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2.恋敵
しおりを挟む「ねぇ、アルモ」
「なんですか? ご主人様」
「忘れ物したから、ちょっとだけここで待っててくれる?」
研究所の食堂で寛いでいたご主人様は、突然立ち上がると僕——アルモに告げました。
「かしこまりました、ご主人様」
「アルモはいつもイイ子ね。じゃ、ちょっと待っててね」
ご主人様は口癖のように、僕をイイ子だと言います。
命令通りに動くようプログラムされている僕が『イイ子』なのは当然であって、褒められるような行いをした覚えはありません。
ですが、褒められる度、少しだけシステムが落ち着かなくなります。バグでも発生しているのでしょうか。今度ご主人様に相談してみようと思います。
そんな時でした。
「やあ、アルモくん」
ふいにすぐ後ろから、青年の声が聞こえました。
「こんにちは、ジニー博士」
振り返るとそこには、ご主人様より二つ年上で、顔の造形が整っていることで有名なジニー博士が立っていました。
「アンドロイドはつまらないな。不意打ちで声をかけても、冷静な対応をされるとこっちが冷めてしまう」
「では次から驚くという動作を追加します」
「そういう話ではないんだよ。わざと驚かれても僕はちっとも楽しくないよ。これでも人を驚かせるのは得意なんだけどね」
「ご主人様はジニー博士を喜ばせるために『驚く』という動作を行います」
「そんなことを言われたら、自信をなくしてしまうじゃないか。まあ、驚かせる以上に、喜ばせることも得意なんだが」
ベッドの上で、とジニー博士は不敵な笑みを浮かべます。
僕は少しだけ考える動作を見せたあと、ジニー博士に訊ねます。
「ジニー博士は、ご主人様とお付き合いなさっているのですか?」
「ああ、歴代の彼氏のように、女を差し向けても無駄だからね」
「どうしてご存じなのですか?」
「彼女のスマホをこっそり調べさせてもらったよ。君の性能を疑うよ。足跡だらけじゃないか」
「そうですか、だったら直接言わせていただきます。ご主人様と別れてください」
「直球だね。純粋な子は嫌いじゃないよ」
「なんの話をしているの?」
僕とジニー先生が会話を行っていると、いつの間にかご主人様が帰ってきていました。それに、なんだか少し怒っているようにも見えます。
ご主人様はジニー博士を睨みつけて言いました。
「私の可愛いアルモをいじめたら怒るからね」
「君の作品はさすがだね。ここまで人間に近いと、僕まで勘違いしてしまうよ」
「アルモはあげませんからね。早くどこかへ行ってください」
「彼氏に対してその扱いはないんじゃないか?」
「一日デートしただけで彼氏面しないでください」
「お、アルモ君が驚いた顔をしているぞ」
「ご主人様はジニー博士と付き合ってるんじゃないんですか?」
「まさか! なんで私がこんなロボットオタクと付き合わないといけないのよ」
「その言葉、ブーメランだからな」
「私はただの職業病です」
「じゃあな、アルモ君。素直なことは良いことだが、プライベートなことはミュートにしておいたほうがいいぞ」
「なんなの、あの人」
その後、ご主人様のスマホを確認した僕ですが、ジニー博士に探られた形跡はありませんでした。
ジニー博士がなぜあんな嘘をついたのかはわかりませんが、人間の想像力というものに驚かされたのも事実です。
そしてその日、僕はとある行動に出ました。
「——ご主人様、今日は一緒に寝てもいいですか?」
ご主人様のベッドルームに入った僕は、そう言ってベッドに枕を二つ並べます。
すると、パジャマを着たご主人様が驚いた顔をしました。
「どうしたのアルモ」
「怖い夢を見ました」
「どこでそんな言葉を覚えてくるのかな。——いいよ、おいで」
機械の僕が夢なんて見るはずないとわかっていても、ご主人様は嬉しそうな顔をして僕を布団に招き入れてくれました。
僕だってこうやってベッドでご主人様を喜ばせることができるんです。
ご主人様の健やかな寝息を確認した僕は、隣で全機能を停止させました。
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