君は魔法使い

悠木全(#zen)

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23.自称占い師

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 学園祭まであと三日。

 私——結菜ゆいなが相変わらずお茶汲ちゃくみみたいなマネージャー活動をする中、机でトランプを切っていた長谷部くんがふと呟く。

「あーあ、目標がないとやる気が出ないな」

「そんなこと言わないでよ、長谷部くん。受験を控えた真紀先輩と違って、私たちには来年もあるんだから」

「どうせ俺には来年なんてないよ」

 私の言葉に反応して口を膨らませる真紀先輩。

 学園祭でマジックを披露できないないのが悔しいのか、先輩はすっかりやさぐれていた。

「真紀先輩もいじけないでください。今年の活動がまだ残ってますよ」

 仕方なく私は、真紀先輩を元気付けるためにおしるこを差し出す。

 すると真紀先輩はその場で勢いよく飲み干して、カーッと息を吐いた。

「やっぱりこれが一番だよな——おい、長谷部。そのマジックの種を教えろ」

「見る前から種明かししてどうするんスか。まずは何をするのかちゃんと見てください」
 
 急に張り切り始めた真紀先輩を見て、長谷部くんは面倒くさそうな顔をしていた。

 やっぱりこういう時は、甘いものが効くんだよね。
 
 単純な真紀先輩に私が苦笑していると——

 そんな時、ドアの方から落ち着いた声が聞こえてくる。

「ステージが欲しいなら、近くの老人ホームでボランティアでもすればいい」

 声の主は、いつの間にか部室にいた生徒会長だった。
 
 ていうか、生徒会室に入る時はノックとかうるさいのに、奇術部室には音もなく現れるよね。

 そう思いながらも、私はあえてツッコミを入れずに訊ねる。

「ボランティアってなんですか?」

「ああ、校長に慰問交流いもんこうりゅう打診だしんがあってな、お前たちに頼みにきたんだが……どうだ? やってみないか?」

 慰問交流いもんこうりゅうという言葉に、部員たちは顔を見合わせる。その顔は困惑というより、ステージができるチャンスに興奮している雰囲気だった。

「俺は別に構わないですが……みんなはどう思う?」

 真紀先輩が誰となく訊ねるのを見て、私はすかさず挙手する。

「私はいいと思います!」

「無観客のステージよりは百倍マシだ」

 長谷部くんもにこやかに賛成する傍ら、藤間先輩は大迫くんの顔色をうかがっていた。

「大迫様が良いなら、私も賛成です」

「俺もいいと思います」

 そして最後に大迫くんもOKして、生徒会長は満足げに頷く。

「じゃ、決定だな。校長には俺から話しておく」

「ありがとうございます、生徒会長」

「こちらこそ、だ。じゃあな」

 それから生徒会長が静かに去るのを見届けたあと、私は真紀先輩に笑顔で告げる。

「真紀先輩、良かったですね。今度こそ観客のいるステージで披露できますよ」

「ああ。いまから練習しておかないとな——素振りから始めるぞ!」

「……はい、先輩」

 気合いを入れる真紀先輩に比べて、大迫くんは浮かない顔で頷いた。

 そのいつになく暗い様子に、長谷部くんが声をかける。

「なんだ大迫、元気がないな」

「……そうかな?」

「もしかして、この間のステージで、せっかく呼んだ観客が帰ったこと、気にしているのか?」

「……そうじゃないけど」

「元気だせよ。誰にだって上手くいかないことはあるんだから」

「……そうだね」

 長谷部くんが元気づけてくれたけど、それでも大迫くんはなんとなく納得のいかない顔をしていた。

 私が大迫くんの様子を気にする中、真紀先輩が唐突に告げる。

「それはそうと、もうすぐ学園祭だが……結菜はどうするんだ?」

「学園祭ですか?」

「良かったら……俺と一緒に回るか?」

「それなら大丈夫です。大迫くんが一緒に回ってくれることになったので」

「大迫くんが?」

「はい」

「……ずるい」

「え?」

「俺も結菜と一緒に回る」

「先輩? 先輩は友達と回るんじゃ?」

「いや、俺も結菜と回りたい」

 突然、子供のように駄々をこね始めた真紀先輩に、私が困惑していると——素振りをしていた大迫くんもこちらにやってきて、譲らない様子で強く告げる。

「でも、俺が先に約束しましたから」

 真紀先輩と大迫くんが睨み合う中、長谷部くんが「おお」と謎の声をあげる。

 でも、このまま雰囲気が悪くなるのも嫌だし、私は思い切って提案する。 

「だったら、三人で回ろうよ!」

 私の言葉に、真紀先輩と大迫くんは同時にこちらを振り返った。

 みんなで学園祭回るのも、きっと楽しいよね。

 私が二人の答えを待っていると、近くにいた藤間先輩も挙手をする。
 
「なら、私もご一緒してよろしいですか?」

「藤間先輩もですか? どうぞどうぞ」

 私が笑顔で答えると、傍観していた長谷部くんが何やら口の中でブツブツと呟く。

「藤間先輩は大迫のために真紀先輩を蹴落とすつもりだな。俺は誰の味方でもないが……ややこしいことになる前に藤間先輩を止めないと」

 長谷部くんの言葉が聞き取れなくて、何を言っているのか訊ねようと口を開きかけたその時、長谷部くんも手を挙げた。

「俺も一緒に行っていいか?」

 なるほど、長谷部くんも一緒に行きたかったんだね。

「いいよ! 結局、みんな一緒だね」

 いつものメンバーで学園祭を回ることになって、私がなんとなく安心する中、真紀先輩はなぜか肩を落としていた。



 ***



 奇術部の部活動を終えたあと。

 紺野こんの真紀まきは暗い道路橋を歩きながらため息を吐く。

 本当は結菜と二人で学園祭を回るつもりだったが、予定が狂ってしまい、憂鬱な気持ちで帰り道を歩いていた。

「……少し前までは、俺だけの結菜だったのに……奇術部に人が増えたのは嬉しいが、複雑だ」

 などと不満を口にする真紀だったが——その時、ふいに黒い布をかぶった怪しい人影が向かいからやってくる。
 
 真紀が警戒していると、年齢も性別もわからないその相手は、真紀に向かって口を開いた。

「……あなた、紺野真紀さんですね」

 真紀よりほんの少し高い声。少年の声だった。

 深くかぶった布から見える口元は、笑っているように見えた。

「は? 誰だ? あんた」

 真紀が警戒しながら訊ねると、相手は笑いを含んだ声で口を開いた。

「通りすがりの占い師です」

「は? 占い師?」

「ええ。あなた今……恋をしているんじゃないですか?」

 言いながら、じりじりと近づいてくる黒い布の少年に、真紀は怪訝な顔をする。

「恋? なんのことだ?」

「無自覚なのですね。まあいい、私が手を貸しましょう」

 自称占い師は、それだけ告げると、真紀の額に手をかざした。



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