23 / 72
23.自称占い師
しおりを挟む学園祭まであと三日。
私——結菜が相変わらずお茶汲みみたいなマネージャー活動をする中、机でトランプを切っていた長谷部くんがふと呟く。
「あーあ、目標がないとやる気が出ないな」
「そんなこと言わないでよ、長谷部くん。受験を控えた真紀先輩と違って、私たちには来年もあるんだから」
「どうせ俺には来年なんてないよ」
私の言葉に反応して口を膨らませる真紀先輩。
学園祭でマジックを披露できないないのが悔しいのか、先輩はすっかりやさぐれていた。
「真紀先輩もいじけないでください。今年の活動がまだ残ってますよ」
仕方なく私は、真紀先輩を元気付けるためにおしるこを差し出す。
すると真紀先輩はその場で勢いよく飲み干して、カーッと息を吐いた。
「やっぱりこれが一番だよな——おい、長谷部。そのマジックの種を教えろ」
「見る前から種明かししてどうするんスか。まずは何をするのかちゃんと見てください」
急に張り切り始めた真紀先輩を見て、長谷部くんは面倒くさそうな顔をしていた。
やっぱりこういう時は、甘いものが効くんだよね。
単純な真紀先輩に私が苦笑していると——
そんな時、ドアの方から落ち着いた声が聞こえてくる。
「ステージが欲しいなら、近くの老人ホームでボランティアでもすればいい」
声の主は、いつの間にか部室にいた生徒会長だった。
ていうか、生徒会室に入る時はノックとかうるさいのに、奇術部室には音もなく現れるよね。
そう思いながらも、私はあえてツッコミを入れずに訊ねる。
「ボランティアってなんですか?」
「ああ、校長に慰問交流の打診があってな、お前たちに頼みにきたんだが……どうだ? やってみないか?」
慰問交流という言葉に、部員たちは顔を見合わせる。その顔は困惑というより、ステージができるチャンスに興奮している雰囲気だった。
「俺は別に構わないですが……みんなはどう思う?」
真紀先輩が誰となく訊ねるのを見て、私はすかさず挙手する。
「私はいいと思います!」
「無観客のステージよりは百倍マシだ」
長谷部くんもにこやかに賛成する傍ら、藤間先輩は大迫くんの顔色をうかがっていた。
「大迫様が良いなら、私も賛成です」
「俺もいいと思います」
そして最後に大迫くんもOKして、生徒会長は満足げに頷く。
「じゃ、決定だな。校長には俺から話しておく」
「ありがとうございます、生徒会長」
「こちらこそ、だ。じゃあな」
それから生徒会長が静かに去るのを見届けたあと、私は真紀先輩に笑顔で告げる。
「真紀先輩、良かったですね。今度こそ観客のいるステージで披露できますよ」
「ああ。いまから練習しておかないとな——素振りから始めるぞ!」
「……はい、先輩」
気合いを入れる真紀先輩に比べて、大迫くんは浮かない顔で頷いた。
そのいつになく暗い様子に、長谷部くんが声をかける。
「なんだ大迫、元気がないな」
「……そうかな?」
「もしかして、この間のステージで、せっかく呼んだ観客が帰ったこと、気にしているのか?」
「……そうじゃないけど」
「元気だせよ。誰にだって上手くいかないことはあるんだから」
「……そうだね」
長谷部くんが元気づけてくれたけど、それでも大迫くんはなんとなく納得のいかない顔をしていた。
私が大迫くんの様子を気にする中、真紀先輩が唐突に告げる。
「それはそうと、もうすぐ学園祭だが……結菜はどうするんだ?」
「学園祭ですか?」
「良かったら……俺と一緒に回るか?」
「それなら大丈夫です。大迫くんが一緒に回ってくれることになったので」
「大迫くんが?」
「はい」
「……ずるい」
「え?」
「俺も結菜と一緒に回る」
「先輩? 先輩は友達と回るんじゃ?」
「いや、俺も結菜と回りたい」
突然、子供のように駄々をこね始めた真紀先輩に、私が困惑していると——素振りをしていた大迫くんもこちらにやってきて、譲らない様子で強く告げる。
「でも、俺が先に約束しましたから」
真紀先輩と大迫くんが睨み合う中、長谷部くんが「おお」と謎の声をあげる。
