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32.突然現れた許嫁
しおりを挟む大迫くんソックリさんに魔法で攻撃されて、動けなくなった私だけど。
突然、熱を放出するような感覚に陥ったかと思えば、気づけば大迫くんが倒れていた。
「……結菜さん?」
全てを見ていた藤間先輩が目を瞬かせる中、私は頭を掻きながら苦笑する。
「なんだかよくわからないけど、スッキリしました」
そしてその場にいる皆がポカンとした顔をしていると、
「結菜!」
「大迫くん?」
木々の間から、大迫くんがもう一人現れる。
「大丈夫?」
焦ったように告げる大迫くんは、今度こそ本物のようだった。
「うん。私は大丈夫だよ。それより、大迫くんそっくりな人が……あれ?」
大迫くんの偽物が倒れた場所に視線をやると——
なぜかその場所には、全然知らない人が横たわっていた。
同年代——もしくは、私より少し幼く見えるその男の子は、苦しそうな顔をしていた。
「くっ、俺としたことが……」
苦々しく吐きながら立ち上がる魔法使いの男の子。
すると、そんな男の子の声を聞いて、真紀先輩が驚いた顔をする。
「この声! あいつ……こないだの!」
「真紀先輩、知ってるんですか?」
「ああ、学校帰りに遭遇した占い師だ」
「占い師?」
そういえば、帰り道に真紀先輩が占い師に遭遇したって言ってたよね。
それから真紀先輩は魔法使いに乗っ取られたわけだけど——もしかして、真紀先輩を乗っ取った魔法使いって、この人なのかな?
なんて、そんなことを考えていると、男の子のそばに、同じ年くらいの女の子も現れる。
知らない制服だった。
ブレザースカートを纏ったボブヘアの美少女は、冷たい表情で口を開く。
「お兄様」
「……リアン、どうしてここに来た」
悪い魔法使いの男の子は、美少女を見て怪訝な顔をする。
すると、美少女は咎めるような目をして告げた。
「お兄様がだらしないからです。名家の子息とは思えない情けなさですわ」
その辛辣な言葉に、魔法使いの男の子が絶句する中、藤間先輩がぼそりと告げる。
「新手の魔女か」
「……君はまさか」
警戒する藤間先輩とは裏腹に、ふらふらと前に出る大迫くん。
すると、リアンと呼ばれた女の子はスカートをつまんでお辞儀をした。
「啓太様、お久しぶりです」
「どうして君がこの学校に……?」
「啓太様に会いにきましたの。ですが、兄がご迷惑をおかけして申し訳ありません」
「その人、君のお兄さんなの?」
大迫くんが訊ねると、リアンさんは肯定して頷いた。
私は何がなんだかわからず、小声で大迫くんに訊ねる。
「大迫くんの知り合い?」
「ああ、今の親が決めた許嫁だよ」
「許嫁!?」
「といっても、俺は断ったけどね」
「わたくしは、まだ諦めていませんから」
「ええ!?」
「それでは、わたくしたちはこれで失礼しますわ」
「ちょっと、待って——」
大迫くんはリアンさんに向かって手を伸ばすけど——魔法使いの兄妹は、まるで泡のように消えてしまった。
「……逃げられた」
「それより大迫くん、真紀先輩や長谷部くんに魔法を見られちゃったけど、大丈夫なの?」
「うーん……大丈夫じゃないね」
「どうしよう」
おそるおそる真紀先輩の顔をうかがうと、先輩は嬉しそうにこちらを見ていた。
「すごい、こんな完璧な消えるマジックを見たのは初めてだ」
その感動に満ちた目を見て、私は心底ホッとする。
——良かった。
真紀先輩は魔法をマジックだと思い込んでるみたい……でも、同じように見ていた長谷部くんはどうだろう?
私が長谷部くんの顔をちらりとうかがうと、長谷部くんはわざとらしく手を叩いて見せる。
「あー、すごいすごい。俺もこんなマジックは初めて見たなー」
……棒読みが気になるけど、長谷部くんもマジックだと思ってくれてるのかな?
長谷部くんのことをじっと見つめていると、ふいに藤間先輩が私の肩を叩く。
「それより、結菜さん……さっきのは……」
「なんですか?」
訊き返すと、藤間先輩は小声で告げる。
「魔法を使いましたよね?」
「魔法? なんのことですか?」
「今、あの者を倒したのは結菜さんでしょう?」
「あの者って、さっきの魔法使いの男の子?」
「そうです。魔法をぶつけていたじゃありませんか」
魔法をぶつける? どういうことだろう。
私がなんのことか訊ねようと口を開きかけたその時、大迫くんが代わりに口を開く。
「違うんです、藤間先輩」
「違うとは、どういうことですか? 大迫様」
「結菜のは魔法じゃないんです」
「ですが、確かに結菜さんが魔法で攻撃を……」
「違います。結菜はただ、相手の力を吸収して跳ね返しただけなんです」
「……どういうことですか?」
大迫くんの言葉の意味がわからなくて、私が目を瞬かせていると——ふいに、視界がぐにゃりと歪んだ。
「あれ? なんだか気持ち悪い……」
「結菜!」
ぐるぐると回る視界。
遠くに大迫くんの声を聞く中、私はその場に倒れたのだった。
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