君は魔法使い

悠木全(#zen)

文字の大きさ
25 / 72

25.時限式の魔法

しおりを挟む

藤間ふじまくんは魔法使いなんだよね?」

 藤間ふじまたもつにそう言ったのは、奇術部部長の紺野こんの真紀まきだった。

 たもつは突然のことに動揺しながらも、そうは悟られないようポーカーフェイスを装う。

 保が魔法使いだと知るのは、大迫おおさこ啓太けいた三木みき結菜ゆいなの二人だけ——のはずだった。

「……それはいったいどういう意味ですか?」

 たもつが探るように訊ねると、真紀まきはいつになく嫌な笑みを浮かべる。

「言葉のままだよ。藤間くんが魔法使いだってことは、もうわかってるから」

「そうですか」

「そうですかって……それだけ?」

「私が魔法使いかどうかなんて、大した話ではありません」

「藤間くんは面白い人だね」

 いつもと違う真紀の様子に、たもつは嫌な予感を覚える。

「私はちっとも面白くないです」

 保が警戒しながら告げると、真紀はおかしそうに笑った。

「まあ、そう言わず……魔法使い同士仲良くしようよ」

「魔法使い同士?」

「俺もあなたと同じ魔法使いだから」

「そんなはずは……私の頭には魔法使いのリストが入ってますから、魔法使いかそうでないかは、わかるはず——」

「じゃあ、そのリストを更新してよ。俺は確かに魔法使いになっているから」

「昨日から? どういうことですか? 魔法使いは一朝一夕いっちょういっせきでなれるようなものでは……」

「でもこうして俺は魔法使いになったんだ。ほら」

 真紀が微笑むと、たもつの体がふわりと宙に浮いた。

 真紀の頭上に持ち上がった保は、それでも焦りを見せずに、淡々と告げる。

「これは……こんな高度な魔法が使えるなんて、聞いてませんよ」 

「これで信じてもらえるかな?」

 真紀が笑みを消すと、保がゆっくりと地面に降り立つ。
 
 わざわざ自分から魔法をひけらかす真紀に、保はいっそう警戒を強めた。

「……ええ、信じましょう。仮にあなたが魔法使いだったとして、それを私に告げる意味とは?」

「意味? ……俺はただ、あなたに邪魔だけはしてほしくないから……牽制けんせい、かな?」

「邪魔? 結菜さんのことですか?」

「それ以外に何があると言うの?」

「むしろ邪魔なのはあなたでしょう? 大迫様から結菜さんを奪わないでください」

「なんだ、あなたはもっと、ものわかりの良い人だと思ってたけど……」

「ものわかりとはなんですか」

「あなたはまだ自分の立場をわかっていないようだね。これはお願いではないんだ。俺の言うことを聞かなければ、痛い目を見ることになるよ」

 その口調も、態度もいつもの真紀ではないことに、保は違和感を覚える。

 だが、なんにせよ啓太の邪魔になる存在をそのままにしておくつもりはなかった。

「おかしな人ですね。これでも大魔法使いを目指していますから、簡単にはやられませんよ」

「ふふ大魔法使い……か、今どきダサいね」

「ダサかろうが、古かろうが構いません。それよりもさっさとそこをどいてください。私も忙しいので」

「いやだな、藤間くん。このまま普通に帰れると思っているの?」



 ***



「手伝わせてすまなかったな。もう帰っていいぞ」

「はい、失礼しました」

 教師の雑用を手伝うため、居残りをしていた大迫おおさこ啓太けいたは、ようやく職員室から解放されたところで、屋上を目指した。

「すっかり遅くなって……藤間先輩、もう帰ったかな? でも、一応確認しておこう」

 藤間保に呼び出されて、三十分以上は経過していたが、それでも待っている可能性を考えて足を急がせた。

 が、階段をのぼっていた最中、異様な気配を察知した啓太は、首を傾げる。

 階段の途中には透明な壁があった。

 魔法使いにだけわかる、特殊な壁にぶつかった啓太は足を止める。

「なんだこれ……結界が張ってある」

 ガラスのような透明な壁を見て、啓太は指を鳴らした。

 すると、透明な壁はシャボン玉のように弾けて消え——その瞬間、屋上にいた真紀がハッとした顔をする。



「結界が破られたか……あいつが来る」

 真紀まきは目の前のたもつに手のひらを向ける。

 魔法での戦闘でされていた保は、息も絶え絶えに膝をついていた。

「……真紀さん……あなた、なんて力を」

「彼が来る前にさっさと終わらせよう」

 真紀が保に向かって手を掲げた瞬間——階下に繋がる屋上のドアから啓太が現れる。