でも、このまま雰囲気が悪くなるのも嫌だし、私は思い切って提案する。
「だったら、三人で回ろうよ!」
私の言葉に、真紀先輩と大迫くんは同時にこちらを振り返った。
みんなで学園祭回るのも、きっと楽しいよね。
私が二人の答えを待っていると、近くにいた藤間先輩も挙手をする。
「なら、私もご一緒してよろしいですか?」
「藤間先輩もですか? どうぞどうぞ」
私が笑顔で答えると、傍観していた長谷部くんが何やら口の中でブツブツと呟く。
「藤間先輩は大迫のために真紀先輩を蹴落とすつもりだな。俺は誰の味方でもないが……ややこしいことになる前に藤間先輩を止めないと」
長谷部くんの言葉が聞き取れなくて、何を言っているのか訊ねようと口を開きかけたその時、長谷部くんも手を挙げた。
「俺も一緒に行っていいか?」
なるほど、長谷部くんも一緒に行きたかったんだね。
「いいよ! 結局、みんな一緒だね」
いつものメンバーで学園祭を回ることになって、私がなんとなく安心する中、真紀先輩はなぜか肩を落としていた。
***
奇術部の部活動を終えたあと。
紺野真紀は暗い道路橋を歩きながらため息を吐く。
本当は結菜と二人で学園祭を回るつもりだったが、予定が狂ってしまい、憂鬱な気持ちで帰り道を歩いていた。
「……少し前までは、俺だけの結菜だったのに……奇術部に人が増えたのは嬉しいが、複雑だ」
などと不満を口にする真紀だったが——その時、ふいに黒い布をかぶった怪しい人影が向かいからやってくる。
真紀が警戒していると、年齢も性別もわからないその相手は、真紀に向かって口を開いた。
「……あなた、紺野真紀さんですね」
真紀よりほんの少し高い声。少年の声だった。
深くかぶった布から見える口元は、笑っているように見えた。
「は? 誰だ? あんた」
真紀が警戒しながら訊ねると、相手は笑いを含んだ声で口を開いた。
「通りすがりの占い師です」
「は? 占い師?」
「ええ。あなた今……恋をしているんじゃないですか?」
言いながら、じりじりと近づいてくる黒い布の少年に、真紀は怪訝な顔をする。
「恋? なんのことだ?」
「無自覚なのですね。まあいい、私が手を貸しましょう」
自称占い師は、それだけ告げると、真紀の額に手をかざした。
40
あなたにおすすめの小説
リトライさせていただきます!〜死に戻り令嬢はイケメン神様とタッグを組んで人生をやり直す事にした〜
ゆずき
恋愛
公爵家の御令嬢クレハは、18歳の誕生日に何者かに殺害されてしまう。そんなクレハを救ったのは、神を自称する青年(長身イケメン)だった。
イケメン神様の力で10年前の世界に戻されてしまったクレハ。そこから運命の軌道修正を図る。犯人を返り討ちにできるくらい、強くなればいいじゃないか!! そう思ったクレハは、神様からは魔法を、クレハに一目惚れした王太子からは武術の手ほどきを受ける。クレハの強化トレーニングが始まった。
8歳の子供の姿に戻ってしまった少女と、お人好しな神様。そんな2人が主人公の異世界恋愛ファンタジー小説です。
※メインではありませんが、ストーリーにBL的要素が含まれます。少しでもそのような描写が苦手な方はご注意下さい。
【完結】一番腹黒いのはだあれ?
やまぐちこはる
恋愛
■□■
貧しいコイント子爵家のソンドールは、貴族学院には進学せず、騎士学校に通って若くして正騎士となった有望株である。
三歳でコイント家に養子に来たソンドールの生家はパートルム公爵家。
しかし、関わりを持たずに生きてきたため、自分が公爵家生まれだったことなどすっかり忘れていた。
ある日、実の父がソンドールに会いに来て、自分の出自を改めて知り、勝手なことを言う実父に憤りながらも、生家の騒動に巻き込まれていく。
とっていただく責任などありません
まめきち
恋愛
騎士団で働くヘイゼルは魔物の討伐の際に、
団長のセルフイスを庇い、魔法陣を踏んでしまう。
この魔法陣は男性が踏むと女性に転換するもので、女性のヘイゼルにはほとんど影響のない物だった。だか国からは保証金が出たので、騎士を辞め、念願の田舎暮らしをしようとしたが!?
