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12.もう一人の魔法使い
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屋上に呼び出された大迫啓太は、震える体を抱きしめながら藤間保に視線を向ける。
「う~、外は寒いな。へーくしょいっ……それで、デリケートな話って何ですか?」
すると、藤間はこれまでの柔和な雰囲気とはまるで別人のような物々しさで大迫に告げた。
「お前も気づいているだろう?」
「なんのことですか?」
「とぼけるな! 大魔法使いが、同じ魔法使いに気づかないわけがないだろう」
「え? 大魔法使い?」
「あくまで白を切るつもりか……だが、知らないふりなんてさせないからな!」
「あ、もしかして藤間先輩、魔法使いなんですか?」
「……見てわからないか? 僕のこのオーラが」
「えっと、わかりません」
「僕の魔力がわからないだと? 僕はお前の強大な魔力にすぐ気づいたぞ。やはり僕はお前より上に違いない……だから、僕がお前より優れていることを、今ここで証明してやる!」
「え? 証明? 俺、証明問題苦手なんですけど」
「数学の話じゃない! 口でわからないなら、僕の力でわからせてやる!」
そして藤間が胸ポケットから取り出したのは、手のひらほどの杖だった。
小さな杖を構えて持つ藤間に、大迫は目を瞬かせる。
「え? どうしよ。先輩、魔法使うの? でも俺は人に向けて攻撃魔法は使っちゃいけないって言われてるし……えいっ」
言いながら大迫はボールペンで手のひらに何かを書き込むと、その手を藤間に向けた。
すると藤間はみるみる光に包まれて、忽然と姿を消したのだった。
「ふう、危なかった。『危険な君を運んじゃうぞ♡』の魔法が間に合ったみたいだ」
***
「何してるの? 大迫くん」
屋上にやってきた私——結菜が見たのは、ジャージを着た大迫くんの姿だけだった。
「あ、結菜! どうしてここに?」
「もう教室閉められちゃったから、カバン持ってきたよ。藤間先輩は? 一緒にいたんじゃないの?」
「たぶん、この国のどこかにはいると思うけど……」
「は?」
私が首を傾げていると、階下から階段を駆け上がる音がして——そのうち藤間先輩が現れる。
息を切らしてやってきた藤間先輩を見て私が目を白黒させる傍ら、大迫くんはニコニコしながら藤間先輩を見ていた。
「今度こそお前を倒して俺が大魔法使いに——」
「あなたに幸運を」
「うわあああああああ」
光に包まれて消えた藤間先輩を見て、私はドン引きする。
これって、魔法……だよね?
「え? ちょっと! 藤間先輩に何したの?」
「なんだかよくわからないけど、攻撃魔法使ってくるから飛ばしちゃった」
「え? 藤間先輩も魔法使いなの?」
「たぶん」
すると再び階段を駆け上がってくる音がして、もしかしたらと思っていたら、やはり藤間先輩だった。
「まだまだっ! 今度こそお前を——」
「以下略」
「うわあああああああ」
再び消えた藤間先輩に、私がなんとも言えない気持ちになる。
「藤間先輩、体弱いとか言ってなかった?」
それからものの数分で戻ってきた藤間先輩は、小さな杖を前に構えてみせた。
「今度こそ!」
「案外しつこいね」
けど、今度は大迫くんが呪文を唱える前に、藤間先輩が口早に呪文を告げる。
すると、藤間先輩の杖の先端に灯った光がこちらに向かって飛んできて——ビリビリと稲妻のようなものが、私の右頬を通り過ぎた。
「きゃっ! 痛いっ」
「結菜!? 大丈夫?」
「何かが顔をかすったみたい」
「結菜、血が出てる……」
「ちっ、また外したか」
「ちょっと、藤間先輩! 結菜になんてことするんですか」
「お前が避けるからだろう? 僕は知らない」
「魔法を俺に向けるのは構わないけど……結菜の顔に傷をつけるのは許せない」
「大迫くん?」
大迫くんはいつになく怒った顔で、呪いのような言葉を口にする。
————あなたに凶運を。
「うわああああああああ」
すると今度は、藤間先輩が崩れるようにして倒れた。
「大迫くん……藤間先輩に何をしたの?」
「ちょっとだけ、眠ってもらっただけだよ。それより、大丈夫? 結菜」
「うん、私は大丈夫だよ」
「良かった……結菜に何かあったら、俺は生きていけない」
「大袈裟なこと言っちゃって」
「ほんとだよー」
「はいはい。じゃ、帰ろっか」
そして私たちは、藤間先輩を屋上に残して帰宅したのだった。
***
翌日の放課後。
私と大迫くんは、部室まで続く廊下を歩いていた。
「今日も奇術部楽しみだなぁ」
「藤間先輩、また大迫くんに攻撃してくるのかな」
「今度、結菜に何かしたら、俺が許さないから」
「はいはい」
そしてガラガラと部室の引き戸を開けると、そこには——
「大魔法使い様、おはようございます」
礼儀正しく正座をする藤間先輩の姿があった。
「藤間先輩、何言ってるんですか?」
思わず訊ねると、藤間先輩はやや高揚気味に告げる。
「僕……いや、私はあなた様の魔法で完全に目が覚めました。ですから、どうか私を弟子にしてください!」
「え、いやだよ」
「大魔法使い様っ」
抱きつく勢いの藤間先輩に、大迫くんはひいていた。
とりあえず私は、藤間先輩にそっと告げる。
「藤間先輩、大魔法使い様はやめたほうがいいですよ」
「どうしてですか?」
「ああ見えて、魔法使いであることを内緒にしてほしいみたいだし」
「なるほど、わかりました。大迫様っ! 私を弟子にしてください!」
私の話を聞いていたのだろうか。
さっきとあまり変わらない藤間先輩の態度に頭を抱えていると、長谷部くんがやってくる。
「何? なんのさわぎ?」
誰となく訊ねる長谷部くんの言葉を、拾う人はいなかった。
「大迫様っ」
その後も藤間先輩がはしゃいで大迫くんについて回る中、外野を気にしない大迫くんは真紀先輩に声をかける。
「真紀先輩、今日は何をすればいいですか?」
すると真紀先輩は相変わらずの調子で、
「もちろん、ペンの素振り百回で」
という無茶振りをするもの。
大迫くんは相変わらず素直に従っていた。
また、それを見た藤間先輩が前のめりに挙手をするなり。
「私もお供します!」
同じように素振りを始めたのだった。
そんな中、全てを見ていた長谷部くんが私に耳打ちする。
「なに? 藤間先輩、大迫の舎弟になったの?」
「……よくわからないよ」
「やっぱり昨日は、殴り合いでもしたのか」
「……」
奇術部は前途多難である。
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