「何をしてるんですか!」

「……ちっ、もう来たのか」

 真紀まきが舌打ちする中、啓太けいたの視線はたもつに向いていた。

藤間ふじま先輩? これはどういう状況ですか」

「大迫様、お気をつけください。この人は部長じゃない」

「なんだ、気づいていたのか」

 首を竦める真紀に、保は探るような目を向ける。

「あなたはいったい、何者ですか? 部長のふりをして、何をしようとしているんですか?」

「バレたら仕方がないなぁ。今日はこの辺にしておいてあげるよ……ふふ」

 そう言った次の瞬間、糸が切れたようにその場に倒れる真紀。

 そんな真紀に啓太が慌てて駆け寄る。

「真紀先輩!」

 冷たいコンクリートの上で健やかな寝息を立てる真紀を見て、ホッとするのも束の間。

 保は真紀の寝顔を見下ろしながら怪訝な顔をする。

 さらりと前髪が落ちた真紀の額には四桁の数字が浮かび上がっていた。

「これはなんですか……?」
 
 まるで時をさかのぼるようにカウントされる数字に、たもつが驚いた顔をする中、啓太は唇を噛み締める。

「時限式の魔法だ」

「大迫様、どういうことですか?」

「これは表示されている時間以内に魔法を解かなければ、何か悪いことが起きるかもしれない」

「悪いことですか? たとえば?」

「最悪は寿命が縮まる」

「それは困りましたね。魔法使いが人間の命を縮めたと知れたら、問題になる」

「そうですね。それ以前に、俺は真紀先輩を死なせたくない……けど、どうすれば」

「つまり、部長にかけられた魔法を解けばいいんですよね?」

「そうだけど……何か良い方法を知っていますか?」

「古典的な方法であれば、知っています」

「それは、どうするんですか?」

「お姫様のキスですよ」

「お姫様の? って、まさか……」

「そうです。愛しい人のキスはどんな魔法でも無効化できますから」

「なるほど……結菜のキス?」

「そうなりますね。どうなさいますか? 大迫様がお嫌でしたら、別の方法を……」

「他の方法を探している間にタイムオーバーになる可能性が高いです。だから——」

「結菜さんにお願いするんですか?」

「それしか、方法がないのなら」

「大迫様」

「結菜を探しに行こう」

「……はい」

 保が悲しげに肩を落とす傍ら、屋上倉庫の裏にはオレンジ頭の少年——長谷部はせべあきらの姿があった。

 

しおりを挟む
感想 71

あなたにおすすめの小説

リトライさせていただきます!〜死に戻り令嬢はイケメン神様とタッグを組んで人生をやり直す事にした〜

ゆずき
恋愛
公爵家の御令嬢クレハは、18歳の誕生日に何者かに殺害されてしまう。そんなクレハを救ったのは、神を自称する青年(長身イケメン)だった。 イケメン神様の力で10年前の世界に戻されてしまったクレハ。そこから運命の軌道修正を図る。犯人を返り討ちにできるくらい、強くなればいいじゃないか!! そう思ったクレハは、神様からは魔法を、クレハに一目惚れした王太子からは武術の手ほどきを受ける。クレハの強化トレーニングが始まった。 8歳の子供の姿に戻ってしまった少女と、お人好しな神様。そんな2人が主人公の異世界恋愛ファンタジー小説です。 ※メインではありませんが、ストーリーにBL的要素が含まれます。少しでもそのような描写が苦手な方はご注意下さい。

【完結】一番腹黒いのはだあれ?

やまぐちこはる
恋愛
■□■ 貧しいコイント子爵家のソンドールは、貴族学院には進学せず、騎士学校に通って若くして正騎士となった有望株である。 三歳でコイント家に養子に来たソンドールの生家はパートルム公爵家。 しかし、関わりを持たずに生きてきたため、自分が公爵家生まれだったことなどすっかり忘れていた。 ある日、実の父がソンドールに会いに来て、自分の出自を改めて知り、勝手なことを言う実父に憤りながらも、生家の騒動に巻き込まれていく。

とっていただく責任などありません

まめきち
恋愛
騎士団で働くヘイゼルは魔物の討伐の際に、 団長のセルフイスを庇い、魔法陣を踏んでしまう。 この魔法陣は男性が踏むと女性に転換するもので、女性のヘイゼルにはほとんど影響のない物だった。だか国からは保証金が出たので、騎士を辞め、念願の田舎暮らしをしようとしたが!? ヘイゼルの事をずっと男性だと思っていたセルフイスは自分のせいでヘイゼルが職を失っただと思って来まい。 責任を取らなければとセルフイスから、 追いかけられる羽目に。

