君は魔法使い

悠木全(#zen)

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26.救うためのキス

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  ***



「結菜!」
 
 誰もいない部室を掃除していた私——結菜ゆいなだけど、ふいにドアが開いて、大迫くんが現れる。

 突然やってきた大迫くんは、何をそんなに急いでいるのか、肩で息をしていた。 
 
「大迫くん、どうしたの?」

「良かった、まだ帰ってなかったんだ?」

「生徒会長に仕事を頼まれて、さっきまで手伝ってたんだ」

「生徒会長に?」

「書記の人が風邪でお休みだったんだって」

「へぇ……それより、今ちょっといい?」

「どうしたの? なんだか怖い顔して」

 お通夜みたいな顔をする大迫くんの後ろから、藤間先輩もやってくる。藤間先輩は、いつになく焦ったように私の名を呼んだ。

「結菜さん」

「藤間先輩? 二人ともどうしたの?」

「……実は結菜にお願いがあるんだ」

「なあに?」

 それから私は、真紀先輩の体が知らない魔法使いに乗っ取られていた話を聞いた。

 しかも魔法使いの置き土産で魔法を仕掛けられた真紀先輩を元に戻すには、私のキスが必要だとか。

「真紀先輩にキスって……そんなこと」

「ああ。とても急いでいるから、今すぐお願いしたいんだ」

 大迫くんは急かすように言うけど、その顔は険しかった。

 そんなに大変な魔法なのだろうか。

 ということは、真紀先輩が変だったのは全部、その魔法使いのせいだったんだ?

「それで悪い魔法が消えるの?」

「うん……たぶん」

「そんなこといきなり言われても……」

「このままだと、真紀先輩は死ぬかもしれない」

「そんな……」

「結菜さん……お願いできますか?」

「……」

 藤間先輩の顔は真剣そのもので、嘘偽りないことがわかった。

 仕方なく私はゆっくりと躊躇ためらいがちに頷く。

「ありがとう、結菜」

 そう言って笑顔を作る大迫くんだけど、その顔はどこか悲しそうだった。
 
「大迫様……」

「早く結菜を真紀先輩の元へ連れて行こう」



 ***



「これって……真紀先輩を……ずっと屋上に放置してたってこと?」

 さっそく真紀先輩のいる屋上にやってきた私たちだけど——見た感じ、真紀先輩はただ眠っているようにしか見えなかった。

「誰かに見られないように、結界を張っていたから大丈夫。結界内は空調もコントロールしてあるから」

「結界……?」

「うん。俺が作った箱の中ってこと」

「すごいね。さすが魔法使い」

「じゃあ、さっそくお願いします」

「わ、わかったから……あっち向いてて。見られるのは恥ずかしいから」

「……わかった」

 それから私は、大迫くんと藤間先輩が背中を向けるのを見届けてから、横たわる真紀先輩の唇にそっと触れた。

 命がかかっているなら、仕方ない……よね?

 そして、私が触れた直後、真紀先輩の額からは文字が消えて——真紀先輩はゆっくりと目を覚ます。
 
「……え? 結菜?」

 大きく見開いた真紀先輩は、何事かという感じで私や大迫くんを見ながら起き上がった。

 そして私が声をかけると、大迫くんや藤間先輩もこちらを振り返る。

「良かった。魔法が解けたんだ」

 ほっと胸を撫で下ろす大迫くんの隣で、藤間先輩はどこか複雑そうな笑みを浮かべていた。

「古典的な方法でも、効果は抜群のようですね」

「どうしたんだ? みんな変な顔して」

 真紀先輩が私たちの顔を見て目を瞬かせる。

 どうやら、悪い魔法は解けたようだった。

「良かった。いつもの真紀先輩だ」

「結菜、どうしたんだ? なんか泣きそうな顔してるけど」

 何も知らない真紀先輩は不思議そうな顔をしていた。

 そのいつもの様子を見て、私も安堵の息を放った。

「ううん、なんでもないんです。いつもの先輩に会えて嬉しいだけ」

「変な結菜だな……それにしても、俺はどうしてここに?」

「屋上で倒れてるところを見かけたから、心配したんですよ」

「おかしいな……俺、学校帰りだったはずなんだけど」

「え?」

「学校帰りに変な占い師に会って……そこから記憶がない」

「占い師? 魔法使いじゃなくて?」

 訊ねると、真紀先輩は頭を掻きながら告げる。

「ああ、俺の恋を応援するとかなんとか言われて」

「先輩の恋を?」

「……うん、よくわからないけど」

 恥ずかしそうに言葉を濁す真紀先輩の傍ら、藤間先輩は困惑した顔をする。

「どう思います? 大迫様」

「占い師……か」

 そう言って大迫くんは、鋭い目を真紀先輩に向けた。

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