君は魔法使い

悠木全(#zen)

文字の大きさ
33 / 72

33.会いたくないのに

しおりを挟む


  ***



「う……ん……」

 私——結菜ゆいなが目を覚ました時、最初に目に入ったのは暗い天井だった。

 どういう状況なのか考えながら横を向くと、パイプ椅子に座る大迫おおさこくんの姿があった。

「気が付いた?」

「あれ? ここは……」

「保健室だよ」

 身を起こすと、確かにそこは学校の保健室で——窓の外はすっかり夜色に染まっていた。

「えっと、確か私……森の中で倒れたんだよね? みんなは?」

「保健室の外にいるよ。邪魔だからって、俺しか入れてもらえなかったんだ」

「そっか……って、学園祭は?」

「もう終わったよ」

「え! うそ……終わっちゃったの? まだどこも見てなかったのに……それにご飯だって」

 私のお腹がぎゅうっと鳴って、大迫くんが破顔した。

「ふふ、食べるものなら、いくつか買っておいたよ」

「わ、りんご飴に焼きそばにハットク?」

 手渡されたレジ袋にはたくさんの食べ物が入っていた。

 私の胸がじんわりと胸が温かくなる中、大迫くんは優しい笑みを浮かべた。

「うん。でも帰ったら夜ご飯もあるだろうし、食べすぎないほうがいいかも」

「大丈夫。今日は親がいないから、これを夜ご飯にするよ。ありがとう」

 私が大迫くんに笑顔を返していると、ふいに保健室のドアがガラガラと開いた。

「結菜さん、目が覚めたみたいですね」

 藤間先輩だった。

 悪い魔法使いから助けてくれた藤間先輩だけど、大した怪我はなかったようで。

 いつも通りの様子を見て、ホッとした私は、慌てて頭を下げる。

「藤間先輩、あの……ありがとうございました」

「なんのことですか?」

「魔法使いから守ってくれたじゃないですか」

「ああ、それは当然のことですよ。なぜなら結菜さんは大迫様の——」

 藤間先輩が言いかけたその時、さらに後ろから真紀先輩がひょっこりと頭をのぞかせた。

「結菜、大丈夫か?」

「真紀先輩! はい、もう大丈夫です」

「じゃあ、帰るか」

 真紀先輩がやれやれといった雰囲気で息を吐く傍ら、大迫くんが挙手をする。

「結菜は俺が送っていくよ」

 その言葉に、いつの間にか腕を組んで立っていた長谷部くんが頷く。

「そのほうがよさそうだな。また変なのが現れたら大変だろうし」

「長谷部くん?」

「……いや、変なマジシャンが現れたら困るだろ?」

 そう言い直した長谷部くんは相変わらず棒読みで、私は苦笑してしまう。

 すると、隣で考え込んでいた真紀先輩は、どこか不服そうな顔をしながらも大迫くんの肩をポンと叩いた。

「そうだな。俺は生徒会長に用があるから、大迫くんが結菜を送ってやってくれ」

 そう言って真紀先輩が保健室をあとにする中、入れ違いでよく知る顔が現れる。

「あ! 見つけた大迫くんと結菜」

明美あけみ?」

「ちょっとー、学園祭サボらせてあげたんだから、片付けくらいして帰りなよー」

「ごめんごめん……すぐ行くから」

「結菜はいいよ、倒れたんでしょ? また何かあったら大変だし、先帰りな」

「え、でも……」

 私だけ何もせずに帰るなんて気が引ける——と思っていると、大迫くんはそれを察したように口を開く。

「俺一人でも大丈夫だから、ちょっとだけクラスの片付け手伝ってくるよ」

「わかった。じゃあ、ゆっくり帰るね」

「じゃあ、行ってくる」

「うん。一緒に片付けできなくてごめんね」

 私が手を合わせて謝ると、大迫くんは「任してよ」と意気込んで去っていった。
 


  ***



「もう倒れたり……しないよね?」

 帰り道の古い街並み。

 背の高い街灯がぼんやりと照らす夜空に向かって、私は不安の言葉を吐いた。

 魔法使いの男の子に攻撃された時、なんだか体が熱くなって、気づくと倒れてしまったのだけど……いくら考えても、理由はわからなかった。

「結局、あれはなんだったんだろう。大迫くんは、魔法を跳ね返したって言ってたけど……よくわからないな。……もしかして、私も魔法使い? ……なんちゃって。そんなこと、あるわけないよね」