とある令嬢が男装し第二王子がいる全寮制魔法学院へ転入する

春夏秋冬/光逆榮
恋愛
クリバンス王国内のフォークロス領主の娘アリス・フォークロスは、母親からとある理由で憧れである月の魔女が通っていた王都メルト魔法学院の転入を言い渡される。 しかし、その転入時には名前を偽り、さらには男装することが条件であった。 その理由は同じ学院に通う、第二王子ルーク・クリバンスの鼻を折り、将来王国を担う王としての自覚を持たせるためだった。 だがルーク王子の鼻を折る前に、無駄にイケメン揃いな個性的な寮生やクラスメイト達に囲まれた学院生活を送るはめになり、ハプニングの連続で正体がバレていないかドキドキの日々を過ごす。 そして目的であるルーク王子には、目向きもなれない最大のピンチが待っていた。 さて、アリスの運命はどうなるのか。

結婚する事に決めたから

KONAN
恋愛
私は既婚者です。 新たな職場で出会った彼女と結婚する為に、私がその時どう考え、どう行動したのかを書き記していきます。 まずは、離婚してから行動を起こします。 主な登場人物 東條なお 似ている芸能人 ○原隼人さん 32歳既婚。 中学、高校はテニス部 電気工事の資格と実務経験あり。 車、バイク、船の免許を持っている。 現在、新聞販売店所長代理。 趣味はイカ釣り。 竹田みさき 似ている芸能人 ○野芽衣さん 32歳未婚、シングルマザー 医療事務 息子1人 親分(大島) 似ている芸能人 ○田新太さん 70代 施設の送迎運転手 板金屋(大倉) 似ている芸能人 ○藤大樹さん 23歳 介護助手 理学療法士になる為、勉強中 よっしー課長(吉本) 似ている芸能人 ○倉涼子さん 施設医療事務課長 登山が趣味 o谷事務長 ○重豊さん 施設医療事務事務長 腰痛持ち 池さん 似ている芸能人 ○田あき子さん 居宅部門管理者 看護師 下山さん(ともさん) 似ている芸能人 ○地真央さん 医療事務 息子と娘はテニス選手 t助 似ている芸能人 ○ツオくん(アニメ) 施設医療事務事務長 o谷事務長異動後の事務長 雄一郎 ゆういちろう 似ている芸能人 ○鹿央士さん 弟の同級生 中学テニス部 高校陸上部 大学帰宅部 髪の赤い看護師(川木えみ) 似ている芸能人 ○田來未さん 准看護師 ヤンキー 怖い

幽霊じゃありません!足だってありますから‼

かな
恋愛
私はトバルズ国の公爵令嬢アーリス・イソラ。8歳の時に木の根に引っかかって頭をぶつけたことにより、前世に流行った乙女ゲームの悪役令嬢に転生してしまったことに気づいた。だが、婚約破棄しても国外追放か修道院行きという緩い断罪だった為、自立する為のスキルを学びつつ、国外追放後のスローライフを夢見ていた。 断罪イベントを終えた数日後、目覚めたら幽霊と騒がれてしまい困惑することに…。えっ?私、生きてますけど ※ご都合主義はご愛嬌ということで見逃してください(*・ω・)*_ _)ペコリ ※遅筆なので、ゆっくり更新になるかもしれません。

【完結】第一王子と侍従令嬢の将来の夢

かずえ
恋愛
第一王子は、常に毒を盛られ、すっかり生きることに疲れていた。子爵令嬢は目が悪く、日常生活にも支障が出るほどであったが、育児放棄され、とにかく日々を送ることに必死だった。 12歳で出会った二人は、大人になることを目標に、協力しあう契約を交わす。

悪役令嬢の妹君。〜冤罪で追放された落ちこぼれ令嬢はワケあり少年伯に溺愛される〜

見丘ユタ
恋愛
意地悪な双子の姉に聖女迫害の罪をなすりつけられた伯爵令嬢リーゼロッテは、罰として追放同然の扱いを受け、偏屈な辺境伯ユリウスの家事使用人として過ごすことになる。 ユリウスに仕えた使用人は、十日もたずに次々と辞めさせられるという噂に、家族や婚約者に捨てられ他に行き場のない彼女は戦々恐々とするが……彼女を出迎えたのは自称当主の少年だった。 想像とは全く違う毎日にリーゼロッテは戸惑う。「なんだか大切にされていませんか……?」と。

処理中です...