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34.一般人の機転
しおりを挟む大迫くんが文化祭の後片付けで忙しいので、先に一人で帰ったところ、真紀先輩に魔法をかけた悪い魔法使いの男の子に遭遇した。ウサギのような幼い顔をした少年だった。
まさかまた会うとは思ってなくて、私が動揺する中、今度は長谷部くんが現れて——状況をすぐに理解した長谷部くんが、私を守るようにして前に出たのだった。
「心配でついてきてみれば……」
疲れた表情を浮かべる長谷部くんを前に、悪い魔法使いの男の子は幼い顔を歪ませる。
「なんだよ、君は」
「こいつの友達だけど? 三木になんか用か?」
「君、藤間とか言う人と戦ってた時に屋上でこっそり見てたやつだよね? 魔法も使えない普通の人間が邪魔しないでくれるかな。俺と争っても良いことなんてないよ?」
「魔法だかマジックだか知らないけど、普通の人間に危害を加えたら法で裁かれるんじゃないの?」
「ハッ、法なんてものは、魔法さえあればどうにだってできるんだ」
「普通の人間に魔法使いだってバレたら、ペナルティがあるのに?」
「……よくわかっているじゃないか」
「そりゃ、大迫が隠してるから……何か事情があるとは思ってたけど」
長谷部くんは何やら口の中でブツブツと独り言を呟いたあと、悪い魔法使いに告げる。
「だったら、今日は帰ってもらえます? ただでさえあんたは、三木に攻撃したっていう事実があるんだから。出るとこ出ますよ?」
「でも、彼女は魔法で俺に仕返しをしたんだぞ。だから彼女も同類だ——」
「本当にそうですか? なぁ、三木。三木は魔法使いなのか?」
突然話を振られた私は、慌ててかぶりを振った。
「え、私は魔法使いなんかじゃないよ」
「ほら、本人もこう言ってます。ということは、あなたは一般人に危害を加えたことになる」
長谷部くんがドヤ顔で告げると、悪い魔法使いの男の子は苦々しい顔をする。
「だが、確かに彼女は俺に攻撃を——」
「正当防衛だよ。あんたが三木に攻撃した事実を知っている人間は四人もいるんだぞ」
「……お前、その口を縫い付けてやりたい」
「ああ、どうぞ。それであんたがどうなるか、俺は知らないけどな」
「……ふん。今日のところは引き下がってやるが……今度俺の前に現れたら、お前なんて存在ごと消し去ってやる」
「おー、こわいこわい」
「あいつの周りは、おかしなやつばかりだ」
そうこぼして、悪い魔法使いの男の子は風のように消えた。
なんとか追い払えて、長谷部くんはため息を吐く。
「やれやれ、やっと行ったか」
「大丈夫? 長谷部くん」
「まあ、なんとか」
「でもまさか長谷部くんが魔法使いの法律に詳しいなんて……」
「いや、ハッタリだ。意外となんとかなるもんだな」
「え、じゃあ魔法使いの存在がバレたらペナルティっていう話も?」
「大迫たちが隠してるみたいだったから、何かあるとは思ってたけど」
「大迫くんが魔法使いだって、知ってたんだね」
「ああ。だが俺が知ってることは、大迫には内緒にしてくれ。俺が知ってること、大迫のやつは知らないから」
「そっか。あれだけ堂々と魔法で戦ってたらバレるよね。気づかないのは真紀先輩くらいで……」
「それもあるけど、あいつは隙がありすぎなんだよ」
「長谷部くんって、もっとサッパリした人かと思ったけど、意外と優しいよね」
「意外とは余計じゃないか?」
長谷部くんが苦笑して言ったその時、道の向こうから大迫くんが走ってこちらにやってくるのが見えた。
大迫くんは現れるなり、肩で息をしながら訊ねてくる。
「……どうして長谷部がいるの?」
「どうして、はないだろ。心配でついてきたんだよ」
長谷部くんが呆れた顔をする中、私は大迫くんに訊ねる。
「大迫くんはもう片付け終わったの?」
「ああ。済ませてきたよ。明美が指揮をとってくれたおかげで、あっという間に終わった」
「明美はこういう時、頼りになるよね」
「それより、またあの魔法——悪いマジシャンが現れたの?」
「どうしてわかったの?」
「……なんとなく」
「そっか、大迫くんはなんでもわかるんだね」
「大丈夫? また何かされなかった?」
「うん、大丈夫だよ。長谷部くんが追い払ってくれたから」
「え? 長谷部が? どうやって?」
目を丸くする大迫くんに、長谷部くんは小さく笑う。
「それは企業秘密」
「……長谷部はすごいね」
大迫くんは心底感心した顔をしていた。
本当はさっきのやりとりを教えてあげたいだけど、そういうわけにもいかないよね。
「そういえば、あの人……大迫くんの許嫁のお兄さん、なんだよね?」
「許嫁って言っても、とっくの昔に解消したよ」
「でも、諦めてないって言ってたよ、あの人」
「なんと言おうと、諦めてもらうから」
「……そっか」
……なんだろう、すごくモヤモヤする。
私はその気持ちの正体がわからなくて、考えていたけど、そのうち大迫くんが笑顔で告げる。
「結菜は許嫁のことなんか気にしなくていいからね」
大迫くんはそう言うけど、モヤモヤした何かが晴れることはなかった。
そんな中、ふと隣を見れば、長谷部くんが何やら考え事をしていた。
急に静かになった長谷部くんが心配になって、声をかけようとした瞬間、先に長谷部くんが口を開いて——突然大迫くんに告げる。
「いいよな、大迫にはあんな可愛い許嫁がいて」
「え?」
「俺も彼女がほしいわ。そうだ、三木。俺の彼女にならないか? お前もフリーなんだろ?」
「と、突然どうしたの? 長谷部くん」
「俺だって明るい青春を送りたいわけだ」
「長谷部、それ本気で言ってるの?」
「そうだな。三木が彼女になってくれるなら、きっと損はさせないから……なんて、嘘だけど——」
長谷部くんが最後まで言い終える前に、大迫くんは手のひらにボールペンで何かを書き込んだ。
かと思えば——
「あなたに幸運を」
大迫くんが呪文を唱えた直後、長谷部くんが姿を消したのだった。
「え!? ちょっと大迫くん!」
「……」
「なんてことするの!」
「だって、長谷部が結菜のことを好きだって言うから……」
「冗談に決まってるでしょ!? それに、たとえ長谷部くんが私を好きだったとしても、消すなんてひどいよ」
「結菜は長谷部が好きなの?」
「そういう意味じゃないよ!」
「だってあいつが……」
「どうして長谷部くんのせいにするの? 長谷部くんは何も悪くないよ」
「でも……二人が幸せになるのは嬉しいはずなのに、すごく嫌な気分になるんだ」
「今まで見てきた大迫くんは、他人のために魔法を使う心優しい人だったのに……なんか、悲しいよ」
「ごめん、結菜……どうしてかわからないけど、感情がコントロールできないんだ。もしかしたら俺は病気なのかもしれない」
「……私、もう帰る」
「え」
「送ってくれなくていいからね」
「でも、何かあったら」
「さっき長谷部くんが追い返してくれたから、きっと今日はもう現れないよ。だから、私一人で帰るね。さよなら」
「え? 結菜!?」
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