ティアナはそれでも世界を救いたかった

玉菜きゃべつ

文字の大きさ
6 / 19
1章 受難

6. ティアナの旅立ち

しおりを挟む
 ――魔王が復活した。
 その報せを聞いたティアナは、正直、少しほっとしていた。
 
 クラウスがティアナが『救世の乙女』であると主張していてくれていたことと、ティアナが尋常ならざる速度で実力を伸ばしていったことから、表立ってティアナを排斥しようとする動きはなかったものの、やはりティアナは孤独だった。
 それは、約一年前、神託を受けた直後から長らく病に伏せっていた神官長が復帰し、ティアナが間違いなく『救世の乙女』であることを宣言しても変わらなかった。
 
 出来ることなら、生まれ育った辺境の森に帰りたい。
 同じ孤独なら、こんな冷たい人たちの中ではなく、森の生命を感じて暮らしたい。
 
 魔王を討伐すれば、その願いが叶えられる。
 
 魔王討伐には、ティアナとクラウスの二人で向かうことになっていた。
 あまり大所帯で行くとどうしても移動速度が遅くなり、その分被害が広がる。
 この三年でティアナは比類無い強さを身に着けていたし、クラウスもそこらの騎士には負けない程度に腕が立つ。
 元より、魔王の元まで近寄れるのはこの二人だけだということもあって、供も付けずに旅立つことが決まっていた。
 
 クラウスは、殆どの場合ティアナに優しい。
 彼の意向に沿わない時は意見を曲げないが、魔王討伐は彼の願いでもある。
 たまに少し怖いときもあるが、ティアナはクラウスを愛していたし、以前大怪我をした直後に貰った指輪はティアナの心の支えだった。
 厳しい道程になるかもしれないが、彼と二人で旅するのは、この城にいるよりずっと心が楽だろう。
 
 そう思っていたのに。
 
 
 
 ◆◆◆
 
 
 
「え、今なんて……?」
「だから、この旅にユーリアも同行してもらうことにした。私たち二人だと回復が心許ないからな。ユーリアは戦えないから私たちで守りながら進むことになるが、まあ、一人くらい問題はないだろう」
 
 なんでもないことのようにクラウスは言った。
 
 あの一件以来、ユーリアから直接悪意をぶつけられたことはない。
 ティアナが彼女をなるべく避けていたのもあるし、直接会話しなければならない場合も、彼女は穏やかな態度を崩さなかった。
 ただ、たまにぞっとするような冷ややかな目をティアナに向けるので、彼女はやはりティアナに敵意を持っているのだということは明らかだった。
 
 一度、クラウスに相談しようとしたことがある。
 ユーリアから嫌われている気がするので、なるべく顔を合わせないようにしたい。
 そう伝えるとクラウスは、まるで表情を変えず言った。
 
「気の所為だろう。ユーリアは人を嫌うような人間がじゃないから、気にしなくてもいい」

 ……それ以来、ティアナはクラウスの前でユーリアの話題を出すことをやめた。
 
 クラウスがティアナに伝えてきたということは、もうユーリアの同行は決定事項なのだろう。
 ティアナは気が重かった。
 
 
 
 ◆◆◆
 
 
 
 そうして旅立った日の初めての戦闘の前、クラウスは言った。
 
「私はユーリアを守るから、後ろは気にせず戦ってくれ」

 つまり、一人でどうにかしろということだ。
 幸い弱い魔物が相手だったため、ティアナは一人でも難なく倒すことが出来たし、大きな負傷をすることも無かった。
 
 始めはそれで良かったのだが、魔王城に近づくにつれ敵もどんどん強くなる。
 ある日ついに、ティアナが戦闘不能に陥ってしまい、クラウスに戦わせることになってしまった。

 その敵は問題なく倒せたが、戦闘後、ティアナはクラウスに叱られることになった。
 
「『救世の乙女』なんだから、あれくらいの敵に苦戦してるようじゃ駄目だ。もっと頑張って貰わないと」

 ティアナはクラウスに失望されたくなかった。
 その次の戦闘では、より強い敵をなんとか一人で倒しきった。
 
 クラウスは喜んでくれた。
 
「さすが、私のティアナ。よく出来たね。愛してるよ」

 嬉しかった。もっともっと頑張ろうと思った。
 実戦を重ねることでティアナはどんどん力を付けていった。
 また、傷を負ってユーリアに回復してもらう際、酷く痛むのが嫌で回避技術も上がった。
 それに、自分が頑張ればクラウスは笑ってくれる。
 ティアナはそれだけで良かった。
 
 どんな敵よりも、クラウスを失望させることのほうが、ティアナには恐ろしかった。
 自分の味方はクラウスしか居ないと、心の底から思っていたから。
 
 そして、遂に魔王城の近く、人類の最前線の街までやってきたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

老け顔ですが?何かあります?

宵森みなと
恋愛
可愛くなりたくて、似合わないフリフリの服も着てみた。 でも、鏡に映った自分を見て、そっと諦めた。 ――私はきっと、“普通”じゃいられない。 5歳で10歳に見られ、結婚話は破談続き。 周囲からの心ない言葉に傷つきながらも、少女サラサは“自分の見た目に合う年齢で学園に入学する”という前代未聞の決意をする。 努力と覚悟の末、飛び級で入学したサラサが出会ったのは、年上の優しいクラスメートたちと、ちょっと不器用で真っ直ぐな“初めての気持ち”。 年齢差も、噂も、偏見も――ぜんぶ乗り越えて、この恋はきっと、本物になる。 これは、“老け顔”と笑われた少女が、ほんとうの恋と自分自身を見つけるまでの物語。