 なんて、自嘲していると——そんな時、

「帰りは一人なんだね」

 向かいの暗がりから、ゆっくりと街灯の下に人影が現れる。

「……あなたはさっきの!」

 文化祭の森の中で出会った、悪い魔法使いの男の子だった。
 
 一日にそう何度も遭遇しないだろうと思っていたのに、まさか二度も会うなんて。

 私が警戒して後ずさる中、男の子は笑って接近してくる。

「ねぇ、面白い君、さっきはいったい何をしたの?」

「え、あ、あの……」

 馴れ馴れしく喋る男の子に、どう反応していいのかわからなくて、私がどもっていると——

 ふいに、後ろから馴染みの声が聞こえる。

「おい、あんた」

「は、長谷部くん?」

 気づくと、長谷部くんがすぐ後ろで怖い顔をして立っていた。
しおりを挟む
感想 71

あなたにおすすめの小説

リトライさせていただきます!〜死に戻り令嬢はイケメン神様とタッグを組んで人生をやり直す事にした〜

ゆずき
恋愛
公爵家の御令嬢クレハは、18歳の誕生日に何者かに殺害されてしまう。そんなクレハを救ったのは、神を自称する青年(長身イケメン)だった。 イケメン神様の力で10年前の世界に戻されてしまったクレハ。そこから運命の軌道修正を図る。犯人を返り討ちにできるくらい、強くなればいいじゃないか!! そう思ったクレハは、神様からは魔法を、クレハに一目惚れした王太子からは武術の手ほどきを受ける。クレハの強化トレーニングが始まった。 8歳の子供の姿に戻ってしまった少女と、お人好しな神様。そんな2人が主人公の異世界恋愛ファンタジー小説です。 ※メインではありませんが、ストーリーにBL的要素が含まれます。少しでもそのような描写が苦手な方はご注意下さい。

【完結】一番腹黒いのはだあれ?

やまぐちこはる
恋愛
■□■ 貧しいコイント子爵家のソンドールは、貴族学院には進学せず、騎士学校に通って若くして正騎士となった有望株である。 三歳でコイント家に養子に来たソンドールの生家はパートルム公爵家。 しかし、関わりを持たずに生きてきたため、自分が公爵家生まれだったことなどすっかり忘れていた。 ある日、実の父がソンドールに会いに来て、自分の出自を改めて知り、勝手なことを言う実父に憤りながらも、生家の騒動に巻き込まれていく。

とっていただく責任などありません

まめきち
恋愛
騎士団で働くヘイゼルは魔物の討伐の際に、 団長のセルフイスを庇い、魔法陣を踏んでしまう。 この魔法陣は男性が踏むと女性に転換するもので、女性のヘイゼルにはほとんど影響のない物だった。だか国からは保証金が出たので、騎士を辞め、念願の田舎暮らしをしようとしたが!? ヘイゼルの事をずっと男性だと思っていたセルフイスは自分のせいでヘイゼルが職を失っただと思って来まい。 責任を取らなければとセルフイスから、 追いかけられる羽目に。

とある令嬢が男装し第二王子がいる全寮制魔法学院へ転入する

春夏秋冬/光逆榮
恋愛
クリバンス王国内のフォークロス領主の娘アリス・フォークロスは、母親からとある理由で憧れである月の魔女が通っていた王都メルト魔法学院の転入を言い渡される。 しかし、その転入時には名前を偽り、さらには男装することが条件であった。 その理由は同じ学院に通う、第二王子ルーク・クリバンスの鼻を折り、将来王国を担う王としての自覚を持たせるためだった。 だがルーク王子の鼻を折る前に、無駄にイケメン揃いな個性的な寮生やクラスメイト達に囲まれた学院生活を送るはめになり、ハプニングの連続で正体がバレていないかドキドキの日々を過ごす。 そして目的であるルーク王子には、目向きもなれない最大のピンチが待っていた。 さて、アリスの運命はどうなるのか。

