら出来なくなってきている。
今までは第一王子のアルベルトがそれとなく機嫌を取ってくれていたのだが、何故か最近彼も大神殿を訪れなくなっていた。
それがラヴィニアの癇癪に拍車をかけているのだろう。
教会の上層部でもラヴィニアの評判は下がりつつある。
彼女の存在が教会にとって不利益になると判断されれば、ラヴィニアは「病死」しかねないだろう。
とはいえまだそういった声は少数派だ。今までの彼女の功績は大きいし、何より民衆からの人気がある。
頭を悩ませていたラウルだが、ふと声をかけられ我に返った。
見習いの神官用の衣装に身を包んだ少年が緊張した面持ちで言う。
「ラウル様。お忙しいところ申し訳ございません。アンジェリカ妃殿下がお呼びです」
ラウルは溜息をついた。
「わかった。有難う」
そう答えると見習い神官は小走りでまたどこかへ駆けていく。
信心深いアンジェリカ妃はいつも王族専用の祈祷室で祈りを捧げている。
ラウルはそちらへと足を向けたが、かなり憂鬱な心持ちだった。
要件は分かっている。消えた第二王子のことだろう。
アンジェリカ妃は自身に似た顔立ちの長男のアルベルトよりも、夫であるルミナリア国王に似た第二王子の方を偏愛しているのは国の上層部では有名な話だった。
公の場には全く姿を現さない第二王子。
あまりに影が薄いので、多くの者はその名前すら朧げにしか覚えていないだろう。
表向きは病弱だからずっと療養していると言うことになっているが実態は違う。
アンジェリカがほぼ軟禁して育てていたのだ。過保護に、外気に触れないように。
ある時から、大神殿の祈祷室に籠もって一心に祈りを捧げるようになったアンジェリカを不審に思い、なにか心配ごとでもあるのか、と尋ねたラウルにアンジェリカは言った。
「あの子が消えた。あの子を探して欲しい」と。
第二王子が消えたことは、王と教皇、アンジェリカとラウルしか知らない。
広まれば間違いなく大騒ぎになるため、表立って捜索することも出来ない。
ラウルの頭を悩ます問題の一つだった。
「失礼いたします」
ラウルは告げ、返事を待ってから祈祷室の扉を開けた。
いつもどおりアンジェリカはそこで祈りを捧げている。
栗色の長い髪がその顔にかかり、表情を伺い知ることは出来ない。
王妃とは思えないような質素な衣装に身を包んだ、年齢を感じさせない可憐な女性だった。
アンジェリカはラウルの方を向き直り、微笑みかけた。
「港で、あの子によく似た男の子の目撃情報があったらしいの。もしかしたら国外に出ているのかもしれないわ。そう――例えば、ウィンザーホワイトとか。捜してきてくれるわよね?」
アルストルに魔物の被害が発生し出す、数日前のことだった。
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