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2. 私のものを返して
しおりを挟むリーリエは、今まで見てきた誰よりも――クリスタよりも――美しかった。
月光を溶かし込んだような白金の髪はよく手入れが行き届いていて絹糸のようだったし、輝くような白い肌は大事にされて育ってきた令嬢だけが持っているものだった。
何より、その公爵譲りの新緑の瞳で見つめられると、クリスタは自分が半分平民の血を引いていることを否が応でも思い知らされて、いたたまれない気持ちになった。
聞けば、リーリエはありとあらゆる才能を発揮していて、中でも魔術の腕は王宮魔術師にも引けをとらないものであり、暇を見つけては魔術の研究を行っているのだという。
父は姉に対しそっけない態度を取っているにも関わらず、可哀想な筈の姉は随分満たされているように見えた。
悔しかった。望まれない子のくせに。父から愛されていないくせに。
正妻の子だというだけで、はじめからエーレンベルクの名を持った貴族の娘として敬われて、教育を受けて公爵家を継ぐ。
それは、本当はクリスタのものの筈だったのに。
クリスタだって公爵家で生まれ育ち、教育を受けていれば、リーリエと同じように全てを手に入れていたのに違いないのに。
「お姉様から、私のものを返して貰わなきゃ。本当は、私だけがパパの娘の筈なんだから」
リーリエから全てを奪うことは、正当な権利のように思えた。
今まで離れて暮らしていた公爵はクリスタに甘く、大抵のお願いは叶えてもらうことができた。
まず、リーリエの衣装や宝飾品を最低限のもの以外全てクリスタのものとした。
今までこんな素敵なものみたことないわ、とねだれば、それがどんなものであっても公爵はリーリエにクリスタへと渡すよう命じた。
大抵はリーリエの方も、
「まあ、可哀想に。こんなもので良ければさしあげるわ。苦労してらしたものね」
と穏やかにクリスタへと譲った。
憐れまれているようで気に食わなかったが、どんどん質素になっていくリーリエを見るのは胸がすく思いがした。
リーリエについていた使用人たちも大半クリスタ付きへと回してもらい、リーリエの周りにはほんの数人しか残さないようにした。
しかし、リーリエはさほど困った様子も見せずに、どんな時もその深窓の令嬢然とした態度を崩すことはなかった。
(まだ足りないんだわ。だって、お姉様にはまだ余裕がある)
リーリエの持っている中で一番価値のあるものを奪いたい。
そう考えたクリスタは、エーレンベルクの後継者を自分へと変えてもらうことにした。
いくらクリスタに甘い公爵といえど、後継者となるとさすがに少し渋ったが、公爵の決めた相手――元々リーリエと結婚する予定だった――を婿入りさせることと、リーリエを補佐につけることを条件にクリスタの願いを叶えた。
後継者の座も、婚約者も、すべてクリスタのものとなった。
大事なものを全て失った哀れなお姉様は、一生クリスタのそばで、クリスタの補佐として、クリスタの幸せの支えになるのだ。
その筈だったのに。
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