結婚する事に決めたから

KONAN
恋愛
私は既婚者です。 新たな職場で出会った彼女と結婚する為に、私がその時どう考え、どう行動したのかを書き記していきます。 まずは、離婚してから行動を起こします。 主な登場人物 東條なお 似ている芸能人 ○原隼人さん 32歳既婚。 中学、高校はテニス部 電気工事の資格と実務経験あり。 車、バイク、船の免許を持っている。 現在、新聞販売店所長代理。 趣味はイカ釣り。 竹田みさき 似ている芸能人 ○野芽衣さん 32歳未婚、シングルマザー 医療事務 息子1人 親分(大島) 似ている芸能人 ○田新太さん 70代 施設の送迎運転手 板金屋(大倉) 似ている芸能人 ○藤大樹さん 23歳 介護助手 理学療法士になる為、勉強中 よっしー課長(吉本) 似ている芸能人 ○倉涼子さん 施設医療事務課長 登山が趣味 o谷事務長 ○重豊さん 施設医療事務事務長 腰痛持ち 池さん 似ている芸能人 ○田あき子さん 居宅部門管理者 看護師 下山さん(ともさん) 似ている芸能人 ○地真央さん 医療事務 息子と娘はテニス選手 t助 似ている芸能人 ○ツオくん(アニメ) 施設医療事務事務長 o谷事務長異動後の事務長 雄一郎 ゆういちろう 似ている芸能人 ○鹿央士さん 弟の同級生 中学テニス部 高校陸上部 大学帰宅部 髪の赤い看護師(川木えみ) 似ている芸能人 ○田來未さん 准看護師 ヤンキー 怖い

幽霊じゃありません!足だってありますから‼

かな
恋愛
私はトバルズ国の公爵令嬢アーリス・イソラ。8歳の時に木の根に引っかかって頭をぶつけたことにより、前世に流行った乙女ゲームの悪役令嬢に転生してしまったことに気づいた。だが、婚約破棄しても国外追放か修道院行きという緩い断罪だった為、自立する為のスキルを学びつつ、国外追放後のスローライフを夢見ていた。 断罪イベントを終えた数日後、目覚めたら幽霊と騒がれてしまい困惑することに…。えっ?私、生きてますけど ※ご都合主義はご愛嬌ということで見逃してください(*・ω・)*_ _)ペコリ ※遅筆なので、ゆっくり更新になるかもしれません。

【完結】第一王子と侍従令嬢の将来の夢

かずえ
恋愛
第一王子は、常に毒を盛られ、すっかり生きることに疲れていた。子爵令嬢は目が悪く、日常生活にも支障が出るほどであったが、育児放棄され、とにかく日々を送ることに必死だった。 12歳で出会った二人は、大人になることを目標に、協力しあう契約を交わす。

悪役令嬢の妹君。〜冤罪で追放された落ちこぼれ令嬢はワケあり少年伯に溺愛される〜

見丘ユタ
恋愛
意地悪な双子の姉に聖女迫害の罪をなすりつけられた伯爵令嬢リーゼロッテは、罰として追放同然の扱いを受け、偏屈な辺境伯ユリウスの家事使用人として過ごすことになる。 ユリウスに仕えた使用人は、十日もたずに次々と辞めさせられるという噂に、家族や婚約者に捨てられ他に行き場のない彼女は戦々恐々とするが……彼女を出迎えたのは自称当主の少年だった。 想像とは全く違う毎日にリーゼロッテは戸惑う。「なんだか大切にされていませんか……?」と。

処理中です...