隠された第四皇女

山田ランチ
恋愛
 ギルベアト帝国。  帝国では忌み嫌われる魔女達が集う娼館で働くウィノラは、魔女の中でも稀有な癒やしの力を持っていた。ある時、皇宮から内密に呼び出しがかかり、赴いた先に居たのは三度目の出産で今にも命尽きそうな第二側妃のリナだった。しかし癒やしの力を使って助けたリナからは何故か拒絶されてしまう。逃げるように皇宮を出る途中、ライナーという貴族男性に助けてもらう。それから3年後、とある命令を受けてウィノラは再び皇宮に赴く事になる。  皇帝の命令で魔女を捕らえる動きが活発になっていく中、エミル王国との戦争が勃発。そしてウィノラが娼館に隠された秘密が明らかとなっていく。 ヒュー娼館の人々 ウィノラ(娼館で育った第四皇女) アデリータ(女将、ウィノラの育ての親) マイノ(アデリータの弟で護衛長) ディアンヌ、ロラ(娼婦) デルマ、イリーゼ(高級娼婦) 皇宮の人々 ライナー・フックス(公爵家嫡男) バラード・クラウゼ(伯爵、ライナーの友人、デルマの恋人) ルシャード・ツーファール(ギルベアト皇帝) ガリオン・ツーファール(第一皇子、アイテル軍団の第一師団団長) リーヴィス・ツーファール(第三皇子、騎士団所属) オーティス・ツーファール(第四皇子、幻の皇女の弟) エデル・ツーファール(第五皇子、幻の皇女の弟) セリア・エミル(第二皇女、現エミル王国王妃) ローデリカ・ツーファール(第三皇女、ガリオンの妹、死亡) 幻の皇女(第四皇女、死産?) アナイス・ツーファール(第五皇女、ライナーの婚約者候補) ロタリオ(ライナーの従者) ウィリアム(伯爵家三男、アイテル軍団の第一師団副団長) レナード・ハーン(子爵令息) リナ(第二側妃、幻の皇女の母。魔女) ローザ(リナの侍女、魔女) ※フェッチ   力ある魔女の力が具現化したもの。その形は様々で魔女の性格や能力によって変化する。生き物のように視えていても力が形を成したもの。魔女が死亡、もしくは能力を失った時点で消滅する。  ある程度の力がある者達にしかフェッチは視えず、それ以外では気配や感覚でのみ感じる者もいる。

望まない相手と一緒にいたくありませんので

毬禾
恋愛
どのような理由を付けられようとも私の心は変わらない。 一緒にいようが私の気持ちを変えることはできない。 私が一緒にいたいのはあなたではないのだから。

プロローグで主人公が死んでしまう話【アンソロジー】

おてんば松尾
恋愛
プロローグで主人公が死んでしまう話を実は大量生産しています。ただ、ショートショートでいくつもりですので、消化不良のところがあるみたいです。どうしようか迷ったのですが、こっそりこちらでアンソロジーにしようかな。。。と。1話1万字で前後で終わらせます。物語によってはざまぁがない物もあります。 1話「プロローグで死んでしまうリゼの話」 寒さに震えながらリゼは機関車に乗り込んだ。 疲労と空腹で、早く座席に座りたいと願った。 静かな揺れを感じながら、リゼはゆっくりと目を閉じた。 2話「プロローグで死んでしまうカトレアの話」 死ぬ気で城を出たカトレア、途中馬車に轢かれて死んでしまう?

毒姫の婚約騒動

SHIN
恋愛
卒業式を迎え、立食パーティーの懇談会が良い意味でも悪い意味でもどことなくざわめいていた。 「卒業パーティーには一人で行ってくれ。」 「分かりました。」 そう婚約者から言われて一人で来ましたが、あら、その婚約者は何処に? あらあら、えっと私に用ですか? 所で、お名前は? 毒姫と呼ばれる普通?の少女と常に手袋を着けている潔癖症?の男のお話し。

伝える前に振られてしまった私の恋

喜楽直人
恋愛
第一部:アーリーンの恋 母に連れられて行った王妃様とのお茶会の席を、ひとり抜け出したアーリーンは、幼馴染みと友人たちが歓談する場に出くわす。 そこで、ひとりの令息が婚約をしたのだと話し出した。 第二部:ジュディスの恋 王女がふたりいるフリーゼグリーン王国へ、十年ほど前に友好国となったコベット国から見合いの申し入れがあった。 周囲は皆、美しく愛らしい妹姫リリアーヌへのものだと思ったが、しかしそれは賢しらにも女性だてらに議会へ提案を申し入れるような姉姫ジュディスへのものであった。 「何故、私なのでしょうか。リリアーヌなら貴方の求婚に喜んで頷くでしょう」 誰よりもジュディスが一番、この求婚を訝しんでいた。 第三章:王太子の想い 友好国の王子からの求婚を受け入れ、そのまま攫われるようにしてコベット国へ移り住んで一年。 ジュディスはその手を取った選択は正しかったのか、揺れていた。 すれ違う婚約者同士の心が重なる日は来るのか。 コベット国のふたりの王子たちの恋模様

【完結】無罪なのに断罪されたモブ令嬢ですが、神に物申したら上手くいった話

もわゆぬ
恋愛
この世は可笑しい。 本当にしたかも分からない罪で”悪役”が作り上げられ断罪される。 そんな世界にむしゃくしゃしながらも、何も出来ないで居たサラ。 しかし、平凡な自分も婚約者から突然婚約破棄をされる。 隣国へと逃亡したが、よく分からないこんな世界に怒りが収まらず神に一言物申してやろうと教会へと向かうのだった… 【短編です、物語7話+‪α‬で終わります】

6回目のさようなら

音爽(ネソウ)
恋愛
恋人ごっこのその先は……

処理中です...