ヘイゼルの事をずっと男性だと思っていたセルフイスは自分のせいでヘイゼルが職を失っただと思って来まい。
責任を取らなければとセルフイスから、
追いかけられる羽目に。
とある令嬢が男装し第二王子がいる全寮制魔法学院へ転入する
春夏秋冬/光逆榮
恋愛
クリバンス王国内のフォークロス領主の娘アリス・フォークロスは、母親からとある理由で憧れである月の魔女が通っていた王都メルト魔法学院の転入を言い渡される。
しかし、その転入時には名前を偽り、さらには男装することが条件であった。
その理由は同じ学院に通う、第二王子ルーク・クリバンスの鼻を折り、将来王国を担う王としての自覚を持たせるためだった。
だがルーク王子の鼻を折る前に、無駄にイケメン揃いな個性的な寮生やクラスメイト達に囲まれた学院生活を送るはめになり、ハプニングの連続で正体がバレていないかドキドキの日々を過ごす。
そして目的であるルーク王子には、目向きもなれない最大のピンチが待っていた。
さて、アリスの運命はどうなるのか。
結婚する事に決めたから
KONAN
恋愛
私は既婚者です。
新たな職場で出会った彼女と結婚する為に、私がその時どう考え、どう行動したのかを書き記していきます。
まずは、離婚してから行動を起こします。
主な登場人物
東條なお
似ている芸能人
○原隼人さん
32歳既婚。
中学、高校はテニス部
電気工事の資格と実務経験あり。
車、バイク、船の免許を持っている。
現在、新聞販売店所長代理。
趣味はイカ釣り。
竹田みさき
似ている芸能人
○野芽衣さん
32歳未婚、シングルマザー
医療事務
息子1人
親分(大島)
似ている芸能人
○田新太さん
70代
施設の送迎運転手
板金屋(大倉)
似ている芸能人
○藤大樹さん
23歳
介護助手
理学療法士になる為、勉強中
よっしー課長(吉本)
似ている芸能人
○倉涼子さん
施設医療事務課長
登山が趣味
o谷事務長
○重豊さん
施設医療事務事務長
腰痛持ち
池さん
似ている芸能人
○田あき子さん
居宅部門管理者
看護師
下山さん(ともさん)
似ている芸能人
○地真央さん
医療事務
息子と娘はテニス選手
t助
似ている芸能人
○ツオくん(アニメ)
施設医療事務事務長
o谷事務長異動後の事務長
雄一郎 ゆういちろう
似ている芸能人
○鹿央士さん
弟の同級生
中学テニス部
高校陸上部
大学帰宅部
髪の赤い看護師(川木えみ)
似ている芸能人
○田來未さん
准看護師
ヤンキー
怖い
幽霊じゃありません!足だってありますから‼
かな
恋愛
私はトバルズ国の公爵令嬢アーリス・イソラ。8歳の時に木の根に引っかかって頭をぶつけたことにより、前世に流行った乙女ゲームの悪役令嬢に転生してしまったことに気づいた。だが、婚約破棄しても国外追放か修道院行きという緩い断罪だった為、自立する為のスキルを学びつつ、国外追放後のスローライフを夢見ていた。
断罪イベントを終えた数日後、目覚めたら幽霊と騒がれてしまい困惑することに…。えっ?私、生きてますけど
※ご都合主義はご愛嬌ということで見逃してください(*・ω・)*_ _)ペコリ
※遅筆なので、ゆっくり更新になるかもしれません。
【完結】第一王子と侍従令嬢の将来の夢
かずえ
恋愛
第一王子は、常に毒を盛られ、すっかり生きることに疲れていた。子爵令嬢は目が悪く、日常生活にも支障が出るほどであったが、育児放棄され、とにかく日々を送ることに必死だった。
12歳で出会った二人は、大人になることを目標に、協力しあう契約を交わす。
悪役令嬢の妹君。〜冤罪で追放された落ちこぼれ令嬢はワケあり少年伯に溺愛される〜
見丘ユタ
恋愛
意地悪な双子の姉に聖女迫害の罪をなすりつけられた伯爵令嬢リーゼロッテは、罰として追放同然の扱いを受け、偏屈な辺境伯ユリウスの家事使用人として過ごすことになる。
ユリウスに仕えた使用人は、十日もたずに次々と辞めさせられるという噂に、家族や婚約者に捨てられ他に行き場のない彼女は戦々恐々とするが……彼女を出迎えたのは自称当主の少年だった。
想像とは全く違う毎日にリーゼロッテは戸惑う。「なんだか大切にされていませんか……?」